1月5日。仕事始めのこの日、株式会社ソーテックの大邊創一社長は、社長室に呼び出した幹部社員に対して開口一番、「今年は、なんとしてでも、サービスや品質で信頼を回復する年にしなければならない」と切り出したという。 ソーテックは昨年、業績回復の道を着実に歩み始めた。黒字化とともに、大邊社長が目指す「ソーテックらしい、やんちゃな製品」に該当する製品もいくつか出始めたといえるだろう。 だが、今のソーテックにとって最大のポイントは、いかに信頼性を回復させるかだ。この点では、残念ながらまだ回復の道を歩み始めたとはえない。一時期、ソーテックは、品質やアフターサービスで「ミソ」をつけた経緯がある。急激な事業拡大に伴って、PCの出荷台数を拡大したものの、初期不良率が高まるとともに同時にサービス体制の拡充が追いつかず、「すぐに壊れる」、「壊れて問い合わせても電話に出ない」という悪循環を繰り返し、結果として、ユーザーの評価を著しく落とした。 一度落ちた信頼はなかなか回復できるものではない。地道な努力を繰り返すことで、信頼性を高めていくしかないからだ。 ●コールセンターと修理拠点を初公開 新年早々、筆者の携帯電話が鳴った。それは大邊創一社長からのものだった。 「コールセンターと修理拠点を見せるから、横浜まで来てほしい」。 同社がコールセンターと修理拠点を公開するのは、初めてのことだ。その提案の背景には、冒頭の「今年はサービスや品質で信頼を回復させたい」という思いが詰まっていたのだろう。そして、それを公開するということは、その体制について、大邊社長自らが自信を持てるものになってきたと判断した証なのだろう。 「昨年、コールセンターとリペアセンターを1カ所に統合した。しかも、すべてを自前で揃えた。それを見てほしいんだ」。 そして、その内容が初めて公開された。 ●今のソーテックは違うのか?
ソーテックの修理およびコールセンターを担当するのは、同社の100%子会社である株式会社ソーテック・イー・サービスだ。ソーテック・イー・サービスの中尾俊哉社長は、「今年は、サポートのソーテックと言われるようにしたい」と宣言する。 「顧客満足度評価が最も低いメーカーであることは、重々承知している。だが、コールセンターの接続率、修理にかかる日数の少なさなどは他社以上の体制となっている。最下位のメーカーが評価を高めるには、他社以上にユーザーに評価してもらえる体制を作り上げることが必要。やっと、そうした評価をしてらえるためのスタートラインについたと考えている。今のソーテックは、違うんだということを知ってもらいたい」。 修理やコールセンターといったサービス体制の強化は、そのまま新製品の売り上げ動向にも直結する。 「かつては、ユーザーや販売店に大変なご迷惑をおかけした。その反動で、ユーザーがソーテックのPCを購入検討からはずしたり、販売店にソーテックを買いにきたユーザーに対して、“これはやめた方がいいですよ”と、ほかのメーカーの製品を勧める店員がいることも知っている。結果として、サービス体制の不備が、新製品の売り上げ減にもつながっている。ただ、今のソーテックなら安心だ、と断言できる」。 ●すべてを自前でやる意味とは
昨年来、ソーテックはサービス体制の再整備に力を注いでいる。その最大の取り組みが、大邊社長が冒頭に説明した修理拠点、コールセンターの一本化と、それらをすべて自前で用意するという取り組みだ。 2003年4月28日。ソーテックは、八景島に近い神奈川県金沢区福浦に、地上8階のオフィス棟と、2階建て800坪の別棟を持つ物件を借り受けた。同社の自社物件である物流センターのある幸浦から車で数分の位置だ。 8階建てのオフィス棟の8階にはコールセンターを自前で配置。さらに2階建ての別棟はすべてをリペアセンターとした。つまり、ここにソーテックのサービスに関わる一大拠点を開設したのだ。 かつて同社では、コールセンター業務を2社にアウトソーシング、修理業務に関しては、生産委託していた韓国や台湾のメーカーなど4社が直接行なうというアウトソーシング体制としていた。 「コールセンターのアウトソーシングでは本当に我々が伝えたいことが伝わるのか、顧客満足度を上げられるのか、という問題があった。一方、修理では生産メーカーに委託したために、生産手法を持ち込んだ修理が行なわれていた。例えば、新しいハードディスクに交換する場合、ハードディスクに収納された顧客データが消えてしまうという、修理には適さない手法が導入されている問題などもあった。だから、本当に顧客満足度を高めるには、すべてを自前でやる必要があると考えた」。 自前での体制とすることで、サービス品質を向上させることができるとともに、自らのコントロールが可能になることでコスト削減効果ももたらされた。すでに、絶対額で年間20億円程度のコスト削減が実現できたという。 「自主運営での課題があるとすれば、人の管理や部品の在庫管理をいかに効率的に行なうか、という点。週に2回は在庫を確認し、不良在庫の削減を進めている」と話す。 ●スキルの高い要員配置を前提に コールセンターは現在、79人の体制となっている。そのうち、直接ユーザーサポートを担当しているのは61人。量販店などからの問い合わせに対応するリテールサポート要員は18人。基本的には、電話を受けたエージェントが、そのまま回答できるだけのスキルを身につけているという。 「当社製品の場合、男性ユーザーの比率が高いため、女性が対応する方が柔らかい印象を持たれるということも考えられた。だが、求められているのは、一度の電話で短時間に適切な回答が行なえるということ。それを前提に採用したところ、エージェントの比率は男性が大半となった。結果として、ほとんどの問い合わせに対して、エージェント1人で対応でき、それが不可能な場合でも、当日に回答できるようになっている」。
