基調講演にのぞむ、Microsoftのビル・ゲイツ会長兼CSA |
会期:4月16~18日
会場:Wasington State Convention & Trade Center
Microsoftがハードウェアエンジニア向けに開催しているカンファレンス「WinHEC」も3日目に入り、最終日となった。最終日の18日には、Microsoft会長であるビル・ゲイツ氏および、Intel社長のポール・オッテリーニ氏による基調講演が行なわれた。オッテリーニ氏の講演では、注目のモバイル向けCPU“Banias”の初デモなどが行なわれたが、本レポートではゲイツ氏による基調講演の模様をお伝えしていく。
●「PCの使い方は変わってきている」とゲイツ氏
「PC Ecosystem」(PCの新しい形)と銘打たれたゲイツ氏の基調講演では、ワイヤレスコミュニケーション、エンタープライズコンピューティング、コンシューマエレクトロニクス、信頼できるコンピューティング(Trustworthy Computing)という4つの分野に関して、それぞれPCの新しい形についてのビジョンが明らかにされた。また、ゲイツ氏はBluetoothのWindowsにおける標準サポートの計画についても明らかにした。
WinHEC 2002で公開されたホワイトペーパーで、最も優れたものにあたえられる賞のプレゼンターとして登場したゲイツ氏は、PC Ecosystem(PCの新しい形)と名づけられたプレゼンテーションをスタートした。「以前、PCは文書作成などの生産性を上げる計算機として利用されていた。だが、現在ではこれは変わってきており、携帯電話やPDA、デジタル家電などを接続する最も重要なデバイスとしての用途が重要になっている。このようにPCの使い方は変わりつつある」とゲイツ氏は述べ、最近恒例となっている、PCの利用モデルは変化してきているというメッセージを繰り返した。
●今年の後半にWindows XPでBluetoothを標準サポート
PC電話のデモを行った、Microsoft ウインドウズハードウェアプラットフォーム リードマネージャのマイク・ヴァン・フランダーン氏。このPC電話はUSBインターフェイスでPCと接続されている |
その代表的な変化として、クライアントPCにおけるワイヤレス通信の普及をあげた。「ワイヤレス通信はユーザーの使い方を変える重要な要素となっている。Microsoftとしては既にIEEE 802.11の無線通信をサポートしており、今後はBluetoothのサポートも行なう」と述べ、「来月にはSDKをリリースし、今年の後半にはWindows XPでサポートする」と述べた。具体的にどのような方法(例えば、サービスパックによるのか、Windows Updateによるのか)は明らかにならなかったが、今後Windows XPでBluetoothを標準でサポートすると発表した。
さらにクライアントPCの使い勝手についてふれ、いくつかのデモを行なった。デモに登場したウインドウズハードウェアプラットフォーム リードマネージャのマイク・ヴァン・フランダーン氏は「今後は標準で電話がPCにつくようになり、ユーザーが気軽にインターネット電話を利用できるようになる」と述べ、USBで接続する、PC電話デバイスを紹介。それを利用してWindows Messenger経由で電話するデモを行なった。
また、同社のウインドウズハードウェアプラットフォームマネージャのデビット・ウィリアムズ氏はマルチディスプレイの新しい形を紹介し、2つのディスプレイパネルが1つの物理的ディスプレイとなっているディスプレイや、3つのディスプレイで1つの物理ディスプレイとなっているディスプレイを提案した。
MicrosoftがBluetoothを遂にネイティブでサポートすることを明らかにした。これまでやや冷淡な態度をとっていると思われていただけに、この変化は歓迎していいだろう。これで足踏み状態を続けていたBluetoothの普及が大きく前進することは間違いない | Bluetoothのサポートを説明するスライド。SDKを5月に、ユーザーへの配布は今年の後半に行なわれることになる |
●新たなMiraパートナーとしてNEC、富士通、東芝が加わったことを明らかに
IntelのMcKinleyを利用したデモ。ネットワークで画像のレンダリングを行なっている |
引きつづきゲイツ氏は同社のエンタープライズ分野における取り組みや家電分野における取り組みを明らかにした。エンタープライズ分野においては、IntelのIA-64の最新版であるMcKinleyを搭載した4Wayサーバー、2Wayサーバー、ワークステーションによるネットワークレンダリングシステムを公開。サーバーにインストールされている同社のSQL Server 2000にアクセスし、非常に高速にレンダリングが可能である様子などをデモした。
