【IDF 2009レポート】エリック・キム氏基調講演
~TV向けSoC「Sodaville」ことAtom CE4100を発表

Intel副社長兼デジタルホーム事業部 事業部長のエリック・キム氏

会期:9月22日~24日(現地時間)
会場:米サンフランシスコ モスコーンセンター



 Intel Developer Forum(IDF)は、9月24日(現地時間)に最終日を迎え、副社長兼デジタルホーム事業部 事業部長のエリック・キム氏とCTO(最高技術責任者)ジャスティン・ラトナー氏による基調講演が行なわれた。

 コンシューマ機器向けの半導体を販売する事業部であるデジタルホーム事業部を率いるキム氏は、Intelがいま力を入れているSoC(System On a Chip)製品の1つで、開発コードネームSodaville(ソーダビル)で知られていたTV向けチップを、「Intel Atom Processor CE4100」としてリリースしたことを明らかにした。

 CE4100は、Intel Atomプロセッサをベースに、グラフィックスチップやI/Oコントローラなどが統合されたSoCで、45nmプロセスルールに基づいて製造されることになる。

 Intelは、このAtom CE4100を利用して、大手家電メーカーなどへの採用が進んでいない現状の打開を図る意向だ。

●開発者こそドリーマーたれとIDFを激励したラ=フォージ少佐

 キム氏の基調講演は、主役であるキム氏が登場しない形で始まった。まずは、TVに関するビデオが流され、それが終わると、壇上のソファーに2人の男が聴衆に背中を向ける形で座っていたのだ。座っていたのは、キム氏と、スタートレック ネクストジェネレーションのジョーディ・ラ=フォージ(バイザーをつけた黒人の士官)役を演じたレヴァー・バートン氏。2人は、壇上に即席で作られた“キム氏のリビング”において、新しいユーザーインターフェイスを採用したTVを操作するデモを行なった。

 そのデモの中では、キム氏が音声コマンド機能でTVを操作したり、キム氏の後の基調講演で登場する。Intel CTOのジャスティン・ラトナー氏とTV電話を子画面でしながら、ビデオの再生を行なったり、ビデオファイルをラトナー氏に転送したりという使い方などがデモされた。

 自身もGeek(オタク)だというバートン氏は詰めかけた聴衆に対して「幼い頃にスタートレックを見ていた子供達が、いまは科学者やエンジニア、デザイナーになっている。幼き頃に見たスタートレックの世界、たとえば液晶がくるりと開く携帯電話がいまでは現実となっている。今日私が開発者である皆さんにお願いしたいのは、開発者こそドリーマー(夢想家)たれ、ということだ。私の友人でもあるパトリック・スチュワート演じるジャン・リュック・ピカード(筆者注:スタートレック ネクストジェネレーションの戦艦であるエンタープライズ号の船長)がよく使う言葉“make it so”(筆者注:日本語だと、そうしてくれ、とかそのように頼むという意味)を皆さんに送りたい」と述べ、聴衆である開発者やエンジニアに向けて、夢を持ち、それを現実にしてほしいと語りかけた。

2人の男性が、即席のリビングルームでTVを見ている画面の右下でIntel CTOのジャスティン・ラトナー氏とTV電話で交信中レヴァー・バートン氏が開発者に向かって「開発者よ、夢を持て」と激励
●昨年リリースしたx86 SoCを再度アピール

 キム氏は、バートン氏と一緒に垣間見せたようなTVの未来を作るために、Intelが昨年リリースした製品の紹介をまず始めた。開発コードネーム“Canmore”(ケーンモア)ことIntel Media Processor CE3100は、昨年の第3四半期に製品が発表されたSoC(System On a Chip)で、x86プロセッサ、グラフィックスチップ、I/Oコントローラなどをすべて1チップにしたことで、リッチなインターネットの機能を実装したTVを作ることができる。ただし、日本や米国では今のところ搭載した製品はリリースされていない。

 Intel デジタルホーム事業部 主任エンジニア兼アーキテクトのスリ・メダパティ氏が、そのメリットを説明した。CE3100は、Pentium M相当のIAコアを内蔵しているほか、MPEG-2/MPEG-4 AVC/VC-1などHD動画を2ストリームデコードできるハードウェアデコーダを備えた内蔵2D/3Dグラフィックス、DDR2メモリコントローラ、セキュリティプロセッサ、SATAなどのI/Oコントローラなどがすべて1チップになっている。

