サーバーからクライアントまで
すべてをノートPCでまかなってみる



全盛期よりはかなり整理されているが、そこそこ騒々しかった時代のマシン群。右のラックには1Uサーバーが2台、自作サーバーが1台、レイヤ2スイッチ、中央には2台の自作サーバー、左にはDLTの7連装オートローダがある。それ以前にはSun MicrosystemsのSPARCstation(SS10、SS20、Ultra-1)やディスクアレイなども配備されていた

 筆者は、もともと筋金入りの「ウルサモノ」好きだった。当時、部屋の中ではSun MicrosystemsのSPARCstation、数台の常時稼働サーバー、Nortel Networksのインテリスイッチ、外付けのディスクアレイ、Quantum DLTのオートローダなどがうなりを上げていた。電気代も一部屋だけで2万円に達し、夏場はエアコンがまったく効かなくなるほどに暑くなる。

 当時の筆者は、こうしたキワモノ環境に絶大な満足を感じていたものだが、年齢を重ねるにつれ、やはり静かで地球に優しい「人間らしい部屋」を求めるようになった。そこで、21世紀初頭に打ち立てたのが「自分のコンピューティング環境をすべてノートPCでまかなってみよう」というプロジェクトだ。

●専用線を解約し、サーバー類をすべてアウトソース化する

 昨年には、その先駆けとして長らくお世話になってきた専用線を解約し、インターネットサービスをすべてアウトソース化した。サーバー操作に対する全権限を持つことが前提だが、こうした内容のアウトソーシングサービスは超零細企業を営む筆者にとって金銭的な負担が大きすぎる。そこで、懇意の取引先にお願いし、同社のサーバー室にちゃっかり置かせてもらうことにした。これで、常時稼働のサーバーを数台ほど削減できた。

 次に、スイッチを家庭用のものに切り替えた。かつては「シリアルポート/telnetでログインできないものはネットワーク機器ではない」とか「スイッチだったら少なくともSNMP、VLAN、スパニングツリー、簡単なQoSくらい対応していて当たり前」くらいの心持ちだったが、すでに専用線環境から離れていることから、ネットワーク機器にこだわりを持ち続けるモチベーションがなくなってしまった。

 このため、1万円に満たない8ポートの家庭向けスイッチにあっさりと切り替えた。もうSNMPで取得したポート単位のトラフィックをグラフ化して遊んだりはできないが、これは致し方ないところか。

●メインクライアントをノートPCに移行する

 さらに、メインクライアントをデスクトップPCからノートPCに移行した。筆者の信念は「仕事環境では妥協を最小限に」であるから、これに応じたスペックのノートPCでなければならない。折しもモバイルPentium 4-M、UXGAのFlexView液晶ディスプレイ、CD-RW/DVDコンボ、無線関連全部入りという当時“最強”のThinkPad A31p(以下、A31p)が発売され、筆者の厳しい要求にもスムーズに応えてくれた。A31pの導入にまつわる顛末は、本誌でも以前取り上げているので、詳細はこちらの記事「ThinkPadの現在と未来(上) Pentium 4-M搭載機ThinkPad A31pの設計思想」 を参考にしていただきたい。

 ここまでの対応でかなり部屋もスッキリしたが、ファイルサービス、プリントサービス、FAX受信など、筆者自身のための宅内サービスを提供しているサーバーマシンだけは相変わらず居残っている。不幸にもこのマシンは騒音がとりわけ大きな1Uサーバーであり、他の騒音源がなくなった反面、逆にこのサーバーの動作音が目立つようになった。そこで、1UサーバーもノートPCに切り替えるアプローチを検討してみることにした(詳細は後述)。

 話は変わるが、メインクライアントのA31pはすでに1年以上使っており、キーボードの文字がところどころ消え失せるほどにまで使い倒した。正直言えば「もう使い飽きた」という状況だ。また、最近では外出が増えており、出先でのPC環境にも頭を悩ましていた。A31pの3.5kgという重量は自身の「筋肉トレーニング」で何とでもカバーできるが、2時間未満というバッテリ駆動時間はどうにもならない。これでは、外出先でモバイル生活を営むのはおろか、せいぜいUPS(無停電電源)の代わりにしかならないのだ。

