会期:10月8日、9日(現地時間) 会場:台北国際会議中心(TICC)
PCコンポーネントベンダのVIA Technologies(VIA)は、開発者向けに同社の戦略や技術概要などを説明するVIA Technology Forum 2002を、8日(現地時間)より2日間の予定で、台北市内の台北国際会議中心において開催する。初日となる8日は、VIAおよびゲストスピーカーによる基調講演が行なわれたほか、展示会、技術トラックなどが行なわれた。本レポートでは、午前中に行なわれたVIAの社長兼CEO ウェン・シー・チャン氏による基調講演の模様をお伝えしていく。 ●「我々は競争を恐れていない」と台湾の陳総統
基調講演のトップに登場したのは、VIA会長であるシー・ワン氏。ワン氏は、VIAの経営者というよりはオーナーというポジションで、経営一般は社長兼CEOのウェン・シー・チャン氏に任せているため、VIAのイベントで表舞台に登場することはほとんどない(筆者の知る限り今回が初めてだ)。そうしたワン氏が登場したのには理由がある。というのも、その後に登場するスピーカーが、台湾(中華民国)の陳水扁総統(大統領に相当)だからだ。わざわざ一国の代表者である総統が来るのだからということで、敬意を表して今回特別に登場となったようだ。 陳総統は「VIA Technologiesは台湾のリーディングカンパニーとして、IT業界を引っ張ってきた」とVIAを讃え、「ハイテクによる収入は我々の生命線だ。今後も業界を成長させていく必要がある」と述べ、台湾のためにも今後も台湾のIT産業の発展が不可欠だと強調した。その上で「ハイテク企業は、グローバルなニーズを汲み取り、新しい価値を創造し続ける必要がある。今後も競争を恐れずに積極的なグローバルマーケットに進出していけると確信している」と述べ、今後も台湾経済は成長していくと訴えた。 日本人としては、一企業の(それも技術系の)イベントに、その国の代表者が来て話をしていくというのは正直ちょっとピンと来なかった。例えば、日本で言えば総理大臣が、ソニーやNECのイベントに来て、話をするようなものだからだ。だが、逆に言えば、それだけ台湾におけるIT企業、そしてVIAのポジションが我々日本人が考えているよりも高いということの現れでもあると言えるだろう。 ●「VIAはプラットフォームソリューション企業になる」とチャン社長 続いて壇上に立ったVIA社長兼CEOのウェン・シー・チャン氏は、「最近の経済状況は非常に低調だが……」と、最近のIT企業幹部のお約束のセリフでスピーチを始めた。 最初に、チャン氏は「すでに業界はコンピューティングの段階を終え、コンピューティングとコミュニケーションの融合を考える段階に入った」とのべ、今後は単にPCではなく、PCを含めた様々な種類のデジタルデバイスがいつでもどこでも相互に接続され利用する段階にあるという見解を述べた(チャン氏はこの段階を“Total Connectivity”と呼んでいるが、ちなみにこれはVIAのスローガンでもある)。このような現在の状況を作り出している要因として、(1)有線および無線によるブロードバンドの急速な普及、(2)デジタルコンテンツの爆発的な増加、(3)ユーザーの要求の変化をあげ、これらの状況を満たす新しいマーケットを作り上げていくことが、現在の状況から抜け出す道だと述べた。 そして、こうした新しい市場環境として、コンピューティングから、Gameing(PCゲーム)、Productivity(生産性の向上)、Lifestyle(新しいライフスタイル)の3つが考えられ、それぞれに特化した製品が今後求められるとした。中でも、新しいライフスタイル、つまりデジタル機器が家庭に普及することで生活をより豊かにするという、いわゆる「デジタルホーム」が今後もっとも期待できる市場であると述べた。