家電分野の取り組みでは1月のInternational CESで明らかにしたMiraやFreestyleによる家電製品のデモを繰り返した。基本的には1月の内容と変更はなく、Freestyleを利用してPCにアクセスしている模様と、途中送られてきたメッセージをMiraデバイスで受信し、それをメインのディスプレイで再生するというものだった。ゲイツ氏は「コンテンツをIP上で使えるようにすることが重要だ。また、簡単にコンテンツを管理したり、編集したりということができるようにならなくてはならない」と述べ、MiraやFreestyleといった技術を利用することで、そうしたことが可能になるはずだと強調した。
ただし、ゲイツ氏は、具体的にどのようにしてコンテンツを管理していくのか、あるいはPCを違法コピーのツールだと考えているようなコンテンツホルダーに対して、理解を求めていくのかということに関しては何もふれなかった。CDのコピーガードに関する報道がさかんに行なわれていることからもわかるように、コンテンツ作成者の側ではPC上でどんなデータでもコピーできるようになっていることに対する不信感は根強い。もちろん、著作権保護が行なわれるというのは大前提だが、ユーザーの使い勝手を損なっては、そもそもそうした製品は普及しなくなってしまう。業界としてはそこの部分にどう折りあいをつけていくかが重要だと思うのだが、今回のゲイツ氏の講演ではそれに関してふれた部分はなかった。ぜひとも、次回は業界のリーダーであるMicrosoftが、それに関してどのようなイニシアチブをとっていくのかにふれて欲しいものだ。
なお、ゲイツ氏はMiraの開発パートナーとして、これまで発表されていたIntel、LG電子、Panasonic、SOTECなどに加えて、富士通、NEC、東芝、Wistronの4社が加わったことを明らかにした。日本の大手メーカーが一挙に3社も加わったことで、Microsoftの家電にくい込みたいという野望の第一歩は踏みだした印象だ。なお、Miraは今年の終わり頃、各OEMメーカーからリリースされる見通しだ。
Miraのデモを行なっているところだが、基本的にはInternational CESの時の内容と同じ | Miraの開発パートナーとして、富士通、NEC、東芝、Wistormの4社が加わったことが明らかにされた。AirBoardで先行するソニーはどうするのか? |
●エラーはMicrosoftに送信して下さい?
最後にゲイツ氏は、最近のMicrosoftの取り組みで最も重要なものだと位置付けている“Trustworthy Computing”(信頼できるコンピューティング)についてふれた。「この問題は業界全体としてとり組まなければいけない問題だ。今後デジタルの世界が発展していくためには乗りこえていかなければいけない問題で、当社の最も重要な焦点だ」(ゲイツ氏)と述べ、今後もより信頼できるコンピュータを実現するために、様々な努力を払っていくことを強調した。
その一環として、「Microsoft Error Report」とよばれる、Passportサービスと連動したバグフィックスの取り組みを明らかにした。
このError Reportは、アプリケーションなどに問題が生じた際に表示されるError Reportの仕組みをさらに拡張したもの。ユーザーがMicrosoftにPassportサービスを通じてエラーメッセージを送信すると、それがサーバー側に蓄積され、継続的に何が問題なのかをMicrosoftがチェックし、ハードウェアベンダやソフトウェアベンダと協力してバグフィックスを行ない、Windows Updateなどを通じてアップデートを行なう仕組みだ。これにより、これまでは単発の原因でしか原因が突きとめられなかったものが、エラーログが蓄積されることにより、複数の原因で起こっている場合でも原因が突きとめられるようになるという。
緊急の場合は、Windows Updateで公開される前にFTPによりβ版の解決方法などがダウンロードできるなどのやり方も考えられているようだ | Microsoft Error Reportにより、エラーメッセージを蓄積していくことができる |
●デジタルの時代を共に作っていこうとゲイツ氏
最後にまとめとしてゲイツ氏は「デジタルの時代(Digital Decade)を作って行くには、複数のセグメントでチャレンジする必要があり、技術革新を早め、標準規格を採用し、信頼できるコンピューティングが必要になる」と述べ、今後Microsoftと会場に詰め掛けたWindowsベースのハードウェアベンダが協力してデジタルの時代を切り開いていこうと訴えかけた。特に、家電機器のデジタル化などは、ハードウェアベンダの協力がなければできないことで、詰め掛けたハードウェアベンダに対してそう訴えることはMicrosoftとしては自然な行為だろう。果たして、その訴えかけが届いているのか、それが分かるのは数年先になるだろう。
□WinHEC 2002のホームページ(英文)
http://www.microsoft.com/winhec/
(2002年4月19日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]