ROBODEX2002レポート番外編

人工筋肉の腕と、木製の足で注目を集めた
英Shadow Robot Companyインタビュー


Shadow Robot Companyのブースは連日盛況だった

 2000年を大幅に上回る出展者と入場者を集めたロボット博覧会「ROBODEX2002」。ソニー、ホンダのブースはもちろん大混雑だったが、その一方でいくつかの小さなブースにも多くの人が押し寄せた。「The Shadow Robot Company」という見慣れぬ会社のブースもその1つだ。

 そのブースに展示されているのは、たくさんの黒いチューブがくっついたロボットアームと足。足のほうは、フレームが木製であることにも目を引かれる。チューブは空気圧で動作する人工筋肉「エアマッスル」(*1)だ。動作させるたびに「プシュー」という圧搾空気の音がする。黒を基調としたブースとあいまって、まるで“スチームパンク”の小説から抜け出てきたロボットのように見える。

 Shadow Robot Companyはイギリスからやってきた出展者で、今回唯一の海外からの出展者でもある。日本のお家芸と思われがちなロボットだが、ヨーロッパでの状況はどうなのだろうか。同社のテクニカルディレクター、Rich Walker氏にお話を伺った。



■“影”のようなロボットを目指して

The Shadow Robot Companyのテクニカルディレクター Rich Walker氏
-「The Shadow Robot Company」の沿革を教えてください。

Rich Walker氏(以下、「RW」と表記) '87年に、ある会社からロボット研究プロジェクトの依頼を受けたRichard Greenhillが「Shadow Project」を立ち上げました。このときのメンバーは12人ほどでした。これがShadow Companyの元になりました。ロボットの研究など無益だ、と言われていた頃のことです。

-大学などでロボットを研究していた人たちが、メンバーとして集まったのですか?

RW いいえ。たとえば私がケンブリッジで学んだのは数学とコンピュータサイエンスです。プロジェクトには大学を出ていないメンバーもいます。ロボットを作りたいという意欲があったから、メンバーになれたのです。

-どのような組織、人がShadow Companyに出資したのですか?

ブースに掲示されたShadow Robot Companyについての説明
RW 出資者は基本的にいませんでした。自分たちがやりたいから、自分たちのできる範囲でやっている会社です。また、全員が常勤で働いているわけでもありません。

 エンジニアとしては、自分の作りたいものに信条をかけられるなら、それにお金や時間を費やすのはかまわないのです。誰かにお金を出してもらって仕事にしようとは思っていません。

-Shadow Companyの収入源は?

RW 「エアマッスル」のようなパーツを売っています。現在は、研究を次の段階へ進めるために、出資者を探しているところです。

-なぜ会社に“Shadow”という名前を付けたのですか?

RW Shadow(影)は常に人と一緒にいるものですが、場所をとらないし邪魔にもならない。そこに居てあたりまえの存在。影のように存在して、なんでもやってくれるロボットを作ることを目指しているからです。



■人型ロボットへの抵抗感は無い

2足歩行する「Shadow Biped(バイペッド)」
-ロボットの市場はありえると思いますか?

RW ありえます。そのために私は時間を費やしてきたので、市場がありえなければ困ってしまいます。

 今まで、ロボットは人を笑わせたりするような、エンターテインメントのためにあるもの、と思われてきました。ロボットの開発などお金にならなくて、時間の無駄だと思われてきたのです。

 今、やっとロボットというものがヨーロッパでも陽の目を見始め、ロボットの必要性が理解され始めました。もう少ししたら、ヨーロッパの人もロボットのことを真剣に考えるようになって、市場が成立していくと思います。

-御社のロボットはいくらくらいで発売できますか?

RW 1台200~400万円くらいでしょう。ロボットは家電や車と違って、1台で多くの機能を備えています。それに、人間がやりたくないことをやってくれるのですから、200万くらいなら安いものでしょう。

-日本では「欧米の人はヒューマノイドタイプのロボットに抵抗感がある」と言われているのですが。

RW 今ではそうした抵抗はありません。たとえばイギリスでは、「RED DWARF(宇宙船レッド・ドワーフ号)」や「The Hitchhiker's Guide to the Galaxy(銀河ヒッチハイク・ガイド)」といったテレビ番組で、私たちが目指すような、人間を助ける人型ロボットが描かれたりしています。ロボットができること、ロボットに対するニーズが理解されてきています。

-日本でロボットを開発している人たちは、多かれ少なかれロボットアニメの影響を受けているようです。日本製のロボットアニメは見たことありますか?

