●IDFの巨大化と焦点のブレ
'97年から数えて8年目を迎えた今回のIDF 2004 Springだが、展示会場のスペースも売り切れるなど、活況を呈していた。だが規模が拡大した一方で、密度という点では若干低下しつつあるように感じられる。 かつてIDFの開催地がPalm Springsであったころ、朝8時のキーノートに始まって、最後のテクニカルセッションが終了するのは夜7時に近かった。さらにその後にプレス向けの説明会等が開かれる場合さえあり、IDFの1週間は充実しているが、とても疲れる1週間でもあった。 そのPalm Springsでは会場が手狭になり、San Jose、そして今回のSan Franciscoとより広い会場を求めて開催地は移り変わったわけだが、開催日が4日間から実質2日半に短縮されるなど、必ずしも中身は増えていない。今ではテクニカルセッションはたいてい17時半くらいまでには終了するし、初日のキーノートスピーチのスタートが9時30分に繰り下げられるなど、短縮傾向は否めない。 加えて、さまざまなセッションやプレス向けの説明会の内容も、初めてIDFに参加する人への配慮で、薄まりつつあるように思う。特に日本からの参加者(プレス)は、ここ数年のIDFに連続して参加している場合が多く、前回聞いた話の繰り返しになることも少なくない。もちろん、初めて参加する人を排除するような閉鎖的なものであってはならないと思うが、もう一工夫必要な気もする。 今回からIDFはこれまでのIDFの流れをくむ「Systems Conference」と新たに加わった「Solutions Conference」の2本立てになったのは、そうした工夫の一環なのだろう。だが、正直言って2本立てに並列化されても体は1つしかない身、両方をカバーすることは困難だ。また、Systems Conferenceの中心である「技術」がグローバルな話題であるのに対し、Solutions Conferenceの中心である「ビジネス」は必ずしもグローバルとは限らない。技術はグローバル、ビジネスはローカル、というのが“元麻布の法則”の1つなのだが(残りについてはいずれ紹介する機会もあるだろう)、米国のビジネスが全世界で通用するとは限らないのは、反グローバリゼーションの動きなどでも明らかだ。 8年を経てIDFは巨大なイベントとなり、特に米国でのIDFには全世界50カ国以上から参加者が集まる。PCのみならずブロードバンドも普及した日本や韓国などからの参加者がいる一方で、中には電力の安定供給さえままならないけれど、ITで国の発展を促そうという情熱に燃えた技術者もいることだろう。 どんな国の人に対しても技術の正しさや有効性は変わらないが、技術を用いたビジネスのあり方は一様ではない。日本は技術的にも、国民の所得レベルという点でも米国に近いが、それでもコンテンツビジネスの状況や通信環境といった点では著しく異なる。技術をビジネスに転換する過程においては、そうした違いにアジャストすることが不可欠だが、米国で開催されるSolutions Conferenceにそのような配慮を望むのは難しいのではないだろうか。ならば技術のカンファレンスとビジネスのカンファレンスは分離するべきだろう。
●コンシューマとビジネスの乖離
もう1つ最近のIDF、というよりIntelについて思うのは、既存の事業部制とビジネスフォーカスのあり方の食い違いだ。たとえば今回のキーノートの場合、初日にDPG(デスクトッププラットフォーム事業部)のルイス・バーンズ事業部長がデジタルホームについて語り、2日目に同事業部のビル・スー共同事業部長がサーバ等を統括するEPG(エンタープライズプラットフォーム事業部)のマイク・フィスター事業部長とともに登壇し、企業向けのクライアントについて語る、という形になった(スー事業部長が米国のIDFでキーノートを行なったのはこれが初めてのハズ)。 バーンズ、スー、両氏の職務分担は、コンシューマとビジネスで分かれているのではなく、バーンズ事業部長がマーケティング畑出身、スー事業部長が技術畑出身ということなのだが、どうもスッキリとしないように感じる。今回の場合、直前にICG(インテル通信事業部)によるWCCG(ワイヤレス通信およびコンピューティング事業部)の吸収という事態が起こったため若干変則的になってしまったことも理由だろうが、すでにMicrosoftがそうであるように、顧客別の事業部制(コンシューマ製品事業部、エンタープライズ製品事業部、等)を検討する時がきているのかもしれない。 そう思う理由の1つは、デジタルホームに代表されるコンシューマ事業に対してIntelが並々ならぬ意欲を持っていることだ。かつてIntelのコンシューマ製品というと、USB接続の顕微鏡に代表される知育玩具のようなものだった。これらは、Intelのイメージ向上、あるいはまったく異なる市場へのイメージ浸透という点では効果があったかもしれないが、Intelの主力事業になるものではとうていなかった。 しかし現在Intelがデジタルホーム向けに準備している様々な技術とそれを用いたビルディングブロックであるLCOS、ワイヤレスUSB、セットトップボックス向けのプラットホームなどは、IAプロセッサを置き換えることはないにしても、事業として非常に大きなポテンシャルを持っていることは間違いない。 その一方で、PCについてもコンシューマ向けとビジネス向けで求められるものが異なりはじめた。デスクトップPCの場合、統合された無線LANのアクセスポイントがコンシューマ向けの目玉となる一方で、ビジネス向けにはTPMやLaGrandeといったセキュリティ機能が重視される。すでにコンセプトプラットフォーム等では、顧客別の展開が図られている。デジタルホーム向けの技術とコンシューマ向けPCのプラットフォームのシナジーを図るのであれば、事業部形態もそれに応じたものがよいのではないかという気がする。その方が効果的なマーケティングができるハズだ。 このコンシューマ向けの事業は、日本にも大きな影響がある。開発と製造の両面で、PCはもはや日本の産業ではない(一部、小型のフォームファクタのノートPCだけは残っているが)。しかし、家電製品、AV製品においては、少なくともその開発中枢はまだ日本にある。Intelがコンシューマ事業に対する意欲を示していることは同時に、その日本法人であるインテル株式会社にとって大きなチャンスだ。チャンスを確実にものにするためにも、それに応じた体制の強化が求められるように思う。
(2004年2月21日) [Text by 元麻布春男]
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