高価ではあるが品質は間違いなし、とされるパイオニアの光学ドライブ。高い書き込み品質と静音性で好評を得ており、ユーザーからの信頼度も大きい。業界的にはリファレンス製品的な扱いを受けており、プロユースの分野でも活躍中だ。

今回はそんなパイオニアの新BDドライブ「BDR-S09J」を紹介。あわせてパイオニアの開発陣のインタビューを行なうことができた。

満を持して登場、パイオニアのフラッグシップ「BDR-S09J」

アルゴリズムとパーツの改良で「実際の作業時間」を短縮

BDR-S09Jで新たに実現された最も大きな要素、ひとことで言って「スピードアップ」だ。

そう言うと、どうせ書込み時間が少し上がっただけだろう、と考えるかもしれない。たしかに、BD-R最大書き込み速度はBDR-S08Jの15倍速から、16倍速に上がってはいる。しかし、今回のBDR-S09Jは、より実際の使用シーンに寄り添った、「実際的なスピードアップ」が実現されているという。

パイオニア デジタル デザイン アンド マニュファクチャリング、通称PDDMの技術統括部 第四技術部 内野裕行氏と、同第六技術部の蓮沼喜高氏によれば、今回BDR-S09Jでの開発はファームウェアレベルでのブラッシュアップがメインだが、もちろんハードウェアも変更する事で性能向上を成し遂げているという。

BDR-S09Jの設計・評価やチューニングを担当した内野氏
BDR-S09Jのファームウェアやメカ制御面を担当した蓮沼氏

それによって実現されたのが、ディスクセットアップやライト&ベリファイの時間短縮だ。

具体的には、ディスクをセットしてから読み出しや書き込みを行なえるようになるまでのディスクセットアップの時間が、前モデルのBDR-S08Jと比較して約20%。ライト&ベリファイモードでの書き込みでは10分以上の短縮に成功した。また、焼きムラをおさえながら書き込みを行なう「BD-R記録面重視モード」では、約30%の時間短縮が見込まれるという。

この速度向上はどのように実現したのか。BDR-S09Jのファームウェアを担当した蓮沼氏によれば、第一に挙げられるのが、ファームウェアのチューニングだ。ドライブの動作というのは、ひとつひとつのパーツが順番に様々な「動き」をすることで成り立っている。それらの「動き」の中には、それぞれを「順番」でなく「同時並行で」動かせるものも存在する。そうした「時間短縮できる」組み合わせを発見し、実装していくことで、単純な書込みスピードではない、実使用に即したスピードアップを実現するわけだ。

BDR-S09Jの設計・評価・チューニング等を担当した内野氏によれば、BDR-S09Jでは前モデルに比べて光学ピックアップも改良され、駆動系の制御方式の再構築、最適化とあわせて、動作速度のアップを実現しているという。

光学ピックアップをはじめとする各部パーツは、ポータブル向けドライブで蓄積されたノウハウも反映されているという(※写真はBDR-S08Jのもの)

ディスク書き込み時間だけではない、実際の作業時間の短縮は、ユーザーから多くの要望があったため、それに応える形だという。そこには、記録品質やドライブ自体の耐久性に定評のあるパイオニア製の光学ドライブが、個人ユースにとどまらずプロやビジネス用途でも重宝されていという事情があるようだ(とはいえ、より本格的な業務用途には、長期保存、各種測定機能を備えた業務用ドライブ「BDR-PR1M」がオススメだ)。

USBメモリーが普及した現在でも、「メディアを頒布する」という用途においては、CD-R、DVD-R、BD-Rらが果たしている役割は大きい。安価で、手軽に作成でき、だれでも再生できるメディアという意味では、それらはほぼ唯一無二の存在だ。

たとえば写真屋が、撮影した写真データをお客様に渡す。バンドが自身の音源を焼いて売る。企業が発表会や説明会でデジタルの資料を頒布する――。そうしたプロユースやビジネスで最も大事なのは、もちろんどんなメディアでも高品質で記録できる信頼性だが、実際に1枚のディスクを焼くまでの速度も重要視されるようになってきた。こうした用途では何回も何回もメディアをセットしては書き込み、セットしては書込み、を繰り返す。このような状況ではディスクセットアップの時間が非常にわずらわしく感じられ、作業の効率も落ちてしまうからだ。

「記録面重視モード」の品質&速度を向上させたのも、そのあたりの事情に因る。ビジネスでメディアを頒布する際に「焼きムラ」があれば、クライアントからの信頼性にも直結するので、記録面の焼きムラをなるべく少なくしながら記録できる「記録面重視モード」は、ビジネスシーンでの利用が多かったからだ。

もちろん、こうした実使用に即した性能アップは、プロユースだけではなく一般ユーザーにもメリットが大きい。特にライト&ベリファイは、WindowsのOS標準の書込み機能を利用する場合に使われるので、普段はライティングソフトをあまり使用せず、エクスプローラー上でカジュアルに記録しているユーザーは速度向上を実感できるだろう。

