BIOSTARのLlano対応マザー2モデルを試す

TA75A+

発売中
価格:オープンプライス



 株式会社エムヴィケーは、BIOSTAR製のAMD A75チップセット搭載マザーボード「TA75A+」、「TA75M+」を発売した。価格はいずれもオープンプライスで、実売価格は前者が9,000円前後、後者が8,000円前後と非常にリーズナブルだ。今回2モデルとも借用し、試用する機会を得たのでご紹介したい。

●ATX対応のスタンダードTA75A+

 まずは、ATXフォームファクタに対応したTA75A+のハードウェアから見ていこう。

 パッケージは赤を基調とした簡素なもので、主な特徴などが描かれている。内容物もマザーボード本体のほか、SATAケーブル4本、それにI/Oシールド、説明書、ユーティリティ/ドライバDVDと、低価格モデルらしくあっさりしている。

 マザーボード本体はブラックを基調に、パッケージと同様の赤をアクセントに入れたものだが、全体に固体コンデンサを採用しているのが目立つ。CPU周りは日本ケミコン製、そのほかはElite(台湾金山集団)製だ。また、チップセットのみならず、VRM部にも大型のヒートシンクを搭載している。

TA75A+のパッケージパッケージ内容物。あっさりしてるマザーボード本体

 VRMは4+1フェーズで、VRMコントローラはSTの「L6717A」を採用。同コントローラはAthlon 64時代からの存在するものなので、Llano自身が互換性重視で低価格化しようとした設計思想であることが伺える。負荷に応じてフェーズ数を切り替える機能を搭載し、動作しているフェーズがわかる赤色LEDを5つ備える。

 本機の型番冒頭が「T」から始まることからわかるように、オーバークロック志向を踏襲したシリーズとなっている。ボード上に7セグメントLEDを搭載し、POSTコードに加えて、動作中はCPU温度を表示する機能を備える。また、電源スイッチやリセットスイッチも備えており、マザーボードむき出し状態での利用にも好適だ。

 このほか、Gigabit EthernetコントローラとしてRealtekの「RTL8111E」、HDオーディオコーデックとして同じくRealtekの「ALC892」を搭載。いずれも採用例が多く実績のあるものだ。このほかRealtekの「RTM880N-793」というICも搭載しており、データシートがないため詳細は不明だが、クロックジェネレータの一種だと思われる。

 メモリスロットはDDR3対応が4基。拡張スロットは、PCI Express x16が2基(2.0、うち1基はx4動作)、同x1が2基、PCIが2基。ATXフォームファクタは標準が7基なので、1基足りない計算だ。ボードのレイアウトには余裕があるので、頑張っていただきたいところだが、もっともLlanoの用途を考えればそこまで拡張性を必要としないのかもしれない。なお、Llano内蔵GPUと外部GPUを並列動作させるDual Graphicsへの対応はしているが、CrossFire XやNVIDIA SLIへの対応は謳われていないので注意が必要だ。

 バックパネルインターフェイスは、USB 3.0×2、USB 2.0×4、DVI-I、HDMI出力、ミニD-Sub15ピン、Gigabit Ethernet、PS/2(キーボード)×1、音声入出力を備える。A75チップセットはUSB 3.0ポートを4基備えているが、このうち2基はボード上のピンヘッダによる出力となっている。ただし、先述のようにブラケットが同梱されていないため、対応するケースまたはブラケットを用意する必要がある。

 SATA 6Gbpsは6基備えており、ボードに対し水平に取り付けるようになっているため、長いビデオカードを装着しても干渉することはない。電源やリセットスイッチなどのフロントパネルピンヘッダは色分けされておリ、自作には親切な設計だ。

 このようにTA75A+のハードウェア面は、シンプルでコストを重視しながらも手堅い実装となっており、Llanoのターゲットユーザーからしても過不足がないものとなっている。

VRMコントローラはAthlon 64時代からある「L6717A」CPU周辺。VRMの動作状況を示す赤色LEDを5つ備えるVRMにヒートシンクを装備。またCPU周辺の固体コンデンサはニチコン製だ
7セグメントLEDや電源/リセットスイッチ、色分けされたフロントパネルピンヘッダを装備し、オーバークロックと自作を意識しているA75のチップセットは大きさ控えめだ。また、SATAは水平取り付けタイプになっている
マザーボード裏面の部品実装は一切ないバックパネルインターフェイス

