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マルチディスプレイは一括で資産計上すべき?

税理士に聞く、PCまわりのマニアックすぎる確定申告ガイド(第1回)

若原税理士事務所 若原秀光税理士

 今年も確定申告のシーズンがやってきた。最近はクラウド会計サービスの普及などもあり、仕訳入力などの作業はかつてに比べて大幅に省力化されたものの、こうした帳簿の取り扱いに慣れていない個人事業主やフリーランスにとっては、まだまだ面倒な作業であることに変わりはない。

 とくにPCまわりの経費処理については、業務用か私用かといった家事按分の問題が絡んでくるほか、10万円以上30万円未満だった場合に一括償却するか否かなど、悩みどころは多い。

 本稿では、若原税理士事務所の若原秀光税理士を迎え、PCまわりのマニアックな会計処理についての考え方や、実際の処理に当たってのコツを、全3回にわたって伺っていく。主に個人事業主・フリーランス向けを対象としているが、それ以外の方でも新たな知見となる箇所は多いはずなので、これから確定申告シーズンを迎えるに当たり、参考にしていただきたい。

 第1回である今回は、資産計上および減価償却にまつわる話題と、個人事業主が直面しがちな家事按分についての話題を中心にお届けする。

10万円以上30万円未満のPCは一括償却も可能

──まず最初に確認しておきたいのですが、PCまわりの処理については、10万円未満は消耗品費として経費扱い、10万円以上だと、固定資産扱いで減価償却が必要になるという、そういう認識で間違いないでしょうか。

若原:はい、10万円未満はすべて経費ですね。それ以上でも、青色申告を選択している人であれば30万円までは全額を経費にできますので、その都度使い分けることになります。

──使い分けというのは、それは新しく費用が発生するたびに個別に判断するということでいいんでしょうか。同じ年ならば処理を統一しなくてはいけないとか、そういったことはないんですか。

若原:ないですね。利益を見ながら、確定申告の時に1つずつ考えることになりますね。

──発生した時にひとまず記帳だけしておいて、あとで判断すると。

若原:そうです、確定申告の時に全体を見ながら振り分けるような感じですね。あと、10万円以上20万未満だと、3年間で経費にすることもできますし、細かい話ですと固定資産税(償却資産税)も絡んできますので、そちらも考慮しながら選択します。

マルチディスプレイはセットで資産計上すべき?

──では具体的な事例について伺っていきたいのですが、PCを購入した時に、本体とディスプレイで分けて計上するのではなく、セットで10万円以上であれば資産計上して減価償却するのが正しい処理だと思うのですが、これがもしマルチディスプレイでの利用を前提に、ディスプレイ2台とPC本体をワンセットで購入していた場合はどうなるんでしょうか。

若原:うーん、どうなんでしょうね(笑)。うちもディスプレイを3台接続して使っていますが、たとえば当初はPC 1台にディスプレイ1台という組み合わせで購入して使い、そこから半年くらい経った頃に新規にディスプレイを買い足してマルチディスプレイにした場合は、まったく問題はありません。

 ただ、最初からセットで使うのを前提に複数台を一括で買ったのであれば、まとめて処理した方が無難な気がします。

──ややこしいのは、マルチディスプレイでの利用が前提に同じモデルを同じタイミングで買った場合、ディスプレイ2台が1枚の領収書にまとまっていることなんですよね。2枚に分かれていれば、PCとディスプレイ1台、それとは別に単体のディスプレイ1台と分けて計上するのも不可能ではないと思うんですが。

若原:「通常一単位として取引される単位ごとに判定」しろと通達には書いてあるのですが、実際問題としては、税務調査の際にきちんと説明できるかどうかなので、たとえば、1台をノートPCの外付け用ディスプレイとして使用していれば、その分は消耗品費でよいかと思います。

 ただ、購入店舗自体が同じで、一括で購入してしまっている場合は、資産計上しておいたほうが無難でしょう。そもそもディスプレイだけ単体で買っても使い道がありませんから、理屈から言うと一括で買っている場合は、まとめて資産計上ということになるでしょうね。

