第150回:無線LANをシンプル化するSoft Wi-Fiのキーポイント



 先週行なわれたWinHEC 2002では、ノートPCユーザーにも興味深いいくつかのニュースが流れた。WindowsのBluetooth標準対応やBaniasの動作デモ、OQOの超小型PCなどもあった。しかし個人的に興味深く感じたのは「Soft Wi-Fi」という技術である。Soft Wi-FiのWi-Fiとは、米国の業界団体が互換性検証を行なったIEEE 802.11bデバイスに出しているロゴのこと。

 このことから「802.11b無線LANに必要な機能の一部をソフトウェア化したもの?」と想像する人も多いと思う。しかし、これはある面だけを見ると正しいが、別の視点から見ると正しくない。ソフトウェア化を行なっている機能も確かに存在するが、本質的にはすべての802.11無線LANに対して必要とされながら、現在はまだ普及していない機能をソフトウェアで提供することにより、柔軟性を提供するとともに、普及させるために必要ないくつかの要素を補うソフトウェアコンポーネントである。


●Soft Wi-Fiとは?

 WinHECでの説明によると、Soft Wi-Fiはスパニングツリーアルゴリズムで動的な接続経路の選択を自動的に行なうクライアント向けのソフトウェアモジュールと、アクセスポイントの機能をソフトウェアで実現したものだ。

 アクセスポイント側の機能をソフトウェアで提供する方は、簡単にイメージできるだろう。以前、コンパックがソフトウェアを用いてPCをアクセスポイントとして利用する製品を出していたが、それと同様の機能を提供するものだ。

 ただしWindowsに密に結合されるため、Windows自身の持つ機能と連携し、より簡単にアクセスポイントの構成を行なえるメリットがある。アクセスポイント構築に必要な基本設定やセキュリティに関する設定を、Windows XPのネットワーク構成ウィザードに組み込むことでシンプルに利用可能になる。

 読者の中には「アクセスポイント構築なんて簡単じゃないか」と思う方もいらっしゃるだろうが、はじめてネットワークに触れる人にとってみれば、わからないことだらけだ。それだけで初心者向けの書籍が存在するだけに、エントリーユーザー向けには有効な機能だと思う。2万円以上するアクセスポイントを購入しなくとも、無線LANカードだけで始められる手軽さも導入の敷居を下げる役割を果たすだろう。

 そしてもう一方のクライアント向けソフトウェアモジュール。こちらはモバイルユーザーにとって、非常に便利な機能になるのではないかと見ている。前述したスパニングツリーアルゴリズムとは、本来ルータなどに組み込まれる機能で、ある経路でのネットワークアクセスが不可能になった場合、別に登録された経路を用いるように自動的に切り替えるための仕組みである。Soft Wi-Fiのクライアント機能はスパニングツリーアルゴリズムを用いて複数登録されたアクセスポイント(もしくはアドホックネットワーク)の中から、最適な経路を自動選択して切り替えてくれる機能を実現する。

 つまり、無線LANクライアントの一部機能をソフトウェアで代替するのではなく、より簡単に無線LANを用いるための仕組みというわけだ。

Soft Wi-Fi全体の構造。物理的な無線LANカードの上位で動作する ソフトウェアアクセスポイントの構成。無線と有線のコンバートをソフトウェアで行うほか、暗号化やユーザー認証もサポート クライアント側のソフトウェアモジュール構成。ユーザー認証は経路管理と密接に連携して動作


●Soft STA

 こうしたクライアント機能を実現するためのモジュールを、Microsoftでは「Soft STA」と表記していた(STAはスパニングツリーアルゴリズムの略)。スパニングツリーアルゴリズムとは、スパン、つまり距離を経路ごとにツリー状に管理し、最短距離を選択するための考え方だ。これを無線LANに応用しようというわけだ。

 802.11無線LANはWindows XPで標準サポートされ、クライアント側の設定は劇的に簡略化された。アクセスポイントはWindows XPが自動的に発見してくれ、どのアクセスポイントにアクセスするかを選択するだけで利用可能。さらにWEPコードが必要な場合はユーザーに入力を自動的に促す。

