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2003年はHammerに賭ける姿勢を見せたAMD


●2003年はHammerに注力するAMDの姿勢

 AMDは先週開催した「2002年度投資家向け説明会」で、同社の今後の方向性を示した。衝撃的な路線変更こそ発表されなかったが、Hammerアーキテクチャへのかなりの傾斜が示唆された。これにより、Hammerをプッシュする、2003年のAMDの展開はかなり鮮明になってきた。

 AMDは具体的にHammerが2003年中にどの程度の割合を占めるようになるのかは言及していない。しかし、AMDのFabの計画と、CPUロードマップの変更を見ればだいたい推測ができそうだ。おそらく、来年後半中にはAMD Fabは全量がHammerに移行し、K7アーキテクチャはファウンダリUMCでの委託製造へと全面移行するだろう。そのため、現在Athlon XPが占めているパフォーマンスデスクトップから上のエリアは、ほぼHammerアーキテクチャへと移行してしまうだろう。

 Athlonアーキテクチャは、バリューゾーンへ押しやられ、勢い、0.13μm版Duron(Appaloosa:アパルーサ)はキャンセルになってしまった。ブランドはどうなるかわからないが現在のアーキテクチャのDuronは、もうAMDの2003年のロードマップにはない。つまり、Hammer系/K7系が一段づつ下へずれて、Duronを押し出したと考えればいい。そして、うまく行けば、現在Duronが占めるバリューマーケットへもを来年中に持ってきたいというのがAMDの願いだ、と想像される。

 もちろん、これはHammerプラットフォームのインフラ(チップセット&マザーボード)の仕上がりに大きく左右される。AMDは、この点では悪い前例が多いため、不確定要素は多い。しかし、AMD自体の計画には、かなり“やる気”が見える。というか、来年中盤には次世代CPU「Prescott(プレスコット)」を投入するIntelに対抗し、市場シェアと高ASP(平均販売価格)を達成するには、Hammerに注力する他に選択肢がないということだろう。



●かなり見えてきたAMDの製造計画

 まず、Fabの製造計画から見て行こう。AMDは投資家向け説明会で、独ドレスデンのFab30の生産計画の概要を明かした。AMDは、Fab30で昨年末まで0.13μmウエハを少量流していたが、今年のQ2から一気に0.13μmへの移行を加速し始める。また、Fab30の製造キャパシティ自体も若干増強され、最終的に今年Q4には60,000Wafer-outs/quaterまで持って行くという。つまり、年間では240,000ウエハ、4,600枚ウエハ/週(Wafer-Start-per-Week:WSPW)程度になる。これは、ほぼ当初の発表通りの生産キャパシティだ。

 AMDは、2002年第4四半期にFab30の0.13μm化を終える。以前のアナウンスより、少しだけ前へずれている。AMDのFab30の場合、他の大多数のメーカーよりも0.13μm化のハードルが低い。それは、すでに0.18μmで銅配線に必要な技術要素(CMPなど)の導入を終えているからだ。また、PC向けCPU製造Fabだけで5~6を稼働させるIntelと異なり、Fab数の少ないAMDはプロセス移行が容易だ。PCプロセッサの0.13μm化は、AMDが3四半期遅れでスタートしたが、完了するのはIntelとほぼ同時期になると思われる。

 さらに、AMDは年末までにFab30にSilicon-On-Insulater(SOI)テクノロジも導入、SOIウエハを流し始める。この移行も、製造機器の多くは共用できる。AMDが、Fab30のSOI化をどんなペースで進めるのかはまだわからない。しかし、AMDのCPUは、IntelのCPUと比べてダイサイズ(半導体本体の面積)が小さいため、電力密度(Power Density)が高くなる傾向がある。そのため、AMDはCPUの性能を向上させようと思ったら、SOI導入を急がなければならないはずだ。

 その一方で、銅配線ではない0.18μmプロセスでこれまでDuronなどを製造していたFab25は、フラッシュメモリFabへと転換される。これも計画通りだ。つまり、AMDの自社Fabは、CPU製造を担当するのはFab30ひとつだけになる。そのため、生産キャパシティを補強するために、AMDはUMCとファウンダリ契約を結んだ。UMCはそれにもとづき、0.13μm~90nm(0.09μm:UMCの公式ロードマップではまだ100nmになっている)の世代で、AMDのCPUを生産する。最初のAthlonファミリCPUが、今年末から来年頭には登場する見込みだ。つまり、0.13μm~90nmは、Fab30プラスUMCファウンダリ製造で乗り切るつもりなのだ。

 さらに、2005年には、AMDがUMCと50%ずつの出資で設立する新しい300mmウエハFabが、両社の共同開発の65nmプロセスで稼働を始める。これで65nm以降を乗り切る。およそ、こんなビジョンになる。



