【CES 2012レポート】Intel、Ultrabookは普及価格帯へ
~タッチ、ジェスチャー、音声認識による操作も可能に

Intelの記者会見でNIKISKIと呼ばれるリファレンスデザインを紹介するIntelのムーリー・イーデン氏(副社長兼PCクライアント事業本部事業部長)

会期:1月10日~13日(現地時間)
会場:Las Vegas Convention Center/The Venetian



 Intelは、2012 International CESの開幕前日、ラスベガス市内のホテルで記者会見を開き、2011年から推進している“Ultrabook”構想の進捗状況などに関する説明を行なった。

 この中で、Intel 副社長兼PCクライアント事業本部事業部長 ムーリー・イーデン氏は「現在業界全体を挙げて、コンポーネントを薄く小さくする取り組みを行なっている。その結果として、今後Ultrabookは普及価格帯へと価格が下がっていくことになるだろう」と述べた。

 また、Ultrabookの使い勝手についても触れ、「Ultrabookでも、タッチ、ジェスチャー、音声認識などの機能を利用できるようにする。PC用プロセッサの持つ高い処理能力を利用することで、より高度な処理を行なうことが可能だ」と述べ、Ultrabookでも現在注目されているナチュラルインターフェイスをどんどん取り入れていきたいとした。

 最後に壇上に上がった、Intel セールス・マーケティング事業本部副社長兼クリエィティブサービス・デジタルマーケティング事業部長のケビン・セラーズ氏は「4月からUltrabook向けの新しいキャンペーンを行なっていく、Ultrabookキャンペーンは、Centrino Mobile Technology以来の大規模な投資になる。また、夏休み終わりの時期には第3世代Coreプロセッサに対応したUltrabookの出荷を行なう予定だ」と述べ、Ivy BridgeベースのUltrabookの出荷時期と、キャンペーンを行なっていくことを明らかにした。

●今年はCESでは新プロセッサの発表はなし、いつもとはちょっと違った記者会見に

 例年、International CESでのIntelの記者会見は、新製品発表の場として利用されている。2011年は第2世代Coreプロセッサ・ファミリー(開発コードネームSandy Bridge)、2010年はCoreプロセッサ(開発コードネーム:Nehalem)のメインストリーム版を発表した。

 ところが、今年(2012年)はその様相が大きく異なっていた。というのも、本来であれば、このCESで発表されるはずだった第3世代Coreプロセッサ・ファミリー(開発コードネーム:Ivy Bridge)は、3~4月頃発表という予定に変更になってしまったからだ。このため、今回のCESではIvy Bridge関連の機能や搭載製品にフォーカスを当てることができなくなってしまったのだ。

 こうした事情もあり、今回講演のメイン部分を担当した、イーデン氏も「テクノロジーに関してはさらっと説明する」との一言で、Turbo Boost機能や、内蔵GPUがDirect3D 11に対応していることなど、Ivy Bridgeの機能などに関しては最初に駆け足で説明するのにとどまった。

 話上手なイーデン氏の講演は、非常に複雑な話の新しいプロセッサの機能を、できるだけかみ砕いて説明していくのが通常のストーリーで、テクノロジー関連のメディアだけでなく、一般のメディアの記者にもわかりやすい内容になっており、その意味でイーデン氏の講演は非常に人気がある。しかし今回の記者会見では、製品のわかりやすいテクノロジーの解説というイーデン氏の武器を封印した講演になり、今までとは違うという印象を来場者に与えるものとなった。

開発コードネームIvy Bridgeで知られる第3世代Coreプロセッサは、今回は製品発表はなかったUltrabookのTurbo Boostの機能説明などは一瞬で終わった若干の時間が割かれたのはIvy Bridgeの内蔵GPUについて。Direct3D 11に対応しており、Direct3D 11対応の3Dゲームなどがプレイできることなどがアピールされた
Direct3D 11対応のゲームであるF1 2011をUltrabookでデモMasterCardの非接触カードシステムであるPayPassのリーダーをPCに内蔵してクレジットカードの番号をキーボードなどの操作をすることなく入力する仕組みのデモ。Intel IP(Identify Protection)の技術を利用されている

