塩田紳二のLinux搭載PDAレポート
米国市場向け シャープ「SL-5000D」レビュー



SL-5500(写真は開発者向けのSL-5000D)。ボタンの絵や文字が違うほかは、概観はほとんど国内で販売されているMI-E21と同じ

 シャープ株式会社の米国法人であるSharp Electronicsは1月、Linux搭載のPDA「SL-5500」を発表した。外見は国内販売されている「Zaurus MI-E21」と同じだが、LinuxカーネルとJavaを搭載し、CPUにStrongARMプロセッサを採用(MI-E21は日立のSH-3シリーズSH7709S/144MHz)するなど、内部的にはまったく違うものになっている。

 他のPDA(米国では「Handheld」と呼ぶことが多いようだが)と違う点は、OSにLinuxを採用していて、カーネルのソースコードを含めて、ほとんどのハードウェア、ソフトウェア情報が公開されている点。情報はデベロッパサイト( http://developer.sharpsec.com/ )にある。

 米国のPDA市場では、Palmが大きなシェアを占め、それを各社のWindowsCE機が追う格好だが、そこに参入するシャープは「Linuxと情報公開」を武器に選んだのだ。

 ちなみにLinux搭載のPDAは、すでに「Agenda VR3」や、CompaqのiPaq HandheldなどのCE機にLinuxを搭載したものなどがある。今年に入って、Royal( http://www.royal.com/ )がLinux搭載PDAの開発を発表、Hewlett-Packardも2月のLinuxWorldでLinux+Java PDAの試作機を公開するなど、Linux搭載PDAはちょっとした「流行」となっている。



●外見は日本版Zaurusと同じ
【SL-5500のスペック】
CPUStrongARM SA-1110 206MHz
ROM16MB Flash ROM
RAM64MB SDRAM
LCD240×320ドット
TFT 65536色
タッチパネル付き
拡張スロットCF Type2 SD/Multimedia Card
音声ステレオヘッドホンジャック出力
モノラル音声入力
ブザー
インターフェイスIRDA/シリアル(特殊コネクタ)
クレードル付属/USB接続
サイズ2.9×5.3×0.7inch
(74mm×135mm×1.8mm)
重量6.8 oz (193g)

 SL-5500は、CPUに206MHzのStrongARM、64MBのSDRAMと16MBのフラッシュメモリを搭載。I/O周りはMI-E21とほぼ同等で、240×320ドットのタッチパネル付き反射型TFTカラー液晶、ステレオ音声出力、CFスロット、SDカードスロットを装備している。また、液晶下部を引き出して使うコンパクトなキーボードが装備されている点も国内版Zaurusと同じ。

 SL-5500は2002年の前半に米国でのみ出荷される。日本国内での発表、出荷は予定されていない。

 製品版はまだ出荷されていないが、Sharp Electronicsは現在、メモリ32MBの「SL-5000D」を開発者向けに販売している。アプリケーション開発を製品版の出荷よりも先行させ、個人を含めた開発者の登場を期待してのことだと思われる。今回はこのSL-5000Dについてレポートする。ただし、これは開発者向けであり、製品版のSL-5500とは標準アプリケーションなどで違いがある。その点はご了承いただきたい。


●Linuxカーネルに組み込み向けQtとJavaを採用

Linuxなので、ターミナルを使ってコマンドラインから利用することも可能
 SL-5000Dは、LineoのLinuxカーネルの上に、TrollTechの「QtEmbedded」という組み込み機器向けGUI構築ツールが搭載されている。さらにプログラム起動用のラウンチャーや標準アプリケーションとして「QtPalmtop」と呼ばれるプログラム群が載っている。画面表示は、QtEmbeddedがフレームバッファデバイス(Linuxで画面表示などを直接制御するためのデバイス)経由で行なうため、X Window Systemは使われていない。

 標準的なアプリケーションはQtをベースにC++で作られるが、IA-32系のマシンの上で動くLinux上でクロス開発する。

 また、INSIGNIAの「JEODE」というJavaVMを標準で装備しており、直接Javaバイトコードの実行が可能。こちらでアプリケーションを作ることもできる。

 初めてSL-5000Dの電源を入れると、Linuxが起動する様子が見える。一度起動すれば、あとはQtPalmtopの管理下で一瞬でサスペンド&リジュームできるので、On/OffのたびにLinuxの起動シーケンスを見ることはない。StrongARMを使っているためか動作もキビキビとしており、大きなファイルを読み込むようなものでなければ、アプリケーションの起動で待たされるようなことはない。


●豊富な標準アプリケーション

 標準アプリケーションには、アドレス帳やスケジューラー、ToDoといったPDAで標準的なソフトに加え、イメージビューアーやMP3/MPEG-4プレーヤーなどがある。電子メールクライアント(POP3/IMAP4対応)やテキストエディタもあり、WWWブラウザとして「Opera」が搭載されている。日本語に関してはフォントも搭載されておらず、現在のところ対応していない。

 標準のラウンチャーでは、登録したアプリケーションはタブに分類されて表示される。アプリケーションの他、テキストエディタなどで作成したドキュメントを表示するタブもある。また、ステータスラインが常にディスプレイ下部に表示され、ここにあるメニューからアプリケーションを起動することもできる。ここには、入力パネル、起動アプリケーションの履歴、ボリューム、バッテリ状態表示などがある。

