Intel Developer Forum Fall 2003 基調講演レポート

Intel、Itaniumのマルチコア版、Xeonのデュアルコア版のプランを明らかに


Intelのポール・オッテリーニ社長兼COO

会場:McEnery Convention Center, San Jose, 米
会期:9月16~18日(現地時間)


 16日(現地時間)より、Intelが開発者向けに開催しているIntel Developer Forum(IDF) Fall 2003は、ポール・オッテリーニ社長兼COOの基調講演などが行なわれ、開幕した。IDFでは、Intelの今後の戦略、新製品などが公開され、今後のPC業界を占う上で重要なイベントとなっている。

 基調講演の中でオッテリーニ氏は、同社が4つのT(Technology)と呼ぶ技術への対応を呼びかけたほか、同社のエンタープライズ向けCPUのプランを明らかにし、Itaniumのマルチコア版“Tanglewood”、Xeonのデュアルコア版“Tulsa”という2つの製品の存在を明らかにした。



●コンバージェンスを進めるIntel、4つの“T”がキーワード

 今回の基調講演で、オッテリーニ氏はさかんに「4つの“T”」というキーワードを繰り返した。Tとは“Technology”のことで、同社が最近導入した、そしてこれから導入する技術のことを指し示している。具体的には、Hyper-Threading(HT)テクノロジ、Centrinoモバイル・テクノロジ、LaGrandeテクノロジ、Vanderpoolテクノロジという4つの技術のことを指している。

 HTテクノロジは、CPUをソフトウェアに2つあるように見せかけ、ソフトウェアをマルチスレッド環境で実行することで、CPU内部のリソースの利用率を高め、CPUの処理能力を上げるというものだ。オッテリーニ氏は「すでにXeonはほぼすべてがHTテクノロジに対応しており、2004年にはほとんどのデスクトップPCがHTテクノロジに対応することになる」と述べ、HTテクノロジを今後PCにも積極的に展開していく方針であることを明らかにした。また、オッテリーニ氏は「我々が多くのハイエンドアプリケーションについてスレッド化の効果を調査した結果、90%程度は大きな、そして中規模の効果があることがわかった」と、ソフトウェアベンダに対してソフトウェアのスレッド化に取り組んでほしいということを呼びかけた。

4つの“T”としてHyper-Threading(HT)テクノロジ、Centrinoモバイル・テクノロジ、LaGrandeテクノロジ、Vanderpoolテクノロジをあげた 2004年の終わりまでにHTテクノロジの普及率を上げていくと宣言 ハイエンド向けのソフトウェアの多くでは、マルチスレッドに対応することで処理能力を上げることができる



●クライアント向けのCPUも将来的にはデュアルコア化するという方針を明らかに

 なぜ、オッテリーニ氏がHTテクノロジの採用をソフトウェアベンダに対して訴えるのかと言えば、それはIntelがスレッドレベルの並列実行こそが、CPUの処理能力を上げていく方向だと考えているからだ。

 これまで、CPUの処理能力向上は、IPC(Instruction Per Clock)と呼ばれる1クロック周波数で実行できる命令数を増やすか、クロック周波数を上げるという2つの手法を組み合わせて行なわれてきた。もう少し具体的に言えば、CPUのハードウェア上の仕様であるマイクロアーキテクチャの改良によりIPCを上げ、プロセスルールの改良によりクロック周波数を上げてきたわけだ。

 ところが、すでにIPCをこれ以上上げるのは難しくなってきており、これから上がっていくとしても、これまでの進化の度合いに比べるとスローダウンせざるをえない。そこで、新たに複数のスレッドを同時に実行するという新しい手法を導入することで、新しい性能向上のパラメータを追加することで処理能力を上げていこうというのがHTテクノロジのねらいだ。

 ただし、HTテクノロジでは、CPUを仮想的に2つに見せかけているだけで、実際には1つしかないCPUの演算機能を、2つの仮想CPUがシェアする形になっている。CPUのリソースが余っている場合には、HTテクノロジに対応させることで効果があるが、CPUのリソースを元々使い切っている場合には、あまり意味がない。そこで出てくるのが、1つのダイの上に2つのCPUコアを統合し、実際に演算機能を2系統持たせ、1つのCPUでデュアルCPUと同じ機能を実現するという構想だ。

クライアント向けのCPUでもデュアルコアをサポート

 今回、オッテリーニ氏は「将来、クライアントでもデュアルコアが利用することができるようになる」と述べ、初めて公式にクライアント側でもデュアルコアの計画があることを明らかにした。これにより、第1段階としてHTテクノロジで仮想的なマルチスレッド環境の実現、そして第2段階としてデュアルコアによる本格的なマルチスレッド環境の実現というIntelの長期的な計画が明らかになったことになる。

 これにより、ソフトウェアベンダにとっては、HTテクノロジに対応する、より大きな動機ができたことになる、今後ソフトウェアベンダのマルチスレッドへの対応が進む可能性が高い。



●LaGrandeテクノロジを初めてデモ

 また、オッテリーニ氏は、Intelのセキュリティ技術であるLaGrandeテクノロジのデモを初めて行なった。デモではPCにハッカーが侵入し、ユーザーがキー入力したデータがトロイの木馬形式で盗まれる様子や、クレジットカードで転送したデータなどPCの中のメモリを参照されてしまうことで盗まれる様子が画面に映し出された。これに対して、LaGrandeがサポートされたPCでは、ハッカーのPCにはキーストロークは表示されなかったし、同じくメモリの中が見られてクレジットカードが抜き取られるということはなかった。

