ソニーから発表された、バイオノートGRの最新モデルであるPCG-GRTシリーズは、クリアブラック液晶と呼ばれるアンチグレア処理を施した高輝度、高コントラスト、高視野角な液晶を採用し、さらに3次元Y/C分離回路を搭載したTVチューナ/MPEG-2エンコーダボードを内蔵するなど、同社のバイオノートシリーズのフラッグシップPCとして高性能なマシンに仕上がっている。 レビューに関しては、先週金曜日のレポートでお伝えした通りだが、今回は新バイオノートGRの開発陣に、新しいクリアブラック液晶とTVチューナボードについての秘密を伺ってきた。 ●夏モデルGRのコンセプトは“テレビを綺麗な液晶で見ましょう”
Q:今回、夏モデルのバイオノートGRとして投入されたPCG-GRTですが、その基本となるコンセプトを教えてください。 【本條氏】夏モデルのバイオノートGRのハイライトは、“テレビを綺麗な液晶で見ましょう”というものです。基本的には、今までのGRシリーズと形状は変わってはいませんが、従来モデルではポートリプリケータに内蔵されていたTVチューナを、本体側に内蔵しています。さらに、液晶を“クリアブラック液晶”と弊社で呼んでいる、高輝度、高コントラスト、高視野角な液晶に進化させるだけでなく、本体にTVチューナやチャンネル、オーディオなどの機能ボタンを追加することでより使いやすくし、“テレビを綺麗な液晶で見ましょう”というコンセプトを実現しているのです。 Q:日本のフルサイズノートはデスクトップPCの置き換えに位置づけが変わってきていますが、デスクトップリプレースメント(デスクトップ代替:DTR)ノートPCの割合は非常に大きいと言われています。ソニーとしてもそういう現状をカバーする必要があったわけですね 【本條氏】おっしゃるとおり、こと国内の市場に関してはそういう現状があることを認識しています。ただ、弊社は国内市場だけでなく、ワールドワイドにも展開しております。国内に関してはGRTをテレビモデルと位置づけていますが、ソニースタイルや他の市場においては、液晶も従来品でテレビチューナも内蔵していないモデルというのを幅広く用意しています。 Q:今回スペック面ではかなりハイエンドになっていますね。 【本條氏】それはやはりGRですから、というのはあります。CPUにはPentium 4 2.80GHzを採用していますし、チップセットにはSiSのSiS648を選択しています。AGP 8Xをサポートしたいというのがありましたので、今回はSiS648を選びました。GPUとしてハイエンドモデルにはAGP 8X対応のGeForce FX 5600 Goを採用しています。下位モデルに関してはGeForce 4 420 Goを採用しています。 ●デュアルライトにより従来の2倍の輝度を実現したクリアブラック液晶
Q:今回はソニーがクリアブラック液晶と呼ぶアンチグレア処理が施された液晶が採用されています。かなり輝度も高めになっていますが、カンデラ数はどのくらいなんでしょうか? 【藤田氏】今回は正式な数字は特に公開していませんが、目安としては従来モデルのほぼ倍程度となっています。 Q:その秘密は液晶パネルに搭載された蛍光ランプが2本になったというのが影響してると思います。その代わり重さと消費電力の点ではトレードオフだと思いますが? 【藤田氏】正直なところ、ランプが2本入っているので、大きくなる、重くなるというデメリットはあります。ただ、裏を返せばそれを補ってあまりあるだけのメリットがあるということができると思います。 そもそも、どうして明るくしたいかというところから説明させて頂きたいのですが、最近のPCだとDVDを見る、TVを見る、映像にフォーカスしたマシンとなってきているため、映像を綺麗に見せるということが重要になってきています。その観点で現在のPCを見た場合、何が足りない部分がある。それが、明るさなんです。 最近他社のPCでも表面をテカテカにして、テレビっぽく見せるような製品がでてきていると思います。しかし、現状のノートPCの明るさのままで表面をテカテカにしてしまうと、蛍光灯の写り込みが目立ってしまいます。また、テレビでは当たり前のことなんですが、高視野角対応にしてしまうと、横に対しても光を出さないといけないので、単位面では明るさが落ちてしまうのです。 ということを考えると、テレビっぽい映像を液晶の上で出していこうとするには、明るさを出してしまわないといけない。単純な解になってしまうのですが、ランプを2本入れれば明るくなるだろうというのがスタートだったんです。 先ほど述べたように、デメリットとして、パネルが大きくなってしまう、重さが重くなってしまうということがありますので、それをノートPCに入れるためにはどうしたらいいのかというのが課題でした。
