講演終了後、写真撮影に臨むスティーブ・ジョブズCEO。San Francisco Expoと同様の構図で、同様に満足げな微笑み |
会期:3月21日(祝)~23日
会場:東京ビッグサイト(東2、3ホール)
入場料:2,500円
(12歳以下無料)
珍しく講演冒頭に登場した『本日のお品書き』。サプライズ好きなジョブズCEOらしからぬ展開。Bluetoothの文字が大きな期待を抱かせた |
「さぁ、始めよう」。いつも通りのフレーズで始まった講演だが、今回は少しばかり趣が異なった。通常なら聴衆をビックリさせるための『サプライズ』を懐に隠し、ニュースや新製品は小出しに小出しに展開していくところだが、今回は冒頭から講演内容のインデックスを公開してしまった。インデックスは順に、「Mac OS X」、「Digital Hub」、「iMac」、「Bluetooth」、「Cinema Display」、「iPod」。このなかでは、これまでAppleが口にすることなかったキーワード「Bluetooth」が、一気に聴衆に大きな期待を抱かせる。
●Mac OS Xのアプリケーションの充実を強調してスタート
第一のテーマに挙げられた「Mac OS X」は、正式出荷から1年が経過。すでにフェーズは、OSの開発段階からアプリケーションの充実へと移行していることもあり、このセクションではサードパーティ、および自社ソフトウェアのプレゼンテーションが中心になった。今日現在、2,650本というMac OS X対応のアプリケーションがあることを前置きして、各社を順にステージへと招き入れていく。
最初に登場したのはAdobeのShantanu Narayen上級副社長。同氏はすでにMac OS Xに対応したIllustrator10.0やAfterEffect5.5などに加え、出荷されたばかりの「InDesign 2.0」を紹介。日本語組版への対応や「GoLive 6.0」との連携を強調した。そのうえで「今日、皆さんが一番待っている製品」と前置きして、日本語ベータ版となったMac OS X対応のPhotoshopのデモを行なった。すでに英語版は何度か公開されているが、日本語対応のベータ版は初公開。なお、未発表の製品ということで、デモは基調講演に限られ、展示会場の同社ブースでは見ることができない。
続いてエルゴソフト会長兼社長の襟川陽一氏が登壇。信長の野望や三国志シリーズなど、数々の歴史シミュレーションゲームでは「シブサワコウ」の名でゼネラルプロデューサーも務める同氏は、Mac OS Xならではソリューションとして「EG BRIDGE」、「EG WORD」とヒラギノフォントによる字体の拡張を紹介。同機能は何度も紹介されているデモだが今回は『ワタナベ』姓がサンプル。さらに、自分の仕事のなかでも三国志に登場する武将名の正確な表記など、これまでは表示できなかった文字が表示できることの有効性をアピールした。
さらにファイルメーカーはiモードとの連携による商品検索を紹介、Apple Computerは「Final Cut Pro 3」を使ったリアルタイム編集、そしてルーカス・アーツが、「Maya」と「After Effect」を使って「StarWars:Episode2」制作の一過程など、いずれもプロ向けといえるソリューションの一端を示した。さらにルーカス・アーツは、日本では初公開となる「StarWars:Episode2」の最新予告編を公開するなど、かなりのサービスぶりを見せた。
続いてDigital Hubをテーマに、iMovie、iDVD、iTunesなどお馴染みのiアプリケーションの紹介とデモが行なわれたが、それらはNew YorkやSan Franciscoで行なわれたデモの素材を変えただけのもので特に目新しい内容はなかった。最後にデモを行なった「iPhoto」も、内容的には今年1月にSan Franciscoで行なわれたものと同様だが、日本ではまだサービスが開始されていないオンラインでの写真プリントオーダーについて、富士写真フイルムと準備を始めていることを明らかにした(米国内ではKodakがすでにサービスを提供している)。日本国内では年内のサービス開始を予定しているという。なお、日本で行なわれていないもうひとつのサービス「フォトブック」のオーダー開始時期などについては、特に明らかにされなかった。なお、iPhotoは発表から60日間で100万本のダウンロードを記録したという。
Mac OS X対応のファイルメーカーProで、iモードによるサービスとの連携をデモするファイルメーカー | ルーカスアーツによるバトルドロイドと兵士の戦闘シーンの制作過程。アプリケーションにはMac OS X版の「Maya」が使われている | 自ら各iアプリケーションをデモしてみせるスティーブ・ジョブズCEO |
●部材価格の上昇によってiMacは一律2万円の値上げに
iMacについては、簡単な紹介と4月から放映されるという新テレビCM、そして販売店店頭などで上演されるプロモーションビデオを公開。その後、ジョブズCEOはiMacには「グッドニュース」と「バッドニュース」があると切り出した。まず「グッドニュース」は、iMacがヒットしているという事実だという。
ジョブズCEOは「それほど出荷されていない」という見方があることを否定。数日前までの時点で、累計125,000台のiMacを出荷したことを明らかにした。また全米で展開されているAppleのリテールストアへの出荷が優先されているという見方についても「リテールストアでの販売台数は全体の10%以下に過ぎない」とこれまた否定した。
そしてようやく量産体制が整ったとして、今後は一日あたり5,000台のペースで出荷を行なうことができるという。1月末の出荷開始から60日程度で12万台余ということは、だいたい一日2,000台のペース。おおざっぱに見れば、今後は2.5倍程度の出荷が行なわれるということになる。これによって、バックオーダーが解消されるのが、グッドニュースというわけだ。確かに、注文済みのユーザーおよび同社にとってはグッドニュースだが、厳しい見方をすればこのあたりは生産態勢の見通しの甘さでもあり、諸手をあげてグッドニュースとは言い切れない部分でもある。
