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Tactus、タッチパネルにボタンを浮き上がらせる技術を解説

RK Parthasarathy氏
3月13日 開催

 菱洋エレクトロ株式会社は13日、都内で記者説明会を開催し、米Tactus Technologyのタッチスクリーンにボタンを浮き上がらせる技術について説明した。菱洋エレクトロとTactusは2013年12月に代理店契約および資本提携をし、菱洋エレクトロが国内総代理店および海外代理店権を取得している。

 発表会では、Tactus本社から来日したVice President of Sales & Marketing担当のRK Parthasarathy氏が、技術の概要について説明した。

 Tactusは2008年にアメリカのカリフォルニア州フリーモントで創業。創業後は技術の開発に専念し、2013年のCESでようやくプロトタイプを公開。数々の賞を受賞するなど、一躍注目される企業となった。

 同社の基幹技術は、マイクロ流体を利用し、世界で初めて物理的なボタン感触が得られるタッチスクリーンを実現するもの。ユーザーの必要に応じてオンとオフの切り替えがダイナミックにできるのが最大の特徴だ。

【動画】ボタンの切り替え

 この技術は既存のカバーガラスを置き換えることで実現する。Tactusのパネルは3層で構成されており、ディスプレイに最も近いパネルはフラットで硬いパネル、2層目はマイクロ流体が流れる経路および穴が開いた硬いパネル、最上層はエラスティックポリマー(弾性のあるポリマー)となっている。

 2層目の経路に溝が掘られるため、反射率の違いでそのままだと溝が見えてしまうが、マイクロ流体自体の反射率がこの2層目と同じため溝が見えなくなる仕組みだ。光の透過率は一般的なガラスと同様93%を確保している。

 ボタンのような突起が欲しい時は、ポンプを作動させて、穴と経路を通してマイクロ流体を2層目と最上層の間に送り込む。これによって平らだった画面にボタンのような突起を付けられるわけだ。これにより、最大で約2mm程度のキーストローク感触が得られる。

 3層構造となっているものの、厚みは0.7mmで、多くの7~10型タブレットで使われているCorningのゴリラガラスと同等だという。よってポンプを設置するスペース(2×2×5mm程度)と回路さえあれば、ほぼそのまま既存のデバイスに置き換えられる。

 特徴としては、突起ボタンのタッチ/押下感度をソフトウェア上でカスタマイズできる点。例えばボタンに触れているだけでは反応せず、押下した時だけ反応する「フィンガーレスト」モードを有効にすれば、ハードウェアキーボードと同様の感触が得られる。一方無効にすれば、単に突起が付いた静電容量式のタッチスクリーンのように使える。

Tactusの概要
必要時にキーを浮き上がらせる技術
デバイスは増えているが、コモディティ化が進んでいる。Tactusの技術によって差別化できるとアピール
Tactusのパネルは0.7mm厚で、一般的なガラスパネルと置き換えられる
Tactusパネルの仕組み。ポンプでマイクロ流体が2層目を流れ、3層目との間に空間を作ることで突起を付ける
フィンガーレストモードでは、指を置いてもボタンとして反応しない設定ができる
パネル自体は折り曲げられ、フレキシブルディスプレイ登場時にも応用できるという。手にしているのは同社CEO & FounderのCraig Ciesla博士

 また、ボタンの押下圧および突起量、突起するボタン配列についてもOEMメーカーがカスタマイズできる。1つのスクリーン上で2つの突起パターンを用意する場合、2つのポンプと2つの経路を装着することで実現する。

 ただしこのように流体経路を設計しなければならない関係上、「画面全体がフレキシブルにどこでも浮き上がる」わけではなく、予め設計された経路のみ浮き上がる仕組みとなっている。よってデバイスメーカーが組み込み時に予めボタンの位置を設計しておく必要がある。また、横画面と縦画面でキーボード配列が変わる場合は、一部ソフトウェアキーは共通で四角い形にするといった工夫が必要になる。

 加えてポンプが動作している関係上どうしても「動作音」が発生する。現時点では静音化技術については特に研究していないとのことだった。動作音と言っても一瞬で、会場で実際に聞いたところ「キシューン」という甲高く小さい音だった。トランスフォーマーなどを彷彿とさせる変形音で、むしろかっこいいとは思う。

 表面素材がポリマーのため耐スクラッチ性や耐衝撃性の面ではガラスに劣るが、一般的な実用レベルにおいてはほぼ問題ないレベル。またマイクロ流体は化粧品などにも使われる成分を採用しているため、もし表面が破れて流れ出てしまっても人体には無害だという。

 切り替えは1秒以下で、平均速度は250ms程度。消費電力は0.03mAh、ピーク時には250mA流れるものの、切り替え時のみ必要となる。一般的なスマートフォンのバッテリでこのデバイスのオンとオフだけを繰り返すと3年は動作し、バッテリ駆動に与える影響はほぼない。

 最小ボタンサイズは1mm角。最大サイズは仕組み上いくらでも製作できるが、それだとボタンとしての実用性は低い。「1インチ角までのものなら製作した」という。

 発表会の最後に、Tactusはこの技術によって実現できるデザインコンセプトを公開した。スマートフォンやタブレットへの応用はもちろんのことだが、将来的にフレキシブルディスプレイが実現すれば、スレート形状ながらも、2つ折りでクラムシェルにして、片方をハードウェアキーボードのようにして使うことができる。

 一方デジタルカメラでも、例えば背面を全部タッチスクリーン化し、一部ハードウェアボタンは必要時のみに浮き上がらせるといったことが可能。またディスプレイ以外でも応用可能ため、シャッターボタンを左利きと右利きの両方に適用できるようにするといったことも示された。

 Tactusは基本的に技術をパネルメーカーに提供し、それをデバイスメーカーに採用してもらうことを前提としたビジネスモデルとなっている。ただ、アフターマーケット向けにも展開したいことから、有名メーカーと提携しており、Tactusの技術を応用したiPad mini用ケースを2014年9月に市場投入するとした。ただしこちらは電動ではなく、手動ポンプとなっている。

今後可能になるデバイス
スマートフォンやタブレットでの応用はすぐそこまで来ている
アフターマーケット向けにも製品を投入する
Tactusが示した次世代PCコンセプト。一見してよくあるスレート型だが……
フレキシブルディスプレイになっており、本のように読むことができる
さらに折り曲げて、キーを浮き上がらせればクラムシェルPCとして使える
ゲーム機への応用で、スマートフォンでの差別化がより明確になる
ゲーム機も読書端末やビデオプレーヤーとして使えるようになる
デジタルカメラへの応用。メニュー操作時のみボタンを浮き上がる
シャッターボタンに応用すると、左右両利きのカメラも実現できる
複数経路を用意することで、マルチファンクションリモコンのような製品もボタン数が減らせる
ソフトウェアキーボードを浮き上がらせた例
9月にも発売予定の、アフターマーケット向けのiPad miniケース。装着すればキーとキーの間に仕切りのようなものができる。ただし自動ではなく手動で、スライドバーを動かすことでポンプからチャージする

(劉 尭)