Gordon Moore氏 |
会場:ヒルトン東京ベイ
会期:4月16~18日
Intelの開発者向けカンファレンスIntel Developers Forum 2002 Spring Japanが4月16日より開幕し、同社副社長兼CTOのパトリック・ゲルシンガー氏らによる基調講演が行なわれた。
まずインテル株式会社のジョン・アントン社長が壇上に立ち、IDFの概略を簡単に説明。その後、「Intelのテクノロジーを代表する人間で、IDFのゴッドファーザー」とゲルシンガー氏を紹介した。
■「ムーアの法則は変化している」ゲルシンガーCTO基調講演
今回のゲルシンガー氏の講演の内容は、「ムーアの法則を超えて」というタイトルのもと、長期的なビジョンについて語られた。
パトリック・ゲルシンガー CTO |
最初に、景気の後退により、各社が研究開発費を削っている中、Intelは引き続きR&Dに大きな比重を置き、計画どおりに投資していくことを明言した。続いて、Intel名誉会長のGordon E.Moore氏などが「ムーアの法則(1つのチップに集積できるトランジスタ数が18~24カ月で2倍になるという予測)」について語るビデオが流され、ゲルシンガー氏は、「現在、15億人がムーアの法則の影響を受けている。さらに残りの50億人にもその影響が届くようにしていきたい」と語った。また、「ムーアの法則は、私が在職する25年後まで維持される」との見解を示し、現在のIntelの様々な技術について簡単に説明した。
内容は、昨年発表したテラヘルツ・トランジスタや、パッケージング技術「BBUL」、EUV(極紫外線)露光技術などについてで、さまざまなアプローチによりムーアの法則が継続可能であることをアピールした。
また、ゲルシンガー氏は今後の問題として、集積率が高まるにつれ電力密度(平方cm/W)はあがっており、「既にプロセッサの電力密度は原子炉並みとなっている。2010年には太陽の表面温度まで到達してしまう」と説明した。年々増大する消費電力に対する試みとして、Hyper-Threading技術やトランジスタの低消費電力化などのアプローチを紹介、Intelは忠実にムーアの法則を守っていくことを説明した。
BBULパッケージの解説 | 電力密度についてのプレゼンレーション | ムーアの法則を超えて |
そして講演タイトルでもある「ムーアの法則を超えて」について言及。さまざまな機能をシリコン化することで、新市場を切り開くとし、「ワイヤレス」、「センサ」、「オプティカル」の3つの市場向けの方針を解説した。
Radio Free Intel MEMS技術の応用について |
1つ目の「ワイヤレス」については「Radio Free Intel-- 全てのチップに無線技術を」というテーマを掲げ、あらゆる機器がワイヤレス化するというビジョンを語った。
ゲルシンガー氏は、まず「Radio Free Intel」を実現するための次世代技術として、MEMS(Microelectromechanical systems)技術を挙げた。電気回路などの機械構造をシリコン上に実装する技術で、MEMS技術により、RFスイッチやフィルタなどをシリコン上に搭載可能となるという。
また、壇上で携帯電話を分解してみせ、「現在は数多くのチップやアナログ回路を集積しているが、今後は、MEMSチップとSiRadio、ベースバンドプロセッサなどの数個のチップに集積され、最終的には1チップで実現できる」との見通しを示した。また、1チップ化によりデバイスの省電力化や低コスト化、省スペース化などの様々なメリットがあると言及した。
□IntelのMEMS解説ページ(英文)
http://www.intel.com/research/silicon/mems.htm
分解した携帯電話 | MEMSチップなど少数のチップに集積 | 将来的には1チップになることで、低コスト/低消費電力/省スペースを実現 |
また、ワイヤレスの普及にあたり、また、動的にコンフィグレーションを変える、インテリジェントローミング技術も重要であると解説した。
Ultra WideBandの解説 |
また、次世代のワイヤレス技術として、UWB(Ultra WideBand)を挙げ、100Mbpsでデータ転送するデモが行なわれた。UWBは、広帯域かつ低消費電力なLAN/PAN(Personal Area Network)向けの無線通信技術。従来のキャリア波を使う無線技術と異なり、拡散スペクトラム(Spread Spectrum)を利用し、いろいろな周波数に分波して、伝送するという。そのため、キャリア波を作り出すためのオシレータなどが必要なく、単純なスイッチングとなるため、シリコン化が容易になるという。なお、デモでは、UWBの周波数帯が日本で法的に認可されていないため、シールド内で行なわれていた。Intel Labでは500Mbpsまで検証しているという。
