第147回:デスクトップPCを捨てるための、高性能ノートPC2機種



 サイズの大きなノートPCは、これまでこの連載でほとんど扱ってこなかったのだが、モバイルPentium 4のリリースで最近少し気になり始めたハイエンドのノートPCを2機種、取り上げてみた。テーマは“ユーザーインターフェイス”。

 ユーザーが直接PCとコミュニケーションを取るために重要なディスプレイ、キーボードなどは、サイズが限られるノートPCでは、何らかの犠牲が強いられがちだ。モバイルPentium 4の登場で、性能面では一歩殻を破ったノートPCが、スペックには現れない快適性の部分でも良質であるならば、デスクトップPCを置き換えることも可能だと思ったからだ。

●これまでデスクトップPCを使い続けてきた理由

 このような連載をしておいて…… と言われそうだが、僕は自宅で仕事をする際にはほとんどノートPCに触れない。実際にノートPCを操作する必要がある場合も、デスクトップPCからリモートデスクトップ機能を用い、デスクトップPCのキーボード、ディスプレイからノートPCを操作している(もちろん仕事用の机から離れた場合はその限りではないが)。

 理由は好みのキーボード、好みのディスプレイ、好みのマウスで快適に作業を進めたいからだ。特にディスプレイは非常に重要視している。現在、利用しているのはナナオのFlexScan F980とFlexScan E78Fで、それぞれにカノープスのビデオカードを接続し、1,600×1,200ピクセル 32bitカラーの環境で作業を行なっている。

 E78Fの方はコントラストや色域の狭さなどに不満を持っているが、F980の画質は非常に優秀。モニタマッチングをきちんと取り、入出力のカラープロファイルをきちんと設定することで、色に対する不満も完璧ではないにしろ、十分に満足できるレベルだ。

 もちろん、数年前にロットで注文し、買いためてあるIBMの5576 A01キーボードやロジクール製のMouseMan Optical dual sensorも欠かせない。これらがないと作業をしてても、今ひとつしっくりと来ない。

 さらに投資効率の面から考えれば、デスクトップPCの方が快適な環境を、より安価かつ柔軟に構築でき、かつ部分的なアップグレードが手軽なことも重要なポイントだ。幸い、自宅で作業する仕事であるため、仕事場さえ確保できれば省スペース性はあまり考えなくていい。

 だがこのところ、僕のPC環境はアップグレードの頻度が数年前よりもずっと低くなってきた。以前は新しいプロセッサ、新しいグラフィックスが出るたびに取り替えてきたが、ここ数年は1年以上、同じデバイスを使い続けることも珍しくない。ハードディスク容量に関しても、ストレージ用にサーバーを設けてあるのであまり問題ない。

 もちろん、テレビや音楽、ビデオ編集などのマルチメディア用途を考えると、まだまだデスクトップPCのアドバンテージは大きいが、少なくとも仕事とそれに付随する日常的な作業、あるいはインターネットへのアクセスに関して言えば、ノートPCにすっきりとまとめるのも悪くない。

●エンジニアリングワークステーションにモビリティを持たせたA31p

 そう考えて最初に思いついたのが、日本IBMのThinkPad A31pである。Aシリーズの中でも末尾に“p”が付くモデルは、最上級のパーツをふんだんに使った贅沢なモデルとして知られている。昨年末にフルモデルチェンジで筐体構成が一新されたA30pが発売されたが、ここで取り上げるThinkPad A31pはその最新モデルの中身をモバイルPentium 4へと対応させたものである。

ThinkPad A31p

 A30シリーズの特徴はカーボンFRPの筐体にマグネシウム製強化フレームを組み合わせ、剛性感を確保しながら左右両方にウルトラベイ2000スロットを設けている点である。標準ではDVD-ROM/CD-RWのコンボドライブとフロッピーディスクドライブが添付されているが、両サイドともにウルトラベイ2000仕様のドライブを自在に選んで装着できる。