──セットで使うものは原則としてセットで判断するということですね。

若原:はい。国税庁のタックスアンサーでは、法人税の減価償却についてですが、応接セットの例が載っていて、応接セットでテーブルと椅子を分けて10万円未満を判定するのはNGとされています。ただ、実務的には30万円を超えていなければ、あまり気にせず処理をしてしまっていいと思います。PC関係はあまりとやかく言われませんし、このあたりは税理士さんによっても見解が異なってくると思います。

「故障で交換」と「アップグレード」で勘定科目は変わる?

──PCで、CPUやグラフィックボードなどのパーツを交換した場合、パーツは個別に経費処理することになると思うんですが、資産として登録されているPCのパーツ交換を繰り返して、原型をとどめないほど入れ替わってしまった場合、なにか処理の必要はあるんでしょうか。

若原:その場合は修繕費になるんじゃないですかね。HDDが壊れそうなのでSSDに変えるとか、修繕費的な発想になるのではないかと思いますけれどもね。ただ、価値が上がっているのか維持しているだけなのかによっても違いますね。

──交換するのがCPUやグラフィックボードだと、明らかにアップグレードが目的ですから、価値が上がっていることになりますね。

若原:価値が上がっている場合でも、3年以内の周期で行なわれる改良・修理や、20万円未満の改良費等だと修繕費で良いという規定があるので、金額が少なければ、とくに考えなくても修繕費で処理して構わないと思います。

──PCの場合は、パーツ単体で20万円はまず超えないでしょうから、それだとほぼ確実に修繕費ですね。こうしたアップグレードで資産としての価値が上がったとして、いちど固定資産で計上してしまったものを後から修正することはあるんでしょうか。

若原:建物とかだと、よくあります。建物は修繕すると価値が上がったり、耐用年数が伸びたりしますからね。たとえば建物の定期的な外壁塗装はメンテナンス費用なので修繕費ですが、タイル張りに張り替えるような場合は、資産計上になります。ただ実務的には、そこをなかなか合理的に区分することは困難なので、その場合は税法の基準をもとに判断します。

──修繕費になった場合は、単純に勘定科目を修繕費にするだけでよいのでしょうか。

若原:はい。ただ、決算書の修繕費が多額だと、税務署さんから問い合わせがある場合もあるので、なんの工事をしました、外壁塗装をしましたといった明細を自主的に確定申告書に記載することもあるのですが、PCの場合であればとくにいらないでしょう。

──資産扱いになっているPCの価値が向上する場合、追加した部品だけ単品で資産計上することになるのでしょうか。

若原:税法の基準をクリアできなければそうなりますね。PCだとやった事はないですが、実務上は修繕費に持っていきたいですけどね。20万円未満だと価値が上がっていても修繕費の処理ですね。価値の増加等が判断できなければ、次は支出額60万円とかの形式的な基準で判断します。金額が少なければ消耗品費や雑費でも構わないと思います。

──では結論としては、修繕費か消耗品費、もしくは雑費だと。

若原:そうですね。何年も使ってて壊れるのに備えてとか、速度が落ちてきたという理由でHDDを交換するのであれば、間違いなく修繕費でしょうけれども。

──要するに、HDDが壊れて交換する場合と、アップグレードで交換する場合とでは、勘定科目が変わる場合があるということですね。

若原:そういうことになりますね。ただ通常はそこまで金額がいかないとは思いますが。

──ちなみに、ノートPCやタブレットの本体を外出先で破損したり紛失してしまったとして、もしそれらの減価償却が終わっていない場合、帳簿上で何らかの処理をする必要はあるんでしょうか。

若原:固定資産になっているPCを廃棄した場合は、固定資産除却損として経費を計上して、資産から取り除きます。固定資産除却損ではなく雑費や雑損失で処理をする場合もあります。もし家事按分をしているのであれば、事業部分のみが経費になります。破損ではなく紛失の場合も同じですね。

家電量販店のポイント、会計上はどう扱う?

