今年5月にIntel 865PE/Gが発表され、1万円台のメインストリームでもデュアルチャネルの普及が一気に進行した。そして、Pentium 4向けチップセット御三家メーカーともいえる、Intel・SiS・VIAの3社から、デュアルチャネルメモリインターフェイスを持つチップセットがついに出揃った。今回は、これらメインストリーム向けのチップセット3種類を比較してみたい。 ●VIAのPT880の登場で3社横並びの状況に 今年5月に登場した「Intel 865シリーズ」は、PC3200 DDR SDRAMのデュアルチャネルメモリインターフェイスを持つ、メインストリーム向けのチップセットとして登場。800MHz FSB対応のPentium 4が安価にHyper-Threadingを利用可能だったことや、DDR SDRAMの値下がりにも乗じて、一気にPentium 4向け主流のチップセットとなったのは周知のとおりだ。
このIntel 865シリーズのキーワードは2つで、1つは800MHz FSB対応。もう1つが、DDR SDRAMを使ったデュアルチャネルメモリインターフェイスである。 デュアルチャネルメモリインターフェイスは、「Intel E7205」や「Intel 875P」で採用されていたものだ。さらにいえば、Direct RDRAMを使った「Intel 850/850E」もデュアルチャネルインターフェイスだった。要するに、こうしたハイエンドデスクトップやエントリーワークステーション向けチップセットに利用されていた機能だったのである。それがIntel 865シリーズの登場によってメインストリームへも一気に普及が進んだことになる。 ちなみに、Pentium 4向けのメインストリームセグメントに登場したデュアルチャネルメモリのチップセットは、Intel 865PE/Gが最初ではない。2002年11月にSiSが533MHz FSB対応チップセット「SiS655」を発表したのが最初である。ただ、このSiS655は、最初のAステッピングではHyper-Threadingに対応せず、Bステッピングでようやく対応するという経緯などもあり、いまいち普及に弾みがつかなかった。ただし、これには533MHz FSBが終焉間近だった背景もある。 SiSはその後、今年6月に800MHz FSB、PC3200 DDR SDRAMデュアルチャネルに対応した「SiS655FX」を。さらに今年10月には改良版となる「SiS655TX」と、矢継ぎ早にデュアルチャネルチップセットをリリースしている。 そして、最後に登場するのがVIAである。VIAは今年11月、同社にとっても初めてとなるデュアルチャネルメモリインターフェイスを持つチップセット「PT880」をリリースした。これにより、Pentium 4向けチップセットの主要メーカー3社からデュアルチャネルチップセットが出揃ったことになる。
ちなみに、そのほかのPentium 4向けのデュアルチャネルチップセットとして、ATIからも「RADEON 9100 IGP」が登場している。RADEON 9200相当のグラフィック機能が統合されていることで話題になってはいるが、RADEON 9100 IGPを搭載したマザーボードは、現状ではMicroATX規格に準拠したものしか登場していない。その意味では、前述のチップセットとは利用形態のイメージも少し異なる製品といえ、今回のテストには含めていない。 ●3種類のチップセットの機能・性能を比較 というわけで、今回テストの対象とするのは、 ・Intel 865G の3製品である。この選択についてちょっと補足しておくと、まずIntel 865シリーズだが、手元にあったマザーの関係でIntel 865Gを選択しているが、ビデオカードを挿して利用、というIntel 865PEをイメージした環境でテストを行なう。 また、SiSに関してはすでにSiS655TXが発表済みであることは前述のとおりだが、搭載マザーがいまだに登場していない。今回は現状入手可能な製品で比較を行なうために、あえてSiS655FXを選択している。 ところで、この3製品。800MHz FSBのPentium 4に対応し、PC3200 DDR SDRAMのデュアルチャネル動作をサポートという点で、まったく同じスペックを持つ。また、サウスブリッジの機能にしてもIntel 865G+ICH5R、SiS655FX+SiS964、PT880+VT8237という組み合わせであれば、いずれもSerial ATA RAIDに対応する点も酷似している。 