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「Snapdragon 855」が正式発表、2019年前半登場の5Gスマホに搭載

~前世代のSnapdragon 845より3倍のAI性能

Snapdragon Tech Summitで発表されたSnapdragon 855

 Qualcommは、アメリカ合衆国ハワイ州マウイ島において、同社のプライベートテックイベント「Snapdragon Tech Summit」を12月4日~12月6日の3日間にわたり開催している。

 このなかで、同社の主力製品であるスマートフォン向けSoCとして「Snapdragon 855」を正式に発表した。Snapdragon 855は昨年(2017年)発表されたSnapdragon 845の後継となるフラグシップのSoCで、Snapdragon 845に比べてAI性能が3倍になり、Qualcommが「数カ月内に発表されたAndroid用の7nm製品」と呼ぶHuaweiのKirin 980と見られるSoCと比較して2倍の性能を発揮すると主張している。

 Snapdragon 855は、すでにQualcommが一昨年(2016年)発表しているSnapdragon X50 5G modemと組み合わせることで、5Gのセルラー回線に対応させることが可能。米国ではAT&T、Verizonなどの通信キャリアから5Gに対応された端末が2019年の前半に発表されると明らかにされた。

5Gはモバイルだけでなく、自動車やIoTなどさまざまなセグメントに拡大していく

Qualcomm 社長のクリスチアーノ・アーモン氏

 Qualcomm 社長のクリスチアーノ・アーモン氏は、「2007年にSnapdragonブランドのプロセッサを投入して以来、成長を続けてきた。すでに市場には数十億台のスマートフォンがあり、今後はそれがモバイルだけでなく、自動車やほかの産業などに広がっていくことになるだろう。

 われわれは市場をドライブしていく責任があり、新しいテクノロジの時代を切り開いていく必要があり、これからは5Gへの移行を進めていく。5Gはモバイルを変えるだけでなく、さまざまなセグメントの産業で使われていくことになるだろう」と述べ、今回のSnapdragon Tech Summitで、新しいSnapdragonや5Gなどについて説明していくとした。

4Gから5Gへ

 Snapdragon Tech Summitは今回で3回目となり、一昨年にニューヨークで行なわれたイベントではSnapdragon 835が、そして昨年同じくマウイ島で行なわれたイベントではSnapdragon 845とPC向けのSnapdragon 835が発表され、Qualcommにとって非常に重要なイベントに成長している。

 そうしたこともあり、今回のイベントの冒頭には、マウイ島があるハワイ州のデビッド・イゲ知事も駆けつけ、「ハワイは観光地と知られているが、このようなコンベンションも多数開催されているほか、スマートフォンが観光の振興にいろいろと使われている。5Gはモバイルだけでなく、ほかの産業も大きく変える可能性がある。自動運転、遠隔医療、教育といった分野でハワイでも力を入れていきたい」と述べた。自身が通信業界出身ということもあり、今後ハワイの経済の発展にも5Gが不可欠だという期待感を表明した。

ハワイ州のデビッド・イゲ知事

ミリ波のアンテナソリューションを含めてOEMメーカーに提供

QRDの5Gデバイスを紹介するアーモン氏

 その後アーモン氏は、Qualcommの5Gの取り組みに関して説明し、「今後数カ月の間に、米国では5Gに対応したフラグシップスマートフォンを購入できるようになる」と述べ、Qualcommやパートナーとなる通信キャリア、端末メーカーが協力し、5Gに対応したスマートフォンを米国で2019年の前半に投入すると明らかにした。

5Gが現実に

 そして、アーモン氏が紹介したのが、5Gの標準規格である5GNRに対応した同社のリファレンスデザイン(QRD=Qualcomm Reference Design)ベースのスマートフォンだ。

 アーモン氏は「このQRDベースのスマートフォンは、ミリ波に対応した5Gが動作している」とする。今回発表されたSnapdragon 855とSnapdragon X50 5G modemがベースになっており、ミリ波での通信が可能だと紹介した。

 5Gは、サブ6GHz(6GHz以下の周波数、現在のスマートフォンで使われている周波数)と、ミリ波(28GHzなどの超広帯域幅)に大別でき、QRDはより実装が難しいとされているミリ波で動いているとアピールした。ミリ波ではアンテナ構造などがサブ6GHzとは異なるため、安定した通信が非常に難しく、それをスマートフォンに入れるのは困難とされているだけに、競合他社に比べていち早く実現した優位性を示したかたちとなる。

米国での5G
欧州での5G
中国での5G
日韓豪の5G

 アーモン氏は、日米欧中韓などの各国で5Gへの取り組みが進められていることをアピールし、たとえば米国ではサブ6GHzとミリ波を2019年から、欧州ではまずサブ6GHzからはじまり、その後ミリ波へ、中国でもまずはサブ6GHzからはじまり、その後周波数割り当てを待って、ミリ波のサービスを開始することが紹介された。

 さらに韓国では、すでに12月からデータデバイスからサービスが開始されており、第2四半期からスマートフォンのサービスが開始。日本では2019年にテストが開始されるなどの状況が説明された。

5Gに向けて行なわれてきたさまざまな開発

 その上でアーモン氏は、「5GNRの開発には非常に大きなハードルがあり、そのたびに壁を乗り越えてきた。たとえば、ミリ波をスマートフォンに入れたいと言ったときには誰もが無理だと言ったが、実際にサンプルを作ってみせると、今度は小さくするのが無理だと言われた。だが、それも実際に小さくしてみると、今度は通信ができないと言われたが、それも実現してQRDを作って見せた」と述べた。