Q:小さくするというのはかなり大変なことだと思いますが、どのように小さくしたのでしょうか? 【藤田氏】工夫したことの1つとしては、導光板の形を工夫しました。導光板というのは、蛍光灯の光を液晶のアレイに対して光を伝えるためのものなのですが、今回はこの導光板をくさび形の形状にして、より光を効率よく伝えるようにしつつ、厚さを抑えることができるようにしてあります。ちょうど、液晶ディスプレイの蓋を開けた時に、液晶の上部の大きさに関してはこれまで通りの厚さになっています。 Q:15型モデルの液晶部はややふくらんだ形状になっていますが、16型モデルの液晶部はふくらんでいません。それはなぜですか? 【藤田氏】それはインバーターを背中に背負っているかどうかの違いです。
Q:なるほど、つまり15型の方はインバーターが液晶の背面に入っているのですね。 【藤田氏】そうですね。16型モデルは液晶の下部、ちょうど液晶の表面のソニーバッチがある裏あたりにインバーターが入っています。これが、15型だと液晶の裏側に入っているため、ややふくらんでしまうのです。 【本條氏】16型のモデルはデスクトップの代替として位置づけられているので、あまり差が判らないのではないかと思いますが、若干大きくなっています。15型のモデルは、モバイルもある程度意識したいと考えておりまして、それで従来サイズと同じということを実現するために背中側に入っています。 Q:蛍光灯を2本入れることにより、消費電力は増えると思いますがどの程度増えるのでしょうか? 【藤田氏】もともとハイスペックなマシンに採用しているので、全体の消費電力に及ぼす影響という意味では数%程度です。もちろん、輝度調節も行なえるので、輝度を以前と同じ程度に設定して頂ければ従来モデルとあまり大きな違いはありません。 ●表面処理とデュアルライトのコンビネーションで液晶テレビに匹敵する明るさ、低反射率を実現
Q:表面の処理を変えてらっしゃるという話ですが、どのような処理をされていますか? 【藤田氏】これまでの液晶では、液晶の表面をわざとガサガサにしてあります。これにより光を乱反射させて、蛍光灯などの光を映り込まないようにしてあります。これに対して、クリアブラック液晶では、表面はツルツルにしてありますので、中の光がそのままでてくるようになっており、シャープにくっきり映像が見えてきます。 クリアブラック液晶では、このガサガサをツルツルにしたという点では、他社で採用されているものと同じなのですが、異なる点もあります。具体的には、ツルツルな液晶では反射光をそのまま跳ね返してしまうため、蛍光灯などの光などがそのまま映り込んでしまいます。 そこで、弊社のクリアブラック液晶では、ツルツルにした上で蛍光灯が映り込んでも見えにくくするという工夫をしています。具体的に反射率という数字で表してはいませんが、他社の春モデルで採用されているものと比べて半分以下になっています。 Q:実際に見た感じはどの程度違う物なんでしょう? 【藤田氏】体感となると、別の要素が入ってきます。反射率を低下させることで、そのまま蛍光灯の光が当たって戻ってくる光を抑えるという点と同時に、今回デュアルライトを採用して明るさがあがってきている点も重要になってきます。つまり中からでてきて欲しい光を上げ、外から来る反射を抑えるという2つの要素が作用し合って、体感的には反射率を半分にしている以上に映り込みが少なくなったと感じて頂けると思います。 Q:動画やテレビを見るときに、どのぐらいの効果があるものなのでしょうか? 【藤田氏】今回、表面処理をしたことにより液晶テレビに匹敵する程度の低反射処理になっているといえます。さらに、明るさで従来の倍になったと述べましたが、液晶テレビと比べると、同じ明るさになったという言い方が可能です。 いままでのノートPCは、パソコンとしてみると明るさは十分だと感じますが、液晶テレビと並べてみると、明らかに暗いというのが判って頂けると思います。そういう意味では、ライトを1本のままで反射率を落としたとしても、明るさではテレビに劣っているので、映り込みとしてはテレビと比べて目立ってしまい、テレビと同じ明るさ、低反射を実現することはできないのです。 Q:それは液晶テレビとあまり変わらないということでしょうか? 【藤田氏】実際、液晶テレビと並べて比較してみましたが、映り込みの点ではあまり変わらないと考えています。 ●最初は液晶ベンダにも難色を示されたデュアルライト内蔵
