CeBIT 2002 Hannoverレポート

ATI TechnologiesがRADEON IGP340など統合型チップセットを発表

会場:Hannover Messe
会期:3月13日~20日(現地時間)



 グラフィックスベンダのATI Technologiesは、これまでコードネーム“A4”で呼ばれてきた、Pentium 4用の統合型チップセットを「RADEON IGP 340/330」、さらには“A3”で呼ばれてきたAthlon/Duron用の統合型チップセットを「RADEON IGP 320」として発表した。

 グラフィックスコアとしてはRADEONの廉価版であるRADEON VEを統合し、さらにはA-LINKと呼ばれる専用バスでサウススブリッジが接続されるというユニークな構成になっている。本レポートではその発表会の模様と、製品の特徴などについて説明していきたい。


●「RADEON IGPはすべてのプラットフォームに対応する」とATIのシャッカワー氏

 今回ATI Technologies(以下ATI)が発表した、RADEON IGP(Integrated Graphics Processor)シリーズのような統合型チップセットへの注目が高まっている背景には、PCの低価格化という大きな流れがある。

 通常の単体型グラフィックスチップを接続した場合、ローカルにフレームバッファとなるビデオメモリを搭載する必要がある。ところが、統合型チップセットの場合には、グラフィックスコアはチップセットに内蔵されていて、しかもフレームバッファとしてメインメモリの一部を使用するため、ビデオメモリは必要が無くなる。

 つまり、統合型グラフィックスでは、グラフィックスチップそのものと、ビデオメモリの分のコストを削減できるため、コスト的なメリットが非常に大きく、大手PCメーカーのローエンド向け製品は、統合型チップセットが当たり前のように採用されている。

 今後も、PCの低価格化が進むと見られているため、メインストリームの大部分も統合型になり、RADEON 8500やGeForce4のような単体チップは、よりハイエンドのみになっていくというトレンドが予想されている。実際、ATI インテグレーテッドビジネスユニット マーケティングディレクターのラジェシュ・シャッカワー氏は「IDCの調査によれば、2004年までにデスクトップでもノートブックでも市場の大部分を統合型が占めるようになると予測されている」と述べ、今後成長がのぞめる市場であることを強調した。

 RADEON IGPシリーズには、デスクトップのPentium 4に対応したRADEON IGP 340/330、モバイルPentium 4-Mに対応したRADEON IGP 340M、デスクトップのAthlon XP/Duronに対応したRADEON IGP 320、モバイルAthlon 4/Duronに対応したRADEON IGP 320Mの4製品が用意されている。「IntelとAMDで、Windows PC市場のほぼ100%に達する。RADEON IGPシリーズはそうしたすべてのプラットフォームに対応する」(シャッカワー氏)と強調した。

 「このように、AMD/Intel、デスクトップ/ノートブック、いずれのプラットフォームにも対応する柔軟性をFLEXFITと呼んでいる。OEMメーカーは、RADEON IGPシリーズを利用することにより、同じBIOS、同じドライバを利用して柔軟に複数のプラットフォームに対応できるようになるほか、企業のIT担当者にとっては管理が容易になり、TCOの削減につながるというメリットがある」と述べ、複数のプラットフォームに対応することで、OEMメーカーが開発にかかる期間の短縮や、管理コストの削減というメリットがあると述べた。

ATI Technologies インテグレーテッドビジネスユニット マーケティングディレクターのラジェシュ・シャッカワー氏 IDC調査によるPCにおける統合型チップセットの割合。年々増えていくことがわかる 2001年の1月にIntelとクロスライセンスを結んでいるATIは、Pentium 4向けチップセットを出荷することができる。これにより、Intel向け、AMD向けの両方のソリューションを揃えることができる


●RADEON VE相当のグラフィックスコアを統合したRADEON IGPシリーズ

 今回発表されたRADEON IGPシリーズには、モバイル版も入れると、5種類が用意されているが、各ノースブリッジのスペックは次のようになっている。

【表1:RADEON IGPシリーズのスペック】
 RADEON IGP340RADEON IGP330RADEON IGP340MRADEON IGP 320RADEON IGP 320M
ターゲット市場デスクトップデスクトップモバイルデスクトップモバイル
CPUPentium 4Pentium 4モバイルPentium 4-MAthlon XP/DuronモバイルAthlon 4/Duron
システムバス533/400MHz400MHz400MHz266/200MHz266/200MHz
コアクロック183MHz150MHz183MHz160MHz160MHz
メインメモリDDR266/200(1チャネル)
バンク数4
最大メモリ容量1GB
グラフィックスコアRADEON VE相当
外部AGP2X/4X
省電力機能--POWERPLAY-POWERPLAY
インターフェイスPCIバス/A-LINK
製造プロセスルール0.18μm

 それぞれの製品の最も大きな違いはデスクトップ向けないしはモバイル向けとなっていること、340はPentium 4のシステムバス533MHzに対応しているのに対して、330は400MHzのみの対応になっていることがあげられる。また、モバイル向けの340Mと320Mは、ATIのMOBILITY RADEON 7500シリーズにも搭載されている省電力機能「POWERPLAY」に対応しており、ACアダプタの有無をトリガに、66MHzから各IGPの最高クロックまでクロックと電圧を段階的に変更していく。

