イベントレポート

AMD、Ice Lakeの性能を90%上回る第3世代Ryzenの詳細を説明

AMDが発表したノートPC向けの第3世代Ryzen 4000シリーズ・プロセッサ

 AMDは、1月7日~1月10日(現地時間)に米国ネバダ州ラスベガス市で開催された「CES 2020」のプレスデーに記者会見を開き、ノートPC向けの第3世代Ryzen 4000シリーズを発表。第1四半期に販売開始されるOEMメーカーのノートPCに採用されると明らかにした。その後、会期中に記者向けの説明会を実施し、同製品の詳細を語った。

 昨年(2019年)までの第2世代Ryzen 3000シリーズは、12nmプロセスルールで製造されていたが、第3世代Ryzen 4000シリーズでは7nmプロセスルールで製造されるようになり、8コア/16スレッドというノートPC向けとしては強力なスペックを実現している。

 また、TDP 15WのUシリーズの最上位として用意されているRyzen 7 4800Uは、Intelの第10世代Core(Ice Lake)と比較してマルチスレッド時の性能が90%も上回るという。

 今回は同時にHシリーズと呼ばれるゲーミングPC、コンテンツクリエーション向けのSKUも強化されており、従来製品のTDP 35Wの枠からIntelのHシリーズと同じ45Wへと拡大され、薄型のゲーミングPCなどで新しい選択肢として注目を集めることになりそうだ。

チップレット・アーキテクチャではなく1チップを維持したTSMCの7nmで製造されるSoC

7nmプロセスルールに微細化されることで8コアが実現可能に

 今回AMDが発表した第3世代Ryzen 4000シリーズは、CPUには第2世代のZenアーキテクチャとなる「Zen 2」を採用し、GPUには改良版のVegaを搭載。メモリコントローラやI/Oコントローラなどを含めて1チップで製造されるSoCとなっている。

 デスクトップ向けのRyzenやRyzen Threadripperなどが良い例だが、現在のAMDのPC向けプロセッサは、複数のCPUダイと、メモリコントローラ+CPUのIOD(I/O Die)が別チップとして製造され、サブストレート上で統合されるという「チップレット・アーキテクチャ」という仕組みを採用し、それが強みになっている。

 これによって、CPUのダイを2つにして、Ryzen 9 3950Xのような16コア/32スレッドといったCPUが作られており、今回のCESで追加されたRyzen Threadripper 3990Xは、8つのCPUダイ×8+1つのIODという組み合わせで、64コア/128スレッド、PCI Express 4.0対応というスペックが実現されている。

AMDが発表したRyzen Threadripper 3990X
AMDのブースに展示された日本のサイコムのRyzen Threadripper 3970X/Radeon RX 5700 XT搭載デスクトップPC

 ノートPC向けRyzenでは、第2世代Ryzen 3000シリーズでもI/Oまで1ダイとなっているSoCだったが、今回もそれを継承したことになる。ノートPCの場合には、メモリコントローラ、PCI Express、そしてI/Oコントローラも含めて細かく省電力の制御をしなければならない。それが1チップになっていればより細かな処理ができるが、I/Oコントローラが別チップになっているとそうはならない場合がある。その意味でノートPC向けを1チップにしているのは論理的だと言える。

電力効率は2倍で、深い省電力ステートからの復帰のレイテンシは5分の1に、そしてSoC全体で20%の電力削減。さらにメモリコントローラもLPDDR4/4xに対応

 実際AMDは、前世代と比較して電力効率は2倍に、より深い省電力のステートから通常モードへ復帰するレイテンシは5分の1に、そしてSoC全体で20%の電力削減を実現しているとする。

 また、メモリコントローラはAMDのノートPC向けとしてははじめてLPDDR4/4xに対応しており、それも消費電力の削減に一役買っていると言えるだろう。

 なお、AMDによれば第3世代Ryzen 4000シリーズは、TSMCのN7と呼ばれる7nmプロセスルールで製造される。ダイサイズなどは非公表だ。

CINEBENCHのマルチスレッドでIntel/Ice Lakeの最上位を90%凌駕するという性能を発揮

AMDが公開したCore i7-1065G7とのベンチマーク比較データ

 第3世代Ryzen 4000シリーズのCPUはすでに説明したとおり、デスクトップPC向けの第3世代Ryzenや第2世代EPYCなどと同じZen 2アーキテクチャとなっている。

 Zen 2の特徴はZenの弱点だったシングルスレッド時の性能を引き上げていることで、内部アーキテクチャなどの見直しなどによりIPCが向上している。

 実際にAMDが公開しているベンチマークデータによれば、TDP 15Wの最上位SKU同士(AMDやRyzen 7 4800U、IntelはCore i7-1065G7)で比較した場合、シングルスレッド(CINEBENCH R20)ではほぼ同等(Ryzen 7 4800Uが4%上回る)となっている。

 従来のZenアーキテクチャではシングルスレッドではやや遅れを取っていたことを考えると、Zen 2になった効果は大きいと言える。

 そして、IntelのIce Lakeが最上位SKU(Core i7-1065G7)であってもクアッド(4)コアであるのに対して、Ryzen 7 4800Uはオクタ(8)コアになっていることが大きな差を生んでいる。

