会場:米国ネバダ州ラスベガス市 ラスベガスコンベンションセンター
18日(現地時間)、COMDEX最後の基調講演を、PalmSourceのDavid Nagel CEOが行なった。PalmSourceは、Palm OSを開発し、ライセンスする企業。Palmシリーズハンドヘルドコンピュータを製造するPalmから、ライセンス企業(ライセンシー)に配慮して、分離された。 現在では、Palmシリーズハンドヘルドの製造販売は、Handspringと合併したPalmOneが行なっている。 ●目的別に分かれるPalm Poweredデバイス Nagel CEOは、DayTimer(日本でいうシステム手帳)が最初の「モバイルオーガナイザー」であり、PalmPilotはこれを電子化したものだったと述べた。 そして最初のキラーアプリケーションは、PIM(Personal Infomation Manager。スケジュールやアドレスなどの個人が持つ情報の管理)であり、PalmPilotはその機能を備えつつ、PCとのホットシンク、ネットワークとの接続性を持っていたことが成功の要素だったという。 そしていまや、Palmシリーズは、「Smartphone」、「Location」、「Entertainment」、「Messageing」、「Music」の5つのデバイスに「分化していく」という方向性を示した。Palmは、Palm OSを採用した機器を「Palm Powered Device」と呼んでいる。かつては、PDA(ハンドヘルドコンピュータ)のみだったが、現在では、さまざまな機器が登場しているからである。 今年春のPalm主催の開発イベントで同社は、ハンドヘルドデバイスは長期的に、専門性を持ったさまざまなバリエーションに分かれると予測していた。例えば、金融専門のマシン、製造業専用のハンドヘルドといった業種別製品や、メッセージ専用、ゲーム専用といった用途別の製品、というように。今回の基調講演では、このうち用途に応じた専門化として、具体的に5つの分野があげられた。 すでにPalm OSプラットフォームでは、スマートフォンや、GPSを内蔵したLocation Device(Garminの「iQue3600」)、Palm OSを採用したゲーム機(Tapwaveの「Zodiac」)など、専門分野に秀でた製品が登場している。MessageingとMusicではまだ製品が登場していないが、多くのPalm OS採用PDAが、メールや通信機能、MP3の再生機能を備えており、技術的な下地は整っている。具体的なハードウェアが登場するかどうかはライセンシー次第というわけだ。 またNagel CEOは、2004年にはPalm OSデバイスが3,000万台に達するであろうと予測した。
●Zodiacのデモが行なわれる 次に行なわれたデモでは、TapwaveのZodiacが登場した。これはPalm OSを採用した携帯用ゲームマシンで、Palm OSのアプリケーションとともに、専用のゲームソフトが動作するもの。Tapwaveは、旧Palmの社員などが起こした企業。Zodiacは、GameBoyなどを卒業した比較的高い年齢層(想定としては30才以下ぐらい)を対象としたゲーム機である。 ATI IMAGIONをビデオチップとして採用し、480×320ドット(ハーフVGA)、16bitカラー表示可能な3.8型液晶を搭載する。また、3DグラフィックエンジンとしてFatHammerのX-Forgeを採用している。すでに、同社のWebサイトでは販売が開始されている。価格は128MBのメモリを内蔵するZodiac2が399.99ドル、32MBのZodiac1が299.99ドル。 デモでは、内蔵されたBluetoothを使い、2台のZodiacで対戦する予定だったが、電波状態が悪く、単体でのデモとなった。デモではレースのゲーム(標準で付属するStuntcar Extreme)をプレイしたが、描画速度やゲームの様子は、ゲーム専用機と同じように見えた。Zodiacのクロック周波数は公開されていないが、CPUに採用されているMotolora「i.MX1」(コアはARM9)には150MHzまたは200MHzの2種類があるため、このどちらかということになる。
□Tapwaveのホームページ(英文) ●携帯キャリアとの共同マーケティングプログラムを開始 デモののちNagel CEOは、携帯キャリアとのパートナーシップのための「Palm Powered Mobile World Program」を開始したことを述べた。これはスマートフォンの発展のために、マーケティングなどでPalmSourceが携帯電話キャリアに協力するもの。 またその一部として、スマートフォン向けに最適化されたソフトウェアのダウンロード販売サイトを開始したことも発表された。これは、OTA(On The Air)と呼ばれるもので、スマートフォンで直接サイトをアクセスしてソフトウェアをダウンロード購入できるもの。従来は、PCなどでダウンロードサイトからソフトを購入し、PCからスマートフォンへインストールする必要があった。
