無線LANアクセスが可能なポイントが増え続けているのはウレシイけれど、忙しいといちいちホットスポットのある場所まで移動したり、そもそもお店に立ち寄るのは難しい。なんとか空き時間を活用できないものか。そうした声を聞くようになってきた。 では、モバイルコンピューティングの現場において、空き時間とはどのような時に発生するのか? ビジネスマンに対して「どんな場所でインターネットアクセスサービスがあれば良いと思うか?」というアンケートをシスコ・システムズが採ってみたところ、新幹線の車内という答えがもっとも多く39.4%にも上ったという。第3位には電車内の28.7%、第4位にも飛行機内の24.7%という数字が上がっており、公共交通機関でのインターネットアクセスを望む声が強いことがわかる(ちなみに第2位は喫茶店で33.9%)。 喫茶店やファーストフード店などのホットスポット化は、すでに既定路線として今後、どんどん広がっていくだろう。その部分はすでに議論の対象にはならない。ではニーズの強い公共交通機関でのワイヤレスインターネットアクセスは、今後、どうなっていくのだろうか? ●成功裏に終わった航空機におけるインターネットアクセス実証実験 実はこのテーマは、現在千葉県幕張で開催されているNetWorld+Interop 2003 Tokyo(N+I)のカンファレンスセッションで、事務局から与えられたものだ。4日の午前中にシスコ・システムズ、横河電機、JR西日本、インテルといった企業からもパネリストとして参加していただき、ディスカッション形式で公共交通機関におけるインターネットアクセスの可能性について話をする。今回はパネルディスカッションを控えて、その中で触れる予定の内容についてダイジェストをお伝えすることにしたい。 さて、では公共交通機関におけるインターネット、ここでは“乗り物インターネット”と呼ぶことにしよう。乗り物インターネットの現状はどうなっているのか? 耳の早い人はすでにご存じの事と思うが、航空機でも列車でも、顧客向けのインターネットアクセスサービスに関する実験がすでに開始されている。 たとえばボーイングが進めている航空機内からのインターネットアクセスサービス提供計画「Internet Jumbo」は、すでに独ルフトハンザ航空がシスコとともに実験を行ない、その成果もすでに上がっている。そこでの良好な結果をもとに、ルフトハンザは2004年に40機のInternet Jumbo配置を決定しているという。
ルフトハンザの行なったFlyNetサービスの実証実験は、今年1月から4月にかけてフランクフルト-ワシントンD.C.間の定期路線を飛んだ140便で実施。機内にIEEE 802.11bのアクセスポイントを設置し、衛星回線を通じてインターネットにアクセスする仕組みになっている。回線の帯域は下り3Mbps、上り128Kbpsだ。 別の統計によると、毎日400万人が利用するという航空機の顧客のうち、48%がビジネス客で、ビジネス客の70%がPCを(実際に使うか否かは別にして)機内に持ち込んでいるという。そうした高いPC所有率を反映してか、実験区間での利用者は毎便50~80人が利用。利用者アンケートによると、体感速度はADSLとISDNの中間程度で、7~8時間の大西洋路線において35ドルまでならば支払う価値があるとの回答が得られた。 仮に35ドルを徴収するとして、1便あたり80人が利用したとすると、Internet Jumbo1機から得られる収入は1年間で300万ドルにも達する。実際に有料サービスを開始した時、年300万ドルというベストケースの収入を得られるかどうかはわからないが、ビジネスとしての可能性を証明するデータであるとは言えるだろう。 実際、英国航空が年内にニューヨーク-ロンドン便でInternet Jumboを就航させるほか、日本航空、スカンジナビア航空なども導入を計画中という。 ●機体管理業務への応用が導入の鍵 もっとも、航空会社がInternet Jumboに注目している理由は、顧客サービスの向上と、そこから得られる収入だけではない。むしろ、それ以外の理由の方が大きいようだ。それは機体管理業務のコスト削減への応用である。 航空機がインターネットに広帯域で接続されていると、機体各部のセンサーから収集したデータなどの管理情報を、インターネットを通じてリモートで集中管理することが可能になる。また空港内での点検作業や給油車、タラップ車などにもインターネットアクセス機能を持たせることで、それら空港内のメンテナンスサービスの管理も集中的に行なえる。 これら業務用途のソリューションを適用することで、航空会社自身がコストダウンを図れるから、というのがInternet Jumbo導入に際しての大きな動機になっているようだ。 実はこれは航空機だけでなく、列車内でのインターネットアクセスサービスでも同じだ。 JR西日本では無線LAN技術を用いて列車と沿線、駅などと通信する実験を行なっているが、これは、車体管理情報をリアルタイムにモニタしたいからだとか。また、JR四国やJR東日本では列車内の乗客に対して、無線LANによるインターネットアクセスサービスを提供する実験を行なっていた。現在はまだ新幹線のインターネット対応は行なわれていないが、導入によるコスト削減効果が確認できれば、意外に早く導入されることになるだろう。ただし、顧客向けアクセスサービスとなると、現時点では具体的なサービスの予定が立っていない。 顧客サービス事業としてインターネットアクセスサービスを提供しようとすると、車内でワイヤレス接続をするための正式なインフォメーションを顧客向けに提供したり、顧客自身が接続設定を行なえない場合に、サポートサービスを提供する必要があるからだという。「たとえば車掌にネットワークのサポートを求められると困る」というわけだ。 このあたりはあくまでも業務の効率化を目的としたネットワークアクセスの仕組みとし、その一部帯域を無償で顧客サービスとして提供。その代わり、接続性に関しては保証を行なわず、ユーザー自身が無線LANやVPNアクセスの設定を行なうというポリシーにすれば回避出来るはずだ。しかし、そこに至るまでにはJR各社という巨大な組織の中で、インターネットアクセスサービスに対する認識を確たるものにする、長い長いロビー活動が必要になるだろう。 このほかにも電源確保の方法、あるいは電源を不要にするバッテリ技術、シームレスに企業ネットワークに接続するためのクライアントソフトウェア技術、生体センサーや温度センサーなどを活用しネットワーク化、それを顧客サービスとしてフィードバックするという考え方や、端末デバイスのトレンドなど、様々な話題について、パネラーから提案がなされ、ディスカッションを行なう予定だ。 セッションの中で新しい話題、興味深い話題へと発展した時には、追ってこの連載の中でも紹介していくことにしよう。
□NetWorld+Interop 2003 Tokyoのホームページ (2003年7月1日) [Text by 本田雅一]
【PC Watchホームページ】
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