──よく家電量販店などで、インターネット回線の同時申込で製品の価格を割り引くキャンペーンが行なわれていますが、それを適用することで本来は10万円以上の製品が10万円未満になってしまった場合は、どのように計上するんでしょうか。

若原:これは値引きなので、実際に払った額で計上するかと思います。そうすると、10万円未満の支払額で計上することになりますね。

──値引きではなく、家電量販店のポイントを使って買い物をして、その結果として同様に10万円以上のものが10万円未満になった場合、これも同様の扱いということでよいのでしょうか。

若原:現状ではこの場合も値引きと考えて、同様の処理をする場合が多いかと思います。たまに家電量販店のレシートで、変なところで切られているものを見かけますが(笑)。ポイント使用を隠したいんでしょうが、余白のない不自然なレシートになっちゃいますね……(笑)。

──会社の物品購入を精算する際に同じことをしていて、いまこれを読んで冷や汗をかいている読者の方がいるかもしれません(笑)。ちなみにこれと似た手口で、法人で買い物をしたさいに個人のカードを出してそこにポイントをつけるのは、別におとがめはないということでいいでしょうか。

若原:会社員の場合は、厳密には一時所得でしょうが、特別控除額が50万円あるので、申告しなくても結果として問題はないんじゃないですかね。モラル的にはどうなんだろうと思わないでもないですが、まあ、よくありそうな話ですね。現実的に調べようもありませんから。

──少なくとも、家電量販店のポイントを事業主のなんらかの資産の一部とみなすような事はないと。

若原:う~ん、業務に関連して購入した際に獲得したポイントは、値引きでなく、業務の付随収入という見解もあるので、あまり断言はしたくないのですが……(笑)。

自宅からのライブ配信、家賃や光熱費は家事按分の対象になる?

──最後は家事按分にまつわる質問なのですが、最近はYouTuberのように、スタジオなどを使わずに自宅から映像配信を行なって報酬を得るケースがありますよね。この場合、使用しているPCなどの機材類だけでなく、家賃や光熱費も家事按分の対象になるんでしょうか。

若原:もちろんです。実際に事業で使っていますからね。あとは、部屋の面積なのか、時間なのか、合理的な基準で区分して按分していれば大丈夫です。

──たとえば、部屋を24時間ライブ中継をするような場合はどうでしょう。時間を基準にすると使用率は100%だ! などと主張することはできるんでしょうか(笑)。

若原:うまく説明できれば良いでしょうが、100%だとまったく私用で使っていないのかと税務署さんから突っ込まれるでしょうから、そこは控えめにしておくのが安全策ですね(笑)。以前、自宅で仕事をしているのに、前の税理士さんが家賃を1割しか必要経費に計上していなかった申告書をみて、そこまで少なくしなくても、と思ったことがありますね。

──ちなみに、そうした映像配信による収入があるかどうかでも、処理の仕方は変わってくるんでしょうか。

若原:たとえば売上1万円で経費たくさんという申告ですか? そもそも事業所得か雑所得(副業)か、微妙な話になりますね。雑所得であれば赤字は切り捨てなので、収入10万円に対して経費が100万円だった場合、90万円の赤字はなかったことになってしまいます。事業としてやっているのであれば、青色申告なら3年間は赤字を繰り越せますし、あと給与等があれば損益通算もできますし、経費は多いほうがよいという発想になるかもしれませんね。

 実際、確定申告相談会などで、売上がほとんどないのに事業所得として決算書をつくり、その赤字を、給与等と損益通算している申告書をたまに見かけます。ただ、本業と副業の区別は難しいですし、たとえば開業初年度だと売上が少ないのも当然だし、赤字もありえるので、本当に事業所得なのかもしれませんが、何年もそのままの状態で申告し続けるのは、おすすめしませんね。

(次回に続く)