 エンドユーザーが同じ場所でひとつのアクセスポイントを利用するだけであれば、操作は非常にシンプルでわかりやすくなったと言っていいだろう。しかし、複数のアクセスポイントが混在する環境で無線LANを利用したり、別の場所に何度も移動してアクセスポイントが頻繁に変更されるような使い方では、うまく接続できない場合がある。

 このような場合は、無線LANの設定で登録されているアクセスポイントから不要なアクセスポイントを削除したり、優先順位を入れ替えることで解決できる場合が多いが、いずれにしろ分かりやすいとは言い難い。実際、PC系の展示会やカンファレンスでは、デモ用から来場者用、主催者用のアクセスポイントが乱立し、本来つなぎたいアクセスポイントが見つからなくて困っている人を見かける。

 このようなアクセスポイントの選択や移動時のローミング管理を、Soft STAはインテリジェントに実行してくれるのだ。都内ではあちらこちらに無線LANが利用可能なホットスポットが登場し、一部のサービスプロバイダーは商用サービスを立ち上げようとしているが、Soft STAによって一番近い最適なアクセスポイントの発見と接続を自動的に行なってもらえるようになる。

 技術セッションでは「無線LANの難しさのひとつに無線であることが挙げられる」という話が出てきた。つまり、無線LANはどこに接続しているのか、物理的に接続されたワイヤが存在しないため、エンドユーザーが把握しにくく、それが難しさに綱っているというわけだ。それを解決するためにSoft STAが必要になるのである。

 また、WinHECでは具体的なデモは行なわれなかったが、Soft Wi-Fiでは基本的な無線LANの設定は基本的に行なう必要が無く、ほぼ自動的に接続を行なうのもメリットのひとつであるとしていた。


●セキュリティアップにもつながる?

 Soft Wi-Fiの2大機能、Soft APとSoft STAは、いずれも802.1x(ブリッジを通過するためにユーザー認証を行なうための手順)機能をそれぞれの機能と密接に関連づけているのも特徴となっている。たとえばSoft STAで経路が切り替わると、切り替わったアクセスポイントに対して再度自動的に認証が行なわれる。

 またSoft APも802.1xがサポートされている。低価格のアクセスポイントでユーザー認証ベースのアクセス制限を行なえる機種はほとんど見かけないが、Windowsに統合されることでWindowsのユーザーディレクトリを利用し、簡単に認証ベースのセキュリティ設定を行なえるのは大きなメリットと言えると思う。

 またいずれのSoft Wi-Fiモジュールも、AESベースの暗号化をサポートしているため、802.11標準のWEPよりも強固な暗号通信を行なえる。ソフトウェアでサポートしているため、無線LANカードの機能に依存せずに強固な暗号を利用可能になるわけだ。

 なお、Soft Wi-Fiを利用するためには、新しいネットワークドライバの仕様にLANカードが対応していなければならないようだ。Soft Wi-Fiが実際に将来のWindowsに実装される際には、ある程度、メジャーな無線LANチップに対して標準ドライバが用意されると考えられる。ただしSoft Wi-Fiの実装は「将来バージョンのWindows」としかアナウンスされておらず、サービスパックとしてWindows XPに搭載されるのか、あるいは2004年後半という次期WindowsのLonghornになるのかはわからない。

 現時点では魅力的な機能だとは思うが、Microsoftが本気でこれらの機能を標準搭載することで802.11無線LANの普及を促進させようと考えているなら、出来る限り早くサポートすべきだろう。

 Microsoft自身、802.11無線LANを家庭に普及させるためには、セキュリティや扱いの悪さ、設定の難しさなどが障害になっていると話している。それを取り除けるのが2004年という気が遠くなるような先では、せっかくOSに標準搭載されてもインパクトは薄いものになってしまう。普及し始めで過渡期の今こそ、Soft Wi-Fiが必要なのだから。

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WinHEC 2002レポートリンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/link/winhec02.htm

バックナンバー

(2002年4月24日)

[Text by 本田雅一]


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