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Micronが投入したQLC NAND採用NVMe SSD「Crucial P1」の性能をチェック

Micron初のPCIe/NVMe SSD「Crucial P1」

 マイクロンジャパン株式会社は、CrucialブランドのSSD新製品「Crucial P1」を、10月27日より発売した。

 CrucialブランドSSDとして初のPCIe/NVMe対応製品で、従来のSATA対応製品と比べて性能が大きく高められている。また、QLC NANDを採用する点も大きな特徴となっている。

 今回、実際にCrucial P1の1TBモデルを入手したので、その性能をチェックしたいと思う。

Crucialブランド初のPCIe/NVMe SSDは、QLC NANDを採用するエントリーモデル

 Crucial P1は、CrucialブランドのSSDとして初となるPCIe/NVMe対応SSDだ。CrucialブランドのSATA SSDは、エントリー向けやメインストリーム向けの製品をラインナップしているが、このCrucial P1はNVMeながらエントリー向けとして位置づけられている。

 フォームファクタはM.2 2280を採用しており、接続インターフェイスはPCI Express 3.0 x4、プロトコルはNVM Express 1.3に対応。コントローラにはSilicon Motion製の「SMI2263」を採用している。

 Crucial P1の最大の特徴となるのが、NANDフラッシュメモリとして1セルあたり4bitのデータを格納できる「QLC」仕様のNANDフラッシュメモリを採用している点だ。NANDフラッシュメモリはIM Flash Technology製の64層3D NANDで、QLC仕様によって1ダイあたり512Gbitの容量を実現しているという。

 QLC NANDを採用することで懸念されるのが、アクセス速度と寿命だろう。まず、アクセス速度に関しては、キャッシュ用DRAMを搭載するとともに、独自のSLCキャッシュ技術「Hybrid Dynamic Write Acceleration」の採用によって改善しているという。

 Hybrid Dynamic Write Accelerationでは、NANDフラッシュメモリ内に容量固定および容量可変のSLCキャッシュ領域を用意。キャッシュ領域の容量は、500GBモデルで最大55GB、1TBモデルで最大140GBと、非常に多くの容量を確保。これにより書き込み性能を改善し、安定したアクセス速度を発揮できるようにしているとのことだ。

Crucial P1。フォームファクタはM.2 2280を採用し、接続インターフェイスはPCI Express 3.0 x4、プロトコルはNVM Express 1.3に対応する
NANDフラッシュメモリとして、IM Flash Technology製の64層QLC 3D NANDを採用している
SSDコントローラはSilicon Motion製の「SMI2263」を採用。低価格なエントリー向けSSDながら500GBモデルは512MB、1TBモデルは1GBのDRAMキャッシュを搭載する
基板裏面にもNANDフラッシュメモリ搭載用のパターンがあり、今後発売予定の2TBモデルではこちらにもNANDフラッシュメモリチップが搭載されるものと思われる
基板上にはアクセスランプに相当するLEDも搭載している

 表におもな仕様をまとめたが、アクセス速度はハイエンドPCIe/NVMe SSDにこそ及ばないものの、シーケンシャルアクセス速度、ランダムアクセス速度ともにSATA SSDを圧倒しており、エントリー向けとして申し分ない速度を確保している。

 また、Crucial P1ではQueue Depthが4以下のランダムアクセス性能を重視した設計になっているという。これは、一般ユーザーが利用するWindows PCにおいて、発生するランダムアクセスのほとんどをQueue Depth 4以下が占めるためとのことだが、このあたりもエントリー向け製品らしい特徴と言える。

 それに対し寿命は、総書き込み容量は500GBモデルが100TBW、1TBモデルが200TBWとなっている。エントリークラスのSSDとしては悪い数字ではないが、Crucialのエントリー向けSATA SSDの旧世代モデルとなる「BX300」の480GBモデルでも160TBWを確保していることを考えると、見劣りしてしまうのも事実。やはり、寿命に関してはQLC NAND採用による影響が色濃く出ていると言わざるを得ないだろう。

 ただ、100TBWだとしても、5年間で1日あたり約54GBの書き込みに対応できる。意図的に大量書き込みを毎日続けるような使い方をするならともかく、一般ユーザーが利用するPCで毎日50GBを超える大量の書き込みが発生することはない。

 しかもCrucial P1には、エントリー向けSSDとしては十分に長い5年間の保証が付いている。そう考えると、寿命について必要以上に不安視する必要はないだろう。それでも気になるなら、総書き込み容量が200TBWとなる1TBモデルを選択すべきだ。

Crucial P1の主な仕様
容量500GB1TB
フォームファクタM.2 2280
インターフェースPCI Express 3.0 x4
プロトコルNVMe 1.3
NANDフラッシュメモリ64層 3D NAND QLC
コントローラSilicon Motion SMI2263
DRAMキャッシュ容量512MB1GB
シーケンシャルリード1,900MB/s2,000MB/s
シーケンシャルライト(QD32/Thread1)950MB/s1,700MB/s
ランダムリード(4KB/QD32/Thread8)90,000IOPS170,000IOPS
ランダムライト(4KB/QD32/Thread8)220,000IOPS240,000IOPS
総書き込み容量100TBW200TBW
平均故障時間(MTTF)180万時間
保証期間5年

エントリークラスSSDとして申し分ない速度を発揮も発熱対策は必須

 では、簡単にアクセス速度をチェックしよう。今回は、「CrystalDiskMark 6.0.2」と、「ATTO Disk Benchmark V4.00.0f2」の2種類のベンチマークソフトを利用した。

