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パナソニック、約28,000人を対象にしたチケットの電子化の実証実験

大阪府吹田市の千里万博公園にあるパナソニックスタジアム吹田

 2025年の大阪万博開催が決定した2018年11月24日、パナソニックと、ぴあは、大阪府吹田市の千里万博公園にあるパナソニックスタジアム吹田で開催した明治安田生命J1リーグ「ガンバ大阪 vs V・ファーレン長崎」戦において、スタジアムサービスプラットフォームの実証実験を行なった。

 チケッティングの電子化により、来場者を対象にしたゲート認証サービス、チケットチェックサービス、キャッシュレスサービス、アクティビティサービスの4つのサービスを提供。「いつもと違うスタジアム、次世代のスタジアムを体験し、顧客満足度の向上を図り、スタジアム・アリーナ体験の価値向上を目指す」としている。

 2020年には、Jリーグ57チームを対象に実用化する予定であるほか、ほかのスポーツにも広く展開していくという。

 パナソニック 東京オリンピック・パラリンピック推進本部総括担当主幹の大橋健司氏は、「今回の実証実験は、チケッティングの電子化がもたらすサービスの有効性を確認するためのものである。大日本印刷および三井住友カードにも協力を得て、ガンバ大阪に場所を提供してもらった。今日は28,200人の来場が想定されている」と説明。ぴあ ライブ・エンタテインメント本部スポーツ・ソリューション推進局ファンマーケティング部の大下本直人部長は、「チケットの電子化サービスはすでにあるが、今回の実証実験はチケッティングという観点から、チケットを購入し、発券し、入場したあとのアクティビティまでを電子化し、さらに、その後に来場者に対してさまざまなアプローチができることが特徴となる。さらに、チケットの高額転売を防止するといった効果にも期待している。さまざまな可能性を追求したい」と述べた。

この日、パナソニックスタジアム吹田には、27,806人が来場した
パナソニック 東京オリンピック・パラリンピック推進本部総括担当主幹の大橋健司氏
ぴあ ライブ・エンタテインメント本部スポーツ・ソリューション推進局ファンマーケティング部の大下本直人部長

3万人を想定した大規模な実証実験

 今回の実証実験は、約3万人という来場者を巻き込んだ大規模な実験となる。実際、スタジアには、27,806人が来場した。

 電子化されたチケットを使用してゲート入場ができるほか、非接触小型ICカードを活用したプリペイド決済サービスを導入。グッズの購入者や飲食の支払い、さまざまなアクティビティへの参加などが可能になる。

 これまでは、約3万人の来場者のうち、nanacoカードによるガンバ大阪ファンクラブカード(年間パスポート)の利用者が約6,500人、スマホによるQRチケットが約8,500人となっているものの、残りの約15,000人が紙チケットで入場し、運営スタッフがチケット券面を目視で確認。一時退場の際には再入場スタンプを押印して管理をしてきた。

 また、スタジアム内のグッズ販売や、飲食店舗ではキャッシュレス対応をしているものの、その利用率は、取り扱い件数の10~20%程度に留まっているという。

 今回の実証実験では、「プリペイド機能付きウェアラブル型電子チケットによるスタジアム体験の検証」、「モバイル型マルチリーダー認証端末を用いたスタジアム運営負担軽減の検証」、「国際ブランド非接触ICプリペイドを用いたキャッシュレス決済によるグッズ・飲食店舗のレジ効率、混雑緩和の検証」、「電子チケットを活用したスタジアムアクティビティサービスの有用性の検証」、「来場履歴、決済履歴、アクティビティ履歴をもととしたデジタルマーケティングの可能性の検証」の5つの内容とし、「どのようなサービスが来場者の体験価値の向上に繋がるのか」、「デジタルマーケティングによりスタジアム運営の継続的な改善をいかに図るのか」、「施設利用における質の向上、いかにファンエンゲージメントを生み出すのか」といった観点から検証を行なった。

 マスターカードのプリペイド決済機能を搭載した、NFCのTypeA規格の非接触型小型ICカードを、リストバンドに装着することで、ウェアラブル型電子チケットとして利用。入場ゲートでの認証、チケットチェックゲートでの認証、キャッシュレス決済、スタジアム内外で提供されるアクティビティ利用が、ハンズフリーで行なえる。電子チケットによる来場者の体験価値の向上と運営面の省人化、効率化を実現するのが狙いだ。

 また、ゲート認証端末には、パナソニックの「タフブック FZ-N1」を採用。さまざまなスタジアム環境があり、台風でも試合が開催されることがあるJリーグならではの試合環境にも耐えうる堅牢性と、機動性を持つタフブックの特徴を生かすとともに、同デバイスに内蔵しているICカードリーダーやQRコードリーダー、バーコードリーダーなどを活用。ゲートが常設されていない会場でも、ゲート認証端末として容易に設置、運用ができ、年間パス会員カードやスマホおよび紙によるQRコードの認識にも1台で対応できるという。

