【IDF 2011レポート】「PCは姿を変えて続けて生き残っていく」
~Haswellのライブデモも公開

Intel 副社長兼PCクライアント事業部 事業部長のムーリー・イーデン氏

会期:9月13日~15日(現地時間)
会場:米国サンフランシスコ モスコーンウエスト



 Intelが開発者向けに開催しているIDF(Intel Developer Conference)も2日目を迎え、クライアントPCに関する基調講演が、副社長兼PCクライアント事業部 事業部長のムーリー・イーデン氏によって行なわれた。

 初日の基調講演が市場全体の概観になるのに対して、2日目の基調講演は具体的な製品に言及することが多くなる。今回のイーデン氏の基調講演でも、Intelが推進するUltrabookに関する具体的な製品計画に関する解説などが行なわれた。

 この中でイーデン氏は、Intelが2013年に投入を計画しているHaswell(ハスウェル、開発コードネーム)の実動デモを行ない、Haswellの実チップを詰めかけた来場者に公開した。

●PCは姿を変え続けて生き残ってきた、そのさらなる進化形がUltrabook

 冒頭でイーデン氏は「現在でも毎日100万台のPCが出荷されている。特に中国やブラジルなどの成長市場でのPCの成長は著しく、今後数年にわたりそれは減速することはないだろう」という見解を示した。

 しかし、先進国市場では、PCは今後減速していく一方だという見解が広がっており、イーデン氏自身もそうした疑問をよく聞かれるという。「それでも今後成長市場以外の市場でもPCは成長する可能性があるかと聞かれるたら、答えは”Yes”だ」と、日本や米国のような成熟市場(先進国の市場)でもPCの復権はあり得るという見解を明らかにした。

 先進国市場での成長を実現する理由としてイーデン氏は、PCが形を変えてきて、現在まで生き残ってきた強力なプラットフォームであることを指摘した。「1995年にリリースしたPentium MMXで、PCはエンタープライズのプロダクティビティユースから、コンシューマがゲームをしたりビデオを見たりというデバイスに生まれ変わった。また、2003年にリリースしたCentrino Mobile Technologyにより、PCはデスクトップからノートへと姿を変え、ワイヤレスでいつでもどこでも利用できるようになった。そして2011年から始まるUltrabookへのと姿を変えることで、PCはさらにパーソナルなデバイスになる」とし、Intelが推進するUltrabook構想が、PCの変革を促すことで、新しい形となってPCはさらに普及していくと述べた。

毎日100万ユニットのPCが出荷されているPCの成長は中国やブラジルなどの成長市場が支えているPCは形を変えて生き残ってきた、これからもUltrabookという姿に形を変えて成長を続ける

●Ivy Bridgeは「Tick+」と言ってよいほどの拡張

 続いてイーデン氏は「最近よく聞かれる質問がある。それがCPU、GPU、メディア一体どれが大事なんだというものだ。答えは、どれでもない、なぜならそれらは今は1つのチップになっているからだ」とし、現行製品である第2世代Coreプロセッサ・ファミリー(開発コードネーム:Sandy Bridge)のデモを行なった。

 イーデン氏が行なったデモは、Sandy Bridgeの内蔵GPUやプロセッサコアを利用してさまざまな処理を行なうデモで、内蔵GPUのエンコーダエンジンを利用してエンコードすることで高速処理される様子を示した。その上でイーデン氏は「Sandy Bridgeは前の世代の製品に比べても、大きな成功を納めた。急速に立ち上がったのはもちろんのこと、これまでに7,500万ユニットの出荷を果たしている」とアピールした。

 その上でイーデン氏は、Sandy Bridgeの後継製品となるIvy Bridge(アイビーブリッジ)に関する説明を行なった。「我々はTick-Tockモデルで製品展開を行なっているが、機能を拡張したSandy BridgeはTock、その微細化版となるIvy BridgeはTickに相当する製品になる。Ivy Bridgeでは多数の機能拡張を行なっており、単なるTickではなくTick+だ」とした。

