先週開催されたMicrosoftのハードウェア開発者向け会議「WinHEC 2003」では、Longhornに実装する予定の様々な機能についてのセッションが設けられた。実際に参加した身としては「本当にすべてが実装されれば2005年中に出ないのでは?」という感想を持たざるを得ないほど多岐にわたり、かつ基盤部分からの改善が行なわれている印象を持った。実際、これまでにもWinHECでアナウンスされつつ、最終版では実装されなかった機能は少なくない。しかし、それらがWinodwsが向かう方向性を示していることは間違いないだろう。 現在、明らかになっているLonghornの概要は、主にデスクトップPC、もしくは強力なパワーを持つデスクノートを対象としたものが多いが、いくつかに関してはノートPCの使い勝手にも大きな影響を与えるだろう。 WinHECのLonghorn関連の話題の中から、モバイルPCに関係すると考えられる話題をいくつかピックアップしてみた。 ●省電力関係の目玉はグラフィックチップの省電力制御? WinHECのACPI、省電力に関連する技術セッションによると、Windows 9x/NTからWindows 2000、Windows 2000からWindows XPへと強化されてきたCPUの省電力制御機能は、今回あまり大きな改善を受けない模様だ。改善を受けている部分の多くはサーバー向けで、モジュール化されたコンポーネントの省電力、ホットスワップ対応や、4GBメモリ以上のシステムをハイバネートさせる機能(従来は4GB以下でなければハイバネートをサポートしていなかった)などが追加されている。 しかしひとつ、一部の使い方には効果的な改善が施された。ACPIには「Cステート」というプロセッサの動作モードが定義されており、WindowsはCステートを設定することでプロセッサの省電力化をサポートする。C1よりもC2、C2よりもC3の方が省電力だ。 LonghornはCステートを管理・制御するためのタイムスロットの単位を、Windows XPよりも細かくする見込みという。たとえば圧縮オーディオの再生中、Windows XPではプロセッサアイドルタイム(プロセッサに負荷がかかっていない時間)の多くがC2に設定されているのに対して、Longhornでは9割以上の時間、より省電力なC3で動作するようになる。 Microsoftは、負荷が連続してかかる状況においてC2ばかりが使われていた従来とは異なり、今後はC3で動作することが多くなるだろうと話す。Windows XPの省電力管理機能は、現在でも十分に高性能なため、劇的な変化は望めないだろうが、常にPCで圧縮音楽を再生しながらPCを使っている人ならば、実感できる程度のバッテリ駆動時間の延長が望めるだろう。 また動的にスロットリング(CPUを断続的に動かすテクニック)を、OSが行なうようにもなる。スロットリングは、最低速度モードで動作しているCPUの性能をさらに落とすことができる。電圧の低下を伴わないため、その効果は限定的なものだと考えられる。 このほかにも、細かな改善が行なわれるようだが、中でも注目したいのがグラフィックチップの省電力対応である。Microsoftは昨年のWinHECで、Longhornの2Dグラフィックスを3Dアクセラレータ内蔵のPixel Shaderで行なうとアナウンスしていた。今年はさらに、その詳細について言及したが(後藤氏のレポート参照)、電力消費を考えるとバッテリ駆動時にLonghornのフル機能が利用できない可能性が高い。 仮にPixel Shaderを利用しないモードでLonghornを使ったとしても、今後、ますますGPUの消費電力が増すことは明らかだ。現時点でもバッテリ性能に対するグラフィックチップのインパクトは大きく、たとえばパフォーマンスの最大化を狙っているNVIDIAのチップを搭載したPentium M機は、ATIやTridentを使ったシステムよりも、たいていの場合、バッテリ駆動時間が数十分短い。 セッションではあまり多くは語られなかったが、Microsoftは今のところLonghornにはCPUに対する電力制御と同じように、GPUに対しても細かな電力制御を行なう機能を盛り込もうとしているようだ。GPUの省電力化に関しては、APIの標準化を含め、まだ決まっていないことが多いようだが、モバイル機でもLonghornの機能を活かせるように、可能な限り制御機能を実装する意向という。 ●ディスプレイに関わる問題はLonghornで解決か もうひとつ、Longhornで大きなトピックは、より高精細なディスプレイに対応可能になったことだ。