●Half-Life 2バンドル戦略でゲーム市場を狙う
ATIが今回発表したのはハイエンドGPU「RADEON 9800XT(R360)」とメインストリームGPU「RADEON 9600XT(RV360)」の2ファミリ。それぞれ現行の「RADEON 9800(R350)」と、「RADEON 9600(RV350)」からの強化バージョンだ。 ATIは、この2つのCPUを、年末商戦(米国ではホリデーシーズン商戦)向けに投入する。しかも、「Half-Life 2」というおまけ付きで……。 いや、むしろHalf-Life 2のおまけがR360とRV360なのかもしれない。DirectX 9のフィーチャを使うHalf-Life 2のインパクトはそれほど大きく、ATIもそれを十分に計算してHalf-Life 2バンドル戦略に出た雰囲気がある。 ATI TechnologiesのKwok Yuen Ho(K. Y. ホー)会長兼CEOは次のように語る。 「我々のチップはDirectX 9では素晴らしい性能を発揮する。新世代ゲームはその違いを考慮するだろう。だから、我々はDirectX 9ゲームをバンドルしていく。Half-Life 2が出荷されたら、反響は素晴らしいものになるだろう」
ATIのパートナーのボードベンダーも同様にバンドルする。「当社もHalf-Life 2のバンドルを行なう予定だ」とGIGA-BYTE TECHNOLOGYのSteven Chen氏(Deputy Manager, Project Marketing Department, Marketing Division, Channel Business Center)は言う。 ●マイナーチェンジのR360 先週台湾で開催されたCOMPUTEXで、NVIDIAのJen-Hsun Huang社長兼CEOは、次世代GPUを搭載したリファレンスボードを紹介。NVIDIAが年末商戦向け製品を準備していることを示した。しかし、製品発表では、今回もATIが先んじた格好だ。 「過去数年、我々はいい製品を作ったのに、ライバルに数ヶ月先んじられたために、ビジネスでは打撃を被ってきた。そこで、昨年からは競争に勝つことにフォーカスを変えた。その結果、我々はRADEON 9700ではライバルに対して何カ月も先んじることができた。RADEON 9800でも先んじた。今回も、また継続してライバルに先んじることに成功した。そして、今後数世代でも先んじることができるだろう」とHo氏は強調する。 ただし、今回の発表は、今春のR350/RV350発表と比べると、GPU自体の強化点とインパクトは小さい。
「RADEON 9700(R300)を開発した時には、まだ0.13μmは成熟していなかった。だから0.15μmを使った。製品系列を、0.13μmへと移行させることもできるが、それよりは0.15μmで継続して拡張していった方がいいと判断した。もちろん、新プロセスを使わないわけではなく、プロセスが成熟したらどんどん採用していくつもりだ」とHo氏は0.15μmを継続した理由を説明する。 ●プロセス技術をチューンしたRV360
Low-Kは、配線間やレイヤー間のキャパシタンス(配線間容量)を減らすため、銅配線と組み合わせることで配線抵抗を減らすことができる。現在のロジックプロセスでは、配線遅延の方がトランジスタ遅延よりも問題になりつつある。そのため、Low-Kの採用はGPUの高クロック化と消費電力の低減につながる。また、配線をより最適化してGPUのダイサイズ(半導体本体の面積)を小さくして、製造コストを下げることもできる。 こうした利点がありながらGPUがLow-Kを採用できなかったのは、歩留まりの問題と、Low-Kの扱いにくさがあったと言われる。フリップチップ実装タイプのパッケージだと、パッケージングのプロセスでLow-K層が壊れやすかったからだ。だが、こうした問題はもう解決したという。
