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いよいよ見えたPCI Expressグラフィックス
ATIがR4xxでNVIDIAはNV4xで対応




●75Wに拡張されたPCI Express x16の電力供給

Intelが推奨している「Side Panel Vent」では筐体側面に空気取り入れ口が設置される

 いよいよグラフィックス業界は、来年のPCI Expressに向けてダッシュを始めた。先週のIntel Developer Forum(IDF)では、PCI Expressベースのチップセットやマザーボード、グラフィックスカードなどの動作サンプルが示された。先行するATIは、来年の「R4xx」などフルラインナップで対応、NVIDIAも「NV4x」などこちらも複数の製品で対応する。

 グラフィックス用PCI Express x16の帯域は、片方向4GB/sec、双方向で8GB/secに達する。ピーク2.1GB/secのAGP 8xの2~4倍で、ようやく、CPUのFSB(フロントサイドバス)やメモリ帯域に一致する帯域となる。

 まず、Intelの開発者向けカンファレンスIDFでは、PCI Express x16のスペックのアップデートがあった。最大の変更は、PCI Express x16の電力供給が、前回IDF時の60Wから75Wに増えたこと。つまり、75Wを消費するグラフィックスカードが、外部電源供給なしでできるようになる。

 PCI Express x16は電力供給を+3.3Vと+12Vのデュアル電圧で行なう。今春のスペックでは、3.3Vは3.0A、12Vは4.4Aで合計約60Wだった。しかし、今回のスペックでは、12Vレーンは5.5Aに増やされ合計75Wの電力供給となった。ちなみに、ロープロファイルのカードでは25Wだ。

 75Wへの変更は、カードの消費電力枠が増えるという話だけに留まらない。まず、12Vで5.5Aの電力供給のためには、ATX電源の2x10パワーコネクタでは十分ではないとIntelは説明。PCI Express x16時代には、従来サーバー用途だった2x12コネクタを採用するように推奨した。つまり、また電源仕様が変わるわけだ。

 さらに、電力供給が増えることは、消費電力の増大と発熱量の増加を意味する。この問題を解決するために、Intelは筺体側面に空気取り入れ口「Side Panel Vent」を開けることを推奨している。そこから室温の空気を取り入れることで、GPUを効率よく冷却するわけだ。つまり、またPCに穴があくことになる。そのため、壁に側面をぴったりつけて設置したりすると、うまく動作できなくなるかもしれない。

 「Prescott(プレスコット)」時代にはCPUのTDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)は100Wを超える。そしてデスクトップPCは、それに加えて75Wのグラフィックスカードも搭載するわけだ。CPUとグラフィックスだけでマックス175W。なかなか容易ならない時代に入り始めた。

●難しくなるGPUの消費電力

IDFで公開されたATIのPCI Express x16リファレンスカード

 グラフィックスカードの消費電力が上がるのは、CPUと同じ理由だ。GPU/CPUの性能は倍々で向上していくのに、半導体のスケーリングで下がる電力消費の割合は落ちている。そのため、性能向上に従って消費電力が増大しつつある。特に、今後はファウンドリ側のプロセス移行が、これまでのようなハイペースでは進まなくなる可能性がある。「プロセスを移行するまでの期間は、これまでより長くなるだろう」とS3 GraphicsのNadeem Mohammad氏(Marketing Product Manager)は予測する。

 また、プロセスを微細化してもリーク電流が増えることで消費電力が下がりにくくなることが予想される。「リーク電流はGPUにとっても今後の課題だ。スタティック電流と、ピーク電流の両方がそれぞれ増える。その関係は複雑で、消費電力を予測するのは難しくなる」(Mohammad氏)という。

 それでもGPUベンダーが性能向上を維持しようとしたら、どうしても消費電力は増大してしまう。そして、GPUベンダーは性能向上を続けるだろう。

 そのため、実際にはグラフィックスカードの消費電力も、75Wで打ち止めにもならないかもしれない。例えば、今春のIDFで、ATI TechnologiesがIDFに用意した(プレゼンテーションファイルにはあるが実際には講義されなかった)将来のグラフィックスカードの消費電力を見るとそれがよくわかる。この推測だと2005年には100Wを超えることになる。実際には、これより低くなるかもしれないが、現状の見通しとしては、将来も厳しいということだ。