 バッテリもMI-E21と同様のもので、連続して数時間程度使えた。スケジュールなどのデータ表示中心の使い方なら、もう少し長く使えると思われる。

 なお、製品版のSL-5500では、HancomLinuxの「Hancom Office2.0」が搭載される予定だという。これは、Linux用のオフィススイートで、表計算、ワープロ、プレゼンテーション、グラフィックソフトなどを含むもの。Linuxのデスクトップ用のアプリケーションとしてすでに定評がある。

起動直後に表示されるホームページ画面。これがアプリケーション起動のラウンチャーとなる アドレス帳。タップすると、その人の情報を表示する スケジューラー。月間表示は帯のみになる
数種類のゲームも付属。これは囲碁 付属ツールでJPEGなどの静止画像表示のほか、MP3ファイルの再生やMPEG-4動画の表示なども行なえる


●拡張やデータ交換も容易

SL-5000Dに附属するQtPalmtop Center。内蔵アプリケーションと互換性のあるWindows用のPIM管理ソフト

 OSがLinuxであるため、ドライバを移植すればEthernetカードや無線LANにも対応できる(ただし、CFタイプの製品のみ)。現時点ではXircomやエレコムのEthernetカード、プラネックスやProximの無線LANカードなどに対応している。

 CF Type2スロットとSDメモリーカードスロットにメモリカードを装着すると、Linuxが自動的にMount(ディスクデバイスを認識して利用可能にする操作)し、使用中でなければそのまま取り出すこともできる。また、両者ともWindowsで利用可能なFATフォーマットがそのまま利用できる。このため、たとえば、デジタルカメラのCF/SDメモリーカードを装着して画像を閲覧する、などいう使い方もできる。

 SL-5000D(SL-5500)にはクレードルが附属しており、これを使ってWindowsマシンと情報を同期することができる(接続はUSB経由。シリアル接続も可能)。これには2つの方法があり、1つは、PumaTechの「InteliSync」を使う方法。こちらは、OutlookやPalmDesktopと情報を同期できる。もう1つは「QtPalmtop Desktop」。こちらはQtPalmtopに対応したWindows用のソフトで、このソフト自体がスケジュールや住所録データの表示、編集機能を持つ。


●操作性にはやや不満も

 入力は「手書き文字認識」「ソフトウェアキーボード」「PickBoard」「ユニコード表」の4つがある。PickBoardは、文字を入力していくと辞書に登録された単語候補を表示していくもの(この機能は手書き文字認識やソフトウェアキーボードにも装備されている)。その他、組み込みのミニキーボードからの入力も可能である。手書き文字認識の機能もまあまあだが、ミニキーボードからの入力が最も簡単(もっとも、これは日本のザウルスユーザーには経験済みのことだろうが)。

 アプリケーションの起動ぐらいまでは、液晶下にあるカーソルキーやアプリケーションキーで可能。SL-5000Dには「OK」「Cancel」ボタンがあり、PalmやiPaq Handheldなどに比べるとキーで操作できる範囲が広い。このあたりは、すばやい操作が必要なPDAとして十分なもの。また、スケジューラーなどでは、スケジューラーボタン(左端)で、日単位、週単位、月単位の表示を切り替えたりすることができる。ただし一部の操作は、タッチパネルから行なわねばならず、スタイラス(か指先)での操作が必要となる。

 LCDの表示は鮮明で、明るいところならフロントライトも不要。また240×320ドットの表示は、細かく、情報量も多い。ただ、標準のアプリケーションは、もっと低解像度の表示を前提にしているらしく、たとえば、月間スケジュール表示は、予定がマークで表示されのみでタップしないと内容を知ることができない。もっとも、SL-5000Dでは、他のアプリケーションに置き換えることが容易だし、自分で作ってもよい。

手書き文字認識は、大文字、小文字、数字を書き込むエリアを分け、認識率を上げている バックライト点灯時の液晶表示。表示は小さいものの、かなり見やすい


●米国版だが「日本人好み」のPDA

 外側の仕様がMI-E21と同じで使い勝手はよく、それにほとんどの情報が公開され、自分でアプリケーションを作ることも可能というPDAは、かなり魅力的である。また、StrongARM 206MHzという高性能も見逃せない。MP3やMPEG-4の再生も可能で、全体的に「日本人好み」のできあがり。2月のLinuxWorldでは会場で開発者向けに販売されており、日本からの参加者で購入した人もいるようだ。

 Linuxと情報公開という点でPalmやPocketPCに挑むSL-5500だが、すでにある程度のシェアを持つこれらに対して、ゼロからの出発となるために、当初は苦しい戦いになりそうだ。だが、家電製品を扱うSharp Electronicsの製品なので、出荷が始まれば米国での入手は意外に容易かもしれない。米国出張、旅行のついでに1台買いたい一品だ。



□Sharp Electronicsのホームページ
http://www.sharp-usa.com/
□ニュースリリース
http://www.sharp-usa.com/about/AboutPressRelease/0,1130,203,00.html
□製品情報
http://206.65.179.140/products/FunctionLanding/0,1050,29,00.html
□関連記事
【2002年2月1日】塩田紳二のLinux搭載PDAレポート
~独自のJavaエンジンを搭載したHPのLinux PDA
http://www.watch.impress.co.jp./docs/2002/0201/lw2002.htm

(2002年2月25日)

[Reported by 塩田紳二]


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