International CES 2004

松下電器産業 大坪文雄専務基調講演レポート
高速電灯線通信を使ったHDTV動画再生をデモ


松下電器産業株式会社
大坪文雄代表取締役専務

会場:Las Vegas Convention Centerなど

1月9日(現地時間) 開催



 CES初日の基調講演に登場したのは、松下電器産業の大坪文雄氏(代表取締役専務兼パナソニックAVCネットワークス社社長)だ。昨年の、ソニー 安藤社長に続き、今回も家電大手が基調講演を勤めた。

 開催前夜の基調講演はビル・ゲイツだったものの、Intelなどのスピーチは、「Industry Insider」として基調講演とは別立てとなっている。CESはもともと家電のイベントであり、ここ数年のIT/PC系企業の進出に一線を引いた感じだ。

 笠原氏のレポートにもあったように、「PC系メーカー対家電メーカー」の対立が、具体的にコンテンツの視聴/管理といった分野で始まっており、それがイベントの構成にも影響したような格好である。なお、2日目は、通信業界からSprintのCEOであるGray Forsee氏が基調講演を行なう。

●「水のように安い家電」

 大坪氏は、創業者松下幸之助の「水道哲学」を紹介、天井から水を降らせ、基調講演を始めた。水道哲学とは、水道の水を通行人が勝手に飲んでも、誰もとがめない情景を見た松下幸之助が、「水はふんだんにあり価格が安いからで、企業は製品を水のように大量に安く提供すべき」と唱えたもの(詳しくは、こちらを参照していただきたい)。

 今、スーパーマーケットでは、電卓が99セントで販売されており、しかも太陽電池なので、動力はまったくの「無料」、そしてその横では、ミネラルウォーターの「エビアン」が2ドル47セントで販売されている。これが「水よりも安い家電製品の姿」と語って会場をわかせた

 雨の一滴の水が、集まって大河になるように、「つなぐ」(Connect)という始点で話をするといって、SDカメラで撮影した動画をDVDに記録するといった、同社製品のさまざまな連携を紹介した。同社の製品は「つながって」おり、こうしたコンセプトを「Life Stream」と呼ぶことにしたと述べたあと、現在のLife Streamおよび、近い将来のLife Streamを紹介した。

 同社は、技術としては、「SD」、「DVD」、「デジタルTV」をベースに、さまざまな展開を考えているとのこと。アテネオリンピックに採用されたHDTV用カメラもSD技術を採用しており、将来的に4GBのSDカードが登場すれば、個人でも、HDTVクオリティの画像を扱えるようになると、HDTVクオリティの動画が撮影可能なSDカメラのプロトタイプを披露した。そのほか、プロトタイプとして、ペン型のリモコンや、HDTV対応のAVサーバーなどが紹介された。

●電灯線ですべてをつなぐ

 そして、これらをつなぐネットワークとして、電灯線を使い、170Mbpsの通信が可能なネットワーク技術のデモンストレーションを行なった。多くの家電製品は、家庭内の電灯線(ACライン)から電源を取る。これをネットワークとして利用できるなら、家電製品は、配線を新たに行なうことなく接続できるようになるわけだ。

 この技術は、米国の電灯線通信(Power Line Communication)の規格策定団体であるHome Plug Allianceに提案され、その基本部分が「Home Plug AV」という規格に採用されることが決まっている。デモンストレーションしたものは、松下が「HD-PLC」(High Definition ready high speed Power Line Communication)と呼ぶ技術で、Home Plug AVそのものではないが、同じ技術を利用するもの。

 開発中のAVサーバーとデジタルテレビの間をアダプタを使って電灯線ネットワークで接続し、電灯線を使ってHDTVクオリティの動画の送信が可能であることをデモンストレーションした。テレビとAVサーバーの間にあるACケーブルをつなぐことで、反対側にある電灯が点り、HDTVの再生が始まる。ケーブルを抜けば、電灯が消え、同時に動画の再生が止まる。再度、接続すると、電灯はすぐ点灯し、その後10秒程度で画像の再生が再開された。

 動画の再生に時間差が発生するのは、接続プロトコルのネゴシェーションなどがあるためだという。

●米国では年内に実用化

 なお、このHome Plug AVは、6月までには規格として成立させて、2004年中に商品化する予定だという。また、同規格は、EU圏を中心に活動するPLCforum(Power Line Communications forum)や日本のPLC-J(高速電力線通信推進協議会)でも、連動して規格化する予定だという。

