ICH4を搭載したIntel 845Gチップセット |
South BridgeでUSB 2.0が標準サポートされるということは、事実上ユーザーは追加のコストなしでこれだけの性能を持ったシリアルバスが入手できることになる。 そのインパクトは決して小さくないものと思われる。
ただ気になるのは、USB 2.0の性能だ。これまで主にサードパーティにより提供されてきたPCIカードベースのUSB 2.0ホストアダプタは、性能という点ではあまり高い評価を得られていなかった。もちろんこれは、使われてきたNEC製のホストコントローラチップが第1世代に属するものであることを考えれば、ある程度やむをえないものではある(たとえばIntel純正のPCI対応チップセットでも、初期のものはPCIバスの実効データ転送速度が100Mbit/secにも満たないものだった)。果たしてICH4が内蔵するUSB 2.0ホストコントローラで性能に改善が見られるのか、気になるところだ。
というわけで、ここではICH4を搭載したマザーボード(Intel D845GBV)と、NEC製のホストコントローラチップ(mPD720100)を搭載したPCIカードの両方をそろえて性能を比べてみることにした。デバイスドライバは、いずれもMicrosoftが提供するWindows XP対応のものである。
USB 2.0の性能を比較する際に難しいのは、ターゲットとなるデバイスを何にするか、ということだ。一般のユーザーが利用する可能性が高いという点で現実味があり、なおかつ高速なデバイスとなるとハードディスクがすぐ思い浮かぶところだが、ネイティブでUSB 2.0に対応したハードディスクは存在しない。USBインターフェイスとハードディスクのATAインターフェイスの間には、必ずインターフェイスを変換するチップ(ブリッジチップ)が介在するため、注意しないと何の性能を測っているのか分からなくなってしまう。
そこで、ここでは2つのターゲットを用意した。1つは、IBMのDesktar 120GXPの80GBドライブ(IC35L080AVVA07)と、ラトックシステムが販売する汎用のUSB 2.0ストレージエンクロージャRS-U2EC5Xの組み合わせ、もう1つはUSB 2.0/1.1とSCSIの両方に対応した外付けハードディスクとして市販されているロジテックのLHD-H80SU2だ(容量80GB)。
Deskstar 120GXPは、現在アキバでもっともポピュラーな7,200rpm級ドライブの1つ。RS-U2EC5Xは、ATA/ATAPIドライブを1台内蔵可能な外付けケースで、ブリッジチップとしてIn-System Design(最近Cypress Semiconductorに買収された)製のISD-300を内蔵、インターフェイスをUSB 2.0に変換してくれる。この2つを組み合わせることで、Deskstar 120GXPがUSB 2.0対応の外付けハードディスクになる。
ラトックシステム RS-U2EC5X |
RS-U2EC5Xのブリッジチップ In-System Design ISD-300 |
ロジテックのLHD-H80SU2は、7,200rpm級のハードディスク内蔵をうたうUSB 2.0/1.1とSCSI両対応の外付けユニット。USBやIEEE 1394に対応した外付けドライブの多くは5,400rpm級のハードディスクを用いていることが多く、意外と7,200rpm級の製品は少ない。今回用いたLHD-H80SU2は、ハードディスクドライブとしてSamsung ElectronicsのSpinPoint P40(ATA)の80GBタイプを用いていた。ブリッジチップは、国内メーカーのワークビットが開発したUSAT-2(USB 2.0)とCATS-1(Ultra SCSI)の組み合わせである。
ロジテック LHD-H80SU2 |
LHD-H80SU2のブリッジチップ ワークビット USAT-2 |
CPU | Pentium 4 2.53GHz |
マザーボード | Intel D845GBV |
メモリ | 256MB DDR266 SDRAM |
グラフィックス | 内蔵 |
起動ディスク | Seagate Barracuda ATA IV |
その結果をまとめたのが表2だ。いずれのドライブもスピンドル回転数が7,200rpm、プラッタあたりの記録容量が40GBと変わらないだけに、内蔵ATAインターフェイスに接続した場合の性能はほとんど変わらない。
●Drive 1 (IBM Deskstar 120GXP 80GB: IC35L080AVVA07)
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●Drive2 (Logitec LHD-H80SU2)
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ところが、USB 2.0で外付けした場合の性能には大きなバラつきが見られた。Deskstar 120GXPをRS-U2EC5Xに収めた構成では、ICH4とNEC製のホストコントローラの間で、性能差が見られない。また、内蔵ATAインターフェイスに接続した場合に比べて、USB 2.0接続した場合、80%近い性能低下が見られる。これは、RS-U2EC5Xが内蔵するブリッジチップ(ISD-300)が性能上のボトルネックになっている可能性が高いことを示唆している。
一方、LHD-H80SU2は、全般に高い性能を示していることが分かる。しかも、ICH4に接続した場合、性能上のペナルティは16%と、極めて小さくなっており、内蔵するブリッジチップ(USAT-2)の性能が高いことが見て取れる。それでもUSB 2.0ホストコントローラをmPD720100にすると、かなりの性能低下(約47%)が見られることからして、新しいICH4が内蔵するUSB 2.0ホストコントローラの性能が改善されていることも間違いないだろう。
Intelは、850EチップセットであえてSouth BridgeをICH4に更新せず、ICH2をそのまま使うことを選んだ。ハイエンド向けの850Eチップセットであれば、外付けホストコントローラ(今回用いたのと同じmPD720100)のコストを吸収できる、ということだったのだが、今回の結果を見る限り、性能という点でICH4にする必然性があったことがうかがえる。やはり、IntelのRambusに対する取り組みは醒めてしまった、と考えるべきだろう。
さて、残るSCSI接続時の性能だが、もっとも振るわない結果となった。Ultra SCSIの帯域が20MB/secで、Ultra DMA/100やUSB 2.0に遠く及ばないこともあるが、SCSI用ブリッジチップのCATS-1がプロセッサとしてUSAT-2を利用する変則的な形であることも影響しているのかもしれない。それでもSCSIには、システムを起動可能というUSBにはないフィーチャーがある(その代わり、一般のホストアダプタとドライブの組合せでは、ホットプラグがサポートされない)。現在はSCSIで使うが将来的にはUSB 2.0への移行を考えているケースに加え、どうしても外付けドライブからシステムを起動したい場合はSCSIを利用することになるだろう。
というわけでまとめだが、やはり新しく登場してきただけに、ICH4が内蔵するUSB 2.0ホストコントローラの性能は改善されたものだった。だが、現時点で本当に480Mbpsの性能が出ているのかというと、それを確認するすべはない。
また、ホストコントローラ以上にバラつきがありそうなのは、デバイス側のブリッジチップだ。製品によっては、ICH4とNEC製のホストコントローラチップの差さえ見えなくなる。USB 2.0対応製品は、ホストコントローラ、ブリッジチップともに、まだ世代が若いため、どうしてもこうした性能のバラつきが避けられない。購入に際しては、製品レビューなど情報収集が欠かせないだろう。
□IBM Deskstar 120GXPの製品情報
http://www.storage.ibm.com/hdd/desk/ds120gxp.htm
□ラトックシステム RS-U2EC5Xの製品情報
http://www.ratocsystems.com/products/subpage/u2ec5x.html
□ロジテック LHD-H80SU2の製品情報
http://www.logitec.co.jp/products/hd/lhdh80su2.html
□関連記事
【2001年7月12日】USB 2.0のパフォーマンスを検証する
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010712/usb20.htm
(2002年6月27日)
[Text by 元麻布春男]