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データセンターが丸ごと海の中。Microsoftが研究開発中

執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント株式会社 代表取締役 社長の榊原彰氏

 日本マイクロソフト株式会社は17日、都内で記者説明会を開催し、執行役員 最高技術責任者 兼 マイクロソフト ディベロップメント株式会社 代表取締役 社長の榊原彰氏が、Microsoft全体の最新技術開発への取り組みを紹介した。

 Microsoftではほぼ年間約120億ドル(1兆2,000億~1兆4,000億円相当)を、将来の役に立つ基礎技術研究開発に投資している。これはビル・ゲイツ時代から続く基礎研究開発へのコミットメントであり、その年の売上とは関係なく投資額を決めている。これはサティア・ナデラCEOになってからも継続している。榊原氏が紹介したのは、研究開発部門の近年の研究開発結果である。

Microsoftの研究開発費は年間約120億ドルに達する

 まずはクラウドのAzureサービスについて、現在55の地域で約140カ国にサービスを展開しているが、データセンターへの投資も数千億円規模で継続しており、数年前と比較して大きく規模が成長しているという。これらのデータセンターでは消費電力も課題となっており、再生可能エネルギーの100%利用を目指してじょじょに設備を充実させつつあるとした。

米クインシーのデータセンター。操業当初は画面奥の数棟しかなかったが、今は写真のとおり数倍もの規模になっている

 こうしたクラウドのデータ消費は基本的に都市部で行なわれるため、データセンターは都市部に設置することが望ましいが、都市部は土地の単価が高く密集しており、大規模のデータセンターの設置は現実的ではない。そこでMicrosoftは世界の都市の多くが海岸線沿いに存在することに着目し、海底に沈められるデータセンターを実証実験する「Procjet Natick」を展開している。

 データセンターは12ラック程度の小型ものもだが、実証実験では熱交換効率は良かったうえに、周囲の生態系にほとんど影響を与えることがなかったのだという。外部は塩による侵食を防ぐコーティングがされているが、中のハードウェアは基本的に汎用品。そこで塩による侵食を防ぐために、内部を窒素で充満させている。また、5年間の運用を見越しているが、ハードウェアが壊れたさいはそのままにしている。海底のためセキュリティ性が高いのも特徴だとした。

 現在は実証実験のフェーズ2にあたり、スコットランド沖に沈めている。展開には90日程度を要している。今後展開するフェーズ3では、サッカーコート規模のデータセンターを沈める予定だ。

海底にデータセンターを沈めるProject Natick
現在はフェーズ2の段階。場所はスコットランド北の海岸沿い
展開に90日を要した。40×12インチサイズのラックを12ラック収納し、FPGAアクセラレータや27.6PBのディスクを内蔵。5年間の運用を見越している
海底に沈めている様子
冷却効率はかなりよく、周囲の生態系への影響はほとんどなかったという。密閉状態のためセキュリティ性が高い。外部にカメラを設置しており、海のなかの様子がわかる。深層学習により、泳いでいるものを判別できるという(ただし榊原氏によれば、現状ではほとんどがFishとして認識されて終わっているという)

 ユーザーのオンプレミス環境からAzureへの移行に際し、数百TBから数PB単位のデータ移行は、ネット回線を使うとネットワーク負荷が高まって現実的ではないため、物理的な移行手段として「Azure Data Box」を用意。物流を利用することで環境移行の速度や利便性を高められるとした。

 また、深層学習を高速化する手段としてFPGAは非常に有効的だとしているが、「Project Brainwave」の稼働モデルでは、データセンターすべてに搭載されているFPGAを1つのワークロードに集中させ、非常に短期間で処理を終えられるようにしている。試算によれば、アメリカの東海岸の同社のデータセンターにあるすべてのFPGAを稼働させる場合、英語のWikipediaにある500万記事を、深層学習を使ってわずか0.9秒ですべてスペイン語に翻訳できるのだという。

Azureはクラウドだけでなく、オンプレミスや他社のサービスでもAzureライクな使い勝手を実現する
オンプレミス環境のデータ移行を物理的に行なうData Box
エッジでAzureを実現するラインナップ
Azureの豊富な機械学習環境
MicrosoftはFPGAをデータセンターサーバーに取り入れている
FPGAはスケーラブルに利用可能
サーバーをまたいでFPGAを活用したワークロードが実行可能
FPGAとCPU/GPU処理速度の比較例
FPGA 1基だけでもCPUやGPUの数十倍~数百倍の処理が可能だが、よりスケーラブルであるため高負荷なワークロードを一瞬で行なうことも可能

 このほか紹介されたのは「Ignite」や「障害者デー」での発表内容。石英ガラスにフェムト秒レーザーで3Dでデータを記録する「Project Silica」では、1,000年の寿命でデータの保管が可能。障碍者向けのXboxコントローラ「Xbox Adaptive Controller」も、近日発売予定だ。

 また、体が完全に不自由な人でも瞳孔の開き方によってYesかNoかを判断できることに着目し、深層学習でそれらの人が意思表示できるようになるソフトウェア開発への協力や、統計テクニックを使った放射線治療の半自動化、深層学習を使った遺伝子編集のオフターゲット予測やRNA設計、量子コンピュータのプログラミングをVisual Studio上から行なえるようにするQ#言語の提供などについて語られた。

障害者向けのXbox Adaptive Controller。これをハブにしてほかの機器も接続できる
視覚障碍者向けのSeeing AIアプリ。見ているものを音声で表現
統計モデルを利用した放射線治療のサポート
深層学習よりも低コストで展開できる