 「このCE3100を利用することで、OEMメーカーは強力なインターネット体験をユーザーに提供するTVを製造することができる」とキム氏はCE3100の魅力をアピールした。

昨年の第3四半期にリリースされたCE3100CE3100のブロックダイアグラム
●CE4100で、家電メーカーは強力なTVを低コストで製造可能

 続いてキム氏は「CE3100は始まりに過ぎない。我々はこれからも強力な製品を投入していく」と述べ、IntelがこれまでSodaville(ソーダビル)の開発コードネームで開発を続けてきた、CE4100の説明を始めた。

 CE4100は従来はPentium Mコアだったx86プロセッサをAtomベースに置き換えたほか、製造プロセスルールをCE3100の90nmから45nmへと縮小したため、大幅な省電力化を実現している。

 キム氏によれば、1080pのHD動画をデコードするハードウェアデコーダはMPEG-4 AVCのサポートが追加されたほか、内蔵GPUの動作周波数を倍に、さらに1080pのHD動画をキャプチャする機能や、統合されたNANDコントローラ、DDR2/DDR3両対応のメモリコントローラなどの機能を備えており、前世代に比べて大きな性能向上が実現さているのだという。

 また「CE4100は性能を向上させただけではない。CE3100との下位互換性を実現しており、CE3100で走るソフトウェアはすべて走らせることができる。また、家電メーカーにとって非常に重要な部材コストを削減することが可能だ」と述べ、CE4100で家電メーカーはより強力なTVを低コストで作ることができるとアピールした。

 次いでキム氏は、米Ciscoのビデオ製品戦略担当のマラキー・モニハン氏を壇上に呼び、ビデオオンデマンドのビジネスの可能性について語り合った。シスコはセットトップボックスベンダのScientific-Atlantaやコンシューマ向けネットワーク機器ベンダのLinksysを買収しており、コンシューマ向けのIPベースの動画配信についてこれまでも可能性を探ってきたのだという。

 モニハン氏は「ご存じのようにIPベースのビデオ配信ビジネスというのはそんなに簡単なことではない。今後コンシューマがIPベースでビデオ配信サービスを利用するようになれば、IPネットワークはパンクしてしまう。また、コンテンツを保護する方法など、解決すべき課題は多い。我々はすでに5億台のセットトップボックス、1.6億台のデジタルビデオレコーダを出荷済みで、そうした経験を生かせば問題を解決していけると思う。我々はCE4100に大変興味があり、Intelと協力して業界に貢献していきたいと考えている」と、CE4100への関心を示した。

Sodavilleの製品名はCE4100にCE4100のブロックダイアグラムCE4100のパッケージ(左)を見ると、CE3100(右)に比べて小さくなっていることがわかる
CE4100の特徴は、高性能で、CE3100と下位互換性があり、部材コストを削減できることシスコ ビデオ製品戦略担当のマラキー・モニハン氏
●Adobe FlashがCE3100でも動く

 キム氏は引き続き「TVはPCのように難しくていけない。誰にでも使えて、簡単でなければならない」と、TVにインターネットにアクセスする機能を追加するとしても、簡単にアクセスできるようなものでなければならないと述べた。

 さらに、「我々は昨年来、この矛盾した問題に取り組んできた。昨年CE3100を発表した時にはその1つの回答してウェジットチャネルを提案した。ウェジットチャネルを利用することで、ユーザーは1クリックで簡単にサービスにアクセスできるアプリケーションをロードできる。今年は、これに加えて、Adobe Flashを利用する仕組みについてお話したい」と述べ、インターネットのコンテンツを楽しむ仕組みとして標準の1つになっていると言ってよいAdobe Flashについて語り出した。

 壇上にはAdobe Systems 副社長兼プラットフォームビジネスユニット事業部長のデビット・ワドワニ氏が呼ばれ、IntelとAdobeがどのように協力していくのかについての説明が行なわれた。

