クリエイティブのPCIe用サウンドカード「Recon3D」を試す

PCIe Sound Blaster Recon3Dシリーズ



 クリエイティブメディア株式会社は、PCI Express用サウンドカード「PCIe Sound Blaster Recon3D」(以下Recon3D)を発売した。価格はすべてオープンプライスで、実売価格は最下位モデルで12,800円前後だ。今回、これに加えて、直販専用で発売され、Sound Blaster Beamformingマイクロフォンが付属した「PCIe Sound Blaster Recon3D Fatal1ty Professional」(16,800円、以下Fatal1ty)も同時に入手したので、レポートしたい。

 Recon3Dシリーズは2011年9月IFA 2011会場で発表された、“クアッドコア”のサウンドプロセッサ「Core3D」を採用した新製品だ。X-Fiシリーズは2005年8月に発表されて以来、まずはPCI版で投入され、2008年5月にPCI Express版をリリース。つまりRecon3D(Core3D)シリーズは、X-Fiの初代から数えるとおよそ6年ぶりの、新アーキテクチャとなるPC向けサウンドプロセッサとなる。

 最大の特徴は、X-Fiシリーズでも好評だったバーチャルサラウンド技術「CCMS-3D」や、圧縮された音楽の低音と高音を補正する技術「X-Fi Crystalizer」、それに低音増強技術「バスブースト」を、それぞれTHX認証の「THX TruStudio PRO」に進化させたこと。それに伴い、ハードウェアレベルでこれらの処理が行なえるようになった。

 また、ボイスコミュニケーションを中心に機能充実が図られ、さまざまなボイスエフェクトやエコーキャンセリング機能などが使える「CRYSTALVOICE」も特徴。さらにFatal1tyモデルには、ボイスチャットに特化した据え置き型の「Sound Blaster Beamforming マイクロフォン」を添付。同マイクの最大の特徴は、音声を拾う範囲をGUI上から設定できることだ。この効果については後ほど検証したい。

●非常にあっさりしている基板

 それでは基板から見ていこう。

 最下位のRecon3Dを見ると、非常にあっさりした基板が印象的だ。Core3Dチップを中心に、PCI Expressバスとの間にチップが1個あるのが目立つ程度だ。バイパスコンデンサもサウンドカードとしては少なく、簡素な作りとなっている。

 ちなみに、Core3Dの部分はプラスチックカバーとなっており、裏からネジで外すことが可能だ。外してみるとチップが現れ、刻印には「CA0132」と書かれている。これがRecon3Dの正体のようだ。プラスチックカバーの大きさとは相反する小ささで、これにクアッドコアのプロセッサが入っているとは信じがたいほどだ。

 一方、PCI ExpressバスとCore3Dの間のチップには「CA0113」と書かれているが、資料がないため詳細は不明だ。ただし、PCI版X-Fiでは、コンパニオンチップとして「CA0112」が用意されており、この資料を見ると、PCIブリッジのほか、UAA(ユニバーサルオーディオアーキテクチャ)モードとX-Fiモードを切り替えられる機能を持っているようだ。Recon3DはWindows 7のドライバをインストールしなくても、High Definition Audioデバイスとして動作するので、Windows 7の標準ドライバで動作するオーディオデバイスとして振る舞うために、このチップが搭載されていると推測できる。型番からしても、CA0112のPCI Express対応版と解釈するのが妥当だろう。

 ちなみに、ASRockのIntel X79 Express搭載マザーボード「X79 Extreme9」にも、Recon3DとBroadcomのNICが搭載されたカード「Game Blaster」が添付されているが、こちらを借りて基板を見たところ、CA0113は搭載されていなかった。つまり、CA0113はあってもなくても良いものだが、おそらくWindows 7の標準ドライバでは動作しないのだろう。

Recon3Dの基板Recon3Dのカバーを取り外したところCA0113のチップ
ASRockのGame BlasterGame Blasterのカバーを取り外したところ
Game BlasterのチップはCA0132のみGame Blaster(左)との比較

 ヘッドフォン出力部にあるチップも調べてみたが、詳しいことはわからなかった。デジタルアンプか、オペアンプの一種かもしれないが、ネット上では資料を見つけることはできなかった。

 コンデンサはG-LUXON製のSSシリーズが中心。一般用途向けの低背品(7mm~9mm)で、特に音響用とは謳われていない。クリエイティブは基本的にサウンドカードに音響向けコンデンサを使わないスタンスであり、このあたりの設計思想はRecon3Dでも継承されている。

