プロカメラマン山田久美夫のCeBIT 2002 Hannover レポート

カシオ、厚さ11mmの130万画素デジカメ「EXILIM」を公開

会場:Hannover Messe
会期:3月13日~20日(現地時間)




 今回のCeBITは、デジタルカメラ業界ではなかなか見どころの多いイベントだったが、なかでも、開催2日目にカシオから発表された、厚さ11mmの超薄型本格派デジタルカメラ「EXILIM(エクシリム)」は非常にインパクトのあるモデルだった。


●QVの原点に立ち返った新世代モデル

 現在のデジタルカメラの元祖、液晶モニター付きデジタルカメラ「カシオ QV-10」が発売されてから7年あまりが経った。

 その間に、デジタルカメラは高画素で高機能になり、カメラとしての完成度を高めてきた。しかし、当時「QV-10」を初めて使った時のように、楽しそうでワクワクするデジタルカメラはきわめて少なく、ひたすら“カメラ”としての完成度を追求してきたきらいがある。

 これは世に「QV-10」を送り出したカシオも同じことで、ここ数年、カメラとしての機能を充実させたモデル展開がメインとなっている。

 だが、本当にそれが正しかったのか? その結果として、銀塩カメラの置き換えという用途に特化し、デジタル本来のよさや、初代「QV-10」のような楽しさをスポイルしてきたのではないだろうか……。

 この単純だが、とても重要な課題へのチャレンジの第1弾が、今回の新ブランド「EXILIM」だ。

 カシオはCeBIT会場で行なわれた発表会で、「カシオの歴史は、デジタル技術を元に、人々を幸せにする歴史だった。そして、'95年、現在のデジタルカメラの起源といえる「QV-10」を送り出した。」、「デジタル技術で人々の生活に革新を持たらしてきたカシオが、(このモデルを)たくさんの人々の新しい生活のために送り出したい」と、EXILIMに対する意気込みについて語った。


●いつも楽しめる小さな常用機

 「カードサイズにすることで、デジタルカメラをいつでも持ち歩く世界になる。それを今日発表の新機種によって実現していきたい」

 これが「EXILIM」のコンセプトであり、その発想の原点といえる。

 薄さわずか11mm。名刺入れにさえ収まってしまう、液晶付きの130万画素モデル。言い換えれば、いつでも気軽に持ち歩けるサイズで、サービス版程度のプリントでも実用十分な画質が得られるデジタルカメラだ。

 まず、実機を見て驚くのが、その小ささと薄さ。

 カシオのスタッフが、この「EXILIM」をワイシャツの胸ポケットや背広の内ポケットから、サッと取り出して見せてくれるのだが、本当に持っていることすら忘れそうなほど、軽量かつコンパクト。試しに自分の名刺入れに入れてみたが、楽々収まってしまった。

 発表会では、薄さで話題の200万画素ズーム機「DiMAGE X」と比較できるようになっていたが、本機と並べると、急に大柄なモデルに見えてしまうほど。単焦点モデルとはいえ、薄さも「DiMAGE X」の半分しかない点も驚きだ。

 さらに、本体の外装はステンレス製で質感も高く、安っぽさを感じさせないデザインになっている。


●薄いだけじゃない、本格派モデル

 本機の凄さは、その薄さだけではない。本当のよさはカメラとしての軽快さやバランスの良さといった、総合性能の高さにある。

 まず、CCDは1/2.7インチの130万画素タイプ。形式としては全画素読みだしのプログレッシブスキャンタイプを採用している。発表会での話によると、このCCDは本機用に新開発されたものという。

 通常、130万画素クラスは、より小型の1/3.2インチが主流になっているわけだが、1/2.7インチをあえて採用することで、高い実効感度と優れた画質を追求しているという。もちろん、1/2.7インチCCDは200万画素クラスが主流であり、今後はより高画素CCDも登場する可能性が高いことを考えれば、今回の130万画素という画素数は、あくまで“第1弾”と考えても良さそうだ。

 レンズは単焦点タイプ。しかも、薄さを最優先させたこともあって、CCDとレンズを1ユニットで構成しており、ピントも固定焦点式になっている。そのため、マクロ撮影はできない。