 同社が開発してきたSnapdragon X50 5G modemといったモデムチップだけでなく、いわゆるフロントエンドと呼ばれるRFに関しても、TDKから子会社を買収してまで自社のソリューションとして提供し、さまざまな取り組みを行なってきたことを説明した。

米国や英国の通信キャリアが2019年に5GNRのサービスインをアピール

通信キャリアとのパートナーシップ
OEMメーカーとのパートナーシップ

 そして「開発はわれわれだけでなく、通信キャリア、そしてOEMメーカーとの密接な協力にもとづいている。それらがあったからこそ実現できた」と述べ、その代表として米国の通信キャリアであるVerizonとAT&T、そしてイギリスの通信キャリアであるBT/EEグループを紹介。それぞれの担当者を壇上に呼んで、各社の5Gへの取り組みを説明した。

Verizon CNEO(Chief Network Engineering Officer) 兼 ワイヤレスネットワーク責任者 ニッキー・パーマー氏

 VerizonのCNEO(Chief Network Engineering Officer) 兼 ワイヤレスネットワーク責任者 ニッキー・パーマー氏は、Verizonがすでに10月から5G Homeという、5GNRではない独自の5G(プレ5Gなどと呼ばれる)にもとづいた家庭向けのモバイルブロードバンドサービスを開始したことなどを説明し、「2019年の前半にSamsung Electronicsの5G対応スマートフォン、Motorolaの5G対応Modsを2019年の前半に出荷する」と述べた。5G対応製品をできるだけ早く出荷していきたい意向だ。

AT&T ワイヤレス製品マーケティング担当 上席副社長 ケビン・ピーターセン氏
ピーターセン氏のスライド

 AT&Tのワイヤレス製品マーケティング担当 上席副社長 ケビン・ピーターセン氏は「2019年には19都市で5Gを開始し、その後全国レベルに展開していきたい」と述べ、AT&Tも5Gを積極的に展開していくと述べた。

BT/EEグループ 5G上級アドバイザー フォティス・カロニス氏は昔のSnapdragonのサンプルを持ってきたが、アーモン氏から新しい855のサンプルを渡される
カロニス氏のスライド

 最後に登壇したBT/EEグループ 5G上級アドバイザー フォティス・カロニス氏は、「5G体験は4G+5Gで実現され、それにWi-Fiを加えればどこでも通信ができるようになる。BT/EEはまずロンドン、マンチャスターなど6都市でサービスを開始、その後多くの都市で展開していく」と述べた。

Snapdragon 855では、ディスプレイで指紋認証を行なう機能やAIの性能が大きく向上

スマートフォンはユーザーにとって日常的に使うデバイスであり続けている

 ステージに戻ったアーモン氏は、「スマートフォンはユーザーにとって日常的に使うデバイスであり続け、今後もそれは変わらないだろう」と述べ、Qualcomm Technologies 上席副社長 兼 モバイル事業部 事業本部長 アレックス・カトゥージアン氏を呼び、同社の新製品であるSnapdragon 855に関する説明を開始した。

Qualcomm Technologies 上席副社長 兼 モバイル事業部 事業本部長 アレックス・カトゥージアン氏
Snapdragon 855を発表
Snapdragon 855の概要
第4世代のAIエンジンを採用
前世代と比較して3倍のAI性能
スライドには、CPU、GPU、DSPが書かれているので、前世代までと同じようにNPUなどのAI向けの特定のハードウェアは搭載されていないようだ
数カ月前に発表された7nmで製造されているAndroid向けのSoCと比較して2倍の性能を持つ

 スーパーマンをイメージしたであろう「Super Snapdragon」のTシャツを着たカトゥージアン氏は、Snapdragon 855を公開し、「Snapdragon 855は第4世代のAIエンジンを搭載しており、前世代と比較して3倍の性能を持ち、数カ月前に発表された7nmで製造されているAndroid向けのSoCと比較して2倍の性能を持つ」と述べた。

 前世代というのは、昨年発表されて今年(2018年)のハイエンド製品に搭載されているSnapdragon 845なのは明白だが、数カ月前に発表された7nmのSoCについては、現状で該当する製品がHuaweiのMate 20 Proなどが採用しているKirin 980しかないので、その比較だと考えられるだろう。

コンピュータビジョンに対応したISP
3D Sonic Sensor
Snapdragon Elite Gamingに対応
855のまとめ、詳細は明日公開予定
5Gモデム機能は別チップ

 カトゥージアン氏によれば、Snapdragon 855にはこのほか、コンピュータビジョンに対応したISP、同社によれば世界初となる画面が指紋センサーになる3D Sonic Sensor、新しいゲーミングプラットフォームとなるSnapdragon Elite Gamingなどの機能が搭載されており、オプションとして提供されるSnapdragon X50 5G modemを利用すると5Gをサポートできるようになる。ただし、この日はそうした概要だけで、詳細は明日以降の講演で説明されるという。

Samsung Electronics America モバイル製品戦略・マーケティング担当副社長 ジャスティン・デニソン氏
デニソン氏のスライド

 その後、Samsung Electronics America モバイル製品戦略・マーケティング担当副社長 ジャスティン・デニソン氏が登壇し、「5Gに対応したスマートフォンは2019年の前半に出荷開始する。今回のイベントではそのデモを行なう」と述べ、Snapdragon 855およびSnapdragon X50 5G modemを搭載したスマートフォンを来年(2019年)の前半に出荷する可能性を示唆した。

5Gをアピールするアーモン氏