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ネットの論客にファイナルアンサー!?

~「もしかして……SMR!?」。最新2TBプラッタHDDをとことんイジメる

 スピードに容量にと、常に向上することを運命付けられ、価格が下がることまでを期待されている「HDD」。それを実現すべくさまざまな技術が搭載されいるが、最近はメーカーが細かな仕様を公開しないことも多くなったせいもあり、さまざまな意見がネットで飛び交っている。そこで、最新のHDDがどんな性能でどんな挙動を見せるのか、実際にチェックしていく。

TEXT:北川達也

ネットでよく聞くこんな意見

・2TBプラッタのHDDって本当はSMRなの?
・SMRって普通の用途でも、問題なく使える?
・SMRのランダムライトって遅いんじゃないの?
・SMRって本当に遅くなるの?

SMRと思われるHDDが増加中

 記録方式に「SMR(Shingled Magnetic Recording)」を採用したHDDは、従来のHDDとは異なる特殊なHDDとしてネガティブなイメージを抱いているユーザーは多い。実際に初期のSMR採用HDDは、その仕組上、使い方によってはランダムライトが極端に遅くなるケースが見られ、それがSMRのデメリットとしてクローズアップされた。また、メーカーでもその特性を理解しており、「アーカイブ向け」という用途を新たに新設し、SMR採用HDDを展開してきた。

 しかし、この事情が2TBプラッタ採用HDDの登場で一変した。2TBプラッタを採用したHDDは、トップクラスのコスパを誇り、人気製品となっているが、一部の製品についてはSMR採用をメーカーが認めており、従来のアーカイブ向けではなく、デスクトップ向けの“普通”のHDDとして展開されているのだ。

 このため、「2TBプラッタ=SMR採用ではないのか?」、「SMR採用だった場合、これまで使用していたHDDと同じように使えるのか?」といったことが話題になる機会が増えている。そこで、2TBプラッタを採用したHDDをさまざまな角度から検証した。

なぜSMRは嫌われるのか

ユーザーが嫌うSMRの特徴

・2段階書き込みになる
・ランダムアクセスに弱い

 SMRが従来のHDDの記録方式「CMR(Conventional Magnetic Recording)」と比較して大きく異なるのは、記録データを隣接トラックの一部に重ね書きすることである。このため、SMRでは、内部を一定容量のブロックに区切って管理する従来のCMRとは異なる内部管理を行なっている。

 また、ブロック内のデータを書き換えると、隣接トラックのデータが消去されるため、書き換えたいデータだけでなく、そのデータ以降に書き込まれているデータすべてを書き直す必要がある。

 SMRでのブロックサイズは通常256MBだが、SMRでは、少しのデータを書き換えるために最大256MBのデータを一旦読み出し、データの変更を行ない、再度書き込むという複雑な処理が必要になる。SSDでもデータの書き換え時は同じような処理を行なうが、SMRのHDDでは、SSDよりも大きな単位で書き換えが行なわれる。これが、ランダムライトが遅いと言われる要因でもある。

2TBプラッタ=SMR?

 2TBプラッタを採用したHDDが、SMRではないかと言われる最大の理由は、HDD向けのプラッタ製造の最大手、昭和電工が出荷しているCMR用プラッタの最大容量が「1.8TB」にとどまっており、2TBプラッタが出荷されていないからである。

 CMRやSMRで利用されているHDD技術は、すでに限界と言われて久しく、これを超えて飛躍するには、これまでとは違ったアプローチが必要とされる。プラッタ製造を行なっているメーカーは、昭和電工だけではないが、限界付近の技術である以上、メーカー間の技術差が大きくないことは想像に難くない。

技術進化で性能向上

 SMRでは、プラッタの外周部にCMRで記録する「メディアキャッシュ」と呼ばれる領域を設けている。メディアキャッシュは、SSDにおける疑似SLCキャッシュのような領域だ。データは、最初にメディアキャッシュに記録し、その後、SMR領域に移すことでランダムライトの速度が低下しないように工夫されている。

 また、シーケンシャルライト時は、メディアキャッシュを介さずに直接SMR領域に記録するアルゴリズムなども開発されており、これらを組み合わせてCMRのHDDと変わらない使い勝手を実現している。

取材の結果メーカーはSMRだと認めた

Seagate BarraCudaシリーズでは、2TBプラッタを採用した2~8TBモデルをラインナップしている。メーカーに確認したところ、これらのモデルは、SMRを採用していると言う