商品化については、規格化自体が始まったばかりとのことで、2年以上後になりそうだという。なお、日本では、微弱な電波を様々な周波数帯域に発するUWBに関して収容する法律が無いため、関係機関とディスカッションを行なっている最中だという。
□Ultra Wideband Working Groupのホームページ(英文)
デモでは100Mbpsで通信を行なった |
ムーアの法則は変化している |
また、「センサ」については、センシング+コンピューティング+コミュニケーションで、“Comm-puting”という造語を紹介し、様々なデバイスにセンサとコミュニケーション機能を持たせることで、家庭内の機器や農場の状況などさまざまな場所のあらゆる機器同士が通信しあうというビジョンを示した。ワイヤレスの説明とあわせ、シリコン・ラジオへの取り組みとして紹介された。
「オプティカル」は、シリコンとフォトニクスの統合により、例えば、メカニカルスイッチを用いた現在の可変光フィルタを、数十分の1のコストで実現できるというプランを説明したもの。現在非常に高価なSONET装置のような通信機器が、これらの技術により、サイズは半分でコストは1/5で実現できるという。
ゲルシンガー氏はこうしたプランを語った後、「Intelの責任は、業界との協力体制を築き標準化を進めることと、積極的なコミットメントだ」とし、「ムーアの法則は変化しているし、これからも超えていくために今まで以上のテクノロジを投入していく。法則を超えて、有限のリソースから無限大のチャンスを生かせるようにしていきたい」と語り、講演を締めくくった。
■通信分野への投資は続ける
W.エリック・メンツァー コミュニケーションズ事業本部長 |
続いて壇上に立ったインテル・コミュニケーションズ事業本部副社長兼CTOのW.エリック・メンツァー氏は、「プロセッシング・イン・ザ・ネットワーク」というテーマのもと、ネットワーク市場の現状について解説した。まず、この1年で通信事業者を取り巻く状況が大きく変わり、「いままでは帯域が最大の焦点だったが、業績の悪化や市場の低迷により、まず利益と変わった」とし、「今まではそれぞれが独自技術を採用していたが、研究開発費は半減しており、これからは標準化が必要になってくる」と述べた。
そしていままでのネットワークプロセッサは、固定機能向けのものだったが、これからのプロセッサは刻々と変わるプロトコルなどに対応するためにプログラマブルである必要があるとし、ネットワークプロセッサ用のIXA(Intel Exchange Architecture)について説明した。また、SDKやリファレンスデザインを用意するなど、開発の容易さに配慮している旨を解説し、Intelが通信分野への投資を継続していくことをアピールした。
IXAプロセッサについて | 固定機能対プログラマブル |
■Mckinleyの進捗は順調で今夏投入
トム・R・マクドナルド氏 |
エリック氏に紹介され、壇上に立ったエンタープライズ・プラットフォーム事業本部アドバンスド・コンポーネント事業部長 トム・R・マクドナルド氏はエンタープライズコンピューティングのトレンドを解説した。独自仕様のUNIX/RISC CPUが減退し、IAサーバーが増加しているデータを提示し、IAサーバーが業界で重要な地位を占めている状況をアピールした。
また、クラスタ化などによる「スケールアウトによるスケールアップ」や、ブレードサーバーやラックサーバー、特定用途向けのアプライアンスサーバーなど、サーバーのセグメント化が進んでいると最近のトレンドを解説した。そして、そうしたトレンドにIAサーバーが適しており、業界のビルディングブロックとなっていると述べた。
また、年初に発表した、Hyper-Threading技術やエンタープライズ向けのXeon MP用チップセットIntel E7500などを解説した後、64bitプロセッサの新モデル「Mckinley」が2002年夏のリリースに向け順調に進捗していることを解説し、Itaniumに比べて、150~200%のパフォーマンスアップが可能だとアピールした。
また、将来のロードマップも公開し、2003年に6MBのオンダイL3キャッシュを搭載した130nm製造プロセスの「Madison」を、2004年には90nmプロセスの「Montecito」を投入すると説明した。
Mckinleyの解説 | ロードマップ |
□Intel Developers Forum 2002 Spring Japanのホームページ
http://www.intel.co.jp/jp/developer/idf-j/
□関連記事
【2月15日】米連邦通信委員会、超広帯域無線通信技術「UWB」の商用利用を認可(INTERNET)
http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/2002/0215/uwb.htm
(2002年4月17日)
[Reported by usuda@impress.co.jp]