【PCI-SIG Developers Conference 2010レポート】
Al Yanes氏インタビュー「PCIe Gen3の次は」

Al Yanes氏。本職はIBMのDistinguished Engineer, Hardware Architecture, Server IO, System & Technology Group

会期:6月23日~24日(米国時間)
会場:米カリフォルニア州 Santa Clara Convention Center



 Press Conferenceの後で、今度はAl Yanes氏と1対1で話す機会を作ってもらったので、こちらの内容をお届けしたいと思う。

Q:2年前にも同じ質問をしたと思うんですが、そのときには「まだ議論には早い」というお返事だったんで、改めてお伺いします。PCIe Gen3の次、をどう思いますか。

A:今朝もちょっと触れたと思うけど、ここ数年はGen3の策定に専念していた。現時点でのNo.1 Goalは来年のコンプライアンステストの仕様を固めることだ。ただ、I/Oエキスパートに言わせれば、現在のPCIe Gen3のスペックは、さらに性能を改善してGen4を実現できる潜在的能力(Potential)がある、との事だ。もちろんさまざまな困難がまだあるだろうが、とにかくいくつかのオプションは存在する。

Q:確かにある種のアプリケーション、たとえばInterlakenなどでは、より高い帯域が求められています。ただこれはアプリケーションとしては例外に属すると思います。今はPCIeやPCIは、Interlaken BridgeのようなハイエンドからPC、さらにはコンシューマデバイスまで幅広く利用されているわけですが、こうしたPC以下の製品に、より高い帯域のI/Oインターフェイスは本当に必要なんでしょうか。

A:私はPCエキスパートではないけど、おそらくグラフィックスを除いては無いと思う。グラフィックスだけは例外だ。で、サーバーに関して言えば、Yesだ。

Q:いやまぁサーバーとかルーターはそうなんですけど、たとえばそれ(Yanes氏の持つノートPC)には必要ですか。

A:このノート、遅くてね(笑)。ネットワークアクセスしようとすると10秒位止まるんだが。

Q:いやそれはそのノートの固有の問題だと(笑)

A:ただネットワークそのものはどんどんトラフィックが増え、それに対応してより高速なものが必要とされている。

Q:ただネットワークといっても、たとえば10BASE-Tから100BASE-TX、1000BASE-Tはスムーズに移行しましたが、10GBASE-Tでスタックしてます。エンタープライズ向けは10Gは広く利用されていますが、コンシューマ向けには今のところ10Gがくる見込みは無くなっています。

A:まぁグラフィックスしかないだろうね。

Q:ところがご存知の通り、IntelもAMDもグラフィックスに統合しようとしています。すると、どんな用途がより高い帯域を必要とするのでしょう。

A:うーん、PCエキスパートではないからねぇ。

Q:では次に、オプティカルについて。こちらをどう思われます?

A:ご存知の通り、Intelは前回のIDFで「Light Peak」を出してきた。正直、よく分からない。私はオプティカルについても疎いからだ。ただ個人的には、次世代がオプティカルになるとは思えない。依然として銅配線が使われると思う。

Q:ただGen3で8GHzですから、単純に考えると次は16GHzですよね?

A:確かにハードルは高い。まだこれについては結論は出ていない。

Q:なので決断はしていない、と。

A:正確に言えば、まだ議論を始めていない。これについては3.0が終わってから、つまりGen3のBase 仕様 1.0がリリースされた後で議論を始めることになると思う。

Q:IntelのLight Peakについて、個人的にはどう思われますか。

A:今年あれを見たときには興奮したよ。実際、かなり安価にできる可能性があるしね。ただまだ製品にはなっていないわけで、今は興味深く見守っている。

Q:次にプロトコルについて。IntelがGeneseoという形で提案したプロトコル拡張は、最終的にPCI Express 2.1にProtocol Extentionとして統合されましたが、2.1にはGeneseoの全部が盛り込まれたわけではなかったと記憶しています。これらをさらに取り込む予定はあるのでしょうか。

A:残ったものも、すべてECNの形で盛り込んだ。だから、今はGeneseoで提案された全拡張が網羅されている。

Q:ほかの企業からもプロトコル拡張の提案はありましたか?