●AMDの製造計画とプロセッサロードマップの関係

 では、この製造計画に、AMDの各CPUはどう収まるのか。それを書き込んだ推定図が下のプロセスロードマップだ。ここでは、AMDのFab30はSOI化を急ぎ、それとともに全量がHammer系CPUになって行くと予想している。ただ、これはもちろん、Hammerプラットフォームの安定性など、様々な事情で変動する可能性がある。また、ここでは、次々世代Athlon系CPUコアである「Barton(バートン)」の生産が、UMCへ移行すると推定している。

 AMDのCPUロードマップは、4月中旬に変更になった。0.13μm版Duron(Appaloosa:アパルーサ)がロードマップから消え、Bartonの内容も変わった。

プロセス技術&Fab推定ロードマップ CPUコアの推定ロードマップ

 Bartonは、かつては0.13μm SOIテクノロジで製造され256KBのL2キャッシュを搭載するはずだった。これは、すなわち、AMDのFab30でHammerと同じ製造プロセスで作られる計画だったことを意味する。つまり、Hammerがうまく立ち上がらない場合には、Fab30のSOI製造キャパシティをBartonに振り向けるつもりだったわけだ。言ってみれば、BartonはHammerのバックアッププランだった。

 しかし、現在のBartonはSOIを使わない従来の0.13μmプロセスプランになっている。これは、Bartonの製造計画が大きく変わったことを意味する。おそらく、Bartonは、SOIテクノロジを0.13μm世代では採用していないUMCで製造を行なうことになった可能性が高い。AMD FabとUMC Fabでは、パラメータが大きく異なると見られるため、物理設計はかなり異なると見られる。AMDの開発リソースは限られているため、複数の物理設計を走らせるロスはしにくいだろう。つまり、UMCへ移すデザインは、Barton 1種類になるのではないだろうか。

 4月の変更では、BartonはL2キャッシュサイズが256KBから512KBへと倍増されている。これについても様々な類推ができる。ひとつの理由として考えられるのは、製造キャパシティの制約が緩むことだ。AMDがCPUのL2キャッシュサイズを小さく止めているのは、AMDの製造キャパシティが限られているからだ。L2キャッシュを小さくしてダイサイズ(半導体本体の面積)を小さく止めれば、それだけ1枚のウエハから多くのCPUを採ることができる。しかし、UMCをファウンダリとすることで、その制約が緩むため、AMDはこれまでよりL2キャッシュサイズを増やしやすい。

 もうひとつの理由はパフォーマンス面だ。UMCは同じ台湾ファウンダリであるTSMCと比べると、それほど高パフォーマンスにはフォーカスして来なかった。実際、現在公開されているUMCの0.13μmプロセスのフィーチャは、それほど印象的ではない。例えば、Ring Oscillator Delayは14 psで、最先端の0.13μm世代と比べると10~20%ほど見劣りする。

 もちろん、実際には、UMCはAMD向けにプロセスをチューンする可能性もあるため、UMCプロセスはさらに高速になる可能性はある。しかし、一般論から言えば、ハイスピードロジック専用のAMD Fabで製造されたCPUより、汎用ファウンダリのUMCで製造するCPUの方が低速になる可能性は高い。そして、その性能差をカバーするため、L2キャッシュを倍増するというのは、ありうる話しだ。AMDは、モデルナンバーを使えば、その違いをカバーすることができる。つまり、比較的高クロックで256KB L2キャッシュのThoroughbredと、ややクロックは落ちるが512KB L2キャッシュを搭載したBartonが同じモデルナンバーということもありうる。



●Bartonはコードネームは同じだが全く異なる位置づけ?

 こうした想像が正しければ、BartonというコードネームがつけられたCPUは、4月の段階で全く異なる内容に変わったことになる。つまり、以前のBartonは、Hammer移行が難航した場合の、高パフォーマンス版Athlonファミリだった。しかし、今のBartonは、ボリュームゾーンを支える、アウトソーシング版Athlonである可能性が高い。そして、Athlon XPを受け継ぐだけでなく、現在のDuronが占めているスペースも受け継ぐ。そのために、中途半端なAppaloosaが消えたわけだ。

 そして、こうした路線変更が意味するのは、AMDがHammerに勝負をかけ始めたということだ。つまり、BartonをFab30のSOI版で投入しても、競争力は落ちる。だったら、Hammerを一気につっこめという話になった可能性が高い。またもや、AMDは大きな賭に出たわけだ。

 では、Hammerは成功できるのか。じつは、パフォーマンスという意味ではHammerはじつに強力だ。アーキテクチャ上で見ると、Hyper-Threadingの利点を生かし切れないだろうIntelのPrescottと十分に戦える。だが、アーキテクチャ上のトレードオフでHammerは大きな弱点というかチャレンジも抱えている。Hammerのボード上へのインプリメントが現実化するにつれて、それも段々鮮明になりつつある。来週のコラムでそのあたりはレポートしたい。



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(2002年5月2日)

[Reported by 後藤 弘茂]

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