 オッテリーニ氏は「LaGrandeを導入することでプライバシーが侵害されるということを心配する向きもおられると思うが、LaGrandeおよびそれをサポートするソフトウェアでは、有効にすることもできるし、使わないという選択も可能だ。従って、プライバシーを心配するユーザーにも特に問題はない」と、同社がプライバシーの問題に対して配慮していることを強調することを忘れなかった。

 なお、今回のIDFでは、LaGrandeに関するセッションが多数用意されており、詳細が明らかになる模様だ。

ハッカーPCでキーストロークやメモリの内容を盗まれるとデモ LaGrandeが有効になったPCでは、クレジットカードなどが盗まれることはない



●ハードウェアをパーテショニングするVanderpoolテクノロジ

Vanderpoolテクノロジのデモ。1つのハードウェアで2つのOSが動作する

 オッテリーニ氏は、4つの“T”の最後として、Vanderpoolテクノロジと呼ばれる新しい技術を紹介した。このVanderpoolテクノロジは、ハードウェアをパーテショニングする技術で、1つのCPU、1つのHDD、1つのメモリを2つのPCとして利用することができるようになる。今回行なわれたデモでは、片側のPCでDVDビデオを再生しながら、もう片側のPCをリブートさせてみせた。ところが、PCとしては2つある訳ではなく、あくまで1つのPCを2つの使い方が可能になっていた。

 これを利用すると、片側のPCをシステムの管理者が管理に利用し、もう片方をエンドユーザーが利用したり、あるいは家庭で親がPCを使い、子どもには見せたくないファイルなどは片側のマシン側に入れておき、子どもにはもう片側のマシンを使わせるなどの使い方が可能になる。

 今回は、こうしたデモが行なわれただけで、いつ導入されるかなどの具体的な計画は語られなかった。



●スレッド化を推し進めるIntel、IA32にもデュアルコアを実現へ

Intelのエンタープライズ向けロードマップ。Montecitoの後継としてマルチコアのTanglewood、Potomacの後継としてデュアルコアのTulsaがリリースされる

 オッテリーニ氏は、同社のエンタープライズ向けCPUのロードマップについてもふれ、Itanium 2および、Xeonのロードマップについて語った。

 それによれば、Intelはすでに現行のItanium 2であるMadisonの後継として2004年にL3キャッシュを9MBに拡張したMadison 9M、2005年にデュアルコアとなるMontecitoのリリースを予定しているが、そのMontecitoの後継としてマルチコアとなるTanglewood(タングルウッド)をリリースすることを明らかにした。また、Xeon MPとして2004年にリリースされる予定のPotomac(ポトマック)の後継として、デュアルコアのTulsa(タルサ)を投入することを明らかにした。

 いずれもリリース日は明らかにされなかったが、基調講演後の質疑応答において「Tanglewoodは2005年にリリースされるMontecitoの後継となる。つまり、2005年以降ということになる。Tulsaに関しては、2,3年後としかいえない」とのべている。

 Intelがこれまで明らかにした内容、OEMメーカー筋などから明らかになった内容をまとめると次のようになる。

【Intel CPUロードマップ】
 2003年2004年2005年2006年以降
ItaniumMadisonMadison 9MMonteciteTanglewood
Xeon MPGallatinGallatin>PotomacPotomac>Tulsa?
XeonPrestoniaNocona>JayhawkJayhawk>CedarMillコア
PCNorthwood>PrescottPrescott>TejasTejas>CedarMillNehalem

 Tanglewoodに関しては、Montecitoの後継なので、2006年以降ということになる。Tulsaのリリースタイミングに関しては、オッテリーニ氏の言うように、2、3年後だとすると、2005年か2006年というタイミングとなる。OEMメーカー筋の情報によれば、IntelはPotomacのリリース予定を2004年の第4四半期と説明しているとのことであり、これを考えれば、Tulsaのリリースは2005年の終わり以降だと考えるのが妥当だろう。

 また、Tulsaがどのような製品であるかも注目が集まる。Potomacは、Prescottコアを採用して、L3キャッシュは1MBないしは2MBとなっている。では、Tulsaはどの製品のコアを採用するのだろうか? 情報筋によれば、IntelはPrescottの後継として、Tejas、さらにその先には2005年にCedarMill、2006年にNehalemという製品群を予定しているという。順当に考えれば、Prescottの後継であるTejasが元になっているとも考えられるが、2005年の終わりという時期を考えると、Tejasの後継となるCedarMillという可能性も十分に考えられる。したがって、CedarMillないしはNehalemの世代にクライアント側でもデュアルコア化される可能性が高い。

□IDF Fall 2003のホームページ
http://www.intel.com/idf/us/fall2003/index.htm
□関連記事
【2月24日】IDF Spring 2003レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/link/idfs03.htm
【2002年11月15日】【海外】Hyper-Threading化を一気に進めるIntel
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1115/kaigai02.htm

(2003年9月17日)

[Reported by 笠原一輝]


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