 ワドワニ氏は「数年前から我々はOpen Screen Projectという取り組みを始めている。これはAdobe Flashを利用して、PC、ネットブック、携帯電話、デジタル家電など異なるプラットフォームからでも1つのコンテンツにシームレスにアクセスできるようにする仕組みを整える取り組みだ。Intelとも協力しており、今日ここにCE3100上でAdobe Flashが動作する様子を公開したい」と述べ、CE3100を搭載したTVで、Adobe Flashを利用したアプリケーションが動作する様子を公開した。その上で、集まった開発者に対して、Adobe Flashを利用したコンテンツを作ってくれれば、TV上でも利用することができることをアピールし、Adobe Flashの採用を呼びかけた。

 Adobeのワドワニ氏についで壇上に呼ばれたのが、コンテンツを提供する側のCBSグループの一員であるCBS marketing社長のジョージ・シュワイザー氏。キム氏に“リアルテッキ-”(真の技術オタク)と表現されたシュワイザー氏の趣味は、ホームオートメーションだそうで、ニューヨークにある自宅の駐車場のドアをスマートフォンで操作することができるのだという。

 シュワイザー氏によれば「コンシューマがコンテンツを楽しむ環境は変わりつつある。以前であればTVは見るものだったが、すでに動画をどのように管理するかに変わりつつある」と指摘し、新聞やTVガイドなどにより番組を調べて見る時代から、録画したビデオなどをどのように管理するかどうかがコンシューマにとって重要になってきていると指摘した。その上で、CBSがウェジットチャネル向けに提供するウェジットを公開し、手軽に録画や、番組上で紹介されている製品が手軽にインターネット経由で購入できる様子などを紹介した。

Adobe Systems 副社長兼プラットフォームビジネスユニット事業部長 デビット・ワドワニ氏IntelとAdobeが協力して、CEプラットフォームにFlashを実装していくというCE3100上でAdobe Flashのアプリケーションが動作する様子
ユーザーインターフェイスもAdobe Flashを利用して作られているCBS marketing社長 ジョージ・シュワイザー氏
TVはただ見るだけのものから、ビデオを管理するものへと移りつつあるCBSがウェジットチャネルに提供するウェジット
●Windowsで動作するPCゲームを、CE3100/4100に移植

 最後にキム氏はCE3100のようなプログラマビリティを持つプロセッサを搭載したTV上でのゲーム配信の可能性について言及した。「例えばAdobe Flash上で動作するゲームが多数あるが、我々のプラットフォーム上でもAdobe Flashに対応したため、これらを動作させることができるだろう。だが、我々のプロセッサはIAベースであり、x86ネイティブで動作するPCゲームを動作させることができる可能性がある」と述べ、PCゲームをCE3100/4100の環境に移植し、配信するビジネスの可能性について考えていることを明らかにした。

 壇上にはTransGaming CEOのビカス・グプタ氏が呼ばれ、Windowsで動くPCゲームをLinuxに移植し、それをインターネットを通じて配信する仕組みに関する説明が行なわれた。

 グプタ氏は「我々が開発しているのはあるプラットフォーム用のゲームを、他のプラットフォームへと移植する仕組みだ。現在はAppleのMac向けにサービスを提供しており、多数のWindowsゲームがMacで利用できるようになっている。我々はこれをIntelのCEプラットフォームにも導入したいと考えており、Intelから提供されたSDKなどを元に開発を進めた結果、いくつものゲームタイトルをCEプラットフォーム向けに移植することに成功した」と述べた。

 その上で、将来的には家電メーカーやサービスプロバイダーなどを経由して、ゲームを配信することを計画していることを明らかにし、2010年初頭には試験サービスを開始し、2010年後半にはサービスプロバイダや家電メーカーを経由した本格的なサービスを開始すると述べた。

 まとめとしてキム氏は「TVの未来はここにある。コンシューマが本当に望む技術がここにあり、TV技術のブレークスルーはまさにいまここに始まるのだ」と、詰めかけた開発者に対してCE3100/4100の採用を呼びかけて、講演を終了した。

TransGaming CEO ビカス・グプタ氏TransGamingが提供するゲーム配信の画面。ゲームをテレビにダウンロードして手軽にプレイできる

(2009年 9月 28日)

[Reported by 笠原 一輝]