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チャタってしまった10年物マウスが3,000円で完全復活!

~ドスパラ「マウスボタン故障修理サービス」に依頼してみた

筆者の愛用マウス「G9x」と「G9」。薄汚れているが、どちらも現役だ。壊れるまでは……

こだわりのマウスが壊れたら?

 読者の皆様には、お気に入りのマウスはあるだろうか。PCユーザー、とくにゲーマーには、「このマウスじゃないとダメ!」というこだわりを持っている人が結構いる。

 しかし、マウスは壊れる。知らず知らずのうちに何十万回、何百万回とクリックされたボタンは、押しても反応がなくなってきたり、シングルクリックがダブルクリックに認識される(チャタリングという症状)ようになったりする。

 壊れたら新しいマウスを買えばいいのだが、そうもいかないときがある。「このマウスじゃないと」というお気に入りの製品が、生産終了してしまっている場合だ。とくにゲーミング向けのマウスは、高耐久性をうたう製品が多く、数年持つこともある。そうなると、同じ製品を入手できることはむしろまれだ。後継機種が出ていればまだいいが、似たかたちのマウスがすでに世にないということもあり得る。

 転ばぬ先の杖として、同じ製品を複数買いこんでおくという人もいる。安い製品ならいいが、高価なゲーミングマウスを一気に複数個買うのは難しい。また製品は使わず保存しているだけでも経年劣化していく。筆者も未使用のマウスを引っ張り出したら、表面が加水分解してベタベタだったという経験がある。

 ゆえに筆者は、「壊れるまでに次に買う製品を探しておく」というルーチンにしている。調子が悪くなったら、最新のゲーミングマウスに乗り換えてきた。これまでは気に入った新製品にうまく出会えていた。

 現在愛用のマウスは、ロジクールの「G9x」(ロジクール、新センサーのゲーマー向けマウス「G9x」参照)。2009年に発売されたこのマウスは、従来のロジクール製ゲーミングマウスから大きくかたちが変わり、小さく薄い形状になった。これが筆者の手と持ち方にジャストフィットしている。

 「G9x」の前には「G9」(ロジクール、ゲーマー向けマウスの最高峰「G9 Laser Mouse」参照)という製品が2007年に発売されており、そちらも持っているのだが、このシリーズは「G9x」で終息してしまった。実売で1万円を超える高価格設定と、大きく変わった形状が、ユーザーから好評を得られなかったように記憶している。

 そしてここ数年、筆者は「G9x」に代わる製品を探し続けてきた。これと同じくらい小さく薄いゲーミングマウスというのが、意外と見つからない。さまざまな製品を試しては、これも違う、あれも違う……とやっているうちに、今年(2018年)で購入から10年目。ついに「G9x」のボタンにチャタリングが発生してしまった。

 除電して一時的に直ったりはするのだが、仕事でも使うものを爆弾を抱えたまま使い続けるのは精神衛生上よろしくない。マウスはボタン部分にあるスイッチを交換すれば修理できることは知っているが、はんだごてなど大学を出てからさわっていない筆者にはいささかハードルが高い。調子が悪いのは左のボタンだけなのだが。

 いよいよ「G9x」を捨てるしかないのか……とあきらめかけた矢先、知人から「マウス修理のサービスがあるらしいよ」という話を聞いた。調べてみると、PCやパーツを販売するドスパラが、修理サービスの1つとしてマウス修理を受けつけている。しかも修理料金は製品を問わず一律3,000円(税別)。原価1万円超で現在入手困難なマウスの修理費としては格安と思える。

 いったいマウスがどのように修理されるのか気になった筆者は、修理の様子を取材させてもらえないかと依頼したところ、快諾をいただいた。筆者の「G9x」を目の前で修理していただきつつ、サービスの詳細についてもうかがったのでここで紹介したい。

チャタリングを起こしていた「G9x」が完全に復活!

サードウェーブの金橋英昭氏

 修理を担当していただいたのは、サードウェーブの金橋英昭氏。普段の修理はオフィスで行なわれているが、今回は特別に、秋葉原の「GALLERIA esports Lounge」の一角をお借りして修理の様子を見せていただいた。

 本サービスは正確に言うと、「マウスボタン故障修理サービス」で、修理対象はマウスの左右ボタンとなっている。これまでにさまざまなマウスを修理してきたという金橋氏だが、「G9x」の修理は初めてだそう。分解修理マニュアルは存在しないため、内部構造は開けてみるまでわからない。さらに、どのように使用されたかによって内部の状態も違う。

 なお大前提として、本修理サービスはメーカーの許諾を得たものではないため、マウスの筐体を開けた時点で製品保証が無効となるものが多いと思われる。もし製品の保証期間内であれば、まずはメーカーに連絡して保証対応を受けるほうがいい。またマウスは修理対応するメーカーがほぼないため、有償修理も困難だ。これはそんなときに利用するサービスだと思っておくといい。

 実際にどんな流れで修理が行なわれたのか、写真でお伝えしよう。

PCに接続して動作確認の後、外見の確認と清掃を実施
ネジ穴がマウスソールの下にあるため、マウスソールを剥がしていく
出てきたネジを外していく
筐体を開くものの、フラットケーブルに阻まれる
フラットケーブルを丁寧に引き外す
筐体を開いたところ。外から掃除が難しいホイール付近が埃だらけ
後の作業を妨げないよう、ハケを使って埃を取り去る
下の筐体と基板を分離させるため、細かいネジを外していく
ホイールも取り外す
基板の取り外しが完了。写真の手前裏側にスイッチがある
スイッチのはんだを除去する
取り外したスイッチ(左)と、交換するスイッチ(右)。オムロン製でほぼ同製品だが、交換後のほうが高耐久品となっている
フラックスクリーナーで基板を清掃
交換するスイッチを基板にはめ込む
スイッチをはんだ付け
両方のスイッチを交換した
再び筐体に基板やホイールを装着
ピンセットを使ってフラットケーブルを装着
筐体を合わせてネジ止め
ソールの接着剤が経年劣化していたため、剥がして新たに貼り直し
アルカリ電解水でクリーニングするが、マウスが古く塗装ハゲの可能性があるためひかえ目に
修理後の「G9x」と取り外したスイッチ。当たり前だが見た目にはなにも変わらない
最後に動作確認。今回は「GALLERIA esports Lounge」のPCをお借りした