 そんなときにタイミングよく登場してくれたのが、Pentium Mである。Pentium Mは、モバイルPentium 4-Mと遜色ない性能を実現しながら、バッテリ駆動時間は標準バッテリでも5時間くらいは持ってくれる。筆者はThinkPad党なので、必然的にThinkPad T40とThinkPad X31しか選択肢がないわけだが、Aシリーズとの併用、そして普段の持ち運びを考えるとTシリーズでは大きすぎる。従って、今回はオオモノ志向をやめてB5ファイルサイズのX31(カスタマイズモデルの2684-4CJ)を選択した。

筆者のメインクライアントPCとして活躍していた頃のThinkPad A31p ThinkPad X31

●ついでに宅内サーバーもノートPCでまかなってみる

A31pの背面。プリンタ用のケーブルが2本(パラレル、USB)とFAX用の電話線が接続されている。色々なことをやらせているわりには、ケーブル周りがスッキリしている

 ここで、大役を果たしたA31pは、自室の据え置き用としてサブクライアントに回した。こちらは、15型のFlexViewかつUXGAという高精細な画面を生かし、大きな画像を取り扱う作業や、PDFを含む各種テクニカルドキュメントの閲覧などに使用している。また、性能面においても十分に余力があることから、すでに述べたように1Uサーバーで提供していた宅内サービスをA31pに引き継がせた。

 引き継いだサービスは、ファイルサービス、プリントサービス、FAX受信の3つ。プリンタはパラレルポート接続(古い機種なので……)のカラーレーザープリンタとUSB接続のインクジェットプリンタの2台だが、これらはA31pの標準ポートに直結することで簡単に対応できた。FAX受信についても、内蔵モデムをそのまま使用した。邪魔な外付けモデムが排除されたことで、配線の面でもかなりスッキリした印象だ。

●IEEE 1394接続のRAIDユニットでデータ保護を強化

 問題はファイルサービスだが、A31pの内蔵HDDは総量で60GBしかなく、しかもデータを保護する機構がいっさい備わっていない。物書きやコンサルテーションを生業とする筆者にとって、これまでにかき集めてきた数々の技術資料や過去に作成した原稿、プレゼンマテリアル、プログラムのソースなどは絶対に失うことが許されない。従って、ノートPCでファイルサービスを提供するにしても、何らかの形でデータ保護の手段を講じなければならないのだ。

 そこで、今回導入した新兵器がIEEE 1394接続の外付けRAIDユニットだ。通常、RAID構成の可能な外付けユニットはSCSI接続がほとんどだが、いろいろと探し回ったところ、ヤノ電器のF-RAIDシリーズがIEEE 1394接続であることを突き止めた。F-RAIDシリーズには、120GB HDDを2台内蔵したRAID 1製品「FR1-120A」、120GBもしくは200GB HDDを3台内蔵したRAID 5製品「FR5-240A」「FR5-400A」の3製品があるが、不景気のこのご時世に多大な出費は避けておきたいので、最も安価なFR1-120Aを選択した。

 実際にFR1-120Aを使ってみた感想だが、読み書き性能はかなり満足のいくレベルにある。実測したところでは、1MBブロックのシーケンシャル読み出しが33.5MB/sec、書き込みが25MB/sec(いずれもA31pに直結したときの数値)で、A31pに内蔵された2.5インチHDD(IBM IC25T060ACTS05、20GBプラッタ)の読み出し20MB/sec、書き込み16.5MB/secよりもはるかに高速だった。もちろんデスクトップPCに内蔵される最新の3.5インチHDD(ATAインタフェース直結)には遠く及ばないが、LAN経由で使用することを考えれば、数十MB/secものデータ転送速度があったら十分におつりが来る。

 なおFR1-120Aの動作音は、冷却ファンの音がかなり大きく、静かなノートPCのそばに併設するとやっぱり気になる。とはいえ、強力な冷却ファンは、RAID製品として信頼性を第一に考えた結果として装備されたものだから「このくらいの動作音は前向きに理解する」ことが肝要だろう。今回は3mのIEEE 1394ケーブルを新たに購入し、RAIDユニットを部屋の奥深くに潜り込ませることで、動作音をなるべく目立たないようにしてみた。

●すべてのストレージ機器はIEEE 1394のリピータハブ経由で接続

IEEE 1394はUSBと同様に分岐接続をサポートしており、これを可能にするのがリピータハブだ(機器にポートが3個あればそれでもいい)。3台のストレージ機器とA31p本体は、このリピータハブに接続される