このように主要部分では、ほぼ同じスペックを持つ3製品だが、各製品ごとの強味を挙げてみると、まずIntel 865GはGigabit Ethernet用のポートであるCSAを持っている点が強味といったところ。 SiS655FXは「Hyper-Streaimg Engine(HSE)」と呼ばれるアーキテクチャが盛り込まれている。HSEは、メモリインターフェイスやデバイス間を流れる信号を効率的に伝送する技術。その特徴は、複数のデバイスからの信号を内部的には素早く切り替えてはいるものの、基本的には同時に送ってしまう点にあり、これがうまく働けばパフォーマンスアップが図れるというわけである。ちなみに、SiS655TXではHSEが「Advanced Hyper-Streaming Engine」に進化しており、これがSiS655FXとの唯一の違いになる。 PT880は、デュアルチャネルメモリインターフェイスに「DualStream64」と呼ばれるテクノロジを導入しており、CPUなどでは当たり前となっているデータの先読みや分岐予測といった技術でアクセス速度の向上を図っているのが特徴だ。 こうして比べてみると、Intel 865GはIntel 875Pに搭載されていた「Performance Acceleration Technology(PAT)」が省略されているという点で、少々不利な印象を受けるが、実際のパフォーマンスはどうだろうか。さっそく検証してみよう。 テスト環境、および使用するマザーボードは表に示したとおりだ。とくにことわりが無い限り、1,024×768ドット/32bitカラーでテストを行なっている。 【表】テスト環境
●CPU性能 それでは、最初にCPU性能をいかに引き出せているかを確認するため、SiSoftwareの「Sandra 2004」を実施してみたい。グラフ1はSandra 2004の「CPU Arithmetic Benchmark」、グラフ2は「CPU Multi-Media Benchmark」の結果だ。同一のCPUであり、全体に差が少ない結果なのは当然ともいえるのだが、グラフ1のDhrystone、グラフ2の浮動小数演算テストあたりで他のテストよりも大きめな数値のバラつきが見られるが、極端な差とは言いがたい。
演算性能には大きな違いは見られないことが分かったところで、もう1つCPU関係のベンチをチェックしておこう。先月リリースされたばかりの「PCMark04」のCPUテストだ(グラフ3)。こちらは、Sandra 2004のような演算結果というよりも、実使用をイメージしたCPUコンポーネントテストが行なえるのが特徴だ。 結果を見てみると、扱うファイルサイズが小さいファイルの圧縮/解凍(Compression/Decompression)、暗号化/復号化(Encryption/Decryption)といったテストは、わずかながらもIntel 865Gが低めのスコアに収まる傾向が見て取れる。逆にサイズの大きい、WMVやDivXのエンコード作業ではIntel 865Gもまずまずの性能で、SiS655FXが落ち込み気味だ。全体にPT880が好調な成績を出しているのも注目である。
●メモリ性能 続いては、メモリパフォーマンスを見てみよう。使用するベンチマークは、Sandra2004の「Cache & Memory Benchmark」である。グラフ4は、全体の傾向を見るために、すべての結果を折れ線グラフで表したものだ。これを見る限りでは3製品とも似たような傾向で、大きな差がないように見えるが、よく見るとSiS655FXが8KBのところで落ち込んでいたりと、微妙な違いも見受けられる。 そこで、もう少し詳細に数値をチェックするため、一部成績を抜粋して確認してみたい。まずグラフ5は、それぞれL1キャッシュ/L2キャッシュ/メインメモリを利用するテストとなる、4KB/256KB/256MBのテストを抜き出したものだ。この結果を見てみると、各メモリでの優位性は ・L1キャッシュ:PT880 > SiS655FX > Intel 865G という順位になっており、キャッシュ空間ではPT880やSiS655FXに優位性があり、メインメモリになるとIntel 865Gが良いパフォーマンスを発揮する傾向が見て取れる。