 バックパネル側の端子は、光入出力(角型)、ラインアウト×3(緑、黒、オレンジ)、ラインイン/マイク(ピンク)、そしてヘッドフォン出力(金色)を備える。アナログはいずれも3.5mmのミニジャックタイプで、Sound Blasterシリーズの伝統を受け継いでいる。カード上にはHD Audio対応のピンヘッダも備わっており、ケーブルを通して、フロントのヘッドフォンとマイクの接続も可能となっている。

 ちなみに、Fatal1tyではレッドLEDとプロテクトシールドが搭載された以外、基板に変わりはなく、独自のフロントベイへ出力するためのピンヘッダなどはない。上位製品だけのプレミアとなるだろう。

ヘッドフォン出力付近のチップ背面のインターフェイスフロントパネル用のピンヘッダ
コンデンサはG-LUXON製PCIe Sound Blaster Recon3D Fatal1ty ProfessionalFatal1tyのカバーを取り外したところ
Fatal1tyは動作中レッドLEDが点灯するFatal1ty付属のSound Blaster Beamformingマイクロフォン。ケーブルは長め小型軽量の据え置き型で、目立った特徴はない

●ボイスコミュニケーション中心の機能

 続いてソフトウェア面について見ていこう。

初回起動時は製品登録を促されるRecon3Dコントロールパネルはタスクトレイに常駐する

 以前、USB版のRecon3Dを試したことがあるが、PCI Express版もそのGUIをほぼ継承している。タブが左ペインで用意され、右ペインで詳細設定を行なう、わかりやすいものだ。

 唯一、USB版ではハードウェアボタンとして存在していたSCOUT MODEが、PCI Express版ではタブに追加されており、有効/無効が設定できるようになっているほか、これをON/OFFするためのホットキーを設定できるところが新しい。

 そのほかはUSB版同様、上から「THX TRUSTUDIO PRO」、「CRYSTALVOICE」、「スピーカー/ヘッドフォン」、「シネマチック」、「ミキサー」、「イコライザー」、「高度な機能」が並ぶ。

 ただし、一部では機能追加されていたりする。まず、CRYSTALVOICEでは、Sound Blaster Beamformingマイクロフォン用の「Focus」が用意され、マイクの指向性を選べるようになっている。また、スピーカー/ヘッドフォンの設定では、スイッチでスピーカーかヘッドフォンかを選択できるようになった(ただし、接続する端子に応じて自動的に切り替えられる)。さらに、(当然だが)5.1chサラウンドも選べるようになった。

 高度な機能では、デバイス側に設定をエクスポート/インポート機能が省かれたので、代わりにデジタル出力を使ったステレオミックスの再生のみが可能となっている。

THX TRUSTUDIO PROのタブCRYSTALVOICEの設定SCOUT MODEの設定
スピーカー/ヘッドフォン設定スイッチで切り替える仕組みだが、端子検出で自動的切り替えも行なわれるシネマチックの設定ではDolby Digitalのエンコーダの設定が可能
ミキサー設定イコライザー設定高度な機能の設定。1項目だけだ
プロファイルを保存できるFatal1tyではレッドがアクセントとなる

 今回もEtymotic Researchの「ER-4S」を用いて、ヘッドフォン出力に繋ぎ、THX TruStudio Proを試したが、USB版と比較してダイナミックレンジが向上しているおかげか、SurroundをONにした時の音の広がりが強い印象だった。また、Bassの効果も強くなり、より迫力が増した感じだ。「PC用」として割り切って利用するなら、PCI Express版のほうが好ましいだろう。

 また今回、新たにCrystalVoiceの「FX」と「Noise Reduction」を使ってみた。それぞれの結果をWMA形式で掲載したので、聴いていただきたい。FXでは筆者自身の声、Noise Reductionでは編集部内の音をそのまま録音したが、FXではかなりの声の変化が、Noise Reductionではかなりのノイズ削減効果があることが、おわかりいただけるだろう。特にFXは、オンラインゲームで役を演じるのにかなり効果的な機能といえるだろう。

CrystalVoice FX(WMA形式)
Noise Reduction ON(WMA形式)
Noise Reduction OFF(WMA形式)

●音質評価

 最後に、サウンドカードとして重要な音質について評価していこう。今回、動作検証用環境として、Athlon II X4 640(2.80GHz)、メモリ4GB、AMD 785Gチップセット、GeForce GT 220ビデオカード、150GB HDD(Raptor X)、OSにWindows 7 Ultimate(32bit)を用意。マザーボードはASRockのM3A785GMH-128Mで、オンボードで搭載されているRealtekのオーディオコーデック「ALC888」とも比較を行なった。

 また、音質を重視して設計したとされるMSI製マザーボード「990FXA-GD80」も用意。こちらはオーディオコーデックとしてRealtekのALC892が搭載されており、マザーボード上にもTHX認証のロゴがある。

