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Intel、ゲーミング向けXeとなるXe-HPGの存在を明らかに

~Xe-HPGは外部のファウンダリで製造され、2021年に市場投入

Xeのゲーミング向け派生バージョンとなる「Xe-HPG」、製造は外部のファウンダリに委託される

 Intelは、「Intel Architecture Day 2020」と呼ばれるバーチャルイベントを開催し、8月13日(現地時間)にその内容を発表した。Intel Architecture Dayは、2018年の12月に第1回が開催されたイベントで、Intelが開発している技術やそのロードマップなどを説明するイベントとして行なわれたものだ。今回のIntel Architecture Day 2020はそれに次ぐもので、製造技術、CPU、GPU、そしてロードマップなどに関して詳細な説明が行なわれた。

 GPU関連では、同社が開発コードネームXeで開発してきた、HPC向けの単体GPUから、モバイル向けのプロセッサーまでフルレンジでカバーする新しいGPUアーキテクチャに関して説明が行なわれた。これまでIntelはXe-HPC、Xe-HP、Xe-LPの3つのバリエーションを説明してきたが、今回はそれに加えてゲーミングPC向けのXe-HPG(エックスピーエイチピージー)を計画していることを明らかにした。Xe-HPGはIntelの工場ではなく外部のファウンダリで製造される計画だ。

 ほかにもIntelはXe-HPがパッケージング技術「EMIB」を利用して1つのパッケージに複数のダイを搭載する計画であること、Tiger Lakeに内蔵されているXe-LPのアーキテクチャ詳細、さらにXe-LP導入と同時に計画されている新しいユニファイドドライバーの計画などを明らかにした。

GDDR6、レイ・トレーシングをサポートし、外部ファウンダリで製造されるゲーミング向けXe-HPGは2021年に出荷予定

GPUの戦略を説明するIntel 上席副社長 兼 Intelアーキテクチャ/グラフィックス/ソフトウェア チーフアーキテクト/事業部長 ラジャ・コドリ氏

 Intel 上席副社長 兼 Intelアーキテクチャ/グラフィックス/ソフトウェア チーフアーキテクト/事業部長 ラジャ・コドリ氏は、Xeの製品計画に関するアップデートを説明した。

 従来のIntelのGPUは、CoreプロセッサなどのPC向けのSoCに内蔵することを前提とした設計になっていた。このため、どちらかと言えば性能よりは電力効率を重視していたりとして、性能では他社の単体GPUをスケーリングダウン(GPUの機能の一部を切り出して、縮小して統合するやりかた)して搭載する内蔵GPUには性能で追いつけないという状況が続いてきた。

 それが大きく変わってきたのが、第10世代Coreプロセッサ(Ice Lake)に内蔵されたGen 11と呼ばれるIntelの統合型GPUだ。このGen 11では大きく性能が引き上げられており、メジャータイトルでも1080pであればゲームができるレベルまで性能が引き上げられた。

 そして、Intelがここ数年開発してきたのが、Xeだ。Xeは製品の名称というわけではなく、アーキテクチャについているコードネーム。NVIDIAで言えば、Kepler、Pascal、TuringといったGPUのアーキテクチャの世代を表わすコードネームがついているが、それと同じようなものだ。NVIDIAがTuringというアーキテクチャから、データセンター用、デスクトップPC用、ノートPC用とGPUをスケーリングしてバリエーション展開しているように、今後はIntelもXeをバリエーション展開していくことになる。

 これまでIntelはXeのバリエーションとしてHPC向けのXe-HPC(製品の開発コードネームはPONTE VECCHIO)、データセンター向けの製品をXe-HP、そしてTiger Lakeなどに使われているクライアント向けの製品をXe-LPとして展開していくことを明らかにしてきた。今回のIntel Architecture Day 2020ではそれに加えてXe-HPGというゲーミング向けのバリエーションの計画があることを明らかにした。

Xe-HPGはGDDR6やレイ・トレーシングのハードウェアアクセラレーションに対応

 Xe-HPGはXe-HPよりもより大きな構成(より多くのEUなど)を実現する見通しで、動作周波数などもゲーム向けに最適化が行なわれる。さらに、HPCやHPにはHBMメモリが使われるが、ゲーミング向けには費用対効果も考えられGDDR6のメモリコントローラが採用されるとコドリ氏は説明した。

 コドリ氏は「すでにXe-HPGはわれわれのラボのなかで動いており、まもなく実物も手に入れることができるだろう。また、GDDR最適化などはIntel外部ファウンダリへ製造を委託することを前提に行なっており、ハードウェアアクセラレーションのレイトレーシングも提供する。ほかにも多くのゲーミング向けのユニークな機能を提供する計画だ。Xe-HPGに基づいた製品は2021年に出荷する予定だ」と述べた。なお現時点ではIntelがXe-HPGでどのファウンダリを利用し、どのプロセスルールを利用するかはまだ公表しないということだった。