ここで、先のグラフ4のところで少し触れた、SiS655FXの8KBのところでの落ち込みについて言及しておきたい。グラフ6は、それぞれL1/L2キャッシュギリギリのサイズを転送するテストの結果を抜き出したものだ。ご覧のとおり、他の2製品に比べ、SiS655FXが一気に落ち込むことが分かる。512KBのテストではPT880も落ち込み気味だ。 このあたりはBIOSで設定されるキャッシュのチェックポイント設定次第なところがあり、余裕を持たせれば安定性が上昇するが、チューニングが進んでチェックポイントをギリギリまで引き上げても安定動作させられるようになれば、パフォーマンスも上がる、ということになる。つまり、SiS655FX(というよりもASUSTeKのP4S800Dといったほうが正確だが)は、ここに余裕を持たせることで安定度を上げる方向に設定されているわけだ。PT880はL1はかなり攻めているが、L2は多少余裕を持たせていると判断できる。
また、この結果によりPCMark04のスコアの説明もできる。Sandra 2004で見る限り、演算結果の引き出し具合は3チップセットとも大きなアドバンテージを持ったものはない。となると、キャッシュの速度が活きてくるわけで、扱うファイルサイズが小さいテストでは確実なヒット範囲では他2製品に劣り気味のIntel 865Gだが、ファイルサイズが大きくなる動画エンコードなどでは、このキャッシュギリギリのところの踏ん張りが活きて、相対的に成績が上がると想像されるのだ。 このあたりはCPUコンポーネントベンチゆえに、素直に性能が表れたと判断していいと思う。ただ、ポテンシャルとしては、さらに大きなサイズであればメインメモリの速度も影響してくるわけで、ますますIntel 865Gが優位になるはずである。つまり、扱うファイルサイズが大きい作業ではIntel 865G、そうでないならSiS655FXやPT880が高速に動作する、という推論が成立するといえるだろう。 ●アプリケーション性能 と、ここまでの結果を見る限りでは上記の推論となるのだが、実際にアプリケーションベンチを実行してみると、なかなか理論どおりの結果が生まれてこないから面白い。その結果を紹介しよう。 まずは、BAPCoの「SYSmark2002」である(グラフ7)。ちなみにBAPCoからは、12月15日にSYSmarkの新しいバージョンである「SYSmark2004(http://www.bapco.com/news.html#sysmark04release)」が発表されているが、まだ筆者の手元に届いておらず今回のテストには間に合っていない。 そのSYSmark2002だが、結果を見てみると、動画などのコンテンツ作成を行ない、扱うファイルサイズも大きいInternet Content Creation(ICC)ではPT880 > SiS655FX > Intel 865G、Office作業をイメージしたテストでICCに比べると扱うファイルサイズが小さいOffice Productivityでは、その逆の順序という結果だ。これは、先の推論がまったく覆される結果である。
そこで、Office作業、コンテンツ作成系、それぞれもう1つずつベンチマークをチェックしてみる。まずはOffice作業系のアプリケーションベンチとして、「Business Winstone 2002」の結果を見てみよう(グラフ8)。ここでまたしても余談だが、Winstoneも11月17日に新バージョンである「Multimedia Contents Creation/Business Winstone 2004(http://www.etestinglabs.com/benchmarks/bwinstone/default.asp)」がリリースされている。が、残念ながらこちらもまだ手元に届いていないため、旧バージョンの2002でテストを 行なっている。 その結果だが、SYSmark2002のOffice Productivityとはまったく逆の結果、つまりPT880 > SiS655FX > Intel 865Gの順の成績となっている。これはファイルサイズが小さい場合の先の推論に近い結果ではあるのものの、SYSmark2002と全く逆というのは余計に気になる結果となってしまった。 続いてコンテンツ作成系のベンチマークとして、MPEGエンコーダの「TMPGEnc」を実行した結果がグラフ9だ。この結果はSiS655FX > Intel 865G > PT880という、これまた不可解な結果となっている。先のPCMark04で見た通り、動画エンコードに関するテストはSiS655FXが苦手としていたのだが、ここでは最高の結果を出しているのだ。