問題のバッドニュースだが、こちらは購入予備軍にとって深刻だ。iMacの発表以来、部材の原価が上昇している。ジョブズCEOは「フラットパネルディスプレイは25%、メモリ価格は200%も上昇した。これは業界全体に影響している」という。ジョブズCEOは「メーカーは選択を迫られている。スペックを落として価格を維持するか、あるいはスペックを維持して価格を上げるかだ」と述べ、Appleの選択が後者であることを明らかにした。
同氏は「100ドル、150ドル、200ドルという選択肢があるなか、我々は100ドルの値上げに踏み切る」と最善の選択を強調したが、北米価格が一律100ドルの値上げのなか、日本国内の価格は一律2万円のアップ。為替レートを考えれば、日本では150ドルの値上げを選択されたに等しい。確かに、これまでのiMacの価格設定は、為替レートを考えれば日本の価格はかなり頑張ってきた内容なのでいたしかたない部分もあるが、その分が今回そっくり返された格好だ。
ちなみにこの価格変更は3月21日付で適用されるが、すでにAppleStoreや販売店にオーダー済みの製品については適用されない。
●Bluetooth普及のきっかけをアップルからという強い意欲
そしてBluetoothへと話題は移る。ここでジョブズCEOはワイヤレス技術の有効性に言及。いちはやくAirMacとしてIEEE 802.11bを普及させたように、周辺機器の接続をBluetoothにも対応させていく方針を示した。スライドでは、Ethernetに対するAirMac、USBやFireWireに対するBluetoothという位置付け。デモンストレーションでは、CLIEに以前からソニーがサンプルとして公開しているメモリースティックタイプのBluetoothモジュールを取り付け、Macintoshとの間でHotSyncを行なって見せた。またNTTドコモのBluetooth内蔵PHS(シャープ製)を利用して、MacからPHS経由のインターネット接続を行なって見せた。
実はAppleが用意したVIP席にはソニーの出井伸之会長が列席しており、この時点でなんらかのコメントが寄せられることも予測されたが、それは実現せず淡々とステージは進行していった。
OSレベルでのBluetoothのサポートは、Mac OS Xの次期アップグレードで正式に提供されることになるが、ベータ版は本日付けでダウンロードによって使えることになるという。Mac側のBluetooth対応は、USBポートに直接取り付けるタイプのモジュールを6,000円で5月から出荷すると明らかにした。米国では4月から49ドルで提供されるが、日本国内で販売が遅れるのは認定の遅れによるものだという。
ここでジョブズCEOは「Appleは、初めてEthernet端子を製品に搭載したメーカー。さらにUSBを(初代iMacによって)大きく普及させた。IEEE 802.11bもAirMacでいち早く導入している。だから、我々は(いまひとつ普及の遅れている)Bluetoothを実用的に機能させうる最先端にいる」と強調した。
●新製品はHD対応のシネマディスプレイと10GBのiPod
ジョブズCEOの手土産ともいえる新製品は、High Definition(高精細)対応のシネマディスプレイ。23インチサイズで1,920×1,200ドットの表示が行える。価格は449,800円とそれなりに高価だが、より広い視野角と美しい発色を実現しているという。
もうひとつ、iPodの製品ラインが更新されている。内蔵されているハードディスクデバイスのラインナップを製造元の東芝が拡張したこともあって、10GB板の登場はユーザー間で期待されていたが、予想通りの登場となった。10GB版の日本における販売価格は62,800円。約2,000曲を記録でき「東京とサンフランシスコを6往復しても二度同じ曲を聴くことがない」と例えた。
iPodの機能拡張は他にふたつある。ひとつはポータブル機器としてのパーソナライズに関するもので、iPodをAppleStoreで購入する際、レーザー刻印による文字の書き込みができるサービスが提供される。価格はiPod本体価格に6,000円の上乗せということだ。そしてもうひとつ、iPodを簡単なアドレス帳として使える機能が追加される。新しく出荷されるiPod、そして既存のiPodはソフトウェアをアップグレードすることで、メニューに『Contact』という項目が追加される。このデータはvCardの仕様になっているので、Palm OS、MicrosoftのEntorage、そしてMac OS Xのアドレス帳のデータと互換性がありインポートできるようになっている。
これらの紹介を総括して、約100分間の基調講演は終了した。本体ハードの発表がなかったことで、場内が大きく沸くようなこともなかったが、デモなどで大きなトラブルはなく講演は淡々と進行した感がある。Bluetoothのデモは、内容的には既に他社もさんざん公開してきた内容ではあるが、ジョブズCEOのいうとおり普及と言えるまでには至っていない。今回はベータ版という位置づけだが、Apple Computerがこのレベルのハードウェアソリューションをこうした大きな舞台で公開してくることは最近では極めて希な事例といっていい。その背景にある同社ならではの今後の展開に期待を寄せることとしよう。
10GB版iPodの価格は62,800円。このとき会場からは、重いどよめきが起こった | レーザー刻印によるパーソナライズは、AppleStoreでの購入時に受け付け。本体価格に6,000円が上乗せされる。日本語の刻印ももちろん可能 | iPodに転送されたvCardデータ。このとおり、日本語の表示も行なえる |
□Macworld Conference & Expo/Tokyo 2002のホームページ
http://www.idg.co.jp/expo/mw/
(2002年3月21日)
[Reported by 矢作 晃(akira@yahagi.net)]]