以上のように、BDR-S09Jではビジネスやプロユースを意識した性能アップが図られているが、ほかの追加機能にもその思想があらわれている。

たとえば新たに実装された再生モード「高速読み出しモード」。従来の再生モードは、基本的に静音性を重視するため、ディスク待機時にはなるべく回転数を落とすようチューニングされていた。しかし「多少うるさくてもいいからすぐに読み込みに移れるようにしてほしい」という要望を受けて、ディスクを可能な限り高速回転させておき、いつでも読み込みに移れるようにする「高速読み出しモード」が追加されたのだ。

中国生産でも信頼性はお墨付き。パイオニアDNAの生み出す高品質ドライブ

パイオニアは青森県に十和田パイオニアと呼ばれる生産工場を有しており、パイオニアのフラッグシップドライブはこの工場で生産されることが多かった。だがBDR-S09Jは、生産台数の拡大に伴い、全数、中国工場での生産になるという。ユーザーが懸念を感じる可能性があるこの点について聞いてみた。

生産統轄部 生産技術部 依田真里子氏によると、中国でも日本と同等、もしくはそれ以上の品質の製品を生産できる体制を整えられたことを受け、フラッグシップモデルの中国生産に移ることができたという。

BDR-S09Jの生産・品質管理を担当する依田氏

そもそもパイオニア製ドライブの中国生産は、以前から普及価格帯のモデルで行なわれており、長年のノウハウが得られている。筆者は数年前、十和田パイオニアを見学したことがあるのだが、そこでは、製造ラインのひとりひとりの各作業の状態をモニタリングできるシステムが導入されていた。そのシステムは中国のパイオニア向上にも導入され、しかも日本においてリアルタイムにモニタリングできる環境が整えられていた。

いわば、日本に居ながらにして、日本と同等の生産クオリティを中国で維持することができるシステムなわけだ。パイオニアではこのシステムを「トレーサビリティシステム」と呼んでいる。

筆者が十和田パイオニアを見学したのは2009年のこと。現在ではシステムのアップグレードなども進められているはずだ。しかも現在では、中国の工場に日本人技術者が常駐する体制が整えられているという。

依田氏は、中国の工場でも日本で生産しているのと同等、もしくはそれ以上の品質の生産体制を確立することができた、と自信を見せる。

(ちなみに、十和田工場生産の「BDR-S08J」は在庫限り併売される。どうしても十和田製にこだわりたい人への配慮とのことだ。)

円熟の域に達した筐体各部をチェック!

さて、ここからは実際の使用感を交えてレビューをしてみよう。

基本的に、筐体は前モデルのBDR-S08Jですでに円熟の域に達しており、変更点はほぼ無い。

「嫁に内緒で従来機から買い換えてもバレない」ことに定評のある(?)伝統のベゼル
言わずと知れたハニカム構造によりシャーシの強度をアップ。また、特長的な天面の凹みはドライブ内部の空気の流れをコントロールし、メディアの安定性とドライブの冷却を両立させる。
各部のスリットで風の流れをコントロールし、ディスクの「たわみ」をおさえて安定させる。まさにパイオニアのお家芸
BDR-S08Jから採用された「クランバー」は、上面からディスクを押さえ、安定に寄与する(写真はBDR-S08Jのもの)
筐体の各部は特殊なシールで厳重に密封されている。これは騒音がドライブ外に漏れないようし、同時にドライブ内にホコリが混入するのを防ぎ、さらにドライブ内の空気の流れを安定させてもいる
ベゼルの裏や天面カバー下など、そこかしこに取り付けられたスポンジが取り付けられており、制振性・静粛性を向上させている(写真はBDR-S08Jのもの)

ユーザーのニーズに応じた書き込み&読み込みに切り替え可能!

BDR-S09Jでは、BDR-S08Jでは最大15倍速だったBD-Rの記録速度が最大16倍に強化されており、前述の「実使用での高速化」とともに総合的なスピードアップを実現している。

BD-R XLにも対応しているため、通常の1層や2層のBD-Rに加え3層のBD-R XLとBD-RE XL、4層のBD-R XLメディアも使うことができる。1層のメディアは25GBで、層が増えるごとに50GB、100GB、128GBという大容量データを扱うことが可能だ。

とにかく「メディアを選ばない」のがパイオニアドライブ

CDの音を原音に忠実に読み取る「原音再生」PureRead3+も健在。PureReadは基本的にCDのリッピング時に有効になる機能だったが、今回はリアルタイムでの再生にもPureReadを適用させる「RealTime PureRead」にも対応している(BDR-S08Jではファームウェアアップデートにより「RealTime PureRead」機能が追加された)。