 AMDが公開した資料では、CINEBENCH R20のマルチスレッドテストでRyzen 7 4800Uは、Core i7-1065G7を90%も上回るという。これはシンプルにAMD側がシングルスレッドでIntelと同等の性能を実現し、コア数を倍にした効果が出ていると考えられる。

AMDが発表した第3世代Ryzen 4000シリーズ、UシリーズのSKU構成
トップSKUとなるRyzen 7 4800Uのスペック
クリエイターツールを利用したベンチマークデータ
AAAタイトルゲームでのベンチマークデータ

 内蔵GPUに関しては、同社の最新アーキテクチャであるRDNAではなく、従来の第2世代Ryzenでも採用されていたGCNベースのVegaが内蔵されている。なおかつ従来製品ではトップSKUはグラフィックスコアが10だったのが、今回の製品ではトップSKUのRyzen 7 4800Uでも8に減っている。

 AMDによれば、アーキテクチャ自体が改善されており、かつ、GPUの周波数が向上しているので結果的に性能は向上しているという。確かに第2世代RyzenのトップSKUとなるRyzen 7 3700Uは10コアだが動作クロック周波数は1,400MHz、今回のトップSKUとなるRyzen 7 4800Uは8コアだが動作クロック周波数は1,750MHzとなっている。

 なお、AMDによれば、Ryzen 7 4800UのGPUは3DMarkのTimeSpyでCore i7-1065G7を28%上回っているとする。

 今回の第3世代Ryzen 4000シリーズの標準TDPは15Wだが、cTDPに対応しており、25Wから12Wの間でOEMメーカーの自由に設定できる。

 このcTDPの枠は、IntelのUシリーズ・プロセッサと同等の枠になっており、とくに第10世代CoreプロセッサのうちIce LakeのcTDP 25Wに対応していることには大きな意味がある。

 というのも、薄型のゲーミングノートPCなどでは、Ice Lakeを採用してcTDP 25Wで設計し、よりGPUの性能を引き出すようにしているものがある。それがIce Lakeの強みになっているのだが、それと同じ熱設計を第3世代Ryzen 4000シリーズも利用できることになるので、同じようにGPUやCPUの性能をより向上させた薄型ノートPCをOEMメーカーが設計できるようになる。

Ryzen 7 4800HはデスクトップPC向けのCore i7-9700Kを上回る性能を発揮

トップSKUとなるRyzen 7 4800Hのスペック

 また、昨年の第2世代RyzenではゲーミングPCやクリエイターPC向けのHシリーズはTDP 35Wと、IntelのHシリーズの45Wに比べて10W低い設計になっていた。しかし、第3世代Ryzen 4000シリーズのHシリーズはTDP 45Wが標準になっており、cTDPにより35Wにも設計できるようになっている。つまり、IntelのHシリーズ向けに設計しているシャシーを、そのままAMD向けに利用できるようになったということだ。

AMDが発表した第3世代Ryzen 4000シリーズ、HシリーズのSKU構成
Intel Core i7-9750Hと比較して39%の性能向上
Intel Core i7-9750Hと比較データ

 AMDが公開したベンチマーク結果はなかなか刺激的で、同じTDP 45WになるCore i7-9750Hと比較して39%の性能向上を実現しており、TDP 95WでデスクトップPC向けのCore i7-9700Kをも上回るとアピールしたのだ。

 言うまでもなくゲーミングPCやクリエイター向けのPCでは性能はもっとも重視されてしかるべきだ。多少バッテリ駆動時間が犠牲になっていようが、結局はACアダプタで使うと考えれば、このことの意味は小さくない。

 これまでAMDの性能のリードはデスクトップPCにとどまっているというイメージを多くのユーザーが持っていたと思うが、第3世代Ryzen 4000シリーズの登場はその状況を大きく変えたと言っていいだろう。

 このため、Ryzen 4000シリーズを搭載する多数のマシンが、CPUの発表と同時に公開されている。AMDの記者会見でも紹介されたLenovoのYOGA SLIM 7は、FreeSyncに対応した14型フルHDのディスプレイを搭載しており、CPUはRyzen 7 4800U最大でメモリは16GB(LPDDR4x)、256GB SSD、Wi-Fi 6に対応、厚さ14.9mmで重量は1.4kgからというスペックになっている。

 ほかにもUシリーズを搭載した製品としてはAcerの「Swift 3」などがCESで発表されている。

Acer Swift 3
Lenovo Yoga Slim 7

 そしてHシリーズを搭載した製品としては、Dellの「G5 15 SE」や、ASUSの「ROG Zephyrus」などが発表されている。G5 15 SEは、Ryzen 7 4600UとRadeon RX 5600Mを搭載しており、AMDが記者会見で発表したCPUとGPUの熱設計の枠を相互にやりとりする「SmartShift」機能に対応。CPU/GPUの性能をそれぞれ向上可能になっている。

Dell G5 15 SE
ASUSのROG Zephyrus

【お詫びと訂正】初出時にASUSの「ROG Zephyrus」がRyzen 4000Uシリーズ搭載としておりましたが、正しくは4000Hシリーズ搭載となります。お詫びして訂正させていただきます。

 AMDによれば、第3世代Ryzen 4000シリーズは、OEMメーカーのマシンに搭載されて第1四半期から市場に登場する見通しだ。