イベントレポート

【IEDM 2017】従来の半分の積層数で1Tbitを実現可能な超高密度3D NANDフラッシュ技術

3D NANDフラッシュメモリのセル構造。左は従来のセル構造。右はMacronix Internationalが開発したセル構造。IEDM実行委員会が報道機関向けに発表した資料から

 中堅の半導体メモリベンダーである台湾のMacronix International(以降はMacronixと表記)は、ワード線の積層数が48層と少ないにも関わらず、1Tbit(1,024Gbit)と大きな記憶容量を実現可能な超高密度3D NANDフラッシュ技術を開発し、この12月に米国サンフランシスコで開催された国際学会IEDMで技術概要を発表した(講演番号19.1)。従来の3D NANDフラッシュ技術では1Tbitの実現に96層(3bit/セル:TLC方式の場合)が必要とされてきた。Macronixが開発したフラッシュ技術だと、積層数が約半分で済み、製造が容易になる可能性がある。

 従来の3D NANDフラッシュ技術は、ワード線の薄膜層を積層したあとに円筒状の細長い孔を開けてから円筒形の多結晶シリコン(Si)チャンネルを垂直に形成していた。

 これに対してMacronixが開発した3D NANDフラッシュ技術は、ワード線の薄膜層を積層したあとに細長い孔を開け、細長い板状の多結晶Siチャンネルを垂直に形成する。従来技術の円筒に相当する容積に、2本の細長い板状の多結晶Siチャンネルを形成するので、シリコン面積当たりで作製可能なメモリセルの数が、同じ積層数でも2倍~3倍に増えるとする。

従来の3D NANDに比べて2倍~3倍の記憶密度を達成

 Macronixは、開発した3D NANDフラッシュ技術で実際に、大容量NANDフラッシュメモリを試作してみせた。2bit/セル(MLC)方式のときに128Gbit、3bit/セル(TLC)方式のときに192Gbitの記憶容量を有するNANDフラッシュメモリである。

 特筆すべきは、ワード線の積層数が16層とかなり少ないにも関わらず、大きな記憶容量を実現できていることだ。シリコンダイ面積は76.5平方mmであり、記憶密度はMLCのときに約1.6Gbit/平方mm、TLCのときに約2.4Gbit/平方mmになるとする。

 この記憶密度を過去に大手NANDフラッシュメモリベンダーが国際学会で発表した数値と比較してみる。すると32層~48層の3D NANDフラッシュに匹敵する、高い記憶密度を達成していることが分かった。ワード線の積層数で換算すると、およそ2倍~3倍の記憶密度を実現できている。

開発した3D NANDフラッシュメモリのセル構造。Macronix InternationalがIEDM 2017で発表した論文(講演番号19.1)から
試作した3D NANDフラッシュメモリのシリコンダイ写真と概要。Macronix InternationalがIEDM 2017で発表した論文から
国際学会で発表された3D NANDフラッシュのワード線積層数(横軸)と記憶密度(縦軸)。筆者の調べによるもの
Macronix Internationalが開発した3D NAND技術と、Samsung Electronicsが過去に国際学会で発表した3D NAND技術の比較。筆者の調べによるもの

48層で6Gbit/平方mmの記憶密度と1Tbitの記憶容量へ

 16層のTLC方式で約2.4Gbit/平方mmと高い記憶密度を実現できていることから、Macronixは48層のTLC方式で6Gbit/平方mmを超える記憶密度を達成可能であり、シリコンダイの記憶容量が1Tbit(1,024Gbit)と極めて大きなNANDフラッシュメモリを開発可能だと主張する。

 なお、NANDフラッシュメモリ最大手のSamsung Electronicsが国際学会で発表した512Gbitの大容量NANDフラッシュメモリの記憶密度は、3.98Gbit/平方mm(シリコンダイ面積は128.5平方mm、64層、TLC方式)なので、48層でも実用的に許容可能なシリコンダイ面積に収まると考えられる。

 またMacronixは、IEDMの講演で製造コストにも言及した。16層でMLC技術の場合、GB(ギガバイト)当たりのコストは0.14ドル(米ドル)だとする。128Gbitは16GBなので、シリコンダイの製造コストは2.24ドルになる。そして48層でTLC技術の場合、GB当たりのコストは0.04ドルに低下する。1Tbit(128GB)のシリコンダイの製造コストは5.12ドルとなるとする。なおこれらの値は、ウェハ当たりの製造コストを1,700ドル~2,000ドルと仮定し、製造歩留まりを80%と仮定したときの計算値である。

ワード線の積層数(横軸)と記憶密度(左縦軸)、GB当たりのコスト(右縦軸)。Macronix InternationalがIEDM 2017で発表した論文から

MLC方式のシリコンを評価した結果にとどまる、TLC方式はまだこれから

 ここまでは非常に明るい話だったのだが、実際に製造することは、非常に難しいと推定する。従来の細長い円筒を形成する3D NANDフラッシュ技術でも製造は極めて難しいのだが、それを上回るだろう。細長い板状の構造を垂直に形成することは簡単ではない。

 国際学会IEDMでの発表は、MLC方式の3D NANDフラッシュメモリを試作して評価した結果が大半を占めた。TLC方式ではまだ、あまり上手く作れていないことがうかがえる。また読み出しの繰り返しによる評価データは良好であるものの、書き換え(消去と書き込み)の繰り返しによる評価データはまだ、十分とはいえない。

 具体的には読み出し動作に関し、1億2,000万回の連続読み出しを実施しても、読み出しディスターブ不良が発生していないことを実験から示していた。書き換えの繰り返しについては、1,000回の繰り返しで、わずかな劣化が見られた。書き換え特性については今後も改良を継続していくと、講演でMacronixは述べていた。

試作した3D NANDフラッシュのメモリセルアレイを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した画像。左はチャンネル方向(垂直に走っている)の断面。右はワード線方向(水平に走っている)の断面。IEDM実行委員会が報道機関向けに発表した資料から

 まだ先は長いものの、128GB(1Tbit)のNANDフラッシュメモリがわずか5.12ドルで製造できることを示した意義は小さくない。Macronixが3D NANDフラッシュの製品量産実績を持たないことは懸念材料だが、学会発表だけにとどまることのない、製品化への発展を期待したい。