会期:2月18日~21日(現地時間) Intelが開発者向けに開催しているIntel Developer Forum(IDF)は2日目を迎え、クライアントマシンに関する基調講演が行なわれた。本日の基調講演ではモバイルを担当するアナンド・チャンドラシーカ副社長、XScaleを担当するガディ・シンガー副社長、デスクトップを担当するルイス・バーンズ副社長の3人が登場し、それぞれの製品について説明した。 本レポートでは、その中でもモバイルに関する話題を取り上げ、初めて正式に公開されたCentrinoモバイルテクノロジに関する話題を取り上げていきたい。 ●高いモビリティを実現するCentrinoモバイルテクノロジ
チャンドラシーカ氏は「2006年まで、ノートPCの市場は16%の成長率が期待できる。薄くて格好良いノートブックPCが今後続々と市場に登場し、2005年にはそのうちの90%が無線LAN内蔵になる」と述べ、今後ノートPCには多大な可能性があると強調した。そして、「高い可搬性(モビリティ)を実現するには、接続性、長時間バッテリー駆動、高性能、優れたフォームファクタの4つがそろっている必要がある」と続け、これらを実現したノートPCが登場することこそ、今後もノートPCが高い成長率を維持することができる根拠だとした。 その、4つを実現するためのビルディングブロックとして、チャンドラシーカ氏がアピールしたのが、Centrinoモバイルテクノロジだ。Centrinoモバイルテクノロジを構成する要素は次の3つだ。1つめが、これまでコードネームBaniasで知られてきたPentium Mプロセッサ。2つめがOdemないしはMontara-GMのコードネームで知られてきたIntel 855PMおよびIntel 855GMのチップセット。3つめが、Calexico(キャレクシコ)のコードネームで知られてきたIntel PRO/WIRELESS 2100ファミリーの無線LANモジュールで、IEEE 802.11a(5GHz)/11b(2.4GHz)の両帯域に対応したモジュール、ないしはIEEE 802.11bのみに対応したモジュールとなっている。
●様々な省電力機能を採用しているPentium Mプロセッサ
CPUのPentium Mは、1MBのL2キャッシュを内蔵しており、いくつかの新しい省電力技術を採用している。 CPUの内部で命令を圧縮して転送することで、少ない電力での命令実行を可能にする“Micro-Ops Fusion”、分岐予測の精度を高めることで性能を向上させる“Advanced Branch Prediction”、命令実行の効率を高めることで命令実行に必要な電力を下げる“Dedicated Stack Manager”などの省電力を実現する様々な工夫が施されている。 Pentium Mには、熱設計仕様の違いにより、3つの製品ラインナップが用意されている。それが、通常版、低電圧版、超低電圧版の3製品だ。ラインナップは以下のようになっている。
なお、駆動電圧や消費電力などのデータは筆者が独自に取材した内容であり、Intelの公式見解ではないことをお断りしておく。 Pentium MではエンハンストSpeedStepテクノロジがさらに拡張される。開発コードネーム「Geyserville III」と呼ばれる新しいSpeedStepでは、新たに複数段階での電圧・クロックのスケーリングがサポートされる。 CPUは負荷率に応じて、複数段階でクロック・電圧を動的に変更していく。OEMメーカー筋の情報によれば、この段階の数はCPUによって異なっているが、通常版のPentium Mでは次のようになっている。
と、基本的には200MHz単位で、スケーリングしていくことになる。見てわかるように、上のクロックになればなるほど、スケーリングの途中のクロックで低電圧になるように設定されており、バッテリー駆動時に不利にならないような設計が施されている。 なお、当初、Pentium Mでも、Geyserville I、つまり最初のSpeedStepテクノロジ(動的にクロック・電圧を変更せず、ACアダプタの有無で2つのクロック・電圧を切り替える)がサポートされることも検討されていた。これは、Pentium Mの電源周りの仕様であるIMVP-IVでも説明されていたが、結局この機能は削除され、Pentium Mが搭載されているノートPCでは、すべてGeyserville IIIの機能が利用されることになる。 また、Pentium Mのシステムバスは、Pentium 4に利用されているいわゆるP4バスとほぼ同じ技術を利用している。ソースシンクロナスのクアッドパンプ400MHzバスとなっているが、P4バスとの大きな相違点では動作電圧がP4バスに比べて低くなっており、モバイルPentium 4が1.3Vであるのに大してPentium Mでは1.05Vとなっている。この点でも消費電力に配慮した設計となっている。 ●優れたチップセットとデュアルバンド無線LANの存在
Centrinoモバイルテクノロジは、Pentium Mの他に、チップセットのIntel 855PM/GM、無線LANモジュールのIntel PRO/WIRELESS 2100ファミリーから構成されている。