A:いろいろな企業から寄せられており、これらはすべてECNの形で盛り込んだ。

Q:ということは、そのうちECNを取り込む形で、PCI Express 2.2とか3.1が出る予定はあるんでしょうか。

A:うーん、はっきりしたことは決まっていない。ちょっと確認するが、ただ2.2は出るかもしれない。

Q:話は変わりますが、今回Gen3で受信側にはLEとDFEが入ったのに送信側はLEのみなのはなぜでしょう。

A:私もあまり詳しくないのだが、私の理解ではDFEは受信側にのみ必要である。DFEはCrossTalkやノイズの除去の目的で利用されている。1Tap/3TapのDFEで、こうしたノイズを除去できる。送信側は(送信前にノイズやクロストークの除去はできないので)DEFは不要であり、リカバリとEye Detectionのみが行なえればよい。

【写真2】これはIDF Beijing 2010における"PCI Express 3.0 Technology: PHY Implementation Considerations on Intel Platforms"のプレゼンテーションより抜粋。送信側でも、こうした面倒な話が

Q:もう1つ。IDF Beijing 2010でIntelはPCIe Gen3の進捗を発表し、この中でEqualizerの性能を上げることが重要であると指摘しているわけですが(写真2)、これはこれでコスト増加の要因になると思います。であれば、たとえばFR-4より特性の良いボードを使うといった別の選択肢もあったと思うのですが。

A:それはちょっと複数の話を混在させているな。我々はチャネルへのリコメンデーションは出しているが、別にFR-4を必須にしているわけではない。

Q:次に電力に関して。ご存知の通りNVIDIAがFermiチップを出しましたが、これが単体で300Wを要求するというものです。しかも彼らはこれを複数載せたボードを出そうとしています。

A:(ありえない、という顔で天を仰ぐ)。

Q:もっともこれはNVIDIAのみならずAMDやその他のアクセラレータベンダーも事情は同じで、なので可能ならば300Wを超える電力供給を欲しています。一方PCIeのCEMでは、現在300Wまでしか定義されていません。これについてどう思われますか。

A:私はGPUには詳しくないが、でも300Wは莫大な電力なんだが。

Q:まぁそうなんですが、たとえばカタログスペックでは290Wとかになっていても、ベンチマークを回すと瞬間的には300Wを超えたりすることもあるわけです。で、より高い供給電力のCEMを定義するといった予定は?

A:ない!! 300Wで十分だ。

Q:あと、ATIやNVIDIAのリファレンスカードはそうなってませんが、市場に出ている製品の中には、2x4の電源コネクタを2つ持つものがあり、これに対応して電源メーカーも2x4レーンを2つとか4つ出せるものが売られています。これをどう思われます?

A:どんなフォームファクターがそんな恐ろしいものを使うんだ?

Q:それはまぁ巨大なケースですねぇ。そこに1,000Wを超える電源が入ってて、さらに2×4コネクタが2つ搭載されたカードが2枚装着されているという。最近はこうした構成がハイエンドマシンのデファクトスタンダードになりつつあるのですが。

A:それをエンドユーザーが納得して購入するのなら、いいんじゃないかな。ただ少なくともCEMに関しては、そうした(2×4コネクタを2つ搭載する)構成や300Wを超える電力供給といった提案は存在しない。少なくとも現在、そうしたニーズはきわめて限られたマーケットだしね。

Q:ついでにお聞きしますが、いくつかのベンダーはこうした消費電力の増加に対応して液冷を利用しようとしていますが、これをCEMで標準化しようなんて可能性は?

A:我々はそもそも消費電力をどうやって下げるかに腐心してるわけで、今のところそうした標準化の要求はないな。

Q:もう1つ。現在のPCIeでは3.3Vと12Vを提供していますが、最近のLSIはたとえば1.5Vとかで動くものも多いわけで、結果として拡張カード上に巨大な電圧レギュレータが必要です。より低い電圧を供給すれば、電圧レギュレータの負荷が減ると思うのですが?

A:それは考えたことのないアイディアだな。過去を振り返ると、PCIも最初は5Vを供給していたのが後で3.3Vになった。ただ新しい技術は、確かに古い規格を必要としないが、古い技術は依然として古い規格が必要だ。

Q:技術の話つながりになります。たとえばPCIe Gen1の時代、130nmでの製造はファウンダリ間の互換性がまだありました。TSMCで130nmで製造していたものを、UMCに持っていっても、確かに同じではないにせよRTLはほぼ共通でしたし、物理パラメータの調整は必要にしても簡単でした。ただ今同じ事を40nmでやろうとすると、非常に困難です。

 こうしたこともあって、たとえばIBMはCommon Platform Allianceを形成して、プロセスに最適化したPhysical IPを提供するといった事を始めています。実のところ、Gen3に関してはこうしたファウンダリに最適化したIPが無いと困難ではないのでしょうか?

A:それは不可能だ。それは法的な問題に直面することになる。もし我々がそうした特定の企業と密に組んだ場合、当然不公平になるだろう。製造の難しさに関しては、確かにあなたに同意する。が、その場合我々と組んだ企業が勝者となり、組めなかった企業が敗者になるわけで、そうしたビジネスに巻き込まれるわけには行かない。もっと言えば、十分なスキルがある企業は生き残り、これがない企業が敗れることになる。

Q:そもそもPCI-SIGの目的はなんでしょう?