Q:ランプを増やすことで増える熱量についてですが、どの程度増えるものですか? 【藤田氏】熱に関しては、消費電力と比例しています。システム全体に対しての熱量という意味では数%のインパクトです。 例えばバイオWも2本蛍光灯を使っています。そのインバーターはノートPC用のインバータに比べるとやや大きなサイズになっています。そこで、ノートPCに載せるために小さくする必要があるのです。同じような熱を出すとしても、より小さいところから熱を発生するために熱密度が上がってしまいます。そいうものをうまく解決する必要がありました。
Q:何か特別な放熱機構を備えているのでしょうか? 【藤田氏】ファンまではいかないんですが、パッシブ(静的な放熱機構)で放熱しています。 Q:特に本体側に送って放熱したりということはないんですか? 【藤田氏】それはないです。液晶側だけ放熱しています。 Q:まだパッシブ(静的)で放熱できるレベルなんですか? 【藤田氏】そうですね。余裕があるというわけではないですが、最初の試作機では、熱の問題があるとは見えていなかったので何も対策をしないで作ったのですが、その段階でさすがにちょっと熱いな、と(笑)。 Q:具体的にはどういう対策をしているのでしょうか? 【藤田氏】従来のタイプの液晶パネルでは、特に何も熱対策はしていないのですが、今回のデュアルライトのモデルでは液晶の裏側にアルミの放熱板を備えています。放熱板も外にぺたっと付けるだけではなかなか熱が逃げていかないので、中からより効率よくこの板に熱を伝えるための構造を新しく設計しています。
Q:2本にして明るくしてくれという要求には、液晶ベンダの方は難色を示さなかったですか? 【藤田氏】今回我々の方から2本にしてくれというリクエストを出したのですが、正直なところ当初は難色を示されてしまいました。1つには、熱の問題があってセット自体が熱くなるという問題とともに、熱さで輝度が犠牲にされてしまうという問題がありました。単に2つを近づけてるとお互いの熱さで輝度が下がってしまうのです。そこで、ある程度の放熱対策をしなければ、2倍などとんでもなく、1.5倍も実現できないと。最終的には、液晶ベンダの方にもご協力頂いて、十分なクオリティに仕上がったと考えています。 ●ノートPCとして初めて3次元Y/C分離回路を内蔵したTVチューナボード
Q:前モデルのGRVではポートリプリケータにチューナが内蔵されていましたが、今回は本体側に内蔵されていますね。 【亀山氏】外付けのポートリプリケータなしでも使えるようにしたいというのがスタートです。前回のモデルではこれを実現できなかったので、今回は絶対にやってやろうというのはありましたね。 Q:今回入れられるようになったのは何が大きかったのでしょうか? 【亀山氏】入れられるようになった、というよりは最初から「入れてやろう」ありきでしたね(笑)。この製品はGRシリーズだったので、本体の性能を犠牲にしたくないというのがありました。例えば、放熱機構などにもそれなりの面積を採らなければこの性能を実現することはできないので、チューナボードに用意できるスペースは非常に限られていました。従って、小さくしなければ入れられないというのがスタートでした。とにかく、チューナを小さくするのが至上命題でしたね。 一方、画質という意味では、アナログ素材をデジタルできちんと取り込んでいくことを提供していきたいというのがありまして、S端子もつけましたし、3次元Y/C分離もいれました。DVDへの書き込みも可能になりましたし、画質などを落とすことなく、また本体性能を犠牲にしないというころから設計が始まっています。 