 今回、この記事のために日本IBM大和研究所の開発スタッフに集まって頂いたのだが、この構成を採用するために剛性アップ、メイン基板の縮小などの工夫を多数施しているという。ウルトラベイ2000を二つ並べると、筐体のかなりの容積を使ってしまうため、サイズが大きいAシリーズと言えども小型化にはかなりの気を遣ったようだ。

 また細かな使い勝手にもこだわり、ドライブを抜き差しするためのレバーは左右ともにドライブの手前に配置している。そのまま反対にベイを取り付けると、レバー位置は左右逆になり、どちらかのレバーは奥になってしまうが、左右の操作性を揃えるため、わざわざ左右で別のイジェクト機構としたのだとか。また縦方向に配置していたUSBコネクタも「縦だとコネクタの裏表がわかりにくいため」、横方向になおすなどの改善が施されている。

 またハイエンドのA31pには1,600×1,200ピクセルの15.0インチUXGA液晶パネルが採用されている。この液晶パネルは左右上下ともに170度という視野角を実現した、非常にクオリティの高いパネルだ。デスクトップ向けの液晶パネルと比較しても、最高レベルの表示品質を持つ。僕が最初にA31pに興味を持ったのは、この液晶パネルを採用していたからである。

 FlexViewと名付けられたこのパネルは、日本IBM製のもので電極をピクセルの隙間に配置するIPS(In-Place Switching)技術と、液晶が2方向にねじれるデュアルドメイン技術を組み合わせた最先端のものだ。どの位置から眺めても、ほとんど輝度差や色反転を感じない点は本当に見事。再現可能な色域も通常のノートPC用液晶パネルよりも広く、シャドウ部の再現性ではCRTには及ばないものの「これならば液晶でもいい」と感じるレベルに達している。

 従来から定評のある廃熱システムに関しても、元々、モバイルPentium 4に合わせて製品設計を行なってきたため、A30pからA31pに変化する際の変更点はヒートシンク素材をアルミから銅へと変更した程度で済んでいるという。現行の冷却システムでも32Wまでのプロセッサに対応し、今後のプロセッサ動向に合わせてグレードアップする余裕も備えている。実際に使ってみた印象でも、手に伝わる熱も少なく静粛性も高い。高発熱のモバイルPentium 4から想像するよりも遙かに快適だ。

 また「熱の面ではパームレストやキーボードはもちろんだが、設計する上で一番大変なのが底面の温度上昇防止。A31pではメイン基板を浮かせてマウントすることで底面への熱伝搬を最小限にしている」という。確かに底面の温度上昇もそれほど大きくない。空気の流れを積極的に制御するために、スポンジやパーティションで内部を分割する工夫も施されている。

 さらにモデム、有線LAN、無線LAN(802.11b)、Bluetoothと、4種類の通信手段をすべて内蔵している点も見逃せない。Bluetoothに関しては接続を開始するためのボタンが専用に取り付けられている。

 これらお金を手間をかけた作りは、これまでAシリーズのみでハイエンドからローエンドまでに対応していたA4ファイルサイズクラスを、ローエンドのRシリーズとハイエンドのAシリーズに分割したことで、より品質と性能、使い勝手にこだわった設計を行なえるようになったのが大きいと開発スタッフは話す。

 実に快適性が高くデスクトップPCの本格的な置き換えに耐える。それがA31pの印象だったが、PC不況の中こうしたハイエンドのモデルを開発した背景は、今回テーマにしているユーザーインターフェイスではなく、「エンジニアリングワークステーションを出先に持ち出し、CAD/CAMアプリケーションを動作させデモンストレーションなどに利用したい」という、ワールドワイドで存在するユーザーニーズに対する回答なのだという。

 このためA31pは、MOBILITY RADEONの上位版であるMOBILITY RADEON 7800とハードウェアは共通ながら、OpenGLの各種アプリケーション認定が行なわれた特別仕様のドライバを有するMOBILITY FireGL 7800を搭載している。ビデオメモリも、大量のテクスチャマッピングを用いた3Dグラフィックスにも耐えられるよう64MBが実装されている。