紙チケットを持つ来場者全員に、プリペイド決済機能を搭載した非接触型ICカードとリストバンドを配布
リストバンドとICカードが入った封筒が手渡される
配布されたリストバンドにICカードを装着する来場者
配布用に用意されたリストバンド
配布されたリストバンド
一緒に配布されたICカード(下)と、親カードとなるプリペイドカード(上)
リストバンドの裏にICカードを挿入する
ゲート認証端末にはパナソニックの「タフブック FZ-N1」を採用。先頃発表された発売前の新モデルだという
認証されない場合には入場ができない
この日チャージをすると金額に応じてプレゼントがもらえる

紙のチケットを廃止

 パナソニックスタジアム吹田で開催されるガンバ大阪のホームゲームでは、スタジアムに入場するための1次ゲートと、スタジアム内で各カテゴリに分けられたエリアへの入場を管理する2次ゲートを設置。2段階管理で運用している。

 今回の実証実験では、1次ゲートにおいて、紙チケットのすべてを、ウェアラブル型電子チケットに交換。すべての来場者が電子チケットでの入場を可能にした。

 チケットチェックを行なっていた2次ゲートでは、係員が「タフブック FZ-N1」を携行し、従来のような目視ではなく、電子チケットで管理。チケットの種別により、入場可能なエリアを端末の背景色で表示して、瞬時に案内を可能とした。どの来場者が、いつごろ、どのゲートを利用したかといった行動履歴も取得できる。

 再入場ゲートでも、従来から使用しているブラックライトを使った確認ではなく、電子チケットでの管理が可能となり、ゲート認証のスピード向上も実現した。

1次ゲートに入る際には設置されたタフブックにかざして入場する
来場者の入場の様子
2次ゲートの入場でも活用。席の場所が色分けされているため、すぐに誘導ができる

 なお、「タフブック FZ-N1」は、約100台を利用。入場ゲートや再入場ゲートのほか、チケットチェックゲート、会場内動線案内、各種抽選申し込みなどの端末としても活用。さらに、リストバンドのICカードを、アクティビティや飲食店の決済などにも利用できるようにした。

 アクティビティの1つが、次世代カプセルマシンである。これは、ガチャガチャの大型版ともいえるもの。ガンバ大阪の選手の似顔絵が入ったコインケースが入っており、コインケースのなかに「当たり」が入っていると、レプリカユニフォームが当たる。人気のアクティビティの1つで、毎回、待機の列が長くなることが多いという。今回の実証実験では、キャッシュレス対応とすることで、スムーズな利用が可能になり、待機列の緩和にどれだけ貢献できるかを検証した。

 また、オリジナル写真が撮影できるマーケティングフォトブースも、キャッシュレス対応。電子チケットの利用によって、こうしたプレミアムなアクティビティサービスが、電子チケットの来場比率を高めるためのキラーサービスになるかどうかの有用性を検証したという。

 スタジアム2階のガンバ大阪オフィシャルショップ「Blu SPAZIO(ブルスパジオ)や、3階コンコース内のオフィシャルショップや飲食売店でもキャッシュレス決済を可能とし、チャージしたリストバンドも使用できるようにした。ここでは購買履歴も取得して、今後のサービスにも活用できるようにするという。

 また、リアルチャージサービスのATMブースも設置。ネットチャージだけでなく、現金でもチャージが行なえるようにし、スタジアムでのキャッシュレスでのアクティビティ体験や決済が体験できるようにしていた。

 当日券売場横では、会場内動線案内ディスプレイとタフブックを組み合わせることで、電子チケットをかざせば、現在地からチケットカテゴリーに応じて最適な入場ゲートを表示するサービスも用意。「スタジアムの外周は同じような景観が多く、初めて来場した人から、どこから入ればいいのかといった問い合わせが多い。来場者のストレスを軽減するサービスとしての有用性を検証する」という。

 そのほかにも、年間パス会員を対象とした最終戦恒例の抽選会「Big Thanks」でも、電子チケットを活用。人が行なっていた抽選を、端末にタッチすることで完了。スムーズな抽選による待機列の削減のほか、参加者の把握、ファンサービス強化を目的にデータを活用するという。

 また、電子チケットを持っているすべての来場者が参加できる抽選型のファンサービスも実施。電子チケットを持つ全員が参加できる「スコア予想&ベストサポーター賞」も実施し、ガンバ大阪が勝利した場合には抽選で賞品を用意。さらに、すべての来場者を電子化することで初めて実現したスタジアムサービスとして、「キリ番プレゼント」を実施。電子チケットで入場した来場者のうち、10,000番目、20,000番目、30,000番目のキリ番の3人に賞品をプレゼントした。

次世代カプセルマシンでも電子マネーで利用できるようにした
次世代カプセルマシンは電子マネーやクレジットカードで購入ができる
決済をしたあとにボタンを押して次世代カプセルマシンを購入
次世代カプセルマシンは人気で毎回多くの列ができていた
オリジナル写真を撮影し、キーホルダーが作れるマーケティングフォトブース
ガンバ大阪オフィシャルショップ「Blu SPAZIO(ブルスパジオ)」では、リストバンドを使って購入が可能
コンコース内の飲食売店「焼肉カルビチャンプ」でもキャッシュレス決済を可能としている
移動型のATMカーによるリアルチャージ機でチャージができる
スタジアム内には年間パスポート会員などが利用するためにnanacoのチャージ機も設置
会場内動線案内ディスプレイとタフブックを組み合わせて最適なゲートを案内する
最終戦恒例の抽選会「Big Thanks」も、「タフブック FZ-N1」を使って抽選した