 Ivy Bridgeのトランジスタ数は14億8,000万トランジスタとなり、Sandy Bridgeの11億6,000万トランジスタよりもさらに増え、さまざまな活用ができるという。例えば、グラフィックスはDirectX 11に対応しているほか、内部のアーキテクチャも拡張されており、「我々のGPUコアはSandy Bridge世代で大きな進化を遂げた。その時ほどは大きくないのは事実だが、充分驚くに値する性能の向上を見て取ることができるだろう」と述べ、COMPUTEX Taipeiでも公開した、25個のHDストリームを同時に再生するデモや、非常にリアルなDirectX 11に対応したゲームをプレイする様子などを公開した。

 最後にイーデン氏は「Ivy BridgeはSandy Bridgeとピン互換になっている。このため、今Sandy Bridgeを利用しているシステムであってもBIOSアップグレード程度でIvy Bridgeが利用できるようになる」と述べ、アップグレードパスの有効性を示した。

現在のユーザーの使い方でCPU、メディア、グラフィックスのどれが重要かと問いかけるSandy Bridgeは大成功を納めており、これまでに7,500万ユニットをすでに出荷済みSandy Bridgeではさまざまなソフトウェアが高速に動くと、CPUとGPUが1チップになったメリットをアピール
2011年の末までに出荷される予定のIvy Bridge地味だが、Ivy Bridgeの製品名が第3世代Coreプロセッサとなることもスライドで示されたIvy Bridgeのフロアプラン、このダイはクアッドコアの例
Ivy BridgeのGPUは基本的にはSandy Bridgeの拡張だが、改良により性能は向上しているとイーデン氏グラフィックスのデモをしようとすると、ドライバーのエラーが発生した……まだ開発中ということなのだろうか……
25個のHDストリームを同時に再生可能内蔵GPUを利用して、ここまでの3Dグラフィックスのリアルタイム表示が可能に

●Ultrabookではユーザー体験が何よりも重要視されている

 講演はユーザー体験に関する話に移っていった。「以前はCPUがあって、その上で動くOSがあり、その後でどのようなユーザー体験をユーザーに提供できるかというのが基本的な考え方だった。しかし、これからは、まず提供したいユーザー体験が決まり、それに対して必要なOSやプロセッサをチョイスしていく時代になっている」と述べ、どのようなユーザー体験を提供するかがデジタル業界にとって重要なポイントになっていると指摘した。

 その上でIntelのユーザー体験の研究者を壇上に呼び、右脳、左脳、それぞれに必要な要素などを紹介した。その上で「何よりも重要なことは、ユーザーが望んでいることを研究し、それを提供していくことだ」と述べ、そうした研究を元にUltrabookで提供すべきユーザー体験などを決めていっていると述べた。

 イーデン氏によれば、Ultrabookで提供されるべきユーザー体験は、より軽く薄くというデザイン以外にも6つのポイントがあるという。

(1)コンテンツクリエーションが手軽にできること
(2)長い間待つことなくすぐに使えること(応答性の完全)
(3)安心して使えるセキュアな環境が確保されていること
(4)自分用に手軽にカスタマイズできること
(5)いつでも使えること
(6)低価格であること

 性能や応答性の観点では、Ivy Bridgeの持つ高い性能と、Intel Turbo Boost Technologyを利用した応答性の改善などが紹介された。イーデン氏は「2012年のIvy BridgeのULVプロセッサは、数年前のSVプロセッサを上回る性能を持っている。かつ、Turbo Boostを利用すると、ULVプロセッサもSVプロセッサと同じクロックで瞬間的に動作するので、アプリケーションの起動などはSVプロセッサと同様に高速だ」と述べ、いずれもIvy Bridge世代ではULVプロセッサであっても問題の無い応答性を確保しているのだと述べた。

 さらに、Intelが計画しているハイバネーションからの復帰などを高速にするIntel Rapid Start Technologyなどを紹介し、実際にハイバネーションからの復帰が4秒以下である様子を示し、そうしたさまざまな要素を組み合わせることで、UltrabookではユーザーがPCを快適に利用できる環境を整えるとアピールした。