このようなデジタルホームに最適な機器を実現するために、「VIAは当初チップセットベンダとしてスタートしたが、今ではチップセット以外にCPUやグラフィックスも扱う総合シリコンベンダへと進化した。今後はそれらを統合してプラットフォームとして顧客に対して提案していくことで、プラットフォームソリューションカンパニーとなっていきたい」と述べ、VIAは今後プラットフォームを提案する企業になっていくと宣言した。 そのソリューションとしてVIAが提案しているのが、“Mini ITX”というFlex ATXよりも小さなフォームファクタを採用したEPIAマザーボード、さらにはそれを利用した“Hi Fi PC”と呼ばれる非常に小型のPCが公開された。Hi Fi PCは、VIAのCPUであるC3プロセッサに、Apollo CLE266チップセットを搭載したEPIA Mマザーボードを組み合わせた製品で、非常に小さいながらも、DVD再生、6ch出力、USB 2.0などの機能を持つという。これは家庭のリビングなどで利用することを前提とした製品で、小型で見た目もリビングにおいても違和感がないことが特徴となっている。今後はこうした家庭におけるプラットフォームを提案していくと言うことで、実際VTFの展示会場でもリビングやキッチンなどを模した展示が行なわれていた。 「大事なことはユーザーが何ができるかだ。競合相手の会社はギガヘルツと大騒ぎしているが、できることはC3/533MHz+CLE266とあまり変わらない」と得意の(?)Intel攻撃も忘れることはなかったチャン氏は、今後はこれまでのような性能追求型ではなく、機能追求型の方向へトレンドが変わっていくだろうと強調し、チャン氏の言う“Total Connectivity”を実際に実現していこうと来場者に呼びかけた。
●VIAが成功を収めるには、Microsoftのデジタルホームにおける覇権が大前提 チャン氏が目指しているのは、VIAをIntelのように自社で新しいプラットフォームを提案できるリーディングカンパニーにすることなのだろう。確かにVIAには、CPU、グラフィックス、チップセット、オーディオなど様々なシリコンのIP(Intellectual Property:知的財産)がある。それらをうまく組み合わせてソリューションとして提案し、これまでのPCではない、VIA主導の新しいプラットフォームを普及させることができれば、Intelが現在いるようなポジションにVIAも立てるようになるかもしれない。現に、VIAのマーケティングディレクタであるリチャード・ブラウン氏は「現在いくつかの日本の顧客がEPIAをベースにした製品に取り組んでいる。まもなく実際の製品として紹介できるだろう」と、同社の戦略がすでに浸透しているということを強調する。 だが、VIAは解決すべき大きな問題を抱えている。それが、VIAがソフトウェアのソリューションを全く持っていないということだ。デジタルホームや、PCではない新しいプラットフォームを実現するには、ソフトウェアが不可欠だ。今回もVIAのデモでは、特にPCでできること以上のデモは行なわれておらず、やや新鮮さがなかったことは事実だ。こうしたデジタルホームのような製品では、コンシューマに対してどのような使い方ができるかということを提案することは非常に重要なことだが、その点ではまだまだ改善の余地はかなりある。 これまでVIAが取り組んできたPCのビジネスモデルにおいては、ソフトウェアはソフトウェアベンダが分業して作るものであり、VIAのようなハードウェアベンダは特に取り組む必要はなかった。これについてはブラウン氏は全く心配していないようだ。ブラウン氏は「今後もMicrosoftの力は強大であると強く信じている」と述べ、Mircrosotとのパートナーシップを強化することで、PCのビジネスモデルである「ハードウェアとソフトウェアの分業」というモデルを、デジタルホーム製品にも持ち込んでいけると考えているようだ。確かにMicrosoftはデジタルホームへの取り組みを強化しており、x86互換のコアを持つVIAはその恩恵にあずかることができる。 となると、デジタルホーム製品でもMicrosoftが覇権を握るのが、VIA成功の鍵となる。ソニーや松下電器といった日本の大手家電メーカー対Microsoftという構図はデジタルホームを語るときによく出てくるものだが、これまでのところ、どこも強力な覇権を握っているという状況ではない。この先の見えない勝負という博打に対して、VIAはMicrosoftにベットした(賭けた)ことになる。果たして、それが吉と出るのか、凶と出るのか、答えが出るまではまだ数年かかりそうだ。
□VIA Technologiesのホームページ (2002年10月9日) [Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]
【PC Watchホームページ】
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