100億円の事業規模を見込む

 パナソニック 執行役員 東京オリンピック・パラリンピック推進本部の井戸正弘本部長は、「今回の取り組みは、スタジアムのサービスプラットフォームとして提供するものになる。これまでは、チケットを買ってもらい、スタジアムに入ってしまうとそれで終わりということが多かった。来場者履歴とキャッシュレスサービス、スタジアムでのアクティビティへの活用によって、来場者に対するサービスを向上させて、より質の高いスタジアム運営を行なうことを支援したい。これによって、スポーツのビジネス化を促進したい。

 また、タフブックを活用することで、容易に設置ができ、設備投資も少なくて済む点も訴求していきたい。スタジアムやアリーナでは、いかに人を早く入れるか、混雑を緩和するか、さらには、人を出すかという人流誘導が課題になる。ここでは周辺施設との連携が重要になる。たとえば駐車場の予約管理と連動させたり、近隣の駅との連携で、電車やモノレールの運行に反映させることもできるだろう。

 さらに、近隣のショッピングモールとの連携で、クーポンを発行して、一度、買い物をしてもらえば、混雑緩和とビジネス拡大にもつながる。周辺施設などとの連携で、スタジアムを中核としたスマートシティ化や街づくりを考えていく必要があるだろう。スタジアムに来ることで、多くの楽しみ方を体験してもらうためにICTを活用したい。これによって、スポーツで得た利益を、スポーツに再投資できることにもつながる」と述べた。

 パナソニックでは、2022年を目標に、吹田市に「吹田サスティナブル・スマートタウン」の建設を予定している。パナソニックスタジアム吹田では、こうした動きとも連動させることになるという。

 同社では、Jリーグを対象にしたスタジアムサービスプラットフォーム事業として、2020年度には、100億円の事業規模を見込んでいることも明らかにした。「機器で5~10億円、顧客から得られる対価で50億円、エンターテメイント関連で40億円強を見込んでいる。ハードウェアの売り切りだけでなく、運用やコンテンツを含めた事業展開をしていく」とした。

パナソニック 執行役員 東京オリンピック・パラリンピック推進本部の井戸正弘本部長
ぴあ 上席執行役員 ライブ・エンタテインメント本部の東出隆幸本部長
三井住友カード 執行役員 商品企画開発部の神野雅夫部長
大日本印刷 執行役員 情報イノベーション事業部の沼野芳樹副事業部長

 また、三井住友カード 執行役員 商品企画開発部の神野雅夫部長は、「既存のインフラを活かした上で、新たな決済手段として活用できるようになるのが、今回のスタジアムサービスプラットフォームである。nanacoやSuiCaの対抗として、このプリペイドカードの仕組みを横展開していきたい。購買情報などのデータの利活用についても研究していきたい」と発言。ぴあ 上席執行役員 ライブ・エンタテインメント本部の東出隆幸本部長は、「紙のチケットは郵送や引き取りという作業が必要であったが、電子化することで、そうした手間がなくなるメリットがある。

 チケットを、誰が、どういう状況で持っているかということも把握できるので、1人が大量にチケットを購入することを抑制したり、ぎりぎりまで席番表示を公開しないでおけば、席の良さをもとにした高額転売の抑止もできる。今日は事前に告知をしていなかったこともあり、チャージをする人が少なかった反省もある。今後、スタジアムサービスプラットフォームの利用を促進するための仕掛けも必要だろう」などコメント。大日本印刷 執行役員 情報イノベーション事業部の沼野芳樹副事業部長は、「実証実験を通じて、利用者の利便性をどれだけ高めることができるか、店舗での課題をどれだけ解決できるか、履歴データをマーケティングにどう活かせるかといった成果につなげていきたい。これだけ大規模な実証実験を通じて効果が検証できれば、オリンピックや万博をはじめ、さまざまなイベントにも活用できる。また、サイネージをはじめとした機器などとの連動提案にもつなげていきたい」とした。

 一方、パナソニックの井戸執行役員は、2025年に大阪での万博開催が決定したことについてもコメント。「当社の松下正幸副会長も誘致委員会に参加し、関西の企業として、誘致を応援してきた。決定したことは非常に喜ばしい。MICEやIR(統合型リゾート)事業と万博は同時に進むことになるだろう。大阪を中心にして、オリンピック後の事業が生まれることになる。また、大阪の都市力が向上し、新たなビジネスが生まれ、それを世界に発信することができる機会でもある。2025年以降の新たなビジネスがここから生まれてくるだろう」などと述べた。

井戸執行役員は、大阪での万博開催決定にも言及した(写真は1970年の大阪万博のシンボルとなった太陽の塔)