A:仕様を策定し、Enablementを行なうことだ。我々は業界をコントロールしたいわけでも支配したいわけでもなく、メンバー企業を複雑な状況に追い込みたいわけでもない。IPを売りたいわけでもない。

Q:ただRevision 0.7から0.71でIP Verificationが発生していますよね?

A:我々はVerification Modelを構築する必要があった。このモデルから我々は学習し、さらに仕様を洗練させる必要があった。ただそれはすべてのメンバー企業に反映されるもので、イコールコンディションだ。

Revision 0.71の開発に名前を連ねている企業(再掲)

Q:とは言っても、たとえばRevision 0.71の開発に名前を連ねている企業は、Early Adopterになることを目的に参画しているわけですよね?

A:それは、そうした企業がリスクを取ったということだ。我々はあくまでもTechnologyにフォーカスし、仕様を完成させることを目的にしている。だから各企業が独自にビジネスの判断をすることには口を出さない。たとえばPCIe Gen1の時、Revision 0.9→1.0で変更があった。(だから、0.9をベースに製品を作ったベンダーは、それなりに被害をこうむった)。

Q:でも先ほどGen 1は0.9→1.0で大きな変更はないと言ってましたよね?

A:0.7→0.71の変更が非常に大きかったから、これに比べれば変更は小さい。

Q:もう1つ。Gen3だけでなくGen1とかGen2の時もそうですが、Early Adopterを狙って先行開発を行なったベンダーというと、IntelとかNVIDIAとか、あるいはLeCroyなど、チップベンダーや測定器ベンダー、あとはIPベンダーや設計ツールベンダーが目立ち、ファウンダリが含まれているのを見たことがないのですが、これはなぜでしょう。

A:それは彼らがプレスリリースを出してないからだ。実際TSMCがNo.1なので、みんなTSMCを使っているだけだ(笑) TSMCの40nmが一番だよ。保障する。

Q:ところで、話が飛びます。MR-IOVはどうなってしまったんでしょう。仕様は出ているんですが、誰も使ってません。

A:今のところ、PLXのみが(MR-IOVの)スイッチを出しているけど、ほかはSR-IOVどまりだ。

【写真3】Showcase会場で展示されていたDenaliのIPポートフォリオ。「なんでMR-IOVのatabahn IPがPending?」と聞いたら「No customer」と一言

Q:実際DenaliはMR-IOVのhardbarn IPをペンディングにしています(写真03)。

A:PLXのみが今のところ提供しているのが実情だ。

Q:今後はどうでしょう?

A:MR-IOVの実現には、対応するスイッチが必要になる。これは実装が非常に重く、巨大なシリコンを必要とする。今のところ業界には(MR-IOVが提供する)、複数のプロセッサで周辺機器を共用するニーズがないようだ。個人的にはMR-IOVが立ち上がるためには、もっとSR-IOVが広く使われる必要があると思う。SR-IOVは実質的にはアダプタだけで実現できる。だから、SR-IOVがもっと広く利用されるようになれば、それにつれてMR-IOVも立ち上がるだろうと思う。

Q:確かにSR-IOVの立ち上がりも遅いですね。いつごろ立ち上がると思います?

A:うーん、SR-IOVを引き続き推進してゆけば、いつかはMR-IOVも立ち上がるだろうけど、相当先だろうね。多分2年よりももっとかかる。

Q:SR-IOVはいつぐらいになります?

A:こちらは既に製品は出てきているし、精力的に対応しているベンダーもあるけどねぇ。

Q:SR-IOVはアダプタやスイッチ以外に、ベンダーがデバイスドライバ提供しないといけないですしね。

A:その通り。

Q:何かこう、SR-IOVの普及を進めるためのセミナーとか

A:そうした予定はない。既に(PCI-SIGは)必要な作業を全部終えている。あとは業界に任せる形だ。

Q:最後の質問になります。ExpressCardは……

A:分からない。本当に。ものすごく普及は遅い。なんで普及しないんだと思う?

Q:いや私も分からないから聞いているんですが。

A:わからないねぇ。個人的にはSR-IOVやMR-IOVにはまだチャンスがあると思う。既に動作するチップもあるし、数社が製品をリリースしている事を私自身知っている。だから将来的には普及する可能性がある。でもExpressCardの事は本当にわからない。特にPC業界の動きはさっぱり理解できないよ。

ということで、割といやな質問に対し、誠実に返答してくれたが、技術的な細かい部分はYanes氏はノータッチ(このあたりはむしろNeshati氏の方が得意なのだが、今回は同席されなかった)だったため、もっぱら大枠の話に終始することになった。とりあえず今は、難航していたGen3がやっと0.9に向けて進んでいる最中なので、もう他のことまで手が回らない(逆に言えば、0.7→0.71はそれほど難航した、ということだろう)感じであった。ということで、この0.71がどんなものになったのか、というあたりを次にレポートしたいと思う。

(2010年 6月 28日)

[Reported by 大原 雄介]