 もちろん、RADEONシリーズの流れを汲むだけにDirect3Dのパフォーマンスも高く、32bitカラーXGAでの3D Mark SE計測結果は、4,405というノートPCでは聞いたことがないような高い値を記録する。

 また外部ディスプレイ出力も非常に高い解像度を、セカンダリディスプレイとして表示できる。手元にあるT980に1,600×1,200ピクセル 32bitカラーでセカンダリスクリーンを表示させてみたが、プライマリとなる液晶ディスプレイと組み合わせての利用は非常に快適だった。信号の品質も想像するよりはずっと良い。

 近年は低価格化のため、コストダウンが使用感に影響する製品も少なくない。これは日本IBMでも同じではあるが、OA用途ではない市場に向けたハイエンド製品ならではの良さがA31pにはある。それが結果的に使用感を高めているように思う。40万円を超える実売価格は、個人ユーザーからするとあまりに高い設定ではあるが、こうした品質、性能、機能を優先した製品も選択肢としては必要だろう。

●「ユーザーが製品に触れる部分を大切にしたい」新バイオノートGR

 ソニーの担当者自ら「VAIOシリーズの中でも地味な製品」と話すバイオノートGRシリーズは、特徴的なデザインとメカニカルキーボードで人気を博したバイオノートXRシリーズの後継モデルとして、昨年、14.1インチSXGA+液晶パネル搭載のノートPCとして登場した。その際のコンセプトは「持ち歩けるデスクトップPC」というものだった。

PCG-GRX90/P

 ThinkPadで言えばTシリーズに近い仕様で、Aシリーズと並べて紹介する製品では無かったのである。しかしその後、GRシリーズはキーボード配列を変更して15.0インチ液晶パネルを搭載するより大きなノートPCへと変化し、さらにモバイルPentium 4を搭載する現行モデルに至っては16.1インチUXGA液晶パネルを採用する新GR(VAIO PCG-GRX90/P)に至った。その間、外観デザインにはあまり大きな変化はないが、筐体そのものは大きく変化している。

 現行モデルでは各所にマグネシウム製の補強メンバーを多数配置し、液晶パネル裏の素材もABSから金属製に変更することで、剛性感を大きく向上させることに成功しているという。実際、手に持って使ってみると、従来のGRシリーズにあった華奢なしなるような感覚がなくなっている。

 ポインティングデバイスのパッド周りも、プラスティックの地のままだったのがメタリック塗装になったり、微妙に起伏を持たせて位置関係を把握させやすくしたり、ジョグダイヤルの仕様を変更するなどの小改良を重ねた。最上位機種のハズなのに、今ひとつ高級感に欠けるというGRの評価を払拭するのが目的だ。

 また従来機では設計上の都合で背面にあったUSBポートも、筐体拡大により余裕が増したことで左右振り分け構成へと変更できているという。また増加した筐体容量の残りは、ボックス構造のスピーカーへと振り分けられた。キーボード奥のスピーカー内部は、他所から隔離されてスピーカーエンクロージャを構成しており「バイオQRの“耳”スピーカーを除く、どんなノートPCよりも音質が良くなった。また細かいところだが、背面の端子カバーがマグネット式で使いやすくなった点も見て欲しい」と、こだわった部分について話す。

 底面積が開発意向表明が行なわれたバイオUのほぼ4倍という新GRは、現在も従来機の15.0インチモデルに加え、ソニースタイルのCTO専用モデルとして14.1インチモデルも生産されている。同じGRの型番ながら3つの筐体が入り交じっているわけだが、この点についてGRの製品企画および開発担当者は「ラインナップに幅を持たせるのが目的だった。大きい製品がハイエンド、小さいものはローエンドではなく、さまざまなサイズ・重さの製品を使用目的で選んで欲しい」と話す。

