元麻布春男の週刊PCホットライン

Audigy2に見るサウンドカードの未来



●サウンドカード今昔

今回用いた上位版のAudigy2 Platinumに含まれる主要コンポーネント。5インチベイにセットするAudigy2ドライブ(入出力コネクタパネル)と専用のワイヤレスリモコンが付属する
 あまり多くの人は意識していないかもしれないが、ここ数年で大きく変わったことの1つが、PCにおけるサウンドデバイスの扱いだ。PCに標準のサウンドデバイスが存在しなかった太古の昔(PC/ATおよび互換時代)は言うに及ばず、マザーボードのフォームファクタがATXになってからも、サウンド機能はずっとオプション扱いのままだった。それが、この1~2年でほとんどのマザーボードにサウンド機能が標準搭載されるようになり、今ではオンボードにサウンド機能を持たないマザーボードは、探さなければ見つからないようになりつつある。

 オンボードサウンドが普及した最大の理由は、South BridgeチップにAC'97コントローラ機能が統合されたことにより、安価にサウンド機能を実装可能になったことだ。もちろん当初は、AC'97によるサウンドというと、ステレオの音が出ればいいというレベルに近く、ビジネス向けにはともかくコンシューマ向けには? というものだった。が、3DサウンドAPIのサポート、5.1chサラウンド出力のサポート、ソフトウェアによる音声認識、CNRを用いたサウンド出力の拡張など、CPUパワーの継続的な向上とドライバの改良を背景に、着実に機能を上積みしてきた。結果、オンボードサウンドは、多くの人にとって、十分満足のいくものになったのである。

 オンボードサウンドの興隆の一方で、縮小しているのがスタンドアロンのサウンドコントローラチップだ。かつては様々なベンダがPCIバスに接続するサウンドコントローラチップを競って開発していたが、多くは新規開発を中止、既存の製品の販売を続けるだけになってしまった。それを採用したサウンドカードも、いわゆるバルク品が幅を利かせるようになってしまった。

 そんな流れの中、今も独自にサウンドコントローラチップの開発と、それを用いたサウンドカードの製品化を続けているのがシンガポールのCreative Labsだ(日本法人はクリエイティブメディア)。SoundBlasterの商標で知られる同社は、それまでビープ音とFM音源/MIDIしか存在しなかったPCのサウンドに、PCM音源を持ち込んだ、いわばパイオニアでもある。最近ではNOMADのようなコンシューマ向けオーディオ機器にも力を入れている同社だが、サウンドカードの新製品をリリースすることも忘れていない。それがSoundBlaster Audigy2だ。


●Audigy2の特徴と制限

Audigy2カード。かなり部品点数が多く、Low Profile化は難しそうだ
 Audigy2の最大の特徴は、24bit/192KHzステレオ、あるいは24bit/96KHzで5.1chのマルチチャンネルフォーマットのDVD-Audioタイトルを再生可能なことだろう(Windows 2000およびWindows XPのみ)。前作のAudigyでも24bit/96KHzのサンプリングによる録音と再生をサポートしていたものの、24bit/192KHzの再生サポートがなかったため、DVD-Audioを完全にサポートすることができなかった(ただし、すべてのDVD-Audioタイトルが24bit/192KHzのフォーマットを採用しているわけではない)。Audigy2は24bit/192KHzステレオの再生をサポート、DVD-Auidoに対応することが可能となった。また、DVD-Audioに採用されているMLP(Meridian Lossless Packing:DVD-Audioに採用されている可逆圧縮技術)にも対応している。

 ただ、全く制限がないわけではない。1つは、Audigy2にバンドルされているDVD-Audio再生ソフト(Creative MediaSource DVD-Audioプレイヤー)は、DVD-Audioタイトルに含まれている映像情報を再生できないことだ。DVD-Audioタイトルにはトラックあたりに最大99枚の静止画情報を入れることが可能で、歌詞、アーティストのバイオグラフィーやディスコグラフィーなどの情報を記録することができるのだが、これらの再生には対応していない。

