筆者宅のインターネット環境は2種類の回線で構成されている。1つはFTTH、もう1つはADSLで、ADSLは試験サービスから使い始め、1.5Mbpsタイプ、8Mbpsタイプと乗り換えてきた。 これまでも高速なサービスが供給されると、それに合わせて契約を変えてきたが、今回も、昨年11月にADSLの12Mbpsサービス「フレッツ・ADSL モア」に移行した。NTT東日本の「フレッツ・ADSL モア(以下モア)」サービス開始から2週間ほど遅れての開通だ。 ■「フレッツ・ADSL モア」の申し込み
従来使用していた8Mbpsタイプからモアへの切り替えは、NTT東日本のサイトから申し込みをした。申し込みページには、ADSLモデムをどのように調達するのかという項目がある。具体的にはレンタルにするのか、NTT東日本から購入するのか、自分で用意するのかということだが、筆者は「自分で用意する」を選んだ。 ほとんどのユーザーにとって、サービスの変化やサポートの面からレンタルを選択するのがベストだということは理解しているが、筆者はこれまでもADSLモデムは自分で用意していたためだ。 自分で用意しなければいけない理由は特にないのだが、単に買い物をしたいという物欲の面も大きい。自分のものにしてしまえば、基板を覗いてみたくなっても、気兼ねなく分解できるという理由もある。 筆者が契約しているNTT-MEのプロバイダ「WAKWAK」でも、8Mbpsタイプから12Mbpsタイプに変更した場合も利用料金は変わりないという発表があった。そのため、8Mbpsタイプから12Mbpsタイプに変更した場合、プロバイダ利用料は変わらないが、工事費、ADSLモデムなどの機器を調達するための一時費用のほか、フレッツ・ADSL モアに変更したことにより、月々の料金は若干増えることになる。執筆時点では8Mbpsタイプの月額利用料は2,650円、モアは2,700円となっており、その差額で、実際にはどれだけのスループット増につながるか、興味深いところだった。 ■ADSLモデム搭載ルータ「Web Caster 610M」を購入
今回も12Mbpsタイプのサービスに合ったADSLモデムを自分で用意するつもりで物色していたところ、11月に入ってパソコン量販店の店頭でNTTの「Web Caster 610M」が並んでいるのを見つけた。 「Web Caster 610M」は、フレッツ・ADSL モアに対応したADSLモデムを内蔵するブロードバンドルータである。ADSLモデム単体か、モデム内蔵ルータにするか迷ったが、これまでADSLモデム単体+ブロードバンドルータという構成で使ってきたため、今回はいままで試したことがない、ルータタイプを選択することにした。 機能的には「Web Caster 610M」もUPnPに対応しており十分といえ、何より製造元がNECということで動作に関する不安もなかった。 そこでさっそく「Web Caster 610M」を購入した。購入価格は14,800円(税抜)。購入時点ではまだ12Mbpsサービスが開始されていなかったものの、「Web Caster 610M」は8Mbpsサービスにも対応しているので、既存の「ADSLモデム-MN」+「ブロードバンドルータ」から「Web Caster 610M」に置き換えることにした。 交換したところ、さっそく変化がみられ、機器に電源を入れた直後のリンクアップ速度は若干速くなった。ただ、インターネット上での実効速度を測定したところ、多少の速度アップが見られたものの、それほど大きな変化はみられなかった。 具体的な数値としては、ADSLモデム-MNのときには約4.5Mbpsだったものが、Web Caster 610Mに換えると約4.7Mbpsということだった。ADSLモデムが変わることにより、リンク速度が多少なりとも向上するというのは予想はしていたが、同じ8Mbpsタイプのサービスだったためか、それ程変わらない結果となった。 当時の筆者宅のADSL回線は、ADSLモデム-MNの電源を入れた直後は7Mbpsを超えるリンク速度でありながら、暫くすると5Mbps弱程度に落ちてしまう現象がみられた。これは今回「Web Caster 610M」に変更しても同様で、インターネットへのスループットが4Mbps台というのは、このためだと思われる。リンク速度が落ちている原因はつかめていないが、それでもそこそこの通信速度であり、品質も安定していたために、それほど気にしてはいなかった。 筆者がADSL回線で契約しているプロバイダは、NTT-MEのWAKWAKだ。固定IPアドレスを割り当てられるタイプのもので、ブロードバンドルータでLAN内の機器にポートフォワディングしている。今回購入した「Web Caster 610M」でも同じ環境が作れるかどうか確認し、そのまま使うことにした。 ■ようやくフレッツ・ADSL モアが開通
「Web Caster 610M」を購入して約10日後、いよいよ「フレッツ・ADSL モア」が筆者宅に導入された。NTT側の局内工事だけのため、工事日当日は留守にしていたが、帰宅後にさっそくモアでどの程度ADSL環境が変化したか調べてみた。 まずは「Web Caster 610M」の電源をいったん切り、リンクアップ速度を確認してみた。その結果、電源を入れた直後は上り992Kbps、下り7,264Kbpsとなり、しばらくすると、下り側だけ7,200Kbpsに落ちて安定した。 リンク速度が安定した状態で、モア開通の前後を比較すると、開通する前のリンク速度は上り928Kbps、下り7,104Kbpsで、開通直後リンク速度は上り992Kbps、下り7,200Kbpsとなった。 待ちに待ったモア導入の結果は、それほど変化がないものだったのかと残念に感じたが、引き続きスループットなどを計測してみた。すると、インターネット利用時の実効速度に関しては、若干向上していることが確認できた。 「Web Caster 610M」を使って、8Mbpsサービスと12Mbpsサービスの通信速度比較した場合、約4.7Mbpsから約5.8Mbpsへの速度アップが確認できた。なんと、20%以上の速度向上である。 それだけでなく、これまではADSLモデムの電源を入れた直後としばらく使った後では、リンク速度の落ち込みの差が大きかったが、今回はほとんどなくなった。 また、ADSLの利用中にアナログ電話機で発着信を行なっても特に問題は起きず、今回の12Mbpsサービスへの移行はとても満足いくものであった。 ■「Web Caster 610M」の新ファームウェア公開