RW うーん、あるけど名前が思い出せない……「マジンガーZ」? 見たことありませんね。「トランスフォーマー」? ああ、それなら見たことありますよ。

 SF小説などの影響はありますが、ロボットアニメの影響はありません。ロボットアニメを見て「このロボットはここをこうしたらいいのに」とは考えたことはあっても、アニメから影響を受けたことはありません。


■2足歩行よりも“腕”が重要

ロボットアーム「Shadow Dexterous Hand/Arm」
-あなたがたのロボットは、人工筋肉「エアマッスル」を使っているのが大きな特徴ですね。

RW エアマッスルなど成功しない、完成できない、と言われてきましたが、微妙なバランスや柔軟性を実現できるエアマッスルでなければ人間に近いものは作れないと、私は考えていました。

-エアマッスルのような人工筋肉よりも電気モーターを使うほうが、微細な制御をしやすい、という意見もありますが。

RW エアマッスルでも微細な制御は可能です。さらに、エアマッスルのほうが耐久性に優れ、柔軟性に富みます。例えば、電気モーターでは、1つのモーターごとに動く方向が決まってしまっていますが、エアマッスルなら様々な方向に動かせます。

 今、私たちは義手として使える「腕」の完成を目指してます。床にある物を拾い上げたり、テーブルにあるものをめくったりできるような、人間の腕のかわりになるロボットアームです。危険な作業など、人がいやがる作業をロボットアームにさせるのです。

Dexterousの水平チョップ(?) Dexterousの動作(空気の音と腕の筋肉の動きに注目) Dexterousと握手
再生(約2.0MB/16秒) 再生(約1.6MB/12秒) 再生(約1.9MB/16秒)

-ブースには足だけのモデルも展示されてますが。

RW あれはあるところから依頼を受けて開発したものです。どこから依頼されたのかは契約上明かせませんが。今はもう開発していません。

 今、2足歩行ロボットへのニーズはありませんし、たいていの状況では、足ではなく車輪で済みます。いずれは2足歩行に対するニーズが出てくるかもしれないので小規模な研究は進めていますし、ニーズがあると判断すれば作ります。でも、今重要なのは腕です。技術的にも、腕の制御のほうが奥が深いと思います。

8本足の地雷探査ロボット「Shadow Deminer」
-人型のロボットを作ろうとしているわけではないのですか?

RW はい、私たちは人型のロボットを目指しているわけではありません。4本腕のロボットのニーズがあればそれを作ります。

-フレームに木を使ったのはなぜですか?

RW たまたま立ち寄ったシステムキッチンのショウで、無料で手に入ったのがきっかけでした。加工しやすく、再利用もしやすいので、今でも使っています。

 ロボットといえば金属でできているのがあたりまえだから、木を使っていると逆に注目を集められますしね。ニーズがあれば金属に置き換えることも可能です。



■インタビューを終えて

 インタビューにもあるように、Shadow Companyは大資本をバックにした大きな会社ではない。むしろ“同好会”と呼びたくなるような雰囲気さえ漂う。

 そのため、彼らのロボットはソニーやホンダのそれに比べれば、洗練された仕上がりとは言えない。が、空気を利用した人工筋肉へのこだわりや、フレームに木を採用する独創性は印象深く、これこそが彼らの小さなブースに多数の人を集めた要因だろう。

 なにより、「夢」や「シーズ」が先行しがちな、日本のロボットを取り巻く状況と正反対の姿勢が興味深い。「現実性」や「人々のニーズ」に徹底して従順であろうとする姿が示唆するものは、大きいように思えた。

「人工筋肉」とは

 多くのロボットではアクチュエータとして回転運動をするモータが使用されるが、人工筋肉は回転運動ではなく本物の筋肉と同じように伸縮運動をする。伸縮運動は車輪や歯車を回転させるには不向きだが、動物の腕や足のように実装することで、多関節ロボットに応用できる。

 人工筋肉としては、高分子の運動を利用したものや、普通のモータと同じく磁力や超音波を使ったもの、形状記憶合金を使ったものなどが開発されているが、Shadow Robot Companyでは空気圧を使った人工筋肉が使用されている。そのため、動作させるにはコンプレッサーが必要になる。

 Shadowの空気式人工筋肉の外観から推測すると、「表面積が増えにくい素材を使った細長い管に空気を入れると、体積が増加して太くなる代わりに長さが短くなる」という動作原理に基づくものと思われる。本物の筋肉の筋繊維のように、細長い管を大量に束ねて実装している。


□The Shadow Robot Companyのホームページ(英文)
http://www.shadow.org.uk/
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ロボット関連記事リンク集
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/link/robo02_i.htm
【3月28日】「ROBODEX2002」プレスプレビューレポート Part2
~ソニーの球体ロボ「Q.taro」やジンジャー風ロボ「ロボビーIII」など
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0328/robodex4.htm
【3月28日】日本人は人間型ロボットに浮かれすぎ?
~ROBODEX2002記者会見レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0328/robodex3.htm
【3月27日】開幕前夜! プレスプレビューレポート
~28日よりパシフィコ横浜で開幕
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0327/robodex1.htm

(2002年4月2日)

[Special Thanx to Miyakoshi Rimi / Ueda Kyoko / Shirane Masahiko]
[Reported by tanak-sh@impress.co.jp]


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