「TSMCのLow-kプロセスは、現在は十分に成熟しており、量産ができる。我々はすでに生産に入っている。Low-kによって、より高い性能が、より低い消費電力で可能になる」とHo氏は説明する。同社は、Low-kをモバイル向け製品にも導入していくという。 ●本命は来年のR420/423 とはいえRV360も製品の流れから言えば、それほど大きなチェンジではない。アーキテクチャ自体はほぼ変わっていないからだ。 「ATIはある程度以上のチェンジの時は製品型番を変える。今回彼らは、ただ製品型番にXTを加えただけだ。また、既存の製品ラインも並存させる。これは、ATI自身も今回の製品が大きな変化ではないと考えている証拠だと思う」とあるATIのOEMベンダーは指摘する。 ATI TechnologiesのRick Bergman氏(リック・バーグマン氏、Senior Vice President of Marketing & General Manager, Desktop/WPD Business Unit)も「来年、素晴らしい製品が登場することを期待してもらっていい。また、ホリデイシーズン向けにも、別な製品(R360/RV360)を出す」と、7月のインタビューで答えていた。ATIの力点は、来年登場する次のR4xx世代にある。 もともとのスケジュールなら、2003年秋の位置にはR400があるはずだった。しかし、ATIの次世代VPU「R420/423」は、現在は来春に後退している。その最大の理由は、DirectX 9 Shader 3.0のスペックとPCI Expressのイネーブルの時期に合わせて開発したためだと言われている。 しかし、そのままだと今年の年末商戦の新モデルがなくなってしまう。そのため、ここで、R3xx系アーキテクチャの新チップを持って来たというわけだ。 ATIはR42x世代では、DirectX 9 Shader 3.0を実装すると言われている。また、AGP 8X版「R420」とPCI Express x16版「R423」を同時に揃える。「ATIはIntelのPCI Expressのバリデーションパートナーだ。バリデーションのためにチップを提供しており、ライバルに先んじている。だから、PCI Express世代でも、再び我々が先んじることができると考えるのは、論理的だ」とHo氏は余裕を見せる。 業界関係者によると、NVIDIAのPCI Expressのテスト用チップは、NV18アーキテクチャの「NV19」だという。もっとも、NVIDIA側は、次々世代のGPU「NV40」ではPCI Expressブリッジチップを使うという。ブリッジチップでは性能は制約されるが、迅速な対応は可能になる。 ●ASUSがATI陣営に参戦 今回の発表で、もうひとつのサプライズは、ボードベンダーASUSが、NVIDIAに加えてATIも扱うことを発表したことだ。これまで、台湾ボードベンダーは大まかに言ってNVIDIA派とATI派に2分されていた。MSIやASUSはNVIDIA、GIGA-BYTEはATIといった色分けだった。ASUSからのRADEON発売は、インパクトがある。 「RADEON 9800XT、9600XT、9600SEから9200SEまで、一気にラインナップを展開する。NVIDIAとATIの2製品ラインを持つことは、顧客により広い選択肢を与えるという大きな価値がある。NVIDIA製品と同様にATI製品でもGameFaceなどのASUS独自のフィーチャを加えて付加価値をつける」とASUSTeK ComputerのMike Hsu氏(Product Manager, Multimedia Business Unit, Sales & Marketing Div.)は語る。 一方、ATIのHo氏は、ASUSのサポートを次のように語る。 「これはASUSだけでなく、業界にとって非常にいいことだと思う。ATIはオープンマインドでオープンコンペティションだ。ATIはどのビジネスパートナー(ボードベンダー)にも、ATI製品だけを使うように強いたりしない。しかし、常に不公平なビジネス慣行の人々はいて、競合会社の中には違った考えを持つところもあった。だから、パートナーはATIだけか、他社だけか、どちらかを取らざるを得なかった。だが、状況は変わりつつある。もう、そうしたことを強いることはできない。私は、こうしたオープンな競争が、創造性を刺激して、いい市場を作り出すと考えている」 ASUSのATI製品の導入は、相対的にATIのパワーが強くなってきたことを反映しているというわけだ。
□関連記事 (2003年10月2日) [Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]
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