●VTFではQBMがDDR IIに代わって浮上 また、DDR IIメモリの位置が後退した。来年前半からDDR IIをサポート&推進するとしていたVIA Technologiesのロードマップから、DDR IIが消えたのだ。VIAは、来年第1四半期に投入するPentium 4向けチップセット「P4X800」で、DDR IIサポートを謳っていたが、現在、DDR IIの名前はそこにない。 10月8~9日に台北で開催されたVIAの開発者向けカンファレンス「VIA Technology Forum(VTF)」で、同社はこれまでのDDR II積極路線を修正。DDR IIの立ち上がりは、しばらく先になるという見方を明らかにした。またVTFでは、DRAM業界関係者の間でも、DDR IIへの姿勢の後退が目立った。全体としては、DDR IIが再びセットバックした印象だ。
VTFではVIAのChe-Wei Lin(シー・ウェイ・リン)副社長(Vice President of Product Marketing)がチップセットロードマップについて説明。来年のデスクトップチップセットP4X800のメモリについて次のように語った。「DDR333以降はDDR IIだという声が聞こえてきたため、DDR IIには、最初は興味をもった。しかし、当面は歩留まり(イールド)などに問題があることがわかった。そのため、P4X800のメモリコントローラはDDR I/IIのデュアル対応にし、また、QBM(QUAD BAND MEMORY)テクノロジもサポートすることにした」 QBMはDDRメモリを使いモジュールにスイッチチップを搭載することで、モジュール当たりのメモリ帯域を2倍にする技術。つまり、チップセット側は機能的にはDDR IIもサポートするが、当面はDDR IIメモリの立ち上がりが期待できないため、来年はDDRベースのQBMをメモリサポートの目玉とするというニュアンスだ。実際には、VIAはもともとQBMサポートも以前から検討していたため、これは大きな設計方針の変更ではない。しかし、力点は明らかにDDR IIからQBMへと移った。 例えば、Lin氏のプレゼンテーションでは、P4X800のハイライトはQBM533メモリモジュールのサポートとなっており、DDR IIメモリの文字はない。また、VIAは今年のCOMDEXで、DDR IIで先行するエルピーダメモリのサンプルチップと組み合わせて、DDR IIの動態デモを行なう予定だったが、これも流れた。QBMについては、あとで詳しく説明するが、ようは、次世代技術へジャンプを急ぐよりも、既存のメモリ技術を継続する方向へ変わったことになる。 ●DRAM業界の動きも変化 Lin氏はこうした決定の背景にDRAM業界の状況があると示唆する。「メモリビジネスにとって、この2~3年は非常に厳しい状況が続いている。誰でもビジネス状況を改善しようともがいており、そのために、よい歩留まりを欲しがっている」(Lin氏)。つまり、DRAMベンダー側は、次期メモリへの移行にリソースを注ぐより、現状の製品で歩留まりを上げる方に傾いているというわけだ。 DRAM価格は厳しい状態が続いており、現在、256Mbit品ならDDRのスポット価格が6ドル台、SDRAMが2ドル台となっている。コントラクト価格(大口需要家)はこれよりましだが、大きくは違わないという。DRAM価格がどんどん上がるという、今年頭頃の見通しは、すっかり消え去っている。あるDRAM業界関係者は、この状況だと、立ち上がりがいつになるかわからないDDR IIを先行して進めるのはリスキーなので、各社ともトーンダウンして来ているのだという。 実際、VTFでは、一部のDRAM業界関係者のトーンも微妙に変化していた。例えば、DRAM業界とパイプの太いアナリストBert McComas氏(InQuest Research)は「DDR IIはまずグラフィックスで2004年に立ち上がる。サーバーにも導入はされるが、時期は2005~6年になるだろう。デスクトップは立ち上げは難しく、来るとしても2005年以降になる」と言う。 また、Micron Technologyや台湾Mosel-Vitelicは、DDR IIは低消費電力の特徴を活かせるモバイルが先行すると示唆する。VTFでの様子を見る限り、DDR IIのサンプルをすでに顧客に配っているエルピーダだけが浮いた雰囲気だ。 ●鍵を握るSamsungの動向 ただし、これはVTFにSamsung Electronicsが不在だったせいもある。Samsungは、1ヶ月前のIntel Developer Forum(IDF)も不在、今回のVTFも不在で、このところ動向が見えなくなっている。これが今回のVTFでのDDR IIの“ムード”に影響している。DDR IIについては、DRAMベンダー側の積極派(急ぐ派)がエルピーダ、“どちらかと言うと積極派”がSamsungだったからだ。