 テスト環境は以下にまとめたとおりで、検証に利用したのはCrucial P1の1TBモデルだ。

テスト環境
マザーボードASUS TUF Z390-PLUS GAMING
CPUCore i5-9600K
メモリDDR4-2666 16GB
システム用ストレージSamsung SSD 840 PRO 256GB
OSWindows 10 Pro

 まず、CrystalDiskMarkの結果を見ると、シーケンシャルアクセス速度はリードが2,009.4MB/s、ライトが1,713.9MB/sと、公称どおりの速度を記録した。ランダムアクセス速度については、さすがに上位SSDと比べると見劣りするものの、こちらも満足できる性能と言える。

 同じ環境で計測したSATA SSDの「Crucial MX500」1TBモデルの結果と比べると、シーケンシャル、ランダムともに圧倒しており、エントリー向けの製品とはいえ、SATA SSDに対して性能面で大きなアドバンテージがあると言える。

CrystakDiskMarkの結果
Crucial P1 1TB
Crucial MX500 1TB

 続いて、ATTO Disk Benchmarkの結果だ。

 こちらは、リードについてはやや公称を下回っているのに加えて、データサイズが大きくなるにつれてやや速度が低下するといった現象が見られる点がやや気になるが、ライトは安定しており、速度も十分で、大きな不満は感じない。

 このあたりは、大容量SLCキャッシュを備える点が有効に働いているからだろう。

ATTO Disk Benchmarkの結果

 ただ、大容量のデータ書き込みを行うなどしてSLCキャッシュが尽きてしまうと、書き込み速度が大きく低下する可能性が高い。そこで、HD Tune Pro 5.70を利用して、200GBのデータを連続で書き込んだ場合に速度がどのように変化するかをチェックしてみた。

 すると、連続書き込み容量が135GBに至るまでは1,600MB/s前後で安定しているものの、135GBほどを超えると極端に速度が低下し、120MB/s前後にまで大きく低下してしまった。このあたりは、QLC NANDを採用する大きな弱点と言えそうだ。

 とはいえ、Crucial P1がターゲットとするエントリーPCでは、通常利用時に140GBを超えるような大容量の連続書き込みが発生する場面は非常に希だろう。実際にこのテストのように書き込み速度が大きく低下する場面は、通常利用の範囲内ではほぼ発生しないはずで、まず気にならないと考えていいだろう。

HD Tune Pro 5.70を利用し、200GBのデータの連続書き込みを行なった場合、135GB付近から書き込み速度が120MB/s前後にまで大幅に低下した

 そして、もう1つ気になるのが発熱だ。とくに速度の速いPCIe/NVMe SSDでは、コントローラやNANDフラッシュメモリなどの発熱が大きくなり、しっかり冷却しなければサーマルスロットリングが発生してアクセス速度が低下する場合もある。

 先に紹介したベンチマークテストは、マザーボードのM.2スロットに用意されているヒートシンクを装着して行なったものだが、あえてそのヒートシンクを外し、空冷ファンの風なども当たらない状況でATTO Disk Benchmarkを実行してみた。

 その結果が下に示すものだが、ベンチマークテストの途中から書き込み速度が大きく低下してしまった。同時に、テスト中のSSDコントローラの温度変化をS.M.A.R.T.情報でチェックしてみたところ、短時間で温度が大きく高まり、速度が低下した付近では、100℃前後にまで上昇してしまっていることがわかった。この結果を見る限り、Crucial P1を利用する場合には、発熱への対策が不可欠だろう。

 ただ、ヒートシンクを装着した場合だけでなく、SSDから20cm近く離れた場所から8cmファンを低速で動作させ、わずかな風があたるようにしただけでもサーマルスロットリングは発生しなかった。

 ハイエンドSSDのような強力な冷却対策までは不要と思われるが、常時最大限の性能を引き出すためには、ヒートシンクの利用やエアフローの配慮が必要と言える。

バラック状態のテスト環境で、ヒートシンクなどを装着せず、空冷ファンの風も当てずにATTO Disk Benchmarkを実行した場合、途中から書き込み速度が大きく低下してしまった
放熱対策を施さずにATTO Disk Benchmarkを実行した場合のSSDコントローラの温度推移

性能に優れる低価格SSDの新たな選択肢として魅力

 Crucial P1は、Crucialブランドとして初となるPCIe/NVMe SSDであるとともに、QLC NANDを採用することで低価格を実現した、エントリー向けSSDだ。

 QLC NANDフラッシュメモリを採用することによる影響については、テストで見てきたように完全に無視できるとは言えないだろう。とくに、大容量の書き込み作業が頻発するような環境での利用には不向きと言って良い。とはいえ、エントリー向けSSDがターゲットとするPCでの通常利用の範囲内であれば、影響はほぼ無視できるはずだ。

 また、寿命については短時間で結論を出すのが難しく、今後長期間利用した上で判断したいところだ。とはいえ、スペックのとおりであれば、よほど過酷な使い方をしない限り、エントリー向けSSDとして不安視するレベルではないだろう。

 ただし、発熱への対策については、完全に無頓着というわけにはいかない。ハイエンドSSDのような万全の対策が必要とは言わないが、マザーボードのM.2スロットにヒートシンクが用意されているならそちらを利用したり、ヒートシンクがない場合でも、SSD付近のエアフローを確保するといった対策を施せば、サーマルスロットリングの発生も抑えられるはずだ。

 Crucial P1の実売価格は、500GBモデルが14,000円前後、1TBモデルが28,000円前後と、エントリー向けとはいえPCIe/NVMe SSDとしてかなり手ごろな価格だ。速度もSATA SSDを圧倒しており、低価格ながら性能にも妥協せずSSDを手に入れたいと考えている人にとって、新たな選択肢として注目の製品となりそうだ。