Q:TVチューナとMPEG-2ハードウェアエンコードが主な機能だと思いますが、デスクトップのバイオRZなどで実現されているハードウェアのDV-AVIコーデックは搭載されていないのですね? 【亀山氏】そうですね。そのあたりはCPUでも出来ますし、カードを小さくするという大前提の中で落とさざるを得ない部分です。そういった機能に関しては周辺機器でソリューションとして提供しているので、切り分けています。 Q:TVチューナカードと言えば、PCIのフルサイズに近いカードの大きさにがほとんどです。それをどのように小さくして搭載したのでしょうか? 【亀山氏】今回のボードはゼロからノートPC用に設計し直していて、デスクトップPCに搭載されているボードとは全く異なっています。中身は、ほとんど半導体で構成されています。 Q:通常のPCIベースのTVチューナカードに搭載されているチューナとは何が違うのでしょうか? 【亀山氏】半導体によって作られているシリコンチューナになっています。ただ、これまでのシリコンチューナというのは、画質の点であまり評判がよくありませんでした。そこで、ICの特性と、それをアナログ回路にどう生かしていくかをかなり研究し、最適なボード設計を行なうことで画質を落とさずに小型化を実現しました。
Q:ボードを設計するにあたり大変だったところはどこですか? 【亀山氏】ボードの高さですね。今回チューナボードを入れている場所は、PCカードスロットの下の部分なんですが、ここに入れようとすると、よいアナログ特性を出しながらPCカードにぶつからない部品配置ができないのです。また、マザーボードが下に入っているので、下に置けないものもいっぱいあるのです。そういう部分がシビアなんです。それだけでも結構たいへんでしたね。 Q:どうしたんですか? 【亀山氏】もうひたすら挑戦ですね。配線を引き回すときに、できる範囲で部品配置を考え、特性に悪影響を与えないようにしています。試作基板もかなりの枚数を作って、実機が出来てからも調整したりしました。 Q:何枚ぐらい作ったんですか? 【亀山氏】6、7枚ぐらいですかね、最終的には。 Q:MPEG-2エンコーダ以外にはどんなチップが搭載されているのですか? 【亀山氏】映像信号のDA(デジタル-アナログ)変換、オーディオのDA変換、そのほかにコンポジット信号を3次元Y/C分離するための回路も搭載されています。3次元Y/C分離の機能がノートPCに入ったのは初めてですね。 Q:3次元Y/C分離に関しては最初からプランに入っていたのですか? 【亀山氏】そうですね。Sの素材はSのまま入れてあげたい、あとはコンポジットに関しても、お客様が多数素材をお持ちだと思いますので、それをきちんとデジタルにしてノートPCにとっておき、保存したり編集したりできる、それがPCのいいところだと思っています。それをきちんとするには、3次元Y/C分離をきちんとするのが大事だと思っていました。 Q:GeForce FX 5600 Goをビデオチップとして採用されましたが、熱設計はかなり大変ではなかったですか? 【本條氏】今回、従来製品では2つだったファンに、もう1つ追加して合計で3つのファンが内蔵されています。これによって、CPU、チップセットとGPU、メモリの3カ所を冷やしています。 GPUはサブボードになっていて、取り外することが可能です。このため、上のモデルにはGeForce FX 5600 Go、下のモデルではGeForce 4 420 Goと別々のサブボードを搭載しています。 また、この基板のもう1つの特徴は、デスクトップPC用のPentium 4とモバイル用のモバイルCeleronを1つの基板でサポートしていることです。熱という意味では、この3つのファンをどのようにコントロールするかを、CPUに応じて行なうようになっていて、モバイルのCPUの時には極力静かにという設定になるなど、制御方法を変えています。 Q:なるほど。本日はいろいろとありがとうございました。
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(2003年6月3日) [Reported by 笠原一輝]
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