声の大きなSamsungの不在は、DDR IIの存在感を弱めている。つまり、DRAMベンダーの姿勢の違いが、トーンの違いとして見えたわけだ。 Samsungの沈黙は、なにを意味するのかは、まだわかっていない。ただ、ある関係者によると、SamsungはDDR IIについて「手のひらを返したように態度を変え」、もはやDDR IIを積極的に進める派ではなくなったという。DDR IIで行けるなら行くが、現行技術でクロックアップした選別品(DDR333/400)で戦ってもOK。どちらでもいいというスタンスらしい。 というか、もともとSamsungはそういう戦略だという声も多い。これは、Samsungが「隠し玉(技術先行)から、使いまわし(クロックアップ)まで全般にこなせる別格の存在」(あるメモリ業界関係者)だからだ。 Samsungは開発リソースが厚く、技術開発力では、今やDRAM業界随一となっている。また、Samsungは製造キャパシティが大きく、プロセス移行も進んでいる(キャパのほとんどが0.15μm以降のプロセスで、0.13μm化も一番進んでいる)。そのため、製品ミックスに占める高クロック品の比率が高い。だから、DDR II開発にリソースを割きながら、DDR333/400でスケールエコノミで価格競争に持っていっても勝ち目があるというわけだ。「言ってみれば、メモリ業界のIntel」というメモリ業界関係者もいる。 ●DDR IIにとって大きなVIAの位置 これまでDRAMの流れを左右してきた最大の要素はIntelチップセットのメモリサポートだ。DDR IIが浮上したのもIntelがサポートを決めたからだ。これに関しては、今のところスケジュールが変わった様子はないという。Intelは、現在、デスクトップとサーバーでDDR IIをサポートする計画をDRAMベンダーとOEMベンダーに示している。デスクトップPCは、2004年のチップセットで、デュアルチャネルでのサポートの予定だ。DRAM業界関係者によると、IntelのDDR IIの検証のスケジュールには若干の遅れはあるものの、計画自体は変更されていないという。 ただし、このスケジュールはDDR IIで先行して、先行者利益を得たいと願うDRAMベンダーにとってはやや遅すぎる。横一線で立ち上がると、また価格競争になって利益が削がれてしまう。だから、できれば、来年後半にはDDR IIを立ち上げたい。そこで、DDR II推進派のDRAMベンダーは、Intelへの対抗意識の強いVIAに働きかけて、チップセットにDDR IIをサポートしてもらい、DDR IIをできるだけ早く立ち上げようとしていた。VIAのDDR II計画の背景にはこうした事情があった。また、DRAMベンダー側には、DDRの時のようにIntelの対応が加速されるという期待もあったと思う。 ちなみにSiS(Silicon Integrated Systems)もDDR IIサポートの「SiS656」のプランがあるが、こちらはどちらかというとVIAに対抗したもの。布石あるいは保険の意味合いが強い。ある業界関係者によると、“DDR IIが立ち上がるならやる”的なスタンスで、DRAMベンダーと一緒にサンプルチップ段階から検証を行なって、プラットフォームを立ち上げようという気はないようだという。 こうした事情にあるため、VIAがDDR IIから後退したことは、DDR IIの動向に少なからぬ影響を与える。少なくとも、これでデスクトップで短期間に立ち上がる芽は薄くなった。 ちなみに、DDR IIの策定段階で、顧客(コントローラチップ)側でドライブしていたのはIntelとIBMだった。IBMはサーバーにDDR IIを使う予定で、当初はDDR IIの予備(Preliminary)スペックのチップで立ち上げることになっていた。そのため、エルピーダはDDR II予備スペック準拠のDDR IIサンプルチップをIBMに提供していた。だが、業界関係者によると、IBMも方針を転換、Intel同様にJEDECの最終スペックに準拠したDDR IIをサポートすることにしたという。ここでも後退してしまったわけだ。 DRAMベンダーとしては、DDR IIを立ち上げようにも、ともかくチップセットがないと始まらない。Intelは、DRAMベンダーから今年第4四半期に受け取るサンプルで検証作業を始める予定が、それはあくまでもIntel内部での話。DRAMベンダーとしては、Intel以外にも、協力して検証・シミュレーションのできるチップセットベンダーが欲しい。だから、DDR IIに対する態度を後退させたVIAがどこまで協力するかが、DDR IIにとって重要な問題となる。 (2002年10月11日) [Reported by 後藤 弘茂]
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