ユーザー体験が何よりも大事で、それからOSやプロセッサが決められていく左脳と右脳で求めるニーズが違うと、Intelの研究者。両方を満たすことが大事だとしたそうした研究結果から導き出されたユーザーのニーズ
古い厚ぼったいノートPCから薄型のUltrabookを取り出すイーデン氏。びっくりさせたいという趣向だったようだが、ちょっと滑り気味だった……
取り出されたのはIFAで公開された東芝のUltrabookUltrabookに必要とされるユーザー体験ULV版のIvy BridgeはSV版のCore 2 Duoよりも高い性能を実現する
Ivy BridgeのULV版はTurbo Boost時にSV版のTBクロックと同じまでに達すスルIntel Rapid Start Technologyなど、OSの起動やハイバネーションからの復帰などを高速にする技術に対応することが条件となるハイバネーションからの復帰は4秒以下で終わっていた

●Intel ATの新しいサービスプロバイダにMcAfeeが加わる

 セキュリティに関しては、Intel Identity Protection TechnologyとIntel Anti-Theft Technologyの2つが紹介された。

 ATの略称で知られるIntel Anti-Theft Technologyは、Sandy Bridge世代のノートブックPCから全SKUに搭載されている機能で、BIOSレベルにPCのデータを消去する機能やロックする機能を実装することで、PCが盗難された場合にネットワークを通じてコマンドを発行してデータの消去ないしはロックをする機能だ。OSレベルでそうした機能を実装しても、ソフトウェアそのものを消されてしまえばおしまいだし、何よりも盗まれたPCはそのまま利用されてしまう。しかし、ATを有効にしておくことで、盗まれたPCのデータにアクセスできないことはもちろんのこと、PCそのものもロックされてしまうので、利用することもできないのだ。

 このATの機能を利用するには遠隔ロックに対応したサービスを提供するサービスプロバイダと契約する必要がある。すでにWinMagic、Absolute Software、Symantecの3社からサービスが提供されているが、今回新たにMcAfeeがATに対応した遠隔ロックサービスをコンシューマ向けUltrabookを対象に提供することが明らかにされた。McAfee共同社長兼コンシューマ・モバイル・スモールビジネス事業 事業部長のトッド・ゲブハート氏によれば、2012年の前半に投入するという。

 また、Intel Identity Protection Technologyのデモでは、泥棒にキーロガーでキーストロークを盗まれても、IPTを有効にしていると携帯電話での本人確認ができたり、CPUやメモリの内容を保護することができるため、パスワードなどを盗めないようにすることなどが可能である様子などがデモされた。

 そして、価格面でも、「我々は台湾などの業界関係者と協力してできるだけ低価格でUltrabookを提供できるように努力している。1,000ドル以下を目指しているが、最終的にはさらに下がる可能性もある」という。さらに、3億ドルのUltrabook向けのファンドを設立し、そのファンドからコンポーネントメーカーに対して投資をし、最終製品の価格を下げる取り組みを今後とも行なっていくと述べた。

セキュリティの強化に関してはIntel Identity Protection TechnologyとIntel Anti-Theft Technologyへの対応がなされる2012年の前半にMcAfeeがIntel ATに対応したコンシューマ向けサービスを提供するIntel IPTの説明のため、悪者役の担当者が忍者の服装で登場。なぜ忍者が悪者なのかは日本人的にはイマイチ納得できないが……
銀行のパスワードを入手しても、自分のクライアントからアクセスしていない場合には携帯電話にSMSで確認がいく仕組みUltrabookをより低価格にするために、業界を挙げて取り組みが行なわれているUltrabookをよりよいモノにするためにUltrabook基金として3億ドルを出資