 だが、固定焦点式でAF動作がないため、シャッターを押した瞬間が写るといってもいいほど、シャッターレスポンスのいいモデルに仕上がっている点は大きな魅力だ。

 また、レンズが沈胴式ではなく固定式であり、内部処理もきわめて高速なこともあって、起動時間は1秒程度。記録待ち時間も事実上皆無で、使用感は実に軽快だ。

 もちろん、ズームはなく、マクロ撮影もできないため、万能モデルという感じではないが、いつも気軽に持ち歩いて、パッと撮影できる、実に軽快な操作感を実現していて、スナップ用モデルとしてとても好感が持てた。再生表示も速く、コマ送りもほぼ瞬時といえるほど高速な点も大きな特徴といえる。

 記録媒体は、14MBの内蔵メモリーのほか、SDメモリーカードも利用できる。130万画素機なので、14MBもあればそれなりの枚数の撮影ができるため、万が一、SDメモリーカードを忘れたり、カードがいっぱいになっても、それほど困ることはないだろう。

 バッテリは充電式。基本的には付属のクレードルを介して、内蔵メモリーやSDメモリーカードからのデータ転送と同時に充電も行なわれる。



●屋内でもストロボなしでOK

 本機はストロボも内蔵しているが、実際に会場内で撮影してみると、欧州特有の暗めのコンベンション会場でも、ストロボなしで手ブレをほとんどせずに撮影できる点に感心した。今回はまだ試作機だったため、撮影した画像をPCで見たわけではないが、本体の液晶モニタで拡大表示してもブレを感じることはなった。

 また、背面の液晶モニタが明るくクリアで、表示レスポンスも早く、とても心地よかった点も印象に残った。

 これらは1/2.7型で130万画素という、光量や階調性で余裕のあるCCDを搭載している点が、軽快さに大きく貢献しているのはいうまでもない。

 ブースには実際に本機のベータ版モデルで撮影し、ラボでLサイズにプリントしたものが展示されているが、130万画素とはいえ、それほど不満を感じるようなことはなかった。むしろ、この薄さの130万画素機でも、なかなかバランスのいい写りを実現している点に好感が持てた。



●デジタルの楽しさを堪能できる常用機

 今回は、会場内で触れた程度で、屋外などで実写することはできなかった。だが、ごく短時間使っただけでも、想像以上に完成度が高く、しかも、使っていて楽しいデジタルカメラと久々に巡り会ったという感じがした。

 もちろん、130万画素の単焦点機というスペック面での物足りなさは拭いきれないが、それはあくまでも、本機をメインカメラとして考えた場合のこと。

 むしろ本機は、すでにデジタルカメラを持っている人のサブモデルと考えれば、十分に好ましいものに思えた。また、MP3搭載でボイスメモ機能がついた、1mmだけ厚い上級機「EX-M1」は、カメラ機能はもとより、日常ツール的な楽しみ方もできそうだ。

 今後、「EXILIM」がシリーズ化され、200万画素クラスになり、マクロ機能が搭載されれば、さらに幅広いユーザーに支持されるモデルに成長しそうだ。

 今回の「EXILIM」を見て一番嬉しかったのは、サイズやデザインは大きく異なるが、その“楽しさ”が初代「QV-10」に一脈通じるものを感じることができた点だ。久々に、“デジタル”のよさをフルに活かしたモデルといえる。

 ドイツでの価格は、最高でも500ユーロ以下とアナウンスされているが、実際にはもっと手頃な価格になると思われる。欧州での出荷時期は7月を予定しているという。もちろん、日本国内でも発売されるが、現時点では価格・発売時期ともに未定。

 ここ数年、デジタルカメラの判断基準は、画素数やズームレンズの有無といった機能面がメインだったが、このモデルの登場で、それに「楽しさ」という要素が加われば、デジタルカメラはさまざまな呪縛から離れてもっともっと自由で楽しいものへと成長してゆくと思われる。

 今回の「EXILIM」は、初代「QV-10」を企画したスタッフの手によるものであり、カシオらしいチャレンジ精神が感じられる、期待の新シリーズである。今後の展開が大いに楽しみだ。

□CeBIT 2002のホームページ(英文)
http://www.cebit.de/homepage_e/
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【3月14日】カシオ、厚さ11mmのカード型デジカメ「EXILIM」を発表
~上位モデルはMP3再生機能を搭載
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0314/casio.htm

(2002年3月15日)

[Reported by 山田久美夫]


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