チップセットはコードネームOdem(オーデム)、Montara-GM(モンタラジーエム)から構成されている。OdemことIntel 855PMは、単体型のチップセットで、400MHz/1.05Vのシステムバス、DDR266をサポートするメモリバス、AGP 4X、サウスブリッジとしてICH4のモバイル版であるICH4ーMという仕様となっている。サウスがICH4-Mとなったことで、USB 2.0を6ポート利用できるようになり、ノートPCでも本格的にUSB 2.0時代を迎えることになる。 コードネームMontara-GMことIntel 855GMは、Intel 855PM(Odem)に内蔵グラフィックスを追加した統合型チップセットだ。内蔵されているコアはIntel Extreme Graphics2と呼ばれるもので、基本的にはIntel 845Gなどで利用されているPortoraコアの発展版だ。 なお、すでにPentium 4用のチップセットとしてIntel 852GM(コードネームMontara-GML)というチップセットがリリースされているが、Intel 855GMとの違いは主にグラフィックス周りだ。Intel 852GMでは、外部AGPがサポートされない他、内蔵されているグラフィックスコアのクロックが133MHzで、3Dのレンダリングエンジンは1P1T(1パイプライン、1テクスチャユニット)という構成になっている。これに対して、Intel 855GMでは、グラフィックスコアが200MHzと高めに設定されており、レンダリングエンジンも2P1T(2パイプライン、1テクスチャユニット)の構成になっている。これにより、Pentium 4+Intel 852GM(Montara-GML)よりも、Pentium M+Intel 855GM(Montara-GM)の方が高い3D描画性能を実現しているという。 気になる消費電力は、Intel 855PM、Intel 855GMともにかなり低い。たとえば、同じグラフィックス内蔵チップセットであるIntel 830Gは、熱設計消費電力(TDP)が7W近くだったのに対して、Intel 855GMの方は3.2Wとなっており、平均消費電力に至っては1.7Wと、グラフィックス内蔵チップセットとしてはかなり低消費電力になっている。
コードネームCalexico(キャレクシコ)で呼ばれてきた無線LANモジュールは、Intel PRO/Wireless 2100ファミリーとしてリリースされる。IEEE 802.11a(5GHz、54Mbps)、IEEE 802.11b(2.4GHz、11Mbps)の2つの帯域幅をサポートするのがIntel PRO/Wireless 2100Aで、11bのみの製品がIntel PRO/Wireless 2100となる。 OEMベンダは、これらをCentrinoとして、つまりPentium M+Intel 855+Intel PRO/Wireless 2100をまとめて購入すると、非常に安価にIntel PRO/Wireless 2100を購入することができる。具体的には、11a/bのデュアルバンド版が+35ドル、シングルバンド版が+20ドルとなる。単体で購入した場合には、それぞれ50ドル台、30ドル台となるため、20ドル前後を節約でき、OEMメーカーにとってはメリットとなる。 ただし、デュアルバンド版は、開発作業の遅れから今年の第2四半期に出荷延期となってしまった。このため、3月12日の発表時にはシングルバンド(11b)版のみが選択可能となっている。 ●Pentium 4/2.40GHzに相当する高い処理能力を実現
基調講演に登場した、Intelモバイルプラットフォーム ディレクターのドン・マクドナルド氏は、初めて公式にPentium Mの性能を公開した。 前回のIntel Developer Forumの記事で、筆者はOEMメーカー筋の情報もとにしたBaniasの予想パフォーマンスについてふれた( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0911/idf03.htm )。あの時の情報は、基本的にIntelがOEMメーカーに対して説明しているデータを元に予測したもので、Pentium M(当時はBanias)1.60GHzはモバイルPentium 4-M 2.40GHzを1割程度上回るとした。今回マクドナルド氏が公開したデータも、ほぼそれに沿うもので、モバイルPentium 4-M 2.40GHzを約10%上回っている。 詳しいデータは公開されていないが、基調講演の後に行なわれたセッションでは、「スタンダードなモバイル向けのベンチマークを利用している」(Intel モバイルプラットフォームグループ イスラエルデザインセンター ジェネラルマネージャ モリー・イーデン氏)と説明されたことや、同時にバッテリー駆動時間の結果も表示されていることなどから、BAPCoのMobileMark2002であると考えていいだろう。 バッテリー駆動時間に関しては、5時間というデータが示された。これはほぼ同じ構成のモバイルPentium 4-M 2.40GHzの倍であり、モバイルPentium III 1.20GHz-Mの34%アップとなるものだ。実際、モバイルPentium 4-M 2.40GHz(青)、Pentium M 1.60GHz(ピンク)、モバイルPentium III-M 1.20GHz(緑)の消費電力の経過を示すデモが行われたが、Pentium Mはスタンバイ時に、モバイルPentium III-M 1.20GHzを下回る消費電力に留まり、さらにアクティブ時にはほぼモバイルPentium III-M 1.20GHzと同等程度の消費電力に留まっていた。さらに、すでに述べたようにチップセットの面でも省電力が進められており、プラットフォームではかなり低くなっており、製品レベルでもバッテリー駆動時間の改善が期待できるだろう。 ●2004年に向けて11gへの対応や、90nmプロセス版のDothanが投入される