 また16.1インチの巨大な液晶パネルも「今回の新GRはモバイルPentium 4を見据えて設計したもので、同じGRでもフルモデルチェンジに近い製品。どうせ変えるならば、思い切って特徴を出した製品にしたかった」という。その結果が、驚くほど大きな高解像液晶の搭載につながったわけだ。

 その16.1インチ液晶パネルはA31pのFlexView液晶パネルほどの品質はないが、左右が160度、上下は上方向50度、下方向60度の視野角を持っている。A31p用パネルとの差は視野角のほか、色域の広さや表面コーティングの品質差などを感じるが、その分だけA31pが高価なことを考えれば十分に納得できるクオリティを持っている。比較対象がA31pではなく通常のハイエンドノートPCならば「非常に優れている」と言える液晶パネルである。

 またXRで好評だったステンレス製メカキーを採用したキーボードが、今回のモデルから復活している。機構がXRとは異なるようで、全く同じタッチに仕上がっているわけではないが、適度な打鍵感はなかなか快適だ。また打鍵音もXR用キーボードよりも抑えられている。

 さらにGRシリーズで一貫して目指している、静粛性についても今回は大きな変更を施しているという。新GRではモバイルPentium 4を搭載すると同時に、グラフィックスにも高性能のMOBILITY RADEON 7500(ビデオメモリ32MB)を搭載しているが、これらを効率的に冷やすために2系統の冷却システムを搭載し、プロセッサとグラフィックチップを別々に冷やしている。これによりファンの回転数を抑え、負荷がかかっているときにも静粛な冷却を行なえるようにした。もちろん、ファンの回転制御は内部温度に応じて動的に行なわれる。

 参考までに強化されたグラフィックのパフォーマンスを紹介すると、32bitカラー XGAでの3D Mark SEの結果は4,119で、上位のアクセラレータを持つA31pには劣るものの、こちらもノートPCとは思えない性能を発揮している。外部ディスプレイ出力に関しても、A31pと同等の性能があり、セカンダリディスプレイに高解像のスクリーンを表示させることができる。

 また、3Dアニメーション制作ツールの定番であるLightWave 3Dの機能限定版が付属している点も見逃せない。コンシューマ向けに3Dグラフィック制作アプリケーションが、どこまで受け入れられるかは疑問も残るところだが、はじめて3Dグラフィックに触れるユーザーも意識し、オンラインチュートリアルも新たに制作しプリインストールしている。

 35万円前後という価格も絶対的な金額としては大きいが、巨大な液晶パネルと品質の高いキーボードを見ると妥当であろう。実際に試用してみたA31pとは異なり、新GRを自宅で試用はしなかったためこれ以上のコメントは控えるが、開発者の「ユーザーが直接PCに触れる部分を大切にしたい」という言葉を、今後の製品にも活かして欲しいと思う。

 これら2機種は、ビジネス向けとコンシューマ向け、それぞれの方向で開発されたものだが、いずれもハイエンドのデスクトップPC置き換えを本気で進めたいユーザーには、有力な選択肢になるのではないだろうか。僕が実際にデスクトップPCから離れて仕事をするまでには、まだ若干の時間がかかりそうだが、今何か1機種を選べと言われれば、この2機種のいずれかを選択するだろう。

【お詫びと訂正】 初出時にバイオ「PCG-GRX90/P」用にポートリプリケータがない旨の記述がございましたが、「PCGA-PRGX1」として製品化されております。ご迷惑をおかけしました関係者にお詫びして訂正いたします。


□製品情報(ThinkPad A31p)
http://www-6.ibm.com/jp/pc/thinkpad/tpa31p23/tpa31p23a.html
□製品情報(バイオノートGR)
http://www.sony.co.jp/sd/products/Consumer/PCOM/PCG-GRX90/
□関連記事
【3月6日】日本IBM、モバイルPentium 4 1.7GHz-Mを搭載したThinkPad A31p
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0306/ibm.htm
【3月5日】ソニー、16.1インチ UXGA液晶搭載のバイオノートGR
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0305/sony.htm

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(2002年4月3日)

[Text by 本田雅一]


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