●UltrabookではWin32アプリケーションとMetroの両方が動作する

 さらにイーデン氏は、同じタイミングで行なわれているMicrosoftのイベント“Build”で公開されたばかりのWindows 8についても触れ、「IntelとMicrosoftの共同作業は20年以上に渡っている。それはWindows 8でもさらに強力なものになるだろう」と密接な強力をアピール。その後、壇上にMicrosoftの担当者が呼ばれ、新しいWindows 8のデモが行なわれた。

 デモでは、新しいMetro UIの様子と、そのMetro UIから従来のWin32のアプリケーションを呼び出して動く様子などが紹介された。イーデン氏は「IAプラットフォームでは、従来のWindowsアプリケーションとMetro UIの両方が動く」と述べ、Windows 8でも引き続きIAのアドバンテージは大きいと強調した。

 さらにイーデン氏は、今後登場する将来の製品として、台湾のODMメーカーが製造したIvy Bridgeが動作するUltrabookを紹介した。Compal、FOXCONN、Pegatron、Quantaなどの台湾の主要ODMメーカーの製品では、Ivy Bridgeが動くように設計されているという。イーデン氏は「我々はODMメーカーと協力して次世代の製品開発も進めている」と述べ、今後も台湾のODMメーカーと協力してより魅力的な製品をOEMメーカーに対して提案していきたいと述べた。

Windows8とUltrabookに関しての説明を行なうBuildで参加者に配布されたWindows8搭載タブレットを紹介Metro UIをUltrabook上でデモ
Metro UIからWin32アプリケーションを起動すると、Windows 7で見慣れたデスクトップが表示されるODMメーカーはすでにIvy Bridge搭載のUltrabookを設計し、公開している

●PSR、Thunderbolt for Windowsときて、最後にHaswell

 講演の最後に、イーデン氏は将来の3つの新技術について言及した。1つ目はPSR(Panel Self Refresh)。一般的なPCアーキテクチャの場合、ディスプレイの表示を維持するためにフレームバッファとなるビデオメモリの内容をディスプレイに送るリフレッシュという作業が発生する。現在のプロセッサのように内蔵GPUを持っている場合には、メインメモリの一部にフレームバッファを展開しており、リフレッシュが必ず入るたびにメモリに電力が必要になるため、画面にあまり変わりが無い状態でも、無駄な電力を消費していることになる。

 そこで、PSRではフレームバッファを液晶のコントローラ側に持ち、それにより、画面に変化が無い限り、リフレッシュが液晶パネル側のフレームバッファにだけかかるので、メインメモリにリフレッシュをかけるよりも低消費電力で済むというメリットがあるという。

 今回はLG Displayが試作したPSRパネル「Shuriken Panel」を利用したデモが行なった。eDP(Embedded DisplayPort)1.3で接続されたディスプレイからケーブルを外しても、パネル側にあるフレームバッファにリフレッシュがかけられディスプレイの表示が続けられている様子などがデモされた。

 また、これまではAppleのMac OS上でだけサポートされていたThunderboltのサポートがWindowsにも拡大されることも明らかにされ、実際WindowsでThunderboltのデバイスからデータを読み込んでいる様子などが公開された。

 そして最後の最後にイーデン氏が行なったのが、Ivy Bridgeの後継としてIntelが開発を続けているHaswell(ハスウェル)のデモだ。イーデン氏はHaswellの実チップを公開した、実際にその上でWindowsが動作している様子などを公開した。ただし、今回はそれ以上の情報無く、Haswellがどのようなアーキテクチャになるのか、どのような構成になるのかなどに関して特に新情報はなかった。

LG DisplayのShuriken Panelは、PSRの仕組みが採用されている。フレームバッファはディスプレイ側にあるPSRの液晶パネルでは、リフレッシュがディスプレイ側のフレームバッファに対してかかるので、消費電力を低く抑えることができる
ThunderboltをWindows上で使っているデモ2013年に投入が予定されているHaswell
基調講演の最後でHaswellの実チップを掲げるイーデン氏、イーデン氏の右側に見えるデスクトップPCはHaswellベースのマシンイーデン氏が公開したHaswell

(2011年 9月 15日)

[Reported by 笠原 一輝]