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神経レベルで再現したデジタル生物が2015年登場

 神経細胞レベルでの挙動を再現した世界初の“デジタル生物”が2015年にも登場の見込みであることをNewScientist誌が報じている。

 独立研究者のTim Busbice氏は2011年、「OpenWorm」と呼ばれるプロジェクトを立ち上げた。同プロジェクトは、カエノラブディティス・エレガンス(C・エレガンス)という体長1mm程度の線虫をコンピュータの中で再現することを目標とする。

 これまでにも生物の行動をコンピュータでシミュレーションするものはあったが、それらはかなり近似的なものだ。一方、OpenWormで開発を進める「WormSim」は、C・エレガンスの脳と筋肉を細胞レベルで再現。そのデジタル脳は、実際のC・エレガンスと同じ959の細胞を持ち、302のニューロンが6,393のシナプスを通じて、95の筋肉細胞の1,410の関節に本物のC・エレガンスと同じ形態で繋がっている。ニューロン間の信号の伝達も正確にシミュレートされ、OpenWormは、バーチャルな水の中で自律的に泳ぐという、基本的な運動をできるまでになっている。

 またBusbice氏は、この人工の神経系と筋肉をレゴパーツと車輪で再現した「WormBot」も作成。こちらでは、嗅覚と味覚の検出に使われる化学受容製ニューロンをマイクに接続し、触覚の代わりとして、障害物に近付いたことを脳へ知らせる鼻当接ニューロンをソナーに接続した。

 このデジタル脳には、いつ動きを停止し、いつ曲がるべきかといったことはプログラムされていないのだが、周囲の音の大きさがある閾値を超えると、実際の線虫が食べ物の臭いに釣られるように前進し始めるが、障害物に近付くと停止し、反転した。この反射的な動きを制御しているのは、神経回路マップのみなのである。

 OpenWormは、さらに改善を進め、2015年に一般ユーザーにもテストを公開する予定。すでに大きな注目を集め、49ドルを出資することで、1年間自分専用のWormSimをテストできる権利は、KickStarterで予定数を完売した。なお、同プロジェクトはオープンになっており、ソースコードも公開されている。

 しかし、実際の生物は、経験から学習し、既存の神経接続を強めたり弱めたりすることで記憶や情報を脳へ符号化し、新しい接続を作るといったことを行なっているが、OpenWormではそこまでの域には達せない見込みだ。だが、Busbice氏は、脳や神経の働きを正確にシミュレーションすることで、アルツハイマーなどの治療に役立てられると見込んでいる。

 本物の生物とまるきり同じとは言わないまでも、非常に複雑でリアルな反応を示すデジタル生物ができたとしたら、人間はそれを本当の生物であるように感じ、「生命とは何か?」という古くからの疑問に、新しい問いかけをもたらすのではとNewScientist誌はまとめている。果たしてこのWormSimに「意識」はあるのか? 電気羊の夢を見るのだろうか?

(若杉 紀彦)