レビュー

一眼レフと見紛うワイプ映像を実現できるWebカメラがついに登場。Elgato「FaceCam」

 以前、こちらの記事で紹介した通り、照明を活用することで、配信のワイプ用途であれば、Webカメラでも一眼レフやミラーレスに近い画質を得られる。とは言っても、一眼レフとWebカメラとでは、いくらワイプ用途でも、画質において埋めがたいギャップが存在するのも事実。だが、Elgatoから登場したWebカメラ「FaceCam」であれば、そのギャップはかなり縮まる。画質を上げたいが、いいカメラを買う予算がないというユーザーには福音と言えるこの製品をレビューする。

 製品の評価にあたっては、マウスコンピューターのゲーミングノートPCである「G-Tune H5」を利用した。CPUにはCore i7-11800H、GPUにはGeForce RTX 3070、メモリ16GB、SSD 512GBを搭載する。

マウスコンピューターの「G-Tune H5」。スピーカーは筆者の私物
モデルとして黒田瑞貴さんに協力していただいた

映像の画質を上げるには手動での調節が不可欠

 同じ環境で撮影しても、一眼レフやミラーレスとWebカメラとで画質に差が出るのは、1つには映像センサーやレンズというハードウェアの違いがある。だが、ハードウェアと同じくらい重要な違いとして、設定面つまりソフトウェアの違いがある。どれだけ照明に気を遣っても、それに適した設定をしないと、思うような映像に仕上がらない。これまでのWebカメラは、この設定面が弱いものがほとんどだった。

 それに対し、FaceCamは、センサー自体もソニー製で高品質なのだが、一眼レフのように、ISO感度やシャッター速度、ホワイトバランスを指定できるのが大きな特徴だ。付属のアプリでホワイトバランスを調整できるWebカメラはほかにもあるが、ISO感度やシャッター速度を指定できるのは、この製品以外にほとんどないと思われる。

 また、FaceCamは、それらの設定を本体のフラッシュメモリに記録できるところが画期的だ。これはOBSの問題というか仕様で、ホワイトバランスや露出などを手動で調節できるが、OBSを終了するとそれらはデフォルト値に戻ってしまう。だが、FaceCamなら、付属ソフトで細かな設定を行なった上で保存しておけば、毎回調整する手間が不要となる。

 論より証拠ということでOBSを使い、ソニー製ミラーレスカメラ「α6600」+シグマ製レンズ「SIGMA 16mm F1.4 DC DN」を使いキャプチャした映像とFaceCamでキャプチャした映像を観ていただきたい。後述するように、NVIDIA Broadcastを使って背景をぼかすことで、FaceCamの映像はミラーレスにかなり近いレベルに仕上がっているのが分かる。具体的な設定方法なども含め、紹介していく。

α6600+SIGMA 16mm F1.4 DC DNの映像とFaceCamの映像比較。FaceCamにはNVIDIA Broadcastによる背景ぼかしをかけている

FaceCamの主な仕様

 FaceCamの外観や基本的な扱いは既存のWebカメラと大差ない。本体サイズは、80×58×48mm(幅×奥行き×高さ)と既存製品より若干大きい程度。WebカメラなのでUSB 3.0でPCと接続して、プラグアンドプレイで利用できるのも変わらない。なお、本体にはUSB Type-Cのコネクタがあり、ケーブルは着脱できるようになっている。付属のケーブルはType-C - Type-A。

FaceCam
本体側面
本体背面にUSB Type-C端子

 台座の部分は開くようになっており、ノートPCやディスプレイの上に引っかけて使える。また、この台座はネジ式になっており、取り外すと一般的な三脚に取りつけられるので、柔軟性高く設置できるのがうれしい。重量は103gだ。

ディスプレイ上部に取りつけたところ
台座は取り外し可能で、外すと本体は一般的な三脚などにネジで取りつけられる

 センサーはソニー製STARVIS CMOSを採用。レンズはElgato Prime Lensというガラス製のものを採用し、焦点距離は24mm、画角は82度、絞りはF2.4となっている。