 「G9x」の内部を確認した金橋氏によると、幸いなことに「割とオーソドックスでやりやすい」とのことで、見事な手際により30分とかからずに修理が完了した。

 交換できるスイッチは、高耐久性をうたうオムロン製のものと、静音が売りのKailh製のものを選べる。筆者は耐久性を優先してオムロン製のものを選んだが、Kailh製のスイッチに交換したサンプルを触らせていただいたところ、クリック音どころかクリック感すらほとんどない、未体験の感触だった。サンプルは「GALLERIA esports Lounge」でさわることができる。

2種類のスイッチを体験できるサンプル。Kailh製のスイッチは体験する価値あり

 修理した「G9x」のクリック感を確かめてみると、ほぼ元の感触と変わらないが、やや反発力が強いような気がする。金橋氏によれば、「長年の使用でスイッチの反発力が弱まっていたのでは」という。スイッチを交換する以上、元通りになることはそもそも期待していなかったが、修理したと言われなければ気づかない程度の違いで仕上がったのはありがたい。

マウス修理は「ドスパラの技術力のアピール」

 修理が終わった後、金橋氏にマウス修理サービスについてうかがった。

 マウス修理サービスは、PCの修理やアップグレード、クリーニングなどの新サービスを企画するなかで開始された。ドスパラでは各店舗に修理サポートが可能な技術力の高いスタッフがおり、その技術力をアピールする一環としてマウス修理を実施しているという。マウスの設計図などは当然存在せず、毎回開けてみての一発勝負で対応しているそうで、それでもきっちり修理してくれるのは確かな技術力の証拠と言える。

 筆者は修理のさい、丁寧な清掃やソールの貼り替えなどのイレギュラーにも対応しているところを見て、「これは3,000円のサービスにしては丁寧過ぎる」と感じた。それを金橋氏に伝えると、「技術力のアピールの側面が強く、採算を取るものではない」という答えだった。

 修理で交換するスイッチについては、当初はオムロン製スイッチのみでの修理だったが、客から「静音化はできないか?」という相談を受けてから、静かと言われるスイッチを試した結果、Kailh製のスイッチにたどり着いたという。このあたりも「技術力のアピールだから」という前提があってこその柔軟な対応だろう。

 ちなみに交換用のスイッチは、筆者は秋葉原なら簡単に手に入るのだろうと思っていた。金橋氏も最初はそう思っていたそうだが、実際には探しても手に入らないらしく、中国からまとまった数で仕入れたそうだ。個人であればAmazonなどの通販サイトで入手可能だが、単価がかなり割高になる。

 修理依頼されるマウスは、ロジクールの「G700」シリーズが非常に多いという。有線・無線の両方で使えることや、4つのサイドボタンがあるという独特な形状でファンが多いものの、すでに生産は終了している。また構造的に筐体を開けることすら困難なため、自分で修理しようという人もあきらめてしまいやすく、このサービスに送られてくることが多いのだそうだ。

ロジクール「G700」。生産が終了しており、修理も困難なことから、よく修理依頼が来るという

 修理できるマウスはとくに限定されていない。PC-9801シリーズ用などの古いものでも、スイッチの形状は同じで交換ができたという実績もあるそうだ。マウス以外にもトラックボールのボタン部分も交換できる。無線のマウスでも問題なく修理できるが、動作確認のためにレシーバも同梱してほしいとしている。

 現時点ではマウスのスイッチ交換のみ対応となっているが、今後はソールの交換や、断線しやすいケーブルを布張りの強いものに交換する、といったものを考えているという。またサイドボタンについては、製品によってメインスイッチと同じものがついていることもあれば、まったく違うものの場合もあるそうで、修理は実際の製品を見て可能なら対応しているという。

 ボタンについで故障しやすいと言われるホイールの修理については、センサーは秋葉原でも売っているが、種類が多くストックしておくのが困難なため、残念ながら今のところは対応予定はないそうだ。

 修理の受け付けについては、オンラインで申し込んで送付する方法のほか、秋葉原であれば店頭持ち込み・受け取りも対応する。ほぼ全店で対応するが、「GALLERIA esports Lounge」であればサンプルもあり確実だという。

 金橋氏は、「手に馴染んだマウスを使い続けたい方はおられるはず。保証期間を過ぎてからチャタリングしたりしてもあきらめず、一度ご相談していただければ、対応可能であれば修理させていただきます。製品仕様的にどうしても無理なものはあるので、実物を見てみないとわかりませんが、ぜひご利用ください」と語っていた。

 eSportsが盛り上がっている昨今、お気に入りのデバイスが故障して使えなくなるというのは大きな痛手になってくる。筆者のように再入手不能になったこだわりのマウスがある人は、本サービスの存在を覚えておくといい。ちなみに「GALLERIA esports Lounge」には大量のゲーミングマウスがさわれる状態で展示されているので、修理するのか新調するのかを検討するのにも最適な店舗となっている。