●業界と協力してUltrabookを普及価格帯にまで下げる努力を継続していく

 イーデン氏は「ここCESは一般消費者向けの展示会だ。一般消費者にとっては分岐予測がどうとか、システムバスがどうとか、そんなことはどうでもいいのだろう。彼らが欲しているのは、自分達に対してどんなメリットがあるかどうかだ」と述べ、CESにおいては、Intelも一般消費者に対して満足できるユーザー体験を提供していくことに焦点を当てていきたいとした。

 今、Intelにとって最も一般消費者向けにアピールしたい製品がUltrabookだ。Ultrabookとは、従来よりもさらに薄型を実現するノートPCのことで、現行の第2世代Coreプロセッサ・ファミリーベースの製品は2011年の後半に販売が開始されている。日本では、東芝、ASUSTeK、Acer、Lenovoなどから発売されており、価格は10万円台の前半というところが多い。

 イーデン氏がまず強調したのは、Ultrabookの価格についてだ。現行のUltrabookは、価格だけ見れば“ハイエンド”に属しており、PCが好きなユーザーなどでないとなかなか手が出ないという現実がある。この点についてイーデン氏は「Ultrabookは一部のマニア向けだけの製品ではない。さらに努力を続けて普及価格帯でもUltrabookを製造し販売したいと考えている。我々はUltrabookの価格を999ドル以下をターゲットにするといったが、それだけでは十分ではなく、今後はさらに低い価格帯を実現すべく努力を続けていきたい」と述べ、薄くて軽い部分をコンポーネントベンダーがPCベンダーに供給できる仕組みを作っていると説明した。

 実際、Intelは昨年の夏に、PCベンダーやODMベンダー、コンポーネントベンダーなどと協力して「Ultrabook Fund」と呼ばれる基金を設立している。これはUltrabook向けにより薄く、小さな部品を作り、広く業界に提供しようと考えているコンポーネントベンダーなどに資金を提供するためのもので、3億ドルをIntelなどが出資、現在も運営が続いている。そうした努力の成果として、多数のPCメーカーやODMメーカーなどがUltrabookを製造、販売していると紹介した。

Ultrabookを実現するためのコンポーネントの開発リスト。例えば液晶パネルは従来は5mmだったものが、今は3mmになるなど、少しずつ進歩しているUltrabook Fundを設立するなど業界全体での努力が続けられているすでに発売されたり、これから発売される予定のUltrabook

●Ultrabookにも、タッチ、音声認識、ジェスチャーなどを投入

 続いてイーデン氏は、Ultrabookの将来に関して語った。「PCプロセッサはムーアの法則に代表されるように倍々で性能が向上してきたが、実のところマンマシンインターフェイスに関してはあまり大きな進化を遂げていない。1980年代はMS-DOSに代表されるようなコマンドで、1990年代に入りGUIが普及した。そして最近ではタッチが次のインターフェイスとして注目を集めている」と述べ、デバイス側の性能が、ユーザーとの接点になるインターフェイスの改善に活かされてこなかったと指摘した。

 「タッチインターフェイスの注目で、クラムシェルはタブレットに置き換えられてしまうのかという質問をされることが多いが、それは明確にノーだ。なぜなら、Ultrabookにもタッチ機能が実装されるからだ」と述べ、Ultrabookにもタッチ機能を実装していくという方向性を明らかにした。そして、現行製品であるWindows 7でのデモや、Windows 8 Developer Previewをクラムシェル型のタッチ対応Ultrabookで軽快にタッチ操作する様子を公開した。また、Windows 8が搭載されたUltrabookでは内蔵されている傾きセンサーをゲームに利用する様子などをデモして注目を集めた。