Nagel CEOは、さらに、PalmやPocketPC用のアプリケーションをダウンロード販売するHandandgoのサイトを例に、Palmデバイスが有利であることを説明した。同サイトでは、Plam Powerd Deviceのページは1種類しかないのに対して、MicrosoftのWindows Mobile Pocket PCとWindows Mobile Smartphoneのページは別で、ソフトウェアを別々に作る必要があること、同じようにSymbianOSも機種ごとに別れており、同じOSを採用していながら、ソフトウェアは機種依存していることを示した。 Palm OSでは、多くのソフトウェアは機種を判断して動作している。つまり、さまざまな解像度で動くようにもともと作られていることと、高解像度のデバイスは低解像度用アプリケーションと互換性をとれる(逆は難しい)ので、Palmでは解像度や機種間の違いが、ユーザーレベルではあまり問題になっていないのだ。 最後に、Nagel CEOは、ハンドヘルドデバイスの将来像としてスマートフォンに注目していることを述べた。AT&T WirelessのEDGEサービスのように、米国の携帯電話はようやく2.5世代に突入した。このときデータ通信を担うのは、スマートフォンだというわけである。 米国製のハンドヘルドには、Bluetoothを装備したものが少なくないが、これはこうした2.5世代の携帯電話との組合せを考えているからである。Pocket PCに搭載されているBluetoothスタックは、Microsoftが提供しているのではなく、WISCOMなどのBluetoothスタックメーカーから購入しているものだ。 そこまでしてBluetoothを装備するのは、高速なデータ通信が、モバイルインターネットの市場を広げると考えられているからだ。来年には、米国でも携帯電話やスマートフォンによるインターネット接続が広く普及しそうだ。 ●Palmをめぐる各陣営の思惑 Nagel CEOが触れたPalm Powered Mobile World Programには、CDMA方式(米国でいうIS-95B)を採用するキャリアであるSprintが参加した。 基調講演の前日に、競合企業の1つAT&T Wirelessが、EDGE(Enhanced Data rates for Global Evolution)方式によるデータ通信サービスを、全米で開始すると発表した。それまでAT&T Wirelessは、GSM方式によるGPRS(パケット通信)でデータ通信サービスを行なっていたが、EDGE方式では、最大384kbpsでの通信が可能になる。GPRSでは、理論的な最大値が171.2kbpsであり、通常は28kbps程度で利用されている。これに比べてEDGEでは、100~130kbpsと高速なデータ通信が可能になる。 CDMA方式では、従来から14.4kbpsのデータ通信が可能だった。GSM陣営に比べ、CDMA陣営はスマートフォン系では優位に立っていた(CDMA方式の開発元であるQualcommは、かつて「PQD」というPalm OSを採用した米国最初のスマートフォンを製造していた。なお、QualCommの携帯電話機製造部門は京セラに売却され、同系列の製品はいまでは京セラの製品となっている)。 こうしてみると、SprintがPalmSourceのプログラムに参加するのは、後発のGSM採用キャリアのインフラが整備され、データ通信などの技術面での優位性が薄れてきたという背景もあるようだ。 余談だが、AT&T WirelessによるEDGE採用により、AT&T WirelessのW-CDMAへの対応が遅れるという観測もある。NTTドコモは、AT&T Wirelessに出資しており、同社が米国でのW-CDMA導入の足がかりとなる考えられていた。しかし第2世代方式であるGSM方式で高速なデータ通信を実現するEDGEがあるなら、現時点では、インフラへの新規投資が必要なW-CDMAに移行する理由がなくなってしまうからだ。 □COMDEXのホームページ(英文) (2003年11月21日) [Reported by 塩田紳二]
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