●microATX対応のTA75M+

 次はmicroATXフォームファクタ対応の「TA75M+」を見ていこう。

 パッケージは上のTA75A+そのもので、大きさもまったく一緒だ。型番の印字のAがMになっている以外区別がつかないため、購入するときはよく確認しないと間違えてしまうだろう。本体が小さい分、マザーボードが左右にぐらつかないよう緩衝材が1つ入っている。内容物はまったく同じだ。

 実装面でもTA75A+をそのまま小さくしたような感じで、固体コンデンサの採用、4+1フェーズのVRM、ヒートシンク、7セグメントLED、電源/リセットスイッチの装備なども同じ。このあたりはTシリーズとして譲れないものがあるようだ。VRMコントローラ、クロックジェネレータ、オーディオコーデック、Gigabit Ethernetのチップまでもが同じであり、TA75A+の機能をそのままmicroATXに詰め込んでいる。

 拡張スロットはPCI Express x16が2基(2.0、うち1基はx4動作)、同x1が1基、PCIが1基。TA75A+と同様、Dual Graphicsは対応するが、CrossFire XやNVIDIA SLIの対応は謳われていない。

 バックパネルインターフェイスはTA75A+とまったく同様。SATA 6Gbpsは同じく6基だが、こちらはマザーボードに対して垂直に装着するタイプだ。もっとも、こちらは場所がPCIスロットの下先端部なので、2基目のPCI Express x16スロットに2スロット占有のビデオカードでも装着しない限り、干渉はないだろう。

TA75A+と瓜二つのTA75M+のパッケージ内容物はTA75A+と同じスロットは4本
7セグメントLEDや電源/リセットスイッチを装備SATAは垂直刺しとなっている採用コンデンサのブランドなどもTA75A+と同じ
本体裏面バックパネルインターフェイス

●Mac OS XのDockライクなUEFI BIOS

 次にUEFI BIOSの設定項目を見ていこう。今回試用したのはTA75M+のほうである。

 筆者がBIOSTARのマザーボードを使うのはSocket 370に対応した「M6VLR」以来だ。当時は廉価製品のためそれほど設定項目が多くなかったと記憶しているが、TA75M+はオーバークロックを意識していることもあり、ASUSTeKなど大手に負けないぐらいの設定項目が用意されている。

 ベースクロックや内蔵GPU(IGD)クロックはもちろんのこと、CPUコア(0.0125V単位)、内蔵ノースブリッジ、メモリ、メモリ/PCI Expressコントローラ、サウスブリッジの電圧を調節可能。CPUコアは直接指定可能なほか、そのほかの項目に関してはオフセット(基準値からの差異)で設定可能だ。

 マニュアル設定のほか、自動設定を行なう「V6/V8/V12-Tech Engine」が用意されている。試しにAMD A8-3850(2.90GHz定格)でV6-Tech Engineを選択したところ、ベースクロックが3MHz引き上げられ、2,987MHzとなった。しかしメモリの安定性を考慮してか、クロックが1,333MHzから848MHzへと引き下げられた(メモリの定格は1,333MHz)。

 このほか、メモリの動作速度クロックや、メモリのタイミングなども細かく設定できる。ただし、DFIの「LanParty」シリーズやASUSTeKの「DIGI+ VRM」採用モデルのように、VRMのスイッチング速度や電流許可量、メモリのクロックスキューなど、極限まで突き詰めるような設定はできない。あくまでもカジュアルなオーバークロック向けだと考えるべきだろう。

 このほかの設定項目は、CPU機能の設定や機能の有効化/無効化、ブートの順番など、従来のBIOSにもあるお馴染みのものであり、オーソドックスな作りだ。BIOSの設定を6つのプロファイルとして保存できる機能も用意されている。

 なお、UIはUEFI BIOSらしく、アイコン/高解像度/多色を採用したグラフィカルなデザインで、画面下部に並んだアイコンはMac OS XのDockを彷彿とさせるものだが、ASUSTeKやASRock、MSIの製品のようにマウスを用いて操作することはできず、キーボードのみでしか操作できない。逆に言えば、従来の操作に慣れているのであれば、戸惑うことはないだろう。

