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NVIDIAがHammer向けチップセット「Crush K8」の計画を発表


●NVIDIAがCrush K8搭載マザーボードを公開

 NVIDIAは、7月15日(現地時間)にサンノゼで開催したnForce 2の発表会で、AMDの次世代CPU「Hammer(ハマー)」ファミリ向けのチップセット「Crush K8」の計画を正式に発表した。

 同社でnForce製品を統括するDrew Henry(ドリュー・ヘンリー)氏(Senior Director, Platform Business)は、Crush K8(ダミーと思われる)を載せたマザーボードを初めて公開。「AMDがK8(Hammer)を発表する30日前に出荷する」と、具体的なスケジュールも明らかにした。Henry氏は、出荷が第4四半期頃であることを認めている。

 Crush K8はグラフィックスコアを統合しない単体(ディスクリート)チップセット。しかし、ノースブリッジとサウスブリッジの両チップを統合したワンチップ製品となっている。nForceの単体ノースブリッジチップである「System Platform Processor(SPP)」と、サウスである「Media & Communications Processor (MCP)」を合わせた機能を持つことになるという。

 Hammerチップセットの場合、ノースとサウスの統合は合理的だ。というのは、CPUがメインメモリのインターフェイスを備えるためだ。メモリインターフェイスを持たない分、Hammer向けノースブリッジチップの構造は簡単になり、サウスブリッジも容易に統合できる。また、チップ間のデータ転送を省略できる分パフォーマンスも上がる。

 「K8向けチップセットで素晴らしい点は、メモリコントローラをもう設計しなくてすむことだ。その利点を活かした、パワフルな統合ソリューションにフォーカスする。当社が、非常に優れた統合コミュニケーションアーキテクチャを実現できると確信を持っている」とHenry氏は語る。

NVIDIAが公開した“Crush K8”チップ。動作サンプルはまだ公開されていない リファレンスマザーボード。ワンチップ構成でサウスブリッジがないことがわかる nForce製品を統括するNVIDIAのDrew Henry氏

●他のチップセットが統合化しない理由

 もっとも、NVIDIA以外のチップセットベンダーは、現在わかっている限り、こうした構成を取らない。それは、技術的な理由よりも、むしろビジネス的な理由からだ。例えば、VIA Technologiesのシー・ウェイ・リン(Che-Wei Lin)シニアディレクタ(Senior Director of Product Marketing)は、ワンチップ化を諦めた経緯を次のように説明する。「実際のところ、K8チップセットでは当社も最初はワンチップソリューションを計画した。しかし、開発リソースの問題で難しかった。K8だけでなく、Pentium 4もK7(Athlon XP/Duron)もサポートしなければならないことを考えると、サウスを分離して共通化した方が開発が容易になるからだ」

 NVIDIAが今回、ノースサウスの統合という思い切った手に出られた背景には、こうしたしがらみを持たないことがある。「彼ら(他のチップセットベンダー)はIntelもサポートしなければならない。しかし、AMDにフォーカスする当社はその必要がない。だから、統合ソリューションにすることができる」とHenry氏は指摘する。

 もちろん、ノースサウスの統合には、技術的にもいくつかのハードルはある。例えば、ノースとサウスを統合することによって密集する配線レイアウトの問題は解決する必要がある。それから、NVIDIAのMCPはデュアルDSPなど様々な要素を統合しているため、通常のサウスと比べると異常にトランジスタ数が多い。「新しいMCPは1,800万トランジスタになる」(Henry氏)ため、統合にはやはハードルがある。もっとも、NVIDIAはそのため、Crush K8の製造は0.15μmプロセスと、単体チップセットとしては最先端のプロセス技術を使う(他社は0.18~0.22μm)。

●Hammer向けグラフィックス統合チップセットも視野に

Hammer向けチップセットの様々な可能性
 もちろん、NVIDIAはHammer向けに単体チップセットだけを提供するわけではない。グラフィックス統合チップセットも、視野に入れている。ただし、時期はちょっとタイムラグがあるようだ。

 「我々は、モバイルを含めて全てのセグメントにソリューションを提供する。しかし、重要なのは、K8が市場に登場する時に、まず必要になるソリューションは単体チップセットであることだ。K8がボリュームゾーンに成長し低価格セグメントのPCに進出できる価格になったら、グラフィックス統合チップセットも理にかなうと考えている」とHenry氏は語る。

 Hammer向けグラフィックス統合チップセットでは、最大の問題はグラフィックスコアからのメモリアクセスレイテンシが増えてしまうことだ。そのため、VIA/S3 GraphicsやSiSは、チップセット側にもメモリインターフェイスを備え、ローカルフレームバッファ用DRAMを接続できるように設計する。しかし、そうした設計に対してはNVIDIAは批判的だ。「そうした(ローカルフレームバッファを持つ)設計が、Hammer向けの統合チップセットとして適しているとは思わない。アドインのGPUとあまり変わらなくなってしまうからだ。我々は何年もグラフィックスアーキテクチャを作ってきた。メモリのレイテンシの問題はよく理解しているし、解決技術も提供できると考えている。おそらく、NVIDIAはK8のアーキテクチャ上の利点を把握するのが一番うまいと思う。だから自分たちが取っているアプローチに、非常に自信を持っている」とHenry氏は言う。

 チップセットベンダーは、一般に、CPU側にメモリを持つHammerアーキテクチャに対して戸惑いや反発が強い。しかし、NVIDIAは逆にHammerアーキテクチャを積極的に評価する。「もちろん、我々もメモリコントローラの素晴らしい技術を持っているが、真実を言えば、メモリコントローラはCPUサイドにあった方がいい。我々は、ノースブリッジクラスのメモリコントローラをもう設計しなくていいことに価値を見いだしている」(Henry氏)

 こうした証言から想定されるNVIDIAのHammer向けグラフィックス統合チップセットは、おそらく、ノース、サウス、グラフィックスの3つの統合チップセットになる可能性が高い。つまり、NVIDIA用語に置き換えるなら、nForceの「Integrated Graphics Processor (IGP)」とMCPを統合したチップになるわけだ。

 NVIDIAのCrush K8は、6月のCOMPUTEX時はウワサはあるもののAMDの発表会にも出展されなかった。そのため、今年第4四半期と予想されるHammerのラウンチからある程度遅れると見られていた。だが、今回の発表で、Crush K8の開発が急ピッチで進んでいることが明らかになった。本当にHammerラウンチ時に間に合うとすれば、VIA Technologies、SiS(Silicon Integrated Systems)、ALiとともにHammerプラットフォームの座を争うことになる。`

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【7月16日】NVIDIA、GeForce4 MXコアを内蔵したnForce2を発表
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0716/nvidia.htm

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(2002年7月16日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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