LonghornではAPIが一新され、グラフィック描画に関しても新しいAPIが用意されるが、新しいAPIはあらゆる解像度で正しく画面表示が行なわれるようになる。 この問題は、以前この連載でも取り上げたもの。現在のWindowsは画面解像度が96dpiであることを前提に、APIやユーザーインターフェイスが設計されている。その後、API自身はDPI値にかかわらずスケーリングするように改良されていたが、Win32アプリケーションの中には96dpiを前提にプログラミングしているものも少なくなく、またWindows XPのシェル自身も133dpiまでしかスケールしない。 一方、Longhornでは120dpi以上の高精細なディスプレイを最初から推奨している。液晶技術ならば、200ppiオーバーの超高精細ディスプレイも可能になるが、そうした環境では従来よりも見やすい高品質なグラフィックを表示可能になるわけだ。実際にどの程度の大きさで描画されるかは、内部解像度のカスタマイズで変更可能になる見込みで、画面サイズ、精細度、表示サイズのバランスをユーザー自身が選択可能になる。 もちろんLonghornでも、レガシーのWin32 APIを用いたアプリケーションを動かす必要があるが、古いAPIで描画するアプリケーションは内部的に96dpiで処理。それを任意のサイズに3Dグラフィックチップで拡大表示することにより対応する。 WinHECでは、IBMの920万画素ディスプレイ(202ppi)に96dpiアプリケーションを動かし、見やすい実用的なサイズで表示されるというデモが行なわれていた。ただし、拡大時に3Dチップのテクスチャフィルタ処理が加わる。デモでは多少文字がボケたようにスムージングされており、必ずしも文字の見やすさには繋がっていなかった(もちろん、Longhorn対応アプリケーションは高精細表示になるが)。 レガシーのアプリケーションから、Longhorn対応アプリケーションに切り替わるまで、ある程度の時間がかかるだろうことを考えれば、グラフィックチップにはこれまでとは異なる意味(文字の見やすさなど)で品質の高いフィルタ処理の実装が求められるようになるだろう。 いずれにしろ、様々な精細度のディスプレイに柔軟に対応できるようになる意味は大きい。現在は多くのディスプレイサイズで解像度がXGAにとどまっているノートPCだが、Longhornの世代ではより細かな解像度を採用した製品が実用になる。小さな画面で解像度が高すぎるのはイヤだ。あるいは小さいサイズでもXGAよりも広い画面が欲しい。そんな意見のすれ違いも、Longhornではなくなることだろう。12.1型クラスでUXGA以上という製品も決して夢ではない(実際、実用性が低いために採用されなかっただけで、12.1型UXGAのパネルはサンプルレベルであれば存在したこともある)。 最後に色管理機能に関しても触れておきたい。Longhornでは色管理に関する技術的な基盤が総入れ替えになった。sRGBよりも遙かに広く滑らかな色再現が可能なscRGBが標準となり、各デバイスおよびカラー表示オブジェクトは「色に関する履歴書」を保有する。Longhorn上では、すべての色は、アプリケーション、データの制作者、あるいはデータをキャプチャした装置が意図する色で表示されるようになる。 これはノートPCにとっても重要な機能だ。なぜなら、ノートPCの液晶ディスプレイはデスクトップ用のCRT、液晶ディスプレイよりも、色再現域が狭く、また機種間でのバラツキも大きいからだ。省電力のためにはカラーフィルタを薄く(色域が狭くなる)する必要があり、DVD再生などを美しく表示しようと思うとカラーフィルタを濃く(色域が広くなるが暗くなる)しなければならない。製品の性格によって、セッティングは大きく異なる。 もちろん、正しい色で表示できたからと言って、搭載している液晶パネルの能力を超えた色が再現できるわけではない。しかし、ディスプレイのバラツキを抑えることができれば、少なくとも表示可能な色域内の色は正しくなる。それはもちろん、ノートPCベンダーが液晶パネルに対して「正しい色の履歴書」を添付したならば、とういう条件の下で有効になる話であり、実際にモノが出てくるまで有効性については判断できない。しかし、長い目で見れば、大きな一歩であると評価できるだろう。 □関連記事【5月13日】【海外】DirectX 9 GPUのキラーアプリはLonghornか http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0513/kaigai01.htm
(2003年5月14日) [Text by 本田雅一]
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