 メモリバスは、いずれの製品もDDR SDRAMに対応。クロックは266MHz、200MHzに対応しており、1チャネル構成でピーク時帯域幅はDDR266使用時に2.1GB/secとなる。256MbitDRAMに対応しており、メモリソケットは最大で4バンク(2スロット)までの対応となるため、搭載メモリは最大で1GBまでとなっている。なお、333MHzのDDR SDRAMであるDDR333には対応していない。

 内蔵されているグラフィックスコアは、現行のRADEON 8500の1世代前となるRADEON(R100コア)シリーズの廉価版であるRADEON VEとほぼ同等の機能を持っている。

 このため、デュアルディスプレイ機能のHydraVision、レンダリングエンジンは1パイプライン×3テクスチャユニットとRADEONの半分で1クロックあたり3テクセルの描画が可能、Zバッファを効果的に行なうことで帯域幅を有効に活用するHyper Z、DVDの再生支援を行なうVideo Immersion(Motion CompensationやiDCTなど)、さらにはRAMDAC、TVエンコーダ、LVDSコントローラなども内蔵されているという。

 なお、外部AGPもサポートされており、より高い処理能力を持ったAGPビデオカードを挿すことで、3D描画性能を上げることも可能だ。

 気になるパフォーマンスだが、IGP 340がSiS650の倍、IGP 320はVIA TechnologiesのProSavage KM133にくらべて4倍で、NVIDIAのnForce 220(64bitメモリ)を若干上まわるというデータが公開された。

 結果はいずれも3D WinBench2000ベースで、DirectX6ベースの結果と考えることができる。ハードウェアT&Lに対応したDirectX7のベンチマーク結果(例えば3DMark2000のスコア)、nForceでも128bitの2チャネルDDR SDRAMをサポートしたnForce 420との比較は公開されなかった。これは、RADEON IGPシリーズがハードウェアT&Lに対応していないためで、ハードウェアT&Lに対応している結果を意図的に避けたと考えるべきだろう。そうした意味では、DirectX7対応のアプリケーションにおける性能は未知数で、nForceとの比較も含めて、登場した時にはそのあたりのパフォーマンスを検証していく必要があるだろう。

RADEON IGPのアーキテクチャ RADEON IGPシリーズのノースブリッジ、こちらはPentium 4用のIGP 340 こちらはAthlon XP/Duron用のIGP 320

グラフィックスコアを説明するスライド。基本的には1世代前のローエンド向けであるRADEON VEコアを統合している パフォーマンスを示すスライド。nForce 420との比較は用意されておらず、利用されたベンチマークも3D WinBench2000とDirectX6ベースだった


●専用バスA-LINKで専用サウスのIXPを接続可能

 RADEON IGPはユニークなアーキテクチャを採用しており、サウスブリッジとしてサードパーティ(例えばVIA)のサウスブリッジとATI自身のIXP(IO Communication Processor)の両方が接続可能となっている。サードパーティのチップセットを接続する場合には、PCIバス(32bit/33MHz、133MB/sec)で接続される。

 さらに、自社チップであるIXPを接続する場合には、A-LINKという専用のバスでピーク時帯域幅は266MB/secとなる。A-LINKはPCIバスと同じピンを利用するが、クロックは66MHzに引きあげられている。「物理層のデザインはAGPに似ている」(シャッカワー氏)とのことで、プロトコルは独自だが物理層はAGPに似たデザインとなっている。ローコストで帯域幅を引きあげ、さらにはPCIバスに対応したサードパーティサウスを接続するという条件を満たすための選択だが、柔軟度が高く、マザーボードメーカーにとってはデザインがしやすいのが特徴と言える。

 IXPにはUltra ATA/100に対応した2チャネルのIDEインターフェイス、4ポートのUSBポート(OHCI USB 1.1コントローラ×2、EHCI USB 2.0コントローラ×1)、PCIバス(リビジョン2.3、33MHz、5マスター)、AC'97リンク(SPDIFサポート)、LPC、3ComのMACを内蔵しMIIインターフェイスで物理層チップを接続可能というスペックになっている。

 なお、IXPには2モデルが用意されており、それがコンシューマ向けのIXP 200、企業向けのIXP 250だ。2つの違いは、企業向けのAlert Standards Forum(ASF)に準拠した警告機能、ネットワークからのブート機能、DMI(Desktop Management Interface)への対応、Wake On LanにIXP 250が対応しているという点で、それ以外の点に関しては同じとなっている。いずれも企業向けPCだけで必要な機能で、コンシューマユーザーであればIXP 200で十分だ。

IXPのデモチップが搭載されたマザーボード。ただし、これはモックアップで、実際のシリコンではないようだ IXPの機能を説明するスライド。3ComのMACとUSB 2.0コントローラが特徴