Xe-HPでは1タイル、2タイル、4タイルと複数のダイをEMIB技術で実装するパッケージを採用

4つのXe(Xe-HPC、Xe-HP、Xe-HPG、Xe-LP)の製品計画と製造に利用される製造プロセスルール

 また、コドリ氏はHPC向けのXe-HPC、Xe-HPというデータセンター向けのバリエーションに関してもアップデートを行なった。

 Xe-HPCは昨年の11月にすでに概要が発表されており、製品の開発コードネームはPONTE VECCHIOで、ベースタイル、コンピュートタイル、ランボーキャッシュタイル、Xe LINK I/Oタイルという4つのバリエーションが計画されているという。タイルというのはダイのことで、XeではCo-EMIBとFoverosの3Dダイスタッキング技術を利用して複数のダイが1つのパッケージに3Dで搭載されたかたちで提供される計画だ。Xe-HPCには基本的なダイのバージョン(ベースタイル)、演算に特化したバージョン(コンピュートタイル)、ランボーキャッシュというキャッシュを搭載したランボーキャッシュタイル、Xe同士を接続するXe LINKのI/Oを搭載したタイル(Xe LINK I/Oタイル)が用意される。

 こちらはそれぞれ製造される工場が違っており、ベースタイルはIntelの10nm SuperFinで、コンピュートタイルはIntelの次世代と外部ファウンダリで、ランボーキャッシュタイルはIntel 10nm SuperFinの改良版で、Xe LINK I/Oタイルは外部のファウンダリで製造される。

Xe-HPはデータセンター向けのXe
Xe-HPはEMIBを利用して最大で4タイル(4ダイ)を1パッケージに

 Xe-HPはEMIB(Kaby Lake-Gなどで採用されている2.5Dのパッケージング技術)が利用されて、Intel 10nm SuperFinのプロセスノードを利用して製造される。コドリ氏によれば、1タイル、2タイル、4タイルという3つのバリエーションが提供される計画になっているという。すでにXe-HPはチップができ上がり通電しており、Intelのテストでは1タイル構成で、4K60pの動画を同時に10ストリームトランスコードすることが可能だという。すでにXe-HPは重要な顧客に対してサンプル出荷が開始されており、IntelのDevCloud(開発者向けのクラウドサービス)でも開発者に提供をする計画がある。なお、Xe-HPの本格的な製品展開は来年が予定されている。

Xe-HPはすでに通電されており、4K60pの動画を10ストリーム同時にエンコードできている

Gen11から大きなジャンプとなるXe-LP、TDP15WでもTDP 25WのIce Lake(Gen11)を上回る性能を発揮

Intelグラフィックスアーキテクチャ担当 上席フェロー デビッド・ブライス氏

 Intelグラフィックスアーキテクチャ担当 上席フェロー デビッド・ブライス氏は、Tiger Lakeに搭載されるXe-LPに関するアーキテクチャの概要を説明した。

 ブライス氏によれば、Xe-LPは以下のような特徴を備えている。

Xe-LPのブロックダイアグラム
Gen11のEU構造
Xe-LPのEU構造
Xe-LPのEU構造
Xe-LPのEU構造
Xe-LPのメモリ周りの構造

(1)1,536FLOPS/1クロックの最大96基のEU
(2)48テクセル/1クロックのサンプラー
(3)最大24ピクセル/クロックのピクセルバックエンド
(4)2つのEUをペアにして高効率で制御可能なスケジューラ
(5)8ワイドのFP/INT ALU+2ワイド Extended Math ALU(Gen11では4ワイドのFP/INT ALU+4ワイドのFP/Extended Math ALU)
(6)新しいL1データキャッシュ
(7)最大16MBのL3キャッシュ
(8)2倍のGTI(Graphics Technology interface、メモリコントローラとのインターコネクト)帯域幅

 AIを意識した設計になっていることも特徴で、8ワイドのFP/INT ALUではINT16/INT32のレートが2倍になっているほか、INT8での処理も可能でFP32に置き換えて処理を行なうことで、ディープラーニングの推論を4倍速く行なうことができるようになる。

INT8を利用して演算することでディープラーニングの推論時の処理性能が大きく向上する

 メディアエンジンやディスプレイエンジンも強化されており、Gen11 GPUに比較するとエンコード/デコードのスループットは倍になっている。これにより、AV1デコードアクセラレーション、HEVCスクリーコンテンツコーディングのサポート、4K/8Kを60pで再生が可能で、ビデオパイプラインは12bitの色深度を扱うことができる。HDR/DolbyVisionにも対応。

メディアエンジン

 ディスプレイ出力はGen11までの3パイプから4パイプに強化されており、4つのディスプレイに同時に出力できる。DisplayPort 1.4/HDMI 2.0に標準で対応している。また、標準状態でeDPに2つまで、最大8K UHD/UltraWideに出力することができる。また、リフレッシュレートは最大360Hzまで対応可能で、AdaptiveSyncにも対応している。