2003年も明け、筆者宅のADSL環境は相変わらず調子の良い状態が続いていた。1月6日になり、フレッツ・ADSL モア対応のADSLモデム-MN IIの新ファームが公開されたが、内容は「雑音に対する耐力を向上し、リンク確立能力についても向上いたしました」とだけ書かれていた。 昨年より、モア対応のADSLモデムは、ファームの改良によって、より高速になり安定する可能性があるとの情報を得ていたため、MN IIとほぼ同じモデム回路が内蔵されている「Web Caster 610M」の新ファームウェアについても気になっていた。 それから2週間後に、待ちに待った新ファーム(ver.1.01)が公開され、さっそく自宅の「Web Caster 610M」をバージョンアップしてみた。筆者宅の環境では、ファームウェアのバージョンアップにより、ADSL環境がさらに快適なものとなった。具体的には、上りのリンク速度が992kbpsから1,024kbpsに、下りのリンク速度が7,264kbpsから7,424kbpsに向上したのだ。
インターネット利用時の実効速度も、上りが約760kbpsから820kbpsに、下りが約5.8Mbpsから約6.2Mbpsに向上した。ファームウェアのバージョンアップを行なって、1週間ほど過ぎたが通信の安定性にも問題なく、今回は下りのリンク速度が落ち込むことも、まったくなかった。
【フレッツ・ADSL モア開通直後の実効速度(Web Caster 610M ver.1.01)】
http://www.studio-radish.com/tea/netspeed/ もし「Web Caster 610M」をver.1.00で利用している方がいれば、是非ファームウェアのバージョンアップをお勧めする。ADSLは回線環境で大きく左右されるため、全てのユーザーが恩恵を受けることにはならないかもしれないが、ほとんどのユーザーにはプラスの効果が期待できるだろう。「Web Caster 610M」だけでなく、ADSLモデム-MN IIに関しても同様に通信状態の改善が見られるのではないだろうか。 ちなみに、NTT東日本の「電話回線の線路情報検索」のページで筆者宅のADSL回線を利用している電話回線状況を検索してみると、線路距離長が1,300m、伝送損失 26dBと表示された。昨年8月に検索したときには、1,290m/27dBと表示されたのだが、若干数値が異なっている。「Web Caster 610M」の設定ページでは伝送損失の情報は得られないが、telnetでログインして確認したところ31dBであった。 付属のマニュアルには記載されていないが、「Web Caster 610M」でADSL回線の状態を知るには、telnetで接続しユーザー名「user」、パスワードは設定画面で指定したパスワードを入力後、プロンプト状態で「show status adsl」と入力すると表示される(ver.1.01利用時)。様々な数値が表示されるが、ATTENUATIONの項目が伝送損失を表している。「show status adsl」以外にもいくつかのコマンドが用意されているようだが、動作に支障をきたす可能性があるため、あくまで自己責任で行なって欲しい。 ■フレッツ・ADSL モアの導入でさらに快適に
昨年、11月下旬に「フレッツ・ADSL 8Mbpsタイプ」から「フレッツ・ADSL モア」に乗り換え、対応機器の購入費と月々50円の負担増となったが、結果として、従来約4.5Mbpsだった下りの通信速度が約6.2Mbpsまで向上した。これは約28%の速度アップである。 8Mbpsタイプからモアへの切り替えは、手続上は8Mbpsタイプを解約し、モアの新規契約を行なった。これは単純にサービスを切り替えるより、一度解約することでキャンペーンの「モア割」を利用できることをNTT側から提案されたためだ。 今回の方法では、乗り換え費用として、新規にモアを契約した契約料が800円、工事料が3,050円の合計3,850円(税別)が発生した。 筆者の場合、切り替えにかかった一時費用は、さらに「Web Caster 610M」の購入費用がプラスされる。月々の料金に関しては、年末に料金の引き下げがあったために、切り替えの前後では単純に比較はできないので、2月時点での料金で比較すると、8Mbpsタイプとモアの差額は50円である。 8Mbpsタイプからモアへの一時費用は発生しているものの、月々50円の負担増で約28%の速度アップが実現したことになる。月々50円を高いとみるか安いとみるかは、人それぞれだと思うが、筆者としては格安の負担増で、これまでよりも、さらに快適な環境を手に入れることができたという印象を持っている。 振り返ってみると、昨年の今頃筆者は2,900円の料金でフレッツ・ADSL 1.5Mbpsタイプを利用していた。1年経った現在は、月々2,700円と料金は安くなり、下りのスループット速度が5倍以上になっている。 この1年でプロバイダ料金も値下げされていることも考えると、他の公共料金などと比べて格段にコストパフォーマンスが良くなっているといえる。いつものことながら、インターネットインフラ料金のデフレ化には感慨深いものを感じてしまうのは、筆者だけではないだろう。 (2003年2月13日)
[Text by 一ヶ谷兼乃]
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