このようにテストによって成績が大きく変わってくる点について、想像されるのはSiS655FXのHSEや、PT880のDualStream64の効果の違いだ。今回のテスト対象ではないがIntel 875PのPATはクロック調節を省くことでメモリレイテンシを下げるアーキテクチャであり、メモリアクセスの多いシチュエーションで素直に効果が表れる。 また、HSEのようにシステムに接続されたデバイス全体のデータアクセスを効率化する手法であれば、アプリケーションによって程度に差はあるだろうが実アプリケーションでこそ効果が得られやすいと予想でき、それがベンチマークでいずれも次点以上という安定したパフォーマンスに繋がったと想像できる。 しかしVIAのDualStream64のようにデータの先読みや分岐予測といった手法をメモリアクセスにも取り込むアーキテクチャでは、分岐予測の失敗などが起こればデータの廃棄という無駄なプロセスが加わるわけで、アプリケーションによって効果に差が出てくる可能性は高い。その結果、CPU/メモリのコンポーネントベンチでは表れなかった傾向が浮き出てきたと予想できるのだ。そういう意味では、PT880は速いときは期待以上のパフォーマンスを出せるが、アプリケーションや使用状況によってはパフォーマンスが落ちるという諸刃の剣的な要素を秘めているといえる。 ●3D性能 それでは、最後に3D描画系のベンチマークをチェックしておきたい。3D描画ベンチマークは複数実行しているが、中でもピックアップしておきたいのが「Unreal Tournament 2003」である(グラフ10)。このテストは3Dで描かれたフィールドを飛び回るのみのFlybyと、3Dキャラクターを動かすBotmatchの2つのテストが実行される。Botmatchではキャラクターを動作させる分CPUの性能も影響してくることになり、そうしたケースでのCPU性能を表す1つの指標となるのだ。 そこで、Botmatchの成績がFlybyの成績に対して何パーセントぐらい出ているかを算出してみると、 ・Intel 865G:46.3% となり、Intel 865GとPT880がほぼ同列、SiS655FXが一歩劣る結果になっている。そもそも、根本的な問題として、Flybyの成績からしてSiS655FXは他2製品に劣っているのも気になる点だ。 ちなみに、そのほかの3Dベンチマークの結果はグラフ11~15に示したとおりだが、いずれのテストでもSiS655FXは奮わない成績に留まっている。AGPのGARTドライバ(今回はVer1.17を使用)の影響だと予想されるが、現状では3D描画を主体とする使い方には適さないことは明らかである。 ちなみに、Intel 865GとPT880は全体的にIntel 865Gが好成績な傾向にはあるものの差は小さく、絶対的な優劣を問いがたい結果に収まっている。
●実力均衡の3製品。価格で選んでもOK ということで、以上のとおり3つのチップセットのベンチマーク比較を実施してきたわけだが、絶対的な性能差を感じる部分は少ない。気になるのはアプリケーションベンチ結果のバラつきと、SiS655FXが3D系に弱いといった程度である。 ちなみに、各チップセットを搭載したマザーボードの価格帯はというと、 ・Intel 865シリーズ:1万5千円前後 といったところで、3D描画を扱わないのであれば、実際のアプリケーションベンチで安定した成績を出したSiS655FXは文句なくオススメの製品だ。 PT880もパフォーマンスで圧倒的優位に立つシチュエーションがあり、あなどれない。価格帯の近いSiS655FXと比べるならば3D系が強味といったところか。原稿執筆次点では1製品しか登場していないが、お買い得な価格でもあり有力な選択肢だ。 とはいえ、Intel 865PE/Gを搭載した製品も登場からしばらく経過していることもあって、SiS655FXやPT880に迫る価格帯の製品も多く登場しており、テスト結果を見るとパフォーマンス面での弱点も少ない。 となれば、最終的には価格で選ぶというのもアリだ。そうして選んでも、他製品と比べて極端なデメリットを背負うこともないからである。ただ、すでにASUSTeKやGIGABYTEから搭載製品が発表され、登場も間近といわれるSiS655TXの存在は気になるところで、HSEをさらに進化させたAdvanced HSEの性能が明らかになるまでは様子を見るのも1つの選択だとは思う。
□関連記事 (2003年12月19日) [Text by 多和田新也]
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