 FR1-120A(RAID 1なので実質120GB)だけでは筆者が普段アクセスするデータをすべて格納することは不可能だ。そこで、ミッションクリティカルではない、つまり失っても何とかあきらめがつくデータの保管庫として200GBの外付けHDD(IEEE 1394接続)をさらに追加した。すでに使用中の外付けDVD±RWドライブも含め、A31pには3台のストレージ機器が接続されることになる。

 なお、FR1-120A以外の機器はデージーチェーン接続用のポートを備えていない(つまりリーフノードにしかなれない)ため、3台の機器をそのまま数珠繋ぎすることはできない。そこで、IEEE 1394用の4ポート・リピータハブを利用することにした。一般にIEEE 1394a-2000までのバス調停方式は、デージーチェーン時のホップ数が増えるにつれてパフォーマンスが大きく落ちていく。特にS400モードではバス使用効率の低下が著しい。こうした観点からも、ホップ数を無駄に増やすことなく多数の機器を接続できるリピータハブの使用は、性能改善のちょっとした「おまじない」にはなってくれるかもしれない。

 こうして、ミッションクリティカルなものはFR1-120A、そうでないものは200GB HDD、特に重要なデータの保護を二重化するバックアップにはテープドライブ(使用頻度の低いデスクトップPCに内蔵されたQuantum DLT 7000)、長期保存(アーカイブ)するものはDVD-Rという形で使い分けられ、いわゆるストレージのヒエラルキーがうまく成立したことになる。なお、ストレージ業界で最近流行のストレージ仮想化(virtualization)は筆者の脳内で行なわれている(笑)。

●原稿を書くだけならば標準バッテリでも6時間駆動が可能

 次に、外出先での話だが、モバイラー1年生の筆者がモバイル道の極意なんてものを語る資格はない。とりあえず自身の使用形態を触れておくが、半日の外出時には標準バッテリのみ、1日フルの外出時には拡張バッテリを追加した状態で持ち運んでいる。X31は、A31pと違ってバッテリ駆動時間の公称値をしっかりクリアできているのが嬉しい。テキストエディタで黙々と原稿を書き続ける作業ならば、標準バッテリで6時間近く、拡張バッテリ付きでは11時間はゆうに持つ。A31pでは公称値の2時間さえもったためしがなかっことから、X31のはるかに長いバッテリ駆動時間には隔世の感があった。

 そして、最後に1つだけ取り上げておきたいのが、電車の中での作業環境。筆者は片田舎に住んでいるため、都内への移動だけで片道1時間~1時間30分はかかる。かつては座席に座って思いっきり寝ることが日課だったが、X31の導入によってこの時間を仕事に回せるようになった。「コンピュータで飯を食っている人なら“モバイル”でお仕事は当たり前だろう?」と突っ込まれそうだが、筆者はなぜかこれを長らく拒んできたのだ。

 こうして遅ればせながらモバイラー1年生となったわけだが、ここでひとつ問題なのが電車内での隣人の目だ。ノートPCが広く普及したとはいえ、電車の中でノートPCにかじりついている姿はやはり目立つ。そのためか、隣り合わせた乗客は何となく画面をのぞき込んでくる。別に悪いことをやっているわけではないので、オープンにしてもかまわないところだが、書きかけの原稿を見られたりするのはちょっと恥ずかしい。また、ときには秘密厳守の必要な技術資料など、気やすくオープンにできないデータを開いていることもある。自分だけが画面を見られるセキュアな環境を作ることも大事だと感じた次第だ。

●電車での作業には必須!? プライバシーフィルターの効果

 そこで、今回導入してみたのが「プライバシーフィルター」である。プライバシーフィルターは、微細なルーバー(louver、羽板のような形をした格子)を配置したディスプレイ用フィルターで、左右からの視線を遮る効果を持つ。また、その副次的な効果として、コントラストの向上、反射防止、映り込み防止などにも役立つ。

 大元の製品は住友スリーエムが販売しており、ThinkPad用のプライバシーフィルターは日本アイ・ビー・エムが「他社製品」という名の下に販売している。筆者が入手したのはPF-12Bと呼ばれるスタンダードな製品で、ハイグレード版のPF-12Mも用意されている。日本アイ・ビー・エムに両者の違いを質問したところ、「PF-12Mは、表面反射をさらに抑えてより見やすくするための表面処理が施されています。視野を遮るという機能面での違いはありません」とのこと。