 さらに、X-Fiを搭載したサウンドカードとして、Auzentechの「X-Fi Forte 7.1」も用意した。Auzentechは音質重視設計の基板で定評があるが、Recon3Dと同様ヘッドフォン用アンプと専用の端子が用意されている。Recon3Dシリーズがこれらと比較してどのぐらいの実力を持っているか見てみたい。

X-Fi Forte 7.1X-Fi Forte 7.1の出力端子

 検証方法だが、長さ10cm程度のミニジャックケーブルで、各々のサウンドデバイスの音声出力(Line OutまたはHeadphone Out)と入力(Line In)を直結。いわゆる外部ループバックだ。そして、OS上(コントロールパネル→サウンド)で出力/入力ともに24bit/96kHzに設定した上で、音質分析ソフト「RightMark Audio Analyzer 6.2.3」(RMAA)を利用して、24bit/96kHz信号再生/録音に関する検証を行なった。なお、エフェクトやイコライザー類はすべてOFFにしてある。ただし、Realtekのオンボードサウンドのみ、24bit入力が不可だったため、16bit/96kHzの結果となっている。

 なお、RMAAをループバックテストした場合は、クロックが同期しているためジッタが少なく、別々のサウンドデバイスで出力/入力を行なった場合と比較して良い傾向を示す。また、当然のことながら、出力のみならず入力部の性能も試されるので、RMAA結果が良いからと言って「再生される音が良い」とは一概に言えないことに注意されたい。

 以上を踏まえて、まずM3A785GMH-128Mのラインアウトの結果を見ると、ノイズレベルは-88.7dB、ダイナミックレンジは88.6dBと、オンボードサウンドとしては比較的優秀と思える性能だった。ただし周波数特性グラフを見ると、100Hzまでの低域がやや少なめで、可聴領域である15kHz~25kHzまでやや波があるのがわかる。また、左右チャンネルに音量の差異があるのも気になるところだ。

M3A785GMH-128Mの周波数特性M3A785GMH-128MのノイズレベルM3A785GMH-128Mのダイナミックレンジ

 続いて990FXA-GD80のラインアウトの結果だが、ノイズレベルは-85.2dB、ダイナミックレンジは85.2dBと振るわなかった。ただグラフを見て分かる通り、1kHzのサイン波を再生してもM3A785GMH-128Mより倍音成分が抑えられているほか、ノイズレベルも低くグラフが綺麗だ。周波数特性では150Hz前後に少し山があり、20kHz以上は落ちているものの、低域の伸びはフラットで、左右チャンネルのレベルも揃えられている。入力を24bitに設定できたらもっと良い結果が得られたのだろう。オンボードサウンドとしては十分な結果と言える。

990FXA-GD80の周波数特性990FXA-GD80のノイズレベル990FXA-GD80のダイナミックレンジ

 では、これらと比較してRecon3Dの音はどうかというと、ノイズレベルは-94.3dB、ダイナミックレンジは94.2dBと、1ランク上のディスクリートサウンドとしての実力を見せてくれた。ただし、周波数特性では40Hzから600Hzの低域で山があることがわかる。ゲーミングや映画での迫力重視か、それとも小さいエンクロージャのスピーカーを想定してかわからないが、音に関しては多少手が加えられているようだ。高域については、左右チャンネルのわずかな差異が見受けられるものの、可聴領域内ではほぼフラットに再生しているようだ。

 ノイズレベルやダイナミックレンジのグラフを見ると、ほぼ可聴領域外ではあるものの、22kHzからノイズ成分がやや多いことも気になった。オンボードのライン入力に入れても見えるものなので、このあたりはアナログ部のコンデンサの少なさや基板のシンプル設計が裏目に出た結果とも言える。また、倍音成分が多いのも気になる部分だ。

 このあたりはFatal1tyでも特に改善されておらず、同じ特性を示した。基板が同じなのだから当然の結果だろう。ノイズレベルやダイナミックレンジは、プロテクトカバーがあるためか気持ち良い結果が出ているが、高域のノイズレベルの高さは完全に拭われてはいない。

Recon3Dのライン出力の周波数特性Recon3Dのライン出力のノイズレベルRecon3Dのライン出力のダイナミックレンジ
Fatal1tyのライン出力の周波数特性Fatal1tyのライン出力のノイズレベルFatal1tyのライン出力のダイナミックレンジ