 電力線を使った通信では、2~30MHz帯を使うため、アマチュア無線などの既存の短波帯無線局への影響があり、実用化が止まっていた状態であった。しかし、HomePlug AV/HD-PLCでは、こうした既存無線局に影響する周波数帯を利用しないようにすることで、干渉を起こさないようになっている。

 具体的には、周波数を細かく分けて同時に多数のキャリア(搬送波)を使って通信を行なうOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式を使い、干渉の可能性がある部分は通信に利用しないようにしている。2~30MHzを512のバンドに分け、このうち、既存無線局との干渉が発生する帯域は通信に使わないようしている。すると結果として、約170~190Mbps(国によって、利用不可能な周波数帯や電灯線通信に利用できる周波数の範囲が違うために通信速度が変わってくる)の通信速度が実現できるとしている。

 松下では、家庭内のAVネットワークに必要な実効通信速度は、54Mbps程度と想定している。これは、HDTVクオリティの動画通信(24Mbps)が2つ、その他にVoIPなどで使う音声通信などが行なえる帯域ということだ。

 HomePlug AV/HD-PLCでは、時間を区切って各ノードが通信をTDMA方式により、帯域制御を行なうため、170Mbps程度の通信速度が実現できれば、実質54Mbpsで音声や映像がとぎれない通信帯域が確保できるという。

 また、TDMAを実現するために、電灯線ネットワーク内の1つのデバイスが、マスターとなり、すべてのノードを同期させるための信号(ビーコン)を出す。他のデバイスは、この信号を受信して、時分割動作を行なう。ただし、電灯線に接続されたデバイスは、ユーザーがコンセントを抜いてしまえば、簡単にネットワークから切り離されてしまうため、マスターとなっていたデバイスが切り離された場合には、他のデバイスが自動的にマスター動作を引き継ぐようになっている。これを松下では、インテリジェントTDMAと呼んでいる。

 なお、集合住宅などでは、電灯線が各戸でつながっており、情報の漏洩や不正利用が心配される。しかし、このHomePlug AV/HD-PLCでは、各世帯への入り口となる部分にある電力メーターがコイルとして働き、通信信号が隣の世帯の通信に影響ない程度に減衰する。また、規格として暗号化や認証の機能が盛り込まれ、信号が減衰しなかったとしても、盗聴や不正アクセスの心配はないという。

●日本での展開は早くても2005年以降

 日本国内では、法律により、電灯線を使った通信で利用できる周波数帯が低く制限されているため、現在のままでは、国内でHomePlug AV/HD-PLCを実験することさえできない。まずは、国内で干渉状況などを調べる実験を行なうための働きかけを関係省庁に行うことから始めることになるという。

 世界的なスケジュールとしては、まず、米国で規格化および製品化を行い、ついで各国向けのローカライズ(利用しない帯域の定義など)を行ったうえでの各国で規格化を行うことになるという。このため、日本などでは、早くとも2005年以降の実用化となりそうだという。

●近い将来のLife Streamを紹介

 大坪氏のキーノートスピーチでは、写真で紹介したようなさまざまな機器が登場したが、そのほとんどは、研究中、あるいは開発中の商品だという。プレスリリースとしては、説明したHD-PLC技術についてのみが出ている程度。

 キーノートスピーチ後の大坪氏の質疑応答では、「あくまでも開発中の製品を紹介しただけで、具体的な製品化については未定」とのこと。しかし、ほとんどのものがきちんと動作していたことから、商品化される可能性は高そうだ。

ペンのような「リモコン」の軸を回したり、上下に動かすことで、静止画や動画、番組などのブラウズや選択が簡単に行なえる。家電らしいユーザーインターフェースとして試作されたもの 台の上にある青い箱が、電灯線を使ったネットワークのインターフェース。オレンジ色の電灯線を介して、AVサーバーとディスプレイを接続する

デモに使われたAVサーバー。DVD/HDDレコーダーをベースにしており、ネットワーク機能を持っているという程度しかわからない。また、HDTVビデオを扱うことができるようだ ACケーブルを接続すると、右側の台の電灯が付き、モニタにHDTV画像が表示される AVサーバー、電灯線ネットワークのシステムの制御に使われた液晶を持つワイヤレスリモコン。液晶ディスプレイでコンテンツのモニタが可能になっている

□2004 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□松下電器産業のホームページ
http://matsushita.co.jp/
□展示会情報
http://matsushita.co.jp/exhibition/index.html
□関連記事
【1月9日】【笠原】ビル・ゲイツ基調講演レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0109/ces03.htm
【2001年10月1日】それでもまだアテにしてはいけない“電力線インターネット(INTERNET)
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2001/1001/plc2.htm

(2004年1月10日)

[Reported by 塩田紳二]


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