なお、今回のプレゼンテーションでは、昨年までIntelが盛んに説明していた“デュアルバンド”という要素が落ちていた。すでに述べたように、デュアルバンド版のIntel PRO/WIRELESS 2100Aが、第2四半期に延期されてしまったからだ。 ところで、気になるIEEE 802.11gへの対応だが、記者会見でチャンドラシーカ副社長に質問をぶつけてみたところ「Intelとしては安定性や確実性などを重視している。現時点では11gは規格が完全には決まっておらず、アクセスポイントとの互換性の確認などの作業はこれから行なわれることになる。そうした現状では、サポートするのは難しいと判断した」と説明した。こうしたことが理由で、11gへの対応は行わないというのがIntelの方針であるというのだ。 それでは、11gへの対応計画はないのかと質問をぶつけたところ、「もちろん我々も11gに対して興味を持っている、おそらく2003年中には対応することになるだろう」(チャンドラシーカ氏)と2003年中の対応を明言した。 これは、注目に値する発言だ。Intelは、11gをサポートした次世代Calexico(Calexico2)のリリースを2004年の第1四半期とOEMメーカーに説明していたのだが、もしかすると、これが早まったのかもしれない。 なお、チャンドラシーカ氏は、Pentium Mの今後についても説明した。「2003年の後半にはDothan(ドタン、開発コードネーム)と呼ばれる90nmプロセスの製品を投入する。DothanはCentrinoブランドとして出荷されることになるので、OEMメーカーはCPUをDothanに交換するだけで非常に短い期間でより高性能の対応製品を出荷できる」と述べ、DothanでPentium Mラインの強化を図っていく方針であることを明らかにした。 チャンドラシーカ氏はDothanの詳しい情報に関しては明言を避けたが、開発責任者であるイーデン氏によれば、Dothanではいくつかの機能拡張が行なわれ、処理能力はBaniasを上回るものになるという。OEMメーカー筋の情報によれば、4月にPentium M 1.70GHzが追加された後、第4四半期にDothan 1.80GHzが投入される予定となっているという。Dothanの駆動電圧は1.31Vに下げられ、熱設計消費電力(TDP)は21Wに引き下げられるという。 プラットフォームも引き続き拡張される。IntelはDothanの投入と同時に、Intel 855GMの後継としてMontara-GM+を投入する。 Montara-GM+は、新たにDDR333をサポートし、内蔵グラフィックスコアのクロックも250MHzに引き上げられる。さらに、内蔵グラフィックスコアのクロックを動的にスイッチングしていくSpeedStepライクな機能が導入され、3D描画時以外などコア周波数が低くてもかまわない場合には、クロックを下げることで消費電力を低減する。 ただし、駆動電圧は1.35VとIntel 855GMの1.2Vから引き上げられる予定になっており、消費電力は4W台とやや上がってしまうのは弱点といえるが、性能は大幅に引き上げられることになるだろう。 なお情報筋によれば、2004年後半にはPentium M用の新世代チップセットが計画されているという。このチップセットではPCI Expressがサポートされ、グラフィックスチップはPCI Expressの16Xで接続される。また、メインメモリはDDR2となる予定だと言われているが、現時点では確定的な情報はなく、コードネームなども明らかにはなっていない。だが、2004年にプラットフォーム面での大きな変化がやってくるのはほぼ間違いないだろう。 ●噂のThinkPad X31も壇上に展示される
今回は壇上において、いくつかのCentrinoモバイルテクノロジ対応ノートPCが展示された。多くはシン&ライトであり、日本市場で大きな注目を集めそうなサブノートの展示はあまりなかった。 しかし、その中でも大きな注目を集めたのが、東芝のDynaBook SSの後継製品と思われる製品と、IBMのThinkPad X30の後継と見られる製品だ。 特に後者はX31のロゴが張られており、昨年のIDF FallでIntelが公開( http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0912/idf04.htm )したX31の、実際の製品に近いバージョンだと思われる。液晶のパネル部分には、Bluetoothと無線LANのロゴが配置しており、両方に対応していることは確実だと思われる。Centrinoシールが貼られていたので、無線LANはおそらくシングルバンド版であると考えられるだろう。後面にパラレル、USB、外部VGA、イーサネット、モデムと用意されている点も、従来のX30と大きく変わっていないように見えた。 現時点では、PCベンダからどのようなCentrinoノートが登場するかは、まだ明らかにはなっていない。しかし、今回少なくともIBMのX3xシリーズ、東芝のDynaBook SSにはCentrinoを採用した製品が登場する可能性が高いことがわかったといえ、今後他社からも含めてより魅力的なモバイルPCが登場することに期待したいところだ。
□IDFのWebサイト(英文) (2003年2月20日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
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