 一方、ヘッドフォンアウトの周波数特性結果を見ると、こちらは余計な味付けがされておらず、ほぼフラットに再生していることがわかる。左右チャンネルもバランスがとれている。可聴領域外の高域のノイズレベルが高い問題や、倍音成分が含まれている問題はそのままだが、より素直な音になっている。ダイナミックレンジやノイズレベルはやや下がっている(-92.7dB、92.7dB)が、それでもオンボードサウンドと比較すれば1ランク上の実力であり、実用において問題になることはまずないだろう。

Recon3Dのヘッドフォン出力の周波数特性Recon3Dのヘッドフォン出力のノイズレベルRecon3Dのヘッドフォン出力のダイナミックレンジ
Fatal1tyのヘッドフォン出力の周波数特性Fatal1tyのヘッドフォン出力のノイズレベルFatal1tyのヘッドフォン出力のダイナミックレンジ

 参考比較としてX-Fi Forte 7.1のラインアウトの結果を見ると、こちらはノイズレベルが-98.4dB、ダイナミックレンジが98.4dBと非の打ち所がない結果が出た。周波数特性も非常によく、このあたりはさすが一から音質重視で設計されただけのことはある。同様に音質重視で設計されているSound Blaster X-Fi Titanium HDも、きっと良い結果になっているだろう。クリエイティブが「音質重視ユーザーのために、Sound Blaster X-Fi Titanium HDを継続する」としているのもうなずける。

X-Fi Forte 7.1のライン出力の周波数特性X-Fi Forte 7.1のライン出力のノイズレベルX-Fi Forte 7.1のライン出力のダイナミックレンジ
X-Fi Forte 7.1のヘッドフォン出力の周波数特性X-Fi Forte 7.1のヘッドフォン出力のノイズレベルX-Fi Forte 7.1のヘッドフォン出力のダイナミックレンジ

▼すべての結果(PDF)
M3A785GMH-128Mライン出力
990FXA-GD80ライン出力
Recon3Dライン出力
Fatal1tyライン出力
Recon3Dヘッドフォン出力
Fatal1tyヘッドフォン出力
X-Fi Forte 7.1ライン出力
X-Fi Forte 7.1ヘッドフォン出力

 では、実際ヘッドフォンで聴いてみた音はどうかというと、ER-4S(インピーダンス100Ω、音圧感度90dB)ではまったく問題なく、ノイズは聞き取れなかった。また、テストでもあったようにダイナミックレンジもオンボードと比較して高いため、どの音の成分も聞こえやすい印象だ。M3A785GMH-128Mだけ聞くと、これは元気があって悪くないと思われたが、Recon3Dと比較すると大雑把な感じを受ける。やはりオンボードサウンドとの差は大きい。オンボードのラインアウトでは音が小さくても、Recon3Dでは音量が十分にとれ、迫力がある。

 しかし、インピーダンスが低い(16Ω、105dB)のER-6iでは、若干ノイズが目立つ結果となった。ウィンドウが開くたびにわずかなノイズが乗る印象だ。とはいえ、Recon3Dはもともと低インピーダンスのヘッドフォンを想定していないので、実用においては問題ないだろう。

●ボイスチャットを使うゲーマー向け。ただし価格がネックか

 以上、クリエイティブの新世代サウンドカードを試してきたが、「性能や音質よりも機能を充実させた」のが印象的。ことボイスコミュニケーション関連の機能は、オンボードサウンドでは(よほど手を加えない限り)実現できないものであり、FPSゲームのオンライン対戦のボイスチャットで威力を発揮するだろう。

 音質面でもオンボードよりはワンランク上の実力を持っており、特にヘッドフォンを使っていて音量が取れないというユーザーに、本製品はもってこいと言えるだろう。

 一方で、従来のX-Fiシリーズと比較すると、そもそも24bit/192kHzの出力が不可能だったりと、同価格帯製品と比較すると音質面で今一歩及ばないのも確か。「オンボードからの音質を改善したい」というニーズは満たせるが、「サウンドカードとして音質にこだわりたい」というニーズには応えられないだろう。

 個人的な見解では、本製品はX-Fiを置き換えるというより、従来下位モデルとして存在した「PCI Express Sound Blaster X-Fi Xtreme Audio」を「X-Fi Xtreme Fidelity」の価格帯まで少し無理に伸ばしたような製品だ。実際サウンドプロセッサとしての性能どうこうはさておき、基板実装部品の数からしても、X-Fiの後継というにはやや無理がある印象だ。実売価格も、実装部品からすれば高いという印象を拭えない。

 というわけで、クリエイティブが謳う通りの結論となってしまったが、ボイスチャット機能をフルに活用したいゲーマーにはRecon3Dを、一方、再生される音質を重視したいユーザーはこれまで通り、X-Fi Titanium HDをお勧めとしたい。

(2011年 12月 27日)

[Reported by 劉 尭]