●GIGABYTE TechnologyとFICなどが会場で搭載マザーボードを展示

 以上のようなRADEON IGPのモデルを整理すると、次のようになる。

【表2】
セグメントノースブリッジサウスブリッジ
コンシューマ向け企業向け
Pentium 4(デスクトップ)
メインストリーム
IGP 340IXP 200IXP250
サードパーティ
Pentium 4(デスクトップ)
バリュー
IGP 330IXP 200IXP250
サードパーティ  
モバイルPentium 4-M
メインストリーム~バリュー
IGP 340MIXP 200IXP250
サードパーティ  
Athlon XP/Duron
メインストリーム~バリュー
IGP 320IXP 200IXP250
サードパーティ  
モバイルAthlon 4/Duron
メインストリーム~バリュー
IGP 320MIXP 200IXP250
サードパーティ  

 合計で4つのセグメントに、それぞれノースブリッジが投入され、サウスブリッジとしてIXP 200、IXP 250、サードパーティのサウスブリッジという3つの選択肢の中から選ぶことができる。つまり、合計で12通りの選択が可能になっているといってよい。こうした柔軟な選択が可能な点が、RADEON IGPの大きな特徴の1つだと言ってよい。製品の出荷時期だが、RADEON 320/320Mは5月に、それ以外のRADEON 340/340M/330およびIXP 200/250に関しては今年の夏に投入される予定となっている。価格などは未発表だ。

 なお、記者会見にはGIGABYTE Technologyの上級副社長兼システムプロダクツビジネスユニット ジェネラルマネージャのリチャード・マ氏が参加し、「GIGABYTEは戦略的パートナーとしてRADEON IGPの製品をいち早く出荷していきたい」と述べ、GIGABYTEがATIと密接な関係を維持していることを強調し、RADEON IGPに関しても力をいれてやっていくことを強調した。

 実際、大手マザーボードメーカーでRADEON IGPの製造を明らかにしているところは、GIGABYTEのほかはFICぐらいで、NVIDIAのパートナーであるASUS、MSI、ABIT、AOpenといったところはサポートを表明していない。このように、NVIDIA陣営とATI陣営とはっきりわかれているのは、そうしたビデオチップにおける激しい競争の余波である。

 GIGABYTEは、以前はNVIDIAのOEMメーカーで、NVIDIAのビデオチップを搭載したビデオカードを出荷していた。しかし、現在ではGIGABYTEはATIに乗りかえている。NVIDIAからATIに乗りかえた理由について、あるGIGABYTEの関係者は「NVIDIAからはよい条件が提示されなかったから」とビジネス上の理由であると述べている。

 要するに、NVIDIAには他にトッププライオリティとなるメーカー(具体的にはASUSTeK COMPUTERだ)があり、それに対抗するには、よりよい条件を提示してくれたメーカーに乗りかえた、ということだろう。ビデオチップにおける競争が、そのまま統合型チップセットにも適用されているのだ。

 そうした意味では、既に統合型チップセットの市場においても、NVIDIA、ATIという2大メーカーによる激しい綱引きが行なわれて行くことになるだろう。この市場には、VIA Technologies、SiS、ALiという既存のチップセットベンダも参入しており、Intelも含めて今後の動向には要注目と言える。

 エンドユーザーにとって、特にモバイルPentium 4-M用のRADEON IGP 340Mは歓迎すべき製品と言える。というのも、Intelは2002年中はモバイルPentium 4-M向けに統合型チップセットをリリースする予定はなく、OEMメーカーは単体チップセットに単体グラフィックスチップを組みあわせる必要があるため、どうしてもコストや実装面積が必要となる。

 ところが、RADEON IGP 340Mを利用すれば、PCメーカーは省スペースでローコストなモバイルPentium 4-M搭載マシンを作ることが可能になる。さらに、IXPと組みあわせれば、USB 2.0にもいち早く対応することが可能だ。そうした意味では、RADEON IGP 340Mはモバイルユーザーにとって要注目の製品と言える。

 また、デスクトップPC向けのRADEON IGP 340/330/320に関しても同様で、Pentium 4用のグラフィックス統合型チップセットは、今後登場するIntelのIntel845G、既に投入されているSiSのSiS650にくらべて高い3D描画能力を持っている点は評価してよい。PCメーカーはローコストで高い3D描画能力を持つPCが安価に提供することができるようになるわけで、今年の秋、冬モデルあたりで登場しそうな、RADEON IGPシリーズを搭載したPCに期待したいところだ。

発表会場に展示されていたGIGABYTE TechnologyのRADEON IGP 320を搭載したK7マザーボード。サウスブリッジにはVIAのVT82C686Bが採用されている 展示会場に展示されていたGIGABYTEのRADEON IGP 340を搭載したGA-8TRML。サウスはVIAのVT82C686B

展示会場に展示されていたFICのAT31。RADEON IGP 320を搭載したK7マザーボード ノートパソコンのODMパートナーとして、Quanta、Arima、FICといったメジャーベンダがなったことが明らかにされた。秋、冬のモデルには、RADEON IGPを搭載したノートパソコンが登場する可能性もある

□CeBIT 2002のホームページ(英文)
http://www.cebit.de/homepage_e/

(2002年3月14日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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