 プライバシーフィルターの取り付けはとても簡単だ。ディスプレイのエッジ部分にマウンティングタブを取り付けたら、最後にフィルターを差し込んで固定するだけでよい。マウンティングタブの配置を説明書どおり(指定の4箇所)にすれば、フィルターの付け外しを自由に行える。筆者は、常時フィルターを装着したままで使用するつもりなので、なるべくしっかりと固定できるようにマウンティングタブの個数を6箇所に増やしている。

 なお、プライバシーフィルターの効果のほどだが、光を遮るフィルターの性質上、画面全体の明るさが1段落ちた感じになる。このため、以前と同じ明るさで使用するには画面の輝度調整を1段階上げる必要がある。輝度を上げるとバッテリ駆動時間の短縮が気になるところだが、輝度を1段階上げても消費電力は0.2Wくらい(バッテリ省電力メーターの「バッテリ情報」による目測値)しか増えないため、実はそれほど神経質にならなくてもよい。筆者は、素直に輝度を2段階くらい上げて使っている。

 次に、肝心の覗き見防止効果だが、真横にいる人からはそこそこ画面が見づらくなったと思う。ただし、ノートPCを太ももの上の膝に近い部分に置き、腕を多少ゆったりと伸ばした状態で打鍵する場合、隣人から見た角度は小さくなってしまう。このため、覗き見防止の効果はどうしても薄れやすい。住友スリーエムの資料によれば、視野角は左右48度(12.1型用)に制限されるとのことだが、実際に使ってみた感じでは30度くらいまで狭めないと完全には遮れないことが分かった。従って、現行の製品で覗き見防止効果を高めるには、ノートPCをできる限り体に近づけ、ちょっと窮屈だが腕をなるべく折り曲げた状態(つまり隣人との角度をできる限り大きくとれる状態)で打鍵したほうがいい。

プライバシーフィルターの有無による見え方の違い(角度は約60度)。左がフィルターなし、右があり。プライバシーフィルターを装着すると、見る角度が45度を過ぎたあたりから画面が黒くなってくる 電車の座席で隣からのぞいた場合の見え方を模倣してみたもの。画面の左側3分の1くらい(右から見た場合には右側)が完全に隠れていないことが分かる。視野をより多く遮るには、ノートPCをできる限り体に引きつけ、画面もキーボードと直角に近い角度に立てて使用するといい

●ノートPCで切り開く静粛でスマートなコンピューティング環境

コンピュータ屋とは思えないほど簡素な仕事机。机の上にある2台のThinkPadで筆者の仕事のほぼすべてを網羅できる。なお、今回写真を撮影するためにわざわざ机上を小綺麗にしたわけではなく、常にこんな環境で仕事をしている。物書きの仕事机としては、日本でも1位2位を争うくらい綺麗ではなかろうか(笑)

 これで、筆者のコンピューティング環境はすべてノートPCでまかなうことができた。部屋は本来の静粛さを取り戻し、大きなものもなくなって非常にスッキリとした。外出先での時間、とりわけ電車の移動時間も効果的に活用できるようになった。こんなに改善されるのならば「もっと早く実現していたら」と悔やまれるところだが、ノートPCですべてをまかなえるようになったのも、デスクトップPCにも引けを取らない高性能かつ高機能なノートPCがようやく登場したからにほかならない。

 静かでスマートな環境を目指している方や、ノートPCを余らせていて、その活用先を模索している方は、ぜひノートPCを使ってご自身のコンピューティング環境を構築してみたらいかがだろうか。


□ヤノ電器、FireWire RAID「F-RAID」シリーズ
http://www.yano-el.co.jp/products/f-raid/index.html
□日本IBM、プライバシーフィルター
http://www-6.ibm.com/jp/pc/vlp/ca30/32l9549/32l9549a.html
□住友スリーエム、液晶用 セキュリティ/プライバシーフィルター
http://www.mmm.co.jp/cf/lcd/lcd_pf.html
□関連記事
【5月7日】ThinkPadの現在と未来(上)
Pentium 4-M搭載機ThinkPad A31pの設計思想
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/2002/0507/ibm1.htm

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(2003年5月14日)

[Text by 伊勢雅英]


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