書き込みのモードはユーザーによる変更が可能で、BD-R記録面重視モードやBD-Rハイスピード記録などをドライブユーティリティで簡単に変更することができる。

求める記録品質や記録スピードに応じて記録モードを選択できる

BD-R/RE DVD-R/RW 記録面重視モードは、記録面の焼きムラを抑止する特殊なモード。一定の転送速度で書き込みを続けることで、高い記録精度を維持できるとも言われるCLV(Constant Linear Velocity)方式で書き込みを行なう。BDR-S09Jではこの記録面重視モードの速度もアップしており、「DVD-R ディスク記録面重視モード(高速)」を使えば最大8倍速となる。

「BD-Rハイスピード記録」を選択すると、ディスクの回転速度をできる限り速くするCAV(Constant Angular Velocity)方式で書き込みを行なう。この場合の最大記録速度がスペックにある16倍速だ。

書き込み精度や速度など、ユーザーによるニーズの違いに応じて書込みモードが選択できるのは、やはりパイオニア製ドライブならではの強みだろう。

細かい使い勝手の面でもいくつかブラッシュアップされている。たとえば、BDR-S08Jでは、映画や音楽ディスクを鑑賞する用途向けに、トレイ開閉動作をスムーズにするとともにローディングLEDを消灯する「ビデオ&オーディオ再生モード」が実装されていた。今回、ビデオ&オーディオ再生モードとは別に、トレイ開閉動作とLED消灯を個別に設定できるようになっている。

パイオニアドライブではおなじみのドライブユーティリティも付属しており、前述の書込みモード変更などを簡単に行なうことができる。ほかにも記録メディアのIDを確認できるなど、マニアックな機能も注目だ。

メディアマニアにはたまらない、ディスク情報表示機能を装備。PureRead時のエラー数を表示してくれるError Indicatorも見ているとたのしい

筆者はBDR-S08Jも使ったことがあるが、BDR-S09Jを使ってみて感じたのはとにかくメディアを入れてから使えるようになるまでの時間が短いこと。また、メディアの読み書きが非常に静かであることだ。

今までメディアをセットしてから使えるようになるまでの間をヤキモキして待ったことも多かったが、今回はそのようなストレスを感じることなく使うことができた。また、CyberLink社のユーティリティソフトは、光学ドライブを扱う上で必要なものがすべて用意されており、これ以外にソフトウェアを買い足す必要もない。パイオニアのドライブユーティリティもよい出来で、初心者には分かりやすく、上級者にも満足できるこまやかな設定が可能だ。

なくてもいいかな、と思っても、やっぱりないと困るのが光学ドライブ

最近の自作PCのトレンドというわけではないが、光学ドライブを利用していないユーザーの話もよく聞く。HDDの大容量化と低価格化に伴い、バックアップ先をHDDにしている人も増えているからだ。また、NASなどのネットワークストレージ、さらにはクラウドサービスなど、バックアップ先はいくらでもある。また、PCゲームはSteamやOriginといったダウンロードによる購入方法もあり、光学ドライブがなくとも困らないケースが増えてきた。

半面、マルチメディア機としてのPC用途が増えてきたのも確かだ。今やPC用ディスプレイはフルHDが一般的で、24V型を超える大画面ディスプレイも普及価格になっている。筆者は映画などをリビングで家族と楽しむこともあるが、自分のPCでBDやDVDを楽しむことも多い。リビングでソファに座りディスプレイから離れて見るよりも、近くにあるPC用ディスプレイで見るほうが没頭感が高いからだ。

CDのリッピングもよく行なっている。これは、ポータブルの音楽プレイヤーを持っている人ならごく当たり前の作業となっているだろう。もちろん、ネット経由で音楽データを購入している方も多いかと推測するが、「昔から持っているCDを、原音に忠実にリッピングしたい」といったときには、やはりパイオニア製ドライブの「PureRead」はありがたい。

さらに、バックアップ用途としてもBDは優秀だ。筆者は仕事柄守秘義務があるデータを取り扱うこともあるので、クラウドストレージなどにバックアップ用のデータを置くのはためらってしまう。ではどうしているかというと、まずスケジュールを組んで別のPCのHDDにバックアップを行なった上で、その月の作業が終わったときに1カ月分のデータをまとめて光学メディアへバックアップしている。HDDと光ディスクはメディアとしての性質も寿命も異なるので、たとえばHDDが壊れるような状況下に陥ったとしても無事でいる可能性が残るのも良いところだ。

このように、光学ドライブを使う機会は割とある。筆者は仕事上の理由で自分のPCに搭載している光学ドライブを付けたり外したりしながら機材を検証することが多い。検証が終わった後に光学ドライブを戻すのを面倒くさがってほったらかしにしておくと、急に光学ドライブが必要になったときにPCに搭載しておらず、もどかしい思いをすることもしばしばだ。なくてもいいかな?と思っても、やっぱりないと困る、それが今のPC用光学ドライブといえるかもしれない。

パイオニア担当者いわく、「BDR-S09Jはパイオニアの技術の粋をつくし、最高を求めて完成した製品」とのことで、 インタビューの後の検証でも、その言葉どおり最高の作りであることを実感することができた。最高の光学ドライブを求める読者には是非おすすめしたい。