SMRは速度に問題はないのか

 ここからは、実際に2TBプラッタを採用したHDDのテストを行なっていく。テストを行なったのは、Seagate BarraCuda ST4000DM004。メーカーがSMR採用を認めている5,400rpmのデスクトップ向けの製品だ。

 まずは、CrystalDiskMarkの結果を紹介する。最大読み出し速度は約196MB/s、書き込み速度は約182MB/sを記録しており、同容量で同じ回転数のWD Blue WD40EZRZよりも速い。最大速度に関しては、さすがに最新世代のプラッタを採用した製品といった感じだ。

 また、ランダムライトの速度もWD Blue WD40EZRZと同程度でとくに遅いといったことも見られない。少なくともCrystalDiskMarkの結果を見る限りは、SMRを採用しているから従来のHDDとは異なるといった点は、まったく見えてこない。このテストの結果だけを見れば、ごく“普通”のHDDのように見える。

連続した書き込みで遅くなることはあるか?

 SMRでは、小さなサイズの書き換えを行なう場合、大量のムダなデータの書き込みが発生し、書き込み速度低下の要因となる。しかし、それなりの容量のシーケンシャルライトは、オーバーヘッドが少なく、その影響を受けにくい。

 ここで行なったテストは、これを証明するものと言える。このテストでは、最初に30GBのデータをシーケンシャルで記録し、その領域に対して、書き込み開始位置をずらしながら8GBのデータをシーケンシャルで記録している。

 結果は見てのとおり、速度が遅くなることはない。SMRでは、一定サイズを超えるシーケンシャルライトをメディアキャッシュを介さずに行なう機能も備えている。現行世代のSMRのHDDは、録画用などで使用しても問題はないだろう。

苦手なランダムアクセスを試す

 SMRにおいてはランダムライトは、メディアキャッシュを介して行なう。そして、メディアキャッシュを使い切ると、速度低下が発生する。SMRの管理ブロックの容量は256MBと大きく、データ書き換え時のワーストケースでは、1秒以上の時間が必要となるなど、大きな速度低下が予想される。

 実際のテスト結果は、これを裏付けている。メディアキャッシュを使い切った後の速度は、それまでの約30分の1の0.2~0.6MBまで低下。メディアキャッシュの容量は非公開だが、BarraCuda ST4000DM004では、総書き込み量23GB強で速度低下が発生。この辺りでメディアキャッシュを使い切ったと推測される。

常識は真実か? 2TBプラッタがSMRなのは事実。ただし一般用途なら問題なし

 SMRは、記録方式の特殊性をカバーするために現在のSSDで採用されている高速化技術を随所に取り込み使用感を向上させている。

 これらを採用した現在のSMRのHDDは、一般的な用途なら、“普通”のHDDと同じように使用できると考えてよい。SMRは、メディアキャッシュを使い切ると確かに速度が大きく低下する。しかし、今回テストしたBarraCuda ST4000DM004では、総書き込み量23GB強でやっと速度低下が発生している。この容量をランダムで連続書き込みするような用途は、一般的な使用ではほぼないだろう。

 また、シーケンシャルライトでは、メディアキャッシュを介さずにデータを記録することでメディアキャッシュの枯渇を回避できる。つまり、一般的な用途なら速度低下が起こることはまれだろう。

【検証環境】CPU:Intel Core i5-7600K(3.8GHz)、マザーボード:ASUSTeK PRIME Z270-K(Intel Z270)、メモリ:Micron Crucial Ballistix Sport BLS2K8G4D240FSA(PC4-19200 DDR4 SDRAM 8GB×2)、システムSSD:CFD販売 S6TNHG6Q CSSD-S6T256NHG6Q(Serial ATA 3.0、256GB)、OS:Windows 10 Enterprise 64bit版、書き込み開始位置をずらしたシーケンシャルライト:TxBENCHで最初に30GBのデータをシーケンシャルで記録し、その領域に対して書き込み開始位置をずらして8GBのデータをシーケンシャルで書き込む処理を8回実行したときの値

告知

本記事は、DOS/V POWER REPORT1月号「特集 事実か、オカルトか。「PCの真実」を探る」からの抜粋です。この特集では、PCに関する噂や常識として流布されている事柄が根拠のある事実なのか、思い込みに近いものなのか、はたまた古い常識が新しい常識に置き換わったのかなどを、各種検証によって明らかにしていきます。