【ESC SV 2009レポート】雑談編


 ということで、ESCの話題もこれで最後にしたいと思う。最後のレポートは、会場全体の話などを取り留めなく。

●恐ろしいまでのスカスカぶり(その1)

 さてまずは基調講演。基調講演はSJCC(San Jose McEnery Convention Center)そのものではなく、通りを挟んで向かいにあるTHE Civic Auditorium(写真01)で行なわれたのだが、1階フロアは最大1,800人ほど入れると言いつつ、実際には1,000人を切っている程度。もっともこの聴衆の半分以上は、Opening KeynoteのSpeakerであるT.K.Mattingly提督(写真03)の講演目当て。提督の講演が終わった瞬間に、大挙して聴衆も退席しており、これに続いて行なわれたMicrosoftの基調講演に参加していたのは、目算で300人くらいといったところか?

 実を言うと、そのMicrosoftの基調講演のさらに後には2009 ACE Awardsというイベントがあったのだが、Microsoftの基調講演の後でまたもや大量に聴衆は離脱。おそらくACE Awardsに参加した聴衆は100人に満たなかっただろう。

【写真01】SJCCの入り口から。これは初日の基調講演の1時間ほど前に撮影したもので、すでにボツボツと聴衆が集まっているのが判るが、こんなのは初日だけ【写真02】これは基調講演開始20分ほど前。この後ずいぶん増えたようだが、それでも1Fフロアを埋める程には至らなかった【写真03】アポロ13号と16号の宇宙飛行士を務めたT.K. Mattingly提督(米海軍、退役)。内容は面白かったが、やはりメインはアポロ計画の中でいかにして物事を進めて行ったか、というプロジェクトマネジメントに近いものだった。興味ある方は、こちらで講演を視聴できる

 もっとも、これはまだいい方。2日目のMicrochipの基調講演の直前はこんな具合(写真04)、3日目のFreescaleではこんな具合(写真05)である。まぁESCの基調講演は決して人気があるものではないのだが、それにしてもこれは……と思わざるを得ない有様だった。

【写真04】基調講演開始5分前の光景。この後だいぶ来たとはいえ、200人いたかどうか...【写真05】こちらも5分前の光景。最終的には多分100人程度

●恐ろしいまでのスカスカぶり(その2)

 スカスカなのは出展社にも当てはまる。例えば前日レポートで書いたルネサステクノロジ、その内容はというと3月31日に7つのセッションを開催した「だけ」。思いっきり肩透かしを食らってしまった。

 あるいはAMD。一応会場中ほどにブースは設置してあった(写真07、08)が、とりあえずお付き合いで展示しているといったところ。もっとも、これらのベンダーは出しているだけまだ「マシ」である。

【写真06】内容も既存のMCUの話だけであって、RXマイコンの話など皆無【写真07】もっとも内容の殆どは新味の無いものであった。まぁ出ないよりはマシといったところか【写真08】一応ブースの裏側にはこんな具合に各社のボードが展示してはあったが、特に新製品などは見当たらなかった。というか、とりあえず集めましたといった感じで、特に用途別とか構成別というわけではなく、ただ並んでいるだけ

 一番酷かったのがIntel。会場のフロアマップを見ると(写真09)と、出入り口の所に“Intel Embedded and Communication Alliance”というブースがある「筈である」。が、実際はただテーブルがおいてあって、勝手に休憩所になっている状況(写真10)。唯一Intelを偲ばせるのが、天井から下がったこれ(写真11)「のみ」である。おそらく、直前に出展をキャンセルしたのであろう(直前でなければ、フロアマップにブースを示す領域が残っているわけが無い)。おそらくはこのフロアマップを見て決めたのだろう、AMDはフロア脇の出入り口に全面広告を打っていたが、肝心のIntelが居ないために見事に空振りとなっていた(写真12)。なんせ会場でIntelのロゴを一番大きく展示していたのがここ(写真13)という有様だ。