また「電話がつながらない」という問題に対しては、昨年10月以降は、大幅に改善されたともいう。 「正直なところ昨年5月は、移転後で人員確保がままならず、つながりにくいという状況になった。また、8月にはシステムのトラブルで接続率は8.3%にまで落ち込んだ。だが、その後のシステム改善と人員増加で、12月には60%の接続率となった。平均して3分程度でつながり、午後の時間帯ならば1分程度で接続できる。2回に1回はつながるという体制になってきた」と話す。 接続率が上がると、リトライする電話が減り、問い合わせ件数そのものも減少する。実際、同社の統計でも9月中旬以降、大幅に問い合わせ件数が減っている。現在、1日あたりの電話による問い合わせ件数は約600件だという。 販売店からのコールに対しては、接続率は97%を誇り、5~7秒程度(3回コール程度)でつながるという。 コール数の減少には、オンラインによるサポートも貢献している。Web上で、約1万件にのぼるQ&Aデータベースを公開しており、これによって、ユーザー自身が不明な点などを検索することができる。
●3日間での修理体制を実現 一方、リペアセンターは115人体制で運営し、そのうち修理、検査の直接の担当者は67人。発売した製品ごとに生産委託先が異なるために、それぞれのノウハウが必要だとして、製品ごとに修理担当者が配置されている。また、部品調達や部品管理が17人、修理管理や入出庫管理の担当者が31人いる。 現在、修理に関わる日数は平均で5日間。ただ、この中には、有償修理の案件における、見積書提示後の修理依頼までの保管期間も含まれており、無償修理物件だけに限定すると、ほぼ3日間での修理が可能だという。PCや携帯電話から、現在の進捗状況を確認することができる。 こうした一連の作業は、同社のコールセンターシステムであるSTS(ソーテック・テクニカル・サポート・システム)と、リペアセンターシステムであるSRS(ソーテック・リペア・システム)との連動によって、効率的な運用が行なわれる。 コールセンターで修理受付されると、STSに情報が入力され、そこからSRSにデータが引き渡され、有償の修理であれば見積書がSRSから発行されるという仕組みだ。修理品の回収、配送に関しては日通とタイアップし、入庫後はSTSの情報と現物とが照合され、その後、修理の工程はSRSで管理されることになる。ユーザーがPCなどを通じて修理の状況を確認できるのも、SRSによるものだ。 「修理品の納期をいかに短くするか。これが最重点課題。納期を明確に示すことで、安心してもらうことができる」と中尾社長は語るが、その点でもSTS、SRSによる情報管理は不可欠なものだといえる。 ●新たに開始する3つのサービス ソーテックでは今年2月以降、修理に関して、3つの新たなサービスを開始する。 ひとつは、札幌、横浜、名古屋、大阪、福岡の全国5か所のソーテック直営店に修理センター機能を持たせた「Sotec eService Station(SeSS)」を設置するというもの。これまで直営店は、修理に関しては受付窓口としての機能を担っているにすぎなかったが、一部の部品を在庫することで、その場で修理ができる体制を整える。直営店の社員に対して、修理に関する教育をすでに終了しており、2月1日には名古屋でスタート。2月中には全国5カ所での修理が可能となる。これも短期間での修理を可能とする仕組みづくりのひとつだ。 2つめはオンサイト修理の再スタートだ。過去にはオンサイト修理を実施していた同社だが、製品の初期不良率が高まった時期にこのサービス停止した経緯があった。これを2月1日から再スタートする。まずは、神奈川県や都内の大田区、品川区、町田市に限定するが、関東南部への出荷比率が高い同社だけに効果はありそうだ。訪問期間は月曜日から金曜日の午前10時から午後5時30分。出張料は5,000円。保証期間内であれば技術料、部品料は不要になる。「今年後半には、全国5カ所のSeSSにオンサイト要員を配置することによって、全国各地でのオンサイトサービスも開始したい」と話す。
3つめは、修理品がウイルスに感染していた時の除去サービスである。これは1万円前後での有料サービスとなる。 「ウイルスに感染していることを知らないで使っているユーザーもいる。修理品がウイルスに感染している例もあり、ウイルス除去により動作が正常に戻ることも多い」ことから、新たに開始する。これも2月からスタートする予定だ。 ●ソーテックは復権できるのか? 「サポートのソーテック」を目指すというが、それは容易なことではない。多くの時間と、他社以上の信頼感のあるサービスを提供し続けることが必要だろう。 「一度、ソーテックの製品を利用していただき、品質やサービスでも他社以上のもとなっていることを実感していだたきたい。最大の支援は、ユーザーの口コミで、評価が広がっていくことだと考えている」。 かつてソーテックは、大手メーカーにノートPCを提供するOEMベンダーであり、「技術力のソーテック」と呼ばれた時期があった。 業績は上向きはじめている。残るのは信頼の回復だけだ。ソーテックの復権への最後の挑戦が始まった。 □ソーテックのホームページhttp://www.sotec.co.jp/ □ソーテック・イー・サービス http://www.eservice.co.jp/ □ソーテックのサポートサイト http://sotec.eservice.co.jp/ (2004年1月27日)
[Text by 大河原克行]
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