ディスプレイ出力

 ブライズ氏はBattlefieldでのデモ動画を公開し、TDP 25WのGen11とTDP 15WのXe-LPを比較して、Xe-LPのほうがスムーズにかつ高いフレームレートでゲームができるとした。また、カーゲームの「GRID」を利用したデモでは、Gen 11 GPUでは表示クオリティをLowにしないとプレイできないところが、Xe-LPではクオリティをHighに設定し、自動車への写り込みなど表示品質が改善されてゲームをプレイできる様子などが公開された。

Battlefieldでのデモ
GRIDでのGen 11、車のボディへの映り込みが少ない
GRIDでのXe-LP、より詳細な映り込みが再現できている

 なお、このXe-LPはTiger Lakeの内蔵GPUとして利用されるほか、すでにCESで公開された開発コードネーム「DG1」、そしてそのDG1が4つから構成されているサーバー向けの「SG1」などが製品として計画されていることも明らかにされた。なお、Intelによれば、DG1のターゲットとなるアプリケーションはあくまでモバイル向けで、OEMメーカーがノートPCにTiger Lakeに加えてもう1つ外付けGPUを搭載したい時の選択肢として考えられており、CESで公開されたテスト用のPCI Expressベースのカードが単体販売される予定はないとのことだ。

ユニファイドドライバも改善され、DirectX 11用ドライバはフルスクラッチから作り直される

Intel Graphics Software事業部 IA/グラフィックス/ソフトウェア部長 リサ・ピーアス氏

 Intel Graphics Software事業部 IA/グラフィックス/ソフトウェア部長 リサ・ピーアス氏は、IntelがXe向けに開発している新しいユニファイドドライバやゲーミングユーザー向けのIntel Graphics Command Center(IGCC)の新機能などについて説明を行なった。

新しいユニファイドドライバではGPUコンパイラーやDirectX 11ドライバなどが改良される

 Intelでは近年従来のように、世代毎に異なるドライバを開発するのではなく、ユニファイドドライバという複数世代のGPUをサポートするドライバの開発に力を入れている。Xe世代で導入される新しいユニファイドドライバは、Gen9 GPU以降をサポートするドライバになり、Xeのすべてのバリエーションで共通して利用できる(もちろんOSが同じであればという条件がつくが)。この新しいユニファイドドライバでは、新しい仕組みが多数導入され、従来のユニファイドドライバに比較するとより高効率で安定したドライバになるという。

 ピアース氏によれば新しい仕組みのドライバはGPUコンパイラーの改善が著しく、ハードウェアやソフトウェアのスケジューリングが同時に行なわれる他、AIに最適化した命令をサポートするなどの改良が加えられている。

 また、新しいDirectX 11ドライバによりCPU利用率やメモリ利用率の削減が実現されるという。すでにDirectX 12が登場しているなで、今更DirectX 11? という声も出てきそうだが、ピアース氏によれば「インストールベースではまだまだDirectX 11のほうが圧倒的に多い」からとのことで、この改良が加えられている。このDirectX 11は開発コードネーム「Monza」で、今回のためにフルスクラッチ(0から作り直すこと)で開発されたとピアース氏は説明した。

GPUプロファイラの改良
VRSも強化

 さらにGPUプロファイラに関しても改良が加えられており、リアルタイムにGPUやシステムリソースなどを確認してシェーダ実行を最適化したりすることができる。さらにGen 11 GPUで導入されたVRS(Variable Rate Shading)などのシェーダ処理を動的に最適化する機能も引き続き搭載されており、Xe-LPではさらに処理能力が向上する。

インスタント・ゲーム・チューニング

 また、ドライバには「インスタント・ゲーム・チューニング」と呼ばれる機能が実装される。これはIGCCでユーザーが機能を有効にする(英語ではOpt-inと呼ばれる)と、利用してGPUやゲームタイトルに対して有効なチューニングパラメータがインターネット経由で自動でダウンロードされて適用される。ユーザーは機能を有効にするのを実行するだけでこの機能を利用することができる。通常こうしたパラメータの変更はドライバアップデートと一緒に行なわれるものだが、ドライバアップデートの狭間に新しいタイトルが出たときにはドライバアップデートを待つ必要があった。しかし、この機能を利用すると、ドライバアップデートを待たずして、そうしたチューニングを自動で適用できる。

Intel Graphics Command Center(IGCC)の改良点
ゲームのシャープネスを調整する機能

 また、ピアース氏はIGCCの新しい機能としてTwitchやYouTubeに直接ストリーム配信する機能、さらにはゲームのシャープネスを調整する機能などを追加する計画であることを明らかにした。

ゲームパブリッシャーへの働きかけを強める

 ピアース氏はそうしたIntelの新しいドライバなどでサポートされる機能(たとえばVRSなど)への対応をゲームパブリッシャーに対して続けていくと強調し、来年にリリースされるXe-HPGのリリースに備えると説明した。