【写真09】2008年の場合、ここに大きなブースを設け、さまざまなメーカーの製品をまとめて紹介していた。こちらのレポートでの写真は、この大きなブースで撮影したものだ【写真10】テーブルとか椅子にも何もないところを見ると、別にIntelがスポンサードして会談用にセッティングしたというわけでもない。というか、「いつも」の風景である【写真11】「んで?」と問いただしたい垂れ看板。まさかこれを1枚吊り下げるためにブースのエリアを借り切ったわけでもあるまいて
【写真12】Intelは見事にAMDに無駄金を使わせた、と評価できる…わけがない(笑)【写真13】ドイツのCongatec。Intel製品をベースにしたEmbedded向けボードを発売しているベンダー

【写真14】Flexisシリーズを使ったエアホッケー。ホッケー台の上にカメラが置かれており、これが画像認識でパックの位置などを認識し、ロボットアームを動かして相手するというもの。処理に使っているのがFlexisシリーズなので、8bitと32bitのどちらでも制御が出来る(ただし当然反応速度などに違いが出る)。なので8bitを使うと楽勝で勝てるが、32bitだとえらく苦戦する。で、「今どっち積んでる?」と聞くと「32bit」。「んじゃ勝てるわけ無いじゃん」「そんなことはない。たまには勝てる(笑)」

 出展を取りやめたのはIntelだけではない。MCUベンダーではMIPS TechnologyやSun Microsystemsが不参加だったし、Freescaleも一番目立っていたのがこれ(写真14)で、1月に発表したCortex-A8ベースのi.MX515を使ったネットブックのサンプルなんぞ影も形もなし。同様にQualcommのSnapDragonも、期待していたのだがまったく見ることが出来なかった。メモリベンダーも、NumonyxとRamtronは居たものの、それ以外のメモリチップベンダーは皆無。SSDやメモリモジュールベンダーはそこそこ居たが、有名どころはほんど見ない。FPGAもXilinx/Altera/Latticeは揃っていたものの、Atmelは今年は完全に撤退(昨年はブースは出さなかったがPrivate Roomを設けていた)。

 OSベンダーにしても、Green Hillsは居たが、WindRiverは自社ブースを設けずに、自社サイトでVirtual showcaseを設けて終わりという有様である。大体出展エリアそのものが、2008年に比べて2割近く減っている感じであり、また参加者も明らかに減っている感じがありありと判る。

 まぁ2009年は不景気とあって、別にESCのみならず全ての展示会で出展社や参加者が減る傾向にあるので、とりたててESCがどうこうという話ではないのかもしれないが、来年はどうなるんだろう? と疑問を抱かせるに十分なほど空いていた。

●主催もやっぱり金が無い

 昨年は参加するとちょっとしたバッグがもらえ、更にFull-Ticket(一番高額の、全セッションとExpo全日に参加可能なチケット)を購入したユーザーには、Survival Kitと呼ばれる、より格好いいバッグ+アメニティがもらえる「はず」だった。はずだった、というのは結局最終日になってもこのSurvival Kitが会場に届かなかったためで、「あとで登録住所に郵送する」とか言われたものの、結局配布せずに終わってしまった。

 さて、今年はというと、やはりSurvival Kitを配布(しかも事実上ほぼ参加者全員に)ということになっており、結果から言えばちゃんと配布されたのだが、それがなかなかすごかった。配布されたSurvival Kitとは、こんなバッグで、中は水とCD、いくつかのチケットなど(写真16)。普通なら参加するともらえる類のものだが、これはわざわざ別に配布される。では、登録の時にもらえるのは? というと、このバッグ(と、カタログが数枚)のみ(写真17)。実のところ、会場で広告がてら配っていた別のベンダーのバッグの方がよほど使いでがある、という代物だった。どう考えても、Survival Kitなどと銘打って別に配布するメリットが判らない程度のもの。

【写真15】一応A4サイズの書類がそのまま入る大きさだが、全体的に小ぶりな肩掛けバッグ。ネットブックあたりを入れて持ち歩くのに適当なサイズ。【写真16】内容物は
Safari Books Onlineの1カ月購読チケット
・Netrinoのトレーニングの割引チケット(最大35%オフ)
・Embedded-On-Demandの90日間無料アクセス
・Time Engineers computer game for kidsの無料版
・Semiconductor Insightsの特定号の無料購読券
・UCSC(University of California, Santa Cruz)のScholarship無料チケット(1日分)
・水500ml
・microSDカードリーダと1GBのmicroSD
といったところで、この手のExibitionでは普通にもらえる特典といった趣のもの。
【写真17】不織布のトートバッグというか、エコバッグというか……