 また、イーデン氏はスライド式のキーボードを採用することで、クラムシェルからスレートに変形できるハイブリッドタイプのUltrabookや、Intelが研究所で開発を続けてきたハイブリッド型UltrabookのリファレンスデザインであるNIKISKI(ニキシキ、開発コードネーム)などを公開し、実際に動かして見せた。

 さらに、イーデン氏はUltrabookで採用されるマンマシンインターフェイスはタッチだけでなく、カメラを利用したジェスチャーや、音声認識なども開発中であることを明らかにし、音声認識ソフトウェアのベンダーとして知られるNUANCEのCMO(最高マーケティング責任者)であるペーター・マホニー氏を壇上に呼び、NUANCEが開発しているUltrabook向けの音声認識ソフトウェアを利用することで、例えば英語から中国語への翻訳などがリアルタイムでできるようになると説明した。

 最後にイーデン氏は「Ultrabookには強力なプロセッシングパワーがあり、他のデバイスに比べるといろいろな作業をさせることができる。さらに業界を挙げて普及価格帯を実現する努力が続けられており、今後とも注目して欲しい」と述べ、Ultrabookへの取り組みをIntelが強めていくとアピールした。

マンマシンインターフェイスは、80年代のコマンドライン、90年代にGUIに、そして今はタッチの時代にUltrabookでもタッチインターフェイスがサポートされるクラムシェルでもタッチがあればより容易に操作できるというデモ
Windows 8での傾きセンサーを利用したデモ。傾きセンサーをゲームコントローラにしているスレート型のPCが……スライド式のキーボードによりクラムシェル型のPCとしても利用できる
NIKISKIの実働デモ。液晶を閉じると、小型の窓の部分がタッチパネルとして動作し、Metroのように見えるアプリケーションを利用できている開くとこのように普通のクラムシェル型ノートPCとして活用が可能
閉じるとPDAのような感覚で利用することができるNUANCE CMOのペーター・マホニー氏(左)がUltrabookに最適化された音声認識ソフトウェアについて語った液晶部分に内蔵されているカメラを利用してジェスチャでPCを操作

●Ivy Bridge世代のUltrabookは欧米の新年度頃に投入へ

 イーデン氏の後を受け、Intelで販売促進計画を担当するケビン・セラーズ氏(以前Intelの日本法人であるインテル株式会社にも勤務していたことがある)が、Ultrabookのマーケティングプランに関しての説明を行なった。セラーズ氏は「Ultrabookのマーケティング活動は、2003年のCentrino Mobile Technologyに匹敵するほど巨大なものになる」とし、その例としてセラーズ氏はSNSやOEMメーカーと協調しての宣伝などを紹介したほか、これまでPCとは関係が無かったような媒体(例えば若者向けのメディアなど)と協力してUltrabookのアピールをやっていくのだと述べた。

 なお、セラーズ氏は今後のスケジュールとして「4月にはより大規模なキャンペーンを開始し、学生が夏休みを終え学校に戻る時期には第3世代Coreプロセッサを搭載したUltrabookを投入する」と述べ、欧米の学校の新年度(9月)に、Ivy Bridge世代のUltrabookを投入していくことを公式に明らかにした。

Intel セールス・マーケティング事業本部副社長兼クリエィティブサービス・デジタルマーケティング事業部長 ケビン・セラーズ氏以前のIntelのメッセージは“パフォーマンス”だった。コンシューマはプロセッサを買うのではなく、よりよい体験を買うのだと
OEMメーカーやパートナーと協力してマーケティングしていくほか、SNSなども積極的に活用していくUltrabookのマーケティング計画。第3世代CoreプロセッサのUltrabookは欧米学生の新年度(9月)前後になる見込みUltrabookのマーケティングキャンペーンは2003年のCentrino Mobile Technology以来の巨大なものになる見通しだという

(2012年 1月 10日)

[Reported by 笠原 一輝]