 この製品には、仕様で2つほど割り切った点がある。1つが、焦点が固定であること、そしてもう1つがマイクを搭載しないことだ。ほとんどのWebカメラにはこの両方が備わっている。FaceCamはこれらを敢えて排除したと思われる。

 まず、マイクだがWebカメラに搭載したところで、あまり高品質なものは載せられないし、たとえ良いマイクを搭載しても、設置距離が離れるので、どうしても遠い音になってしまう。配信をするユーザーなら、マイクは単体やヘッドセットなどをすでに持っているだろうから、無駄を省く意味でマイクがないことは欠点というより、むしろ好印象すら感じる。

 焦点については収束範囲30~120cmで固定となっている。つまり、カメラから30~120cmの距離にあるものは焦点が合うが、それより近いか遠いものは合わないということだ。これも個人の配信用のカメラとして困ることはほとんどなく、オートフォーカスが誤作動して一時的にフォーカスが狂うといった事がないことをメリットと感じる人もいるだろう。

 対応解像度は1080p60、1080p30、720p60、720p30、540p60、540p30で、4Kは非対応だが、非圧縮転送される。

独自ソフトCamera Hubで細かな設定が可能

 FaceCamはUSBで繋げばすぐに使えるが、その性能を最大限発揮させるには、同社サイトから「Camera Hub」というコントロールをダウンロードし、インストールしよう。

Camera Hub

 起動するとFaceCamの映像が表示される。大きな設定項目としては、「デバイス」、「拡大縮小」、「ピクチャ」、「露出」、「ホワイトバランス」、「処理」の6つがある。

 デバイスの「入力」は、接続したカメラが表示されるだけなので、特に設定は不要。その上の、設定アイコンをクリックすると、工場出荷時の設定に戻すのと、青いステータスLEDを表示するかどうかを設定できる。また、どこかの設定を変更すると「保存」ボタンが青くなるので、これをクリックすると、全ての設定内容が本体に保存され、ほかのアプリでFaceCamを利用してもその設定が使用される。

設定を変更すると、「保存」ボタンが青く光るので、保存すると内蔵のフラッシュメモリに設定が書き込まれる

 拡大縮小はデジタルズームなので、拡大すると映像が荒くなる。画角を調整したい場合は、トリミングするか、カメラの位置を変更した方がいいだろう。

 ピクチャでは、他の一般的なWebカメラにもあるコントラスト、彩度、シャープネスを調整できる。これはお好みでの調節となるが、初期値のままでも問題ない。

 露出の設定は、このカメラを最大限活用するにあたって最も重要な項目だ。初期値の「自動」では、測光モードを「中央重点」と「多分割」から選べる。前者では、画面中央の、後者では画面全体の明るさを判断して露出が自動設定される(補正も可能)。

 だが、ここは手動設定することでしっかりと画作りをしていきたい。実際、筆者の環境だと、やや暗めにしてあるので、自動だと、それに引きずられるかたちで露出が持ち上がるので、最も重要な顔が白飛びしてしまう。また、着ている服の色によって露出が変わってしまう問題もある。

設定を全て自動のままで撮影したスクリーンショット。映像の品質は悪くないが、肌の明るいところが飛んでおり、ホワイトバランスもいまいち
設定を全て自動のままで撮影

 「自動」のスイッチをオフにすると、シャッタースピードとISO感度を設定できるようになる。シャッタースピードについては、カメラのフレームレート×2の逆数にするといい。60fpsなら1/125、30fpsなら1/64秒だ。このシャッタースピードは、映画で幅広く用いられている設定で、適切な残像感が得られる。

 シャッタースピードを決めたら、ISO感度は低め(最低100)から始めて、被写体つまり自分の明るさがちょうど良くなる設定にしよう。最大感度は6400で、高感度なら暗い部屋でも明るく写せるが、感度を上げるとノイズが増えてしまうので、照明で低感度でもきちっと被写体が明るく写るようにして、感度は低めに抑える。