●PCI Expressでリードを広げるATI

 では、各社のPCI Express対応状況はどうなっているのだろう。今回、先行しているのはATI Technologiesだ。同社はIDFでも唯一動作デモを公開。IDFでも、唯一Intelとともにプレゼンテーションを行ない、PCI Expressのバリデーションを共同で行なっていることをアピールした。

 「我々はIntelと長い間協力してきた歴史がある。今回もPCI Expressのバリデーションでは重要な役割を果たせると考えている」、「シリコンバレーの企業では、スタッフが数年でどんどん移っていく。しかし、IntelとATIは同じ人間が長期間留まる。だから、両社は長期の協力関係を結ぶことができた」とATIのRick Bergman氏(Senior Vice President of Marketing & General Manager, Desktop Business)は、今年7月のインタビューで両社の緊密な関係を語っていた。

 ATIがIDFでデモを行なっていたのはPCI Expressのプロトタイプチップ。説明員は「これはバリデーション用のユニークなプロトタイプで、実際の製品ではない。しかし、DirectX 9の機能はRADEON 9800と同様にフルに備えているから、全機能をテストできる。しかし、ハイエンド製品と比べるとダイ(半導体本体)が小さく、消費電力も小さい」と言う。これをそのまま製品化するという話ではない。

 ATIは、このプロトタイプとは別に複数のPCI Express対応GPUを開発している。同社は、フルラインナップでPCI Express対応GPUを揃えるつもりだ。それは、PCI Expressと現行のAGPに互換性がないからだ。

 「PCI Expressは、たぶんこの10年でもっともクリティカルな移行になる。というのは、初めて下位互換性のないインターフェイスとなるからだ。そのため、我々は来年後半までに、PCI Express製品をハイエンドだけでなく、トップツーボトムで迅速に揃えなければならない」、「2005年までには、全ての新PCはPCI Expressになると考えている」とBergman氏は言う。

 ATIは、ハイエンド、メインストリーム、バリューの3レイヤーでGPUを提供している。トップツーボトムというからには、PCI Express製品は、この3レイヤー全てに投入されると思われる。また、ATIは移行時期にはPCI ExpressとAGPに重なる製品を用意するようだ。業界関係者によると、ATIは、次々世代のハイエンドGPU「R4xx」に2つの製品を用意するという。同じフィーチャのGPUで、AGP 8x版とPCI Express x16版を投入するらしい。おそらく、同時期にメインストリーム向けの“RV3xx”系のコードネームのGPUでも、PCI Express版が登場するだろう。

●PCI Expressへ向かうGPUベンダーたち

 NVIDIAも同様にPCI Express対応のGPUを複数のレイヤーで投入する。NVIDIAの次期ハイエンドGPU「NV40」は、ATIと同様にAGP 8XとPCI Expressの両対応だと言われている。また、メインストリーム向けの次期GPU「NV36」にも、PCI Expressバージョンが登場すると言われている。さらに、来年後半になると、NV4x台で低価格のPCI Express GPUが出てくるという。

 ただし、現状ではNVIDIAのPCI Express GPUはまだデモが行なわれていない。

 このほかのベンダーも、来年には一斉にPCI Expressへと移行を始める。例えば、COMPUTEXで、DirectX 9世代GPU「DeltaChrome」のデモを公開しているS3 Graphicsは「デスクトップでは来年前半にPCI Expressプラットフォームが出ると言われているが、それと近い時に、PCI Express製品を提供する」、「基本的には今のDeltaChromeと同じ機能を持つコアをPCI Expressでも提供する」、「PCI Express製品は、(価格)レンジを持たせた提供になるだろう」(Mohammad氏)という。

 PCI Express版は「DeltaChrome2」と呼ばれていたチップだと思われる。また、DeltaChromeは8パイプだが、これを4パイプにしたより廉価な製品(DeltaChrome MS)も投入されるようだ。

 来春から一気に始まるPCI ExpressへのGPUの移行。今回は、徐々に浸透するのではなく、一気に入れ替わっていくことになりそうだ。DirectX 9+PCI Express+Longhorn、この3要素によってGPUの世界は大きく変わりつつある。そして、おそらくは勝者も変わりつつある。

□関連記事
【9月18日】【IDF】ATIがPCI Express X16対応ビデオカードを展示
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0918/idf04.htm

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(2003年9月22日)

[Reported by 後藤 弘茂(Hiroshige Goto)]


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