Mac OS XのDock風のUEFI BIOS。マウスは利用できない。オーバークロック設定は「O.N.E」から行なう自動オーバークロック機能。CPUやメモリを自動判別してクロック設定を行なうようだ手動出オーバークロックすることも可能で、この場合細かい設定ができる
CPUの倍率や電圧を設定する画面CPUの電圧は最大1.55Vまで設定できるそのほかの電圧の調節機能
そのほか電圧はオフセット値で設定するメモリの電圧は最大+0.45Vまで設定可能だ(1.5V定格の場合1.95Vとなる)メモリのタイミングも細かく設定可能
ブートの順番などを設定する機能CPUファンコントロールの設定画面。負荷に応じて回転数を変えられる温度や電圧などの監視画面。CPUの温度が71℃となっているが、後述するように個体の問題かもしれない

●豊富なユーティリティ群

 付属のドライバDVDには、必要なドライバのほか、マニュアルのPDF版、オリジナルソフトウェアなどが収録されている。

当然と言えば当然だが、AMD Catalystを収録する。Radeon HD 6000シリーズの特徴であるビデオの手ぶれ補正機能「AMD Steady Video」などが利用可能で、3Dの設定もRadeonシリーズ共通だ

 ソフトウェアでメインとなるのは「TOverclocker」で、Windows上からFSBや電圧を直接リアルタイムに変更できる。また、BIOSの設定にはない「V3/V9/V15-Tech Engine」、さらには自動調節が設定可能だ。このほか、ファンの回転数調節や、温度の監視なども行なえる。

 ただし借用した個体の問題なのか、CPU温度を正しく検出できず、室温28℃の環境で、アイドル時6℃、フルロード時で37℃といった温度になっていた。温度のブレも大きく、これに伴いファンのコントロールも極端だった。

オーバークロック設定などが行なえる「TOverclocker」CPUとシステムの温度監視
各部の電圧監視機能も搭載ファン速度の監視と調整も可能
クロック設定の画面電圧の設定画面自動オーバークロックも設定できる

 このほか、作業用途に応じてユーザーが設定を行ない、CPUの動作クロックを制限したりすることで消費電力を抑える「Green Power Utility」や、ハードウェア情報を自動的に抽出して、ユーザーが問題を記入してBIOSTARに報告できる「eHot-Line」ユーティリティなどが用意される。

作業用途に応じてCPUの消費電力を制限できる「Green Power Utility」ハードウェア情報を抽出し、問題をBIOSTARに報告できる「eHot-Line」

 また、iPhoneやAndroid端末からメディアコントロールやマウス操作、PowerPointの操作、先述のユーティリティの起動などが行なえる独自ユーティリティ「BIO-Remote 2」も利用可能だ。IPベースのコントロールになっており、iPhoneやAndroidが本体と同じネットワークセグメント内にあれば、PC側に専用のソフトをインストールして常駐させ、IPアドレスを端末側で指定するだけで操作が可能だ。ASUSTeKのR.O.G.シリーズのように、端末から電源をON/OFFしたり、オーバークロックしたりできないのは残念だが、カジュアルな使い方では便利な機能だろう。

 ユーティリティのUIは、空白が多かったりデザインがマチマチだったりと、ややチープな印象だが、機能は過不足がなく、価格帯を考えれば十分に納得の行く内容だ。

iPhone 4でBIO-Remote 2を起動したところ。Media CenterやMedia Playerに加えて、PowerDVDや中国製の各種プレーヤーソフトをコントロールできるようだマウスパッド機能。テキストを送信する機能もあるPowerPointを操作する機能

●Llanoの良きパートナー

 以上、TA75A+とTA75M+を見てきたが、ライトオーバークロックに向いた手堅いハードウェアの設計や、機能に過不足のないUEFI BIOSやユーティリティなど、1万円を切るマザーボードとしては総じて完成度が高い印象だ。

 温度表示とファンコントロールにやや不信感が残るが、常用においては大きな欠点にはならない。そもそもLlanoは1万円台でコストパフォーマンスを追求した製品であり、マーケット的に考えてもこの価格帯のマザーボードとの組み合わせが最もバランス良い。本製品に搭載されるオーバークロック機能はあくまでもオマケ程度として捉えれば、“買い”の製品だと言えるだろう。

(2011年 7月 13日)

[Reported by 劉 尭]