ISO感度を142に、シャッター速度を1/125秒に設定して撮影。顔の白飛びがなくなった
ISO感度を142に、シャッター速度を1/125秒に設定して撮影

 ホワイトバランスも手動で設定しよう。基本的には、使っている照明に合わせた数値にすればいい。ただ、筆者は照明の色温度は5400Kにしているのだが、FaceCamのホワイトバランスを5400Kにするとオレンジが強くなりすぎるので、見た目で調節して4600Kにした。

ホワイトバランスも手動で変更し、肌が自然な色になった
ホワイトバランスも手動で変更して撮影

 処理の項目では、ノイズ除去とアンチフリッカーを設定できる。ノイズ除去は思った以上に機能しており、暗部ノイズを結構消してくれる。多少シャープさが失われるが、基本的にはオンをお奨めする。アンチフリッカーは蛍光灯との非同期が原因で画面がちらつくのを抑える機能だが、シャッター速度を手動にするとこれは設定できない。

ノイズ除去なし
ノイズ除去あり。ノイズが減るのと同時に、ややシャープさは失われる
やはりノイズが出やすいのは暗めの部分。背景の一部を拡大してみた。上がノイズ除去なしで、下があり
ノイズ除去オンオフの比較

NVIDIA Broadcastの併用で背景をぼかす

 照明に合わせて、シャッター速度、ISO感度、ホワイトバランスを適切に設定すると、FaceCamで非常に高品質な映像を得られる。一般的なWebカメラだとセンサーの品質があまり高くないので、センサー解像度がフルHDでもフルスクリーン表示すると、解像が悪く、低解像度のような絵になりがちだが、FaceCamはそれらとは一線を画した映像になる。

 この時点でもワイプ映像としては申し分ないが、GPUにGeForce RTXシリーズを使っているのなら、NVIDIA Broadcastを組み合わせることをお奨めしたい。

 NVIDIA Broadcastは、もともとはRTX Voiceという名で音声ノイズを除去するのに特化していたが、今ではWebカメラの映像に対して、背景削除や差し替え、そしてぼかしなどを適用できる。

 音声のノイズ除去は非常に強力で、しゃべりながらヘアドライヤーを使っても、きれいにドライヤーの音だけを消してくれるほど。

 他方、映像処理も強力で、リアルタイムでかなりの精度で人と背景を分離してくれる。ある程度自分と背景の壁とに距離がある場合、NVIDIA Broadcastのカメラ設定で「背景ぼかし」を適用すると、一眼レフで撮ったような映像になる。髪の毛のデコボコしたところは、よく見ると境目が不自然になることもあるが、ワイプサイズに縮小したらほぼ見えない。

 なお、この背景ぼかしは、浅い焦点距離を実現すると言うより、自宅を見せたくない人向けのようで、かなりボケ具合が大きいので、一眼レフっぽく見せる場合は、強度は最低くらいでちょうどいい。

 改めて、α6600で撮った映像と、FaceCam+NVIDIA Broadcastで撮った映像を比べてみよう。フルスクリーンだと差は分かるが、ワイプ程度のサイズに縮小すると、ほぼ見分けが付かないレベルになる。

FaceCam+NVIDIA Broadcastで背景ぼかしをオンにして撮影
α6600でのキャプチャ映像
ワイプとして使うのを想定したサイズに変換して録画。上がα6600、下がFaceCam
NVIDIA Broadcastで背景ぼかしを途中からオンにして撮影
ワイプとして使うのを想定したサイズに変換して録画。上がα6600、下がFaceCam

10分の1の価格で一眼レフ画質を実現

 ということで、FaceCamがWebカメラとしては突出した画質を実現していることがお分かりいただけただろう。背景をぼかし、ワイプとして縮小すれば一眼レフとぱっと見は見分けが付かないレベルだ。

 もちろん、フルスクリーン表示させると、一眼レフよりも精細さやダイナミックレンジなどの点で太刀打ちできない差がある。しかし、今回比較で使ったα6600とレンズは、セットで20万円ほどするもので、FaceCamとの価格差は実に8倍。一眼レフを購入するほどの予算はないが、ひとまずWebカメラを使っている人と差別化を図りたい配信者は、ぜひ本製品を検討してみるといいだろう。

[モデル: 黒田 瑞貴]