Inspire 6.1 6600
 それからもう1つの制限は、DVD-Audioの再生出力をデジタル出力することができないことだ(画面1)。おそらくこれは、技術的な制約ではなく、著作権保護がらみの制約ではないかと思われる。要するにデコード済みのオーディオデータを、デジタル出力することはできない決まりなのだろう。そのせいかどうか、このAudigy2カード用のスピーカとして、クリエイティブメディアが推奨しているのは、アナログ入力のみを備えたInspire 6.1 6600となっている(もちろんインターフェイスとしては、従来どおり、同社製スピーカ専用のデジタル出力機能や、S/PDIFによるデジタル入出力をサポートしている)。現時点で、SoundBlaster Audigy2のソフトウェアドルビーデジタルEXデコードによる6.1ch出力をサポートしている同社製スピーカはこのInspire 6.1 6600だけだ。

【画面1】DVD-Auidoタイトルの再生時に表示される警告

 しかし、このスピーカが同社のラインナップ中ハイエンドかというと、必ずしもそうではないように思われる。たとえば同社の5.1ch対応スピーカであるInspire 5.1 DIGITAL 5700は、DTSデコーダー内蔵の5.1chアンプを含んでおり、PC以外のオーディオ機器との接続が可能で、ワイヤレスリモコンと複数入力の切り替え機能を持っていた。が、Inspire 6.1 6600は再生可能なチャンネル数こそ上回るものの、外付けだったアンプユニットが省略されたため、入力がアナログ1系統に絞られ、DTSのデコードができなくなってしまった(リモコンもワイヤードに変更されている)。どちらかというと、Audigy2の純正オプション的な色彩の強いスピーカだ(実際、せっかくAudigy2を買うのであれば、その真価を発揮させるという意味でもInspire 6.1 6600のようなマルチチャンネルのスピーカをセットで購入すべきだろう)。

 いずれにしても、Audigy2が6.1chのオーディオに対応したこと、24bit/192KHzオーディオの再生と24bit/96KHzの録音をサポートしたことは、現時点でAC'97では実現できない機能を盛り込んであるという点で、存在意義を示したものと考えられる。冒頭でも触れたとおり、今やたいていのマザーボードにベーシックなサウンド機能は標準で備え付けられている。場合によっては5.1chサラウンドやS/PDIF出力までサポートされている。そこに追加するサウンドカードであるからには、それ以上のスペックが求められるのは当然だ。Audigy2は、この条件を満たした、数少ない製品の1つである。


●Audigy2は「買い」か?

 24bitのマルチチャンネルオーディオという点では、すでに前作のAudigyでも実現されていたわけだが、Audigyではどう使うのか、使い道がハッキリしなかった。24bit/96KHzの再生が可能と言われても、録音できるのは16bit/48KHzまで(24bit/48KHzの入力は可能だが、録音できず、ただ出力するだけ)。DVD-Audioの再生ができるわけでもない。仕様的に、あまりピンとこない製品だった。それに対してDVD-Auidoの再生をサポートしたAudigy2は、とりあえず再生すべきコンテンツのある高精度コンシューマ向けサウンドカードとなった。

 まもなく登場するであろうWindows Media 9では、24bit/96KHzや最大7.1chのマルチチャンネルオーディオのサポートが可能になる。まだ、こうした高度なフォーマットによるコンテンツがどれくらい流通するのかは不明(DVD-Auidoにしても普及しているとは言いがたい)だが、Audigy2があれば、とりあえず再生する環境が整うことになる(24bit/96KHzステレオの再生などはAudigyでも可能)。

 筆者はコンシューマ向けのサウンドカードは、録音より再生がメインだと考えているのだが、その気になれば制作も可能なわけだ。まだ、コンテンツの限られた現状では、高価(18,800円~29,800円)なAudigy2は決して万人向きとは言えないが、存亡のかかったサウンドカードというジャンル自体の未来を占うような製品には違いない。

□関連記事
【11月1日】クリエイティブ、Audigy 2の6.1ch出力に対応する「Inspire 6.1」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20021101/creat2.htm
【9月24日】クリエイティブ、THX認定を取得した「Sound Blaster Audigy 2」(AV)
http://www.watch.impress.co.jp/av/docs/20020924/creative.htm

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(2002年11月22日)

[Text by 元麻布春男]


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