 おまけに、このSurvival Kitを入手するために、開場早々から巨大な行列が(写真18、19)。どうもSurvival Kitの事は出展社には伝わってなかったようで、並んでいる途中で何度も「これ何の列?」と聞かれる有様。先に、初日の基調講演でMicrosoftのセッションが終わると大半の聴衆が退席したと書いたが、退席した聴衆は、会場がオープンするや否や、このSurvival Kitを入手する列を構成したというオチまでついている。そんな長蛇の列を作るようなものではないのだが……。

 ちなみに2日目の午後も、まだこんな感じだった(写真20)。なんというか、明らかに色々間違っている気がしてならなかった。というか、バッグ代をケチりすぎである。もっとも去年と比べると、会期が一日短くなり(当初は3月31日~4月3日の5日間のスケジュールだったが、途中で4月3日のトレーニングセッションが全部廃止になり、4日間に減ってしまった)、出展者数も減り、会場も狭くなるという悪環境の中では、少しでもコストを抑えたかったのかもしれないが。

【写真18】この遥かかなた先で配布が行なわれていた。ちなみにこの時点から筆者がSurvival Kitを入手するまで約20分。【写真19】こちらは筆者の後ろの行列。ほぼ会場全体の長さに及ぶ行列が出来上がることに。【写真20】さすがに列の長さはだいぶ短くなったが、最終日まで一応列が出来ていた。要するに配布に手間取りすぎという話だ。

●というわけで

 まぁそうは言っても、Tear Downは相変わらずの好調ぶり(写真21)だったし、ちょっと面白いブースもいくつかあったりはした(写真22~24)が、全体的に極めて低調、というのがESC SV 2009だった。昨年と比べても明らかに活気が減っており、来年以降取材する価値があるか、はかなり悩ましいところである。この後、Embedded系だと日本でも5月にESEC、10月にCEATEC、11月にETがあるし、ESC自身も9月にはBostonで開催されるほか、6月にはESC India、10月にはESC UK、12月にはIP-ESCがフランスで開催されることになっている。メーカーのプライベートイベントに関しても、例えばFreescaleは毎年恒例のFTF(Freescale Technology Forum)の開催に関し、今年はアメリカとEMEAでの開催を見送る決定をしたり、IntelはIDF ChinaをローカルIDFと位置づける事実上の縮小を行なったりと、どんどん縮小傾向にある。とりあえず今年後半にはもう少しEventの落ち込みが底を打ってくれるといいのだが、と思わざるを得ない感じだった。

 最後に小ネタを1つ。さて何が違うでしょう? (写真25、26)。

【写真21】これは確かVirtual Boyの分解セッションの風景。一番人気があったのは、Sundstrand FA-542(飛行機に搭載されるフライトレコーダー。通称ブラックボックス)のTear Downだった様だが、初日の19:00~20:00という非常に遅い時間に設定されており、体力の限界だったので筆者は見送った。ちょっと残念である。【写真22】これはThe DINI Groupが展示していた、ASICプロトタイプ製作用のFPGAボード。これはStartixⅢを20個並べたものだが、その奥にはVirtex5をやはり20個並べたボードが展示されていた。さすがに洒落にならないほど高価なため、毎日持ち帰っていたようで、朝一番にここのブースに行くと展示用の台だけがおいてあった。
【写真23】台湾iEi Technology Corp.の16分割表示パネルデモ。【写真24】裏面の構成が凄まじい。各パネル毎に1台ずつ表示制御用SBCをおき、これをホストと連動させるシステム。とはいえ、最近はこの手のニーズが増えてきている気がするが。
【写真25】これは初日の基調講演に先立って挨拶を行なったRichard Nass氏(Editorial Director, Embedded System Conference)が立つ演壇。ということで、この後に続いたMattingly提督の講演の間、ずーっとこのまんま。【写真26】翌日には速攻で直っていた。色々変更すべきことが多くて、直